2018年9月24日(月・祝)、秋葉原のUDX GALLERY NEXTにて、アニメ制作技術に関する総合イベント「あにつく 2018」が開催された。この講座では「3DCGアニメ制作会社を正常稼働させることと、将来への布石」と題し、サンジゲン・制作部部長の瓶子修一氏と、システム・開発部部長の金田剛久氏が登壇し、デジタルインフラ整備やシステム開発、そして新たな映像研究について語った。
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TEXT&PHOTO_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
<1>事業規模の拡大に沿ったインフラの整備
サンジゲンは3D・2Dともフルデジタルの制作体制で、東京・名古屋・京都・福岡の4箇所にスタジオがあり、各スタジオをVPN接続(2重回線)で繋いでいる。サンジゲンでは東京以外のサテライトスタジオでも同一作品の制作に携わっているため、膨大なデータが回線を常に行き来する。
左から瓶子修一氏(サンジゲン・制作部部長)、金田剛久氏(システム・開発部部長)
東京スタジオのレンダーファームにはHP Z2x0シリーズのワークステーションを導入し、3DCG用に100台、コンポジット用に20台と分散して1枚ごとに画をつくっている。3DCGアーティスト用PCも同じくHP製Z2x0シリーズで、グラフィックスボードはQuadroのミドル・ローレンジモデルを使用しているとのこと。
サンジゲンは2006年に数名で起業し、2011年に現在の本社に移転、2018年には180名の規模に達した。事業規模の変遷と、拡大に合わせてインフラをどのように増強していったかについて、図を基に説明が行われた。
金田氏が入社した2010年当時は民生用のNAS(4TB)を使用していたため、大人数でアクセスすると重くなるという状況だった。そこでWindowsのストレージサーバ(8TB)を導入。現在はHP 3parのハイエンドストレージ(40TB)+コンポジット用55TB、LTOのバックアップを使っている。ここまでの間に、納品形態が720pixelから1,080pixelへ変更されたこと、サンジゲンがグロス請けからTVシリーズ元請けになったこと、劇場版『009 RE:CYBORG』(2012)を制作したことがあり、ストレージを増強している。
サンジゲンではフル3Dで制作しつつも、2D作画アニメのようなルックでみせるため、秒間24コマでレンダリングした後、After Effects上でタイムリマップによるコマ抜きをし、秒間8コマ~12コマで表示している。つまり、視聴者の目に触れずに捨てられるデータがストレージ上に残っているという。またアーカイブについては、これまではLTOから書き戻すシステムでいたが、過去のアセットを流用することが頻繁になり、効率的ではないという判断から、2018年春に富士フイルムのアーカイブサービス「dternity」の導入にいたったという。
[[SplitPage]]<2>無駄な工程を省いた独自の業務管理システム
講演は業務管理システムに話が移っていく。サンジゲンの中で3DCG業務管理のデータベースが必要になったのは2014年のこと。それまでは制作進行がExcelで工程表を作成していたが、更新が間に合わず管理ができていなかったという。また、日本のアニメ制作に合わせた業務管理パッケージがなかったこともあり、システムを内製した。
発注書のシステムを制作が入力すると、各アーティストのPCへポップアップ通知が届き、作業の見落としを防ぐしくみとなっている。作業が終了しデータをアップロードするとディレクターに通知がいく。チェックバックはデータベース上で行う。そして集計表で全体的な進捗具合を把握する。
ムービーデータがアップされるとエンコード・リネームされHIEROへと蓄積される。チェッカーの下には常に最新の映像カットが更新され、前のテイクと見比べることも容易。それ以前は編集スタッフが仮編集のムービーデータを定期的に差し替えていたため、無駄な労力をかける必要がなくなった。
こうした管理ツールの導入に対しては当初、導入をすること自体への反発があったが、やがてツールの基本機能やレスポンスについての不満へと変わったという。これはツール自体の否定がなくなったことを表している。そして現在では追加機能の要望や3D以外の管理要望があり、スタッフが積極的にツールを使っていることが窺える。
<3>システム・開発部が目指す"新しいアニメ映像"のための環境づくり
最後にシステム・開発部の話題について述べられた。従来はスクリプト開発やデータ連携ツールを作成する仕事をしていたが、現在は研究開発プロジェクト「M.I.R Orbiter」をスタートさせている。具体的なプロジェクトとしては、従来サンジゲンが業務で使ったことがないCGソフトで同工程を置き換えること。これは1プラットフォームに対してのリスクヘッジが目的だ。
また、ゲームエンジンでアニメ映像を出力する研究も行なっている。これはレンダリング待ちを減らすことを目的としたものだ。このほか、MODOでリミテッドアニメーション用のコマ抜きツールを開発したり、Unreal Engine 4でオリジナルのトゥーンシェーダの作成を行なっている。
目指しているのはCG制作の様々な「待ち」をなくし、同時並行で作業ができる環境づくりだ。ただし、ゲームエンジンで制作する場合は、背景も3DCGでつくる必要がある。その制作として写真からリピートテクスチャを生成したり、それをシェーダツリーに組み合わせてマテリアルにしたりしてUnreal Engineでの背景を作成している。講演では1年前に作成したテストムービーが上映された。金田氏は「テストショットなのであまり出来は良くない」とは言うが、セルアニメ的なCGを表現するサンジゲンのアイデンティティはここにも十分に表れていた。
最新の研究としては写真から3Dアセットを生成する「フォトグラメトリー」がある。100枚程度の切り株の写真を撮り、それらの写真をRealityCaptureというソフトに読み込んで点群を生成、そこからメッシュ生成、UV展開を経てリアルなテクスチャが生成されるという。生成されたメッシュをリトポロジーしてテクスチャを焼き付けると、人間のモデラーにはとてもつくれないレベルのディテールが表現できるという。
システム・開発部は現在9名でシステム(インフラ構築からデータベース開発まで)担当が4名、開発が4名で、現在もスタッフを募集しているとのこと。CGアニメでスタイルを確立したと思われていたサンジゲンではさらに進んだ研究が進められており、これからも新しい映像を見せてもらえそうだ。ゲームエンジンでのリミテッドアニメ表現やフォトグラメトリーが実現するとさらに大きな映像の地殻変動が予期される。この先どのような映像をつくってくれるのか、見守りたいスタジオだと思いを新たにした。
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