2018年9月24日(月・祝)、秋葉原のUDX GALLERY NEXTにて、アニメ制作技術に関する総合イベント「あにつく 2018」が開催された。ここではサテライト・CGディレクターの後藤浩幸氏と、unknownCASE・リードアーティストの小川朗広氏による「サテライト×unknownCASE 河森メカアニメの作り方」の内容をレポートする。

TEXT&PHOTO_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

『重神機パンドーラ』
©2017 Shoji Kawamori, Satelight / Xiamen Skyloong Media

<1>レゴブロックで検証してからつくる"完全変形"

後藤氏と小川氏による講演では2018年4月~9月に放送されたアニメ『重神機パンドーラ』から、総監督・河森正治氏がデザインした変形メカについての、「完全変形モデリング制作術」「Substance Painterを用いた質感表現」、そして「カット制作時の手描きエフェクト制作術」の3軸をテーマに話が進められた。


左から 小川朗広氏(unknownCASE・リードアーティスト/『重神機パンドーラ』重神機メインモデリング&CGアニメーター)、後藤浩幸氏(サテライト・CGディレクター)

まずは「完全変形モデリング制作術」についての説明が行われた。河森氏のメカデザインの特徴は「完全変形」をするところにあり、CGにおいてもモーフィングではなく「変形」するモデリングが求められる。

『重神機パンドーラ』ではメイン機体としてダグ機、クイニー機、レオン機の3体があり、それぞれが車両型の「ビークル・モード」、手足を展開した攻撃形態「アタッカー・モード」、人型ロボット形態「テラロイド・モード」に変形する。河森氏のメカデザインは、変形を考慮に入れたデザインを考え、画稿に起こした後にそれをいったんレゴブロックで組み立て、物理的に変形できることを確認するスタイルだ。講演のVTRではそれを河森氏が実際に手にもって変形させ、CGスタッフへ説明する様子が映し出された。


河森氏によるデザイン画



デザイン画を基にレゴブロックで組み立てられたLEGOモデル

CGスタッフはそれを受け取り、まずレゴブロックをCGモデルに起こすところから始める。いきなりCGモデルを造形しない理由は、この段階で関節のたわみや「あそび」の部分を検証するため。そこから本格的にモデリングをはじめて肉付けをし、変形したときの手足の長さのバランスを決め込んでいく。その際、レゴベースでつくっておくことが、調整の際に「ブロック1個分外す」といった目安となることもメリットとして挙げられた。モデリングにおいてはこの調整に最も時間をかけたという。その後、河森氏からディテールについての修正が入る。


LEGOモデルをそのままCGモデルに起こしたクイニー機



そこから本格的にCGモデルとして仕上げたもの【上】と、河森氏からの修正指示【下】

通常のメカのモデリングの作成期間は1ヶ月程度だが、クイニー機はそれぞれの形態で格好良さが求められるため、3~4ヶ月かけてつくり上げたという。後藤氏は河森氏と10年以上にわたって仕事をしてきた経験から、「(河森氏は)直角や垂直を嫌う。平面にはディテールを入れる」という特徴を披露し、それらは修正指示を待つことなく自主的に調整を図るというベテランアーティストらしさを覗かせた。

レオン機の制作を担当したのは壇上の小川氏。河森メカをモデリングするのは『マクロスΔ』(2016)のリル・ドラケン以来2体目となった。クルマ形態におけるこだわりやロボット形態での格好良さを河森氏から直接細かく教わり、それはモデリングの際にも参考になったという。小川氏以外のモデラーもまだ若いスタッフであるため、河森氏の東京オートサロンでの取材に同行し、そこで自動車のフォルムやパーツをからデザインへの落とし込みをレクチャーされたという制作秘話も語られた。

また、「Substance Painterを用いた質感表現」については、後藤氏は同ソフトの特徴として、プロシージャルエフェクトが豊かなこと、継ぎ目を気にせずにテクスチャを作成できることを挙げた。本作では世界観に合わせてテクスチャを使用している。


「ひとつのマテリアルでテクスチャを管理できたので時間短縮になった」(後藤氏)。「スタッフにお願いすると金属の傷や汚しをすぐにつくってくれたので、僕も使ってみたいと思った」(小川氏)とそれぞれ使い勝手についてコメント。小川氏はモデリングを総括して、「河森監督のデザイン画の格好良さをCGに落とし込むことに苦労しました。オートサロンに同行させていただいて、監督がどういうところに注目しているのかを直に聞けたので、そこが今回のモデリングの中で大事になっている部分だと思います」と語った。



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<2>unknownCASE肝煎りの手描きエフェクト実演

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<2>unknownCASE肝煎りの手描きエフェクト実演

続いて小川氏より「カット制作時の手描きエフェクト制作術」についての説明が行われた。


小川氏はアニメにおけるエフェクトの重要性を語り、アニマティクス段階のアニメーション、そこにエフェクトを足したもの、そして最後に撮影処理を載せたムービーを示した。炎や風、斬撃を足すことで迫力がまったくちがって映る。小川氏は斬撃の切っ先においてはながれを意識して、スパークは過去の2Dアニメを参考に模写し、1コマずつ絵としてキマった形をつくり上げた。


さらに小川氏は手描きエフェクトのつくり方へと説明を進める。ここで例として挙げられたのは「板野サーカス」だ。板野サーカスは小川氏にとって「作画エフェクトをやってみたいと思ったきっかけ」の表現で、チャレンジングではあったが、『重神機パンドーラ』でトライしたという。

続けて小川氏は手描き「板野サーカス」の実演を行なった。小川氏はこのカットをつくるにあたり、まずはPhotoshopを使用し球体のみでアニメーションのイメージを作成。次にAE上で背景を動かしつつ、CGの機体を球体のアニメーションに合わせて配置し、メインのビームを描いていく。最後に画面のにぎやかしを含めて、ビームの本数を増やして仕上げる。


3DツールではなくPhotoshopを最初に使う理由として、「3DCGでつくると試行錯誤に時間がかかるので、手で描くことでアニメーションのタイミングや動きを確認しておくのがポイント。背景を引っ張ってスピード感を確認してから、アセットを使ってアニメーションをスタートさせると自分の中でカットの整理がつくと思っています」(小川氏)。

また、このエフェクトを手描きする際の注意ポイントとして、「画面内で動きを逆走させない」、「画面の外の空間を意識する」、「カメラに迫るに従ってエフェクトを太くする」ことを挙げた。このカットを制作するまでに小川氏は通勤の行き帰りに3週間考え続け、4~5日間の作業で仕上げたといった裏話も披露された。このカットには河森総監督も満足していたという。

河森氏のデザインの美学から板野サーカスまで、現在の3DCG技術をどのように活用して新たな映像表現を展開していくのか、短い時間ながらもたっぷりと内容の詰まった1時間。『重神機パンドーラ』では小川氏以外のメイン機体のモデリングもキャリア数年というフレッシュなスタッフが手がけたという。今後、そのスタッフが河森メカをどのように格好良く仕上げていくのかまで期待が膨らんだ講演だった。