クラフター、東映、VAIOの3社が共同で展開する「VRCC(VR Cinematic Consortium)」による日本初のエンターテインメント「映画館でVR!」の発表会を6月26日、新宿バルト9で開催した。この事業はVR映像を映画館の音響で体験できるというもので、IMAXや3D映画、4DXに次ぐ新たなVR映画興行として、展開予定だという。

TEXT & PHOTO_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume





「映画館でVR!」予告編

本発表会には、東映の村松秀信 取締役企画調整部長、VAIOの赤羽良介執行役員副社長、クラフターの古田彰一代表取締役社長が登壇した。
3社の役回りだが、東映は本事業において、自社による映像制作やシネコンへのコンテンツ配給のほか、特撮シリーズやアニメコンテンツなどの豊富なIPを活用していく。クラフターは定評ある3DCGアニメーションの制作力でVR映画に最適化した映像コンテンツの制作を行う。そして、VAIOはPC事業で培ったソリューションで、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)に「6DoF」と呼ばれるXYZ軸の回転の動き加え移動の動きに対応したセンサーなどのカスタマイズを行うという。



使用されるHMDは中国・Picoが開発・販売する「Pico Neo」に独自のカスタマイズを施したもので、2,880×160、90Hzのセンサーを装備。ユーザーの誤動作防止やコンテンツ盗用防止機能を備えている。大掛かりな工事が不要で、既存設備に無線アンテナとサーバーを設置するだけなのは導入側にとっても大きな利点として挙げられる。

「Pico Neo」を装着するSTU48メンバー(後述)

映画館で観るVRの特徴として最も大きく打ち出したのは「ヘッドホンからの解放」だ。従来のVR機器では小さなイヤホンなどでしか対応できなかった音響を、映画館の設備で行うことでVRの没入感とサラウンド音響という、最大限の映像体験をユーザーに提供する。耳をふさがないことは上映中に周囲の気配が感じられることになり、ホラー作品では観客の悲鳴がやコメディパートの笑い声などが聞こえ、音楽ライブVRではみんなで盛り上がることができるなど、VRでありながら一体感を共有できるメリットがある。



今後のラインナップとして、音楽アーティストのライブVR、ホラーVR、特撮ヒーローVR、アイドルVR、ドキュメンタリーVRなど、さまざまな作品を予定している。東映の人気IPからは「仮面ライダーVR」(仮称)も具体的に動き出しているという。その他ファミリーピクチャーや、「長編アニメーション作品の一部のシーンをVRにして挿入する作品を将来的に作っていきたい」(東映・松村部長)。



「VRCC」はオープンプラットフォームであり、実写やアニメを問わずVRコンテンツを制作する映像制作プロダクション、保有しているVRコンテンツを劇場で公開したいホルダー、VR映画システムを劇場に導入したい興行主、多人数でのVR映画をイベントスペースやライブハウスで上映したい人に向けても開いており、広くパートナーを募集しているという。「VRCC」に関するシステムはパッケージ販売される。

「VR映画」で上映される作品はVRの中でも「インタラクティブなゲームよりもVRの空間の中に入って物語を鑑賞する作品」、「VRの全周囲を見渡せる機能は受け継いでいるので、同じ物語を観ていても、皆さんが自由な場所を見ることができる。物語は進んでいくが何を観たいかはお客さんに委ねられる」(クラフター・古田社長)といった特徴を挙げた。

左から、東映/村松秀信氏、VAIO/赤羽良介氏、クラフター/古田彰一氏

続いて、AKBの姉妹グループで、瀬戸内エリアを本拠地として活動しているSTU48のメンバーから、石田みなみ、今村美月、田中皓子、土路生優里、薮下 楓が登場。VRヘッドセットを装着し「VR映画」を体験。上映されたのは、7月2日からの先行体験上映会で上映される『夏をやりなおす』(監督:櫻木優平)。当初はVRの特徴である360°の見渡しや可愛らしい少女キャラクターの感想を口にしていたが、中盤からは悲鳴も交錯する展開に......。

上映終了後に、感想を求められたメンバーはそれぞれ、
「自分が想像していた以上にリアルな世界にいるような感覚」(土路生)
「(劇中に登場した)女の子の視線が自分と合って可愛くてドキドキしましたし、怖いシーンも世界観から逃れられない迫力がありました」(石田)
「セミの声が色んな所から聞こえて自分がそこにいるような迫力がありましたし、映画館で誰かが悲鳴を上げたらそれでさらに臨場感が増して怖くなるなと思いました」(今村)
「映画好きの方はもちろん、小説が好きな方にも、VR映画は自分が主人公になったように感じてワクワクするので皆さんに観ていただきたいと思います」(薮下)
と、それぞれ述べた。

「VR映画」で今後観てみたい作品については、
「ファッションショーの映画で自分がランウェイを歩くような世界観の作品」(田中)

今後自身が出演したい作品については、
「VRであれば迫力ある自分を見せられるのでアクション映画の主人公を」(薮下)
「VRを通じてファンの方ひとりひとりに近くに行ってアピールできるのは、普通のライブではできないので、VRの世界で楽しんでいただければ」(田中)
と語った。

『夏をやりなおす』を体験したSTU48メンバー

7月2日からの先行体験上映会では、『夏をやりなおす』(5分44秒)のほか、『evangelion:Another Impact(VR)』(4分55秒)『おそ松さん VR』(6分24秒)の計3本が上映される。「eva~」は「日本アニメ(ーター)見本市で発表されたものをVR用に全て設計し直して1から作り直した作品。上映時間はガイダンス映像を含めて30分。バルト9で、東映・松村部長によると7月2日からの1ヶ月間、1日2回の上映を予定している(状況によって回数増加も予定)。チケット料金は1,500円だ。

  • 第一弾として上映される、VRアニメ3作品。興行スタイルは、まだ潤沢なコンテンツ供給がない中で、良い作品が揃った上で興行するという柔軟な姿勢で、通常の映画興行と共存する。また興行時には丸井による世界初のVRCMが流れるという


記者発表の後、メディア向けに体験会が行なわれ、STU48のメンバーと同じく『夏をやりなおす』が上映された。発表会では彼女たちが観ている画面がスクリーンにも上映されており、筋書きはすでに知っている状態での視聴だったが、VRを装着した状態ではまったく別の体験だった。

VRゴーグルを視聴したことがある観客はまだ多くないことを考えてか、画面端にキャラクターを登場させ、声の聞こえる方へ目線を誘導することで首振りの体験をユーザーに感じさせたり、女子高生キャラクターが目線を合わせてきたり、落下するといったVRならではの映像演出が随所に施されていた。

「映画館でVR!」を実感させるのは、やはり音響面。ユーザーを取り巻く環境音やキャラクターの囁き、そして浮遊感や落下のときの音圧はシアターの音響でしか味わえない経験と言える。記者会見でも述べられていた、ホラー作品やコメディ作品でのVR映画は家庭では味わえない共通体験をもたらすだろうし、VRコンサートは映画館の音響を最も活かすコンテンツで、流行の応援上映ともマッチすることだろう。映画館でのVRエンターテインメントは、ともすれば映画館の客を奪うかに思えたVRを映画館に戻し、ユーザーによりリッチな体験を与えるという意味でWIN-WINな事業と言える。それをまず気軽に体験できる先行体験上映興行はユーザーにとって価値あるものになるだろう。