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2018年10月8日(月)、モデリングからコンポジットまでの一連のショットワークが解説されたイベント『「NEO ACT」ショットワークメイキングセミナー』バンタンゲームアカデミーにて開催された。実際に制作されたショットの解説や、コンポジットの実演が行われた本セミナーの様子をレポートする。

なお、本イベントは現在CGWORLDで連載中のNEO ACTと連動しており、使用された作品「工場地帯」はCGWORLD243号に掲載された連載2回目の作品となる。また、会場となったバンタンゲームアカデミーはゲーム・アニメ・マンガ・声優の専門校として有名だが、来年度より映像学科が新設され、映像・VFX方面にも力を入れていくということで、会場には多くの学生や映像制作関係者が集まっていた。



TEXT_神山大輝
PHOTO_弘田 充

注目の若手によって紹介された、"時短とハイクオリティ"を意識したワークフロー、スキルアップのコツ

セミナーの講師を務める今川真史氏は、昨年度に京都造形芸術大学 キャラクターデザイン学科を卒業し、現在はAnimationCafe VFX/ゼネラリストとして業務を行うCGアーティスト。作品『THE SEABED』でKLab Creative Fes'17 動画部門グランプリ受賞するなど、業界で注目を集める若手アーティストだ。出身校では主に2Dキャラクターの制作を学び、3DCGについてはほぼ独学で習得している。

▲会場の様子。学生や制作現場の現役コンポジターなど幅広い層が参加しており、熱意のある視線を送っていた。

セミナーの冒頭では、これまでの作品をまとめたデモリールが再生された。今川氏は海外のCGプロダクションに行くことを目標に活動をしており、募集があったタイミングで最新のデモリールで応募できるよう定期的に更新を行っているという。「常に技術がアップデートされているので、毎月デモリールは更新しています(今川氏)」。

▲冒頭で紹介のあった今川氏のポートフォリオ。技術的な部分だけでなく、自身の思考プロセスを踏まえた画作りのコツなどと合わせて紹介があった。

自身の得意な部分に注力するワークフロー

講演冒頭ではワークフローの説明が行われた。今川氏の作品は基本的に1人で作られており、ここでは実際に一ヶ月間で個人制作を行った際の作業工程が説明された。最初にコンセプトを考え、必要な素材のモデリングを行い、アニメーションとライティングを行ったのちレンダリングをし、最後はコンポジット作業とAfter Effects CCやPremiere Pro CCによるポストエフェクト処理を行うという工程は一般的なものだが、今川氏によれば「これらを1人で行うと時間がかかるため、短い時間でクオリティを高めるための工夫がある」という。

その工夫は「(なりたい自分を想定して)優先順位を付ける」ということ。今川氏はコンポジターとして大成したいという理由から、コンポジット9割、他の工程は1割という時間配分で作業を行っているという。そのために、2Dで補完できる部分は2Dで作業を行う、暗くて見えにくいところは作り込まなくて良いなど、作業範囲をあえて限定的にしている。

▲Compositeに9割の時間を割くために、今川氏自ら優先順位を行った図。2D,3Dの使い分けについては、ArtStationなどで探してきたリファレンスの画像を確認しながら切り分けを行っているという。

また、3DCGのワークフロー全般は料理に例えて説明された。「 コンセプトからレンダリングまでは、野菜を作る農家のようなイメージです。レンダリングを経てデータとして出力されたあとは、調理場のような感覚です。素材が60%の出来でも、調理で100%を目指すことができます(今川氏)」。

▲3DCG制作のワークフローを料理に例えた図。なお、実制作とは別に、今川氏はArtStationの巡回を日課としているという。Trendingを追いながら、2時間程度は上質な3DCGに触れているとのこと。

実際の情景から想起されるコンセプトワーク

コンセプトを作るセオリーは「Simple」と「Contrast」。「Simple」は、余計な成分を削除していって最終的に残ったものを表現するということ。今川氏は、光の数を絞る、音を減らす、色を絞るという3つの要素を心掛けてショット作成を行っているという。

例示として、講演では新宿の夜景と京都の寺院の写真の比較が行われた。新宿の街並みは看板の文字や複数の光源、人並みなど情報量が多すぎて、どこを見たら良いのか分からなくなる一方、京都の寺院を捉えた写真は見るべきポイントが明確で迷いがない。また、「音を減らす」という表現としては3DCGではあまり聞くことのないワードだが、これは「人の数を減らしたり、トラックなど騒音を発生させる対象を減らしていく」という意識を持つことだと説明された。

▲Contrast=対比、差。ここに挙げられた以外にも、要素ごとの対比を意図的に画の中に作っていく。

また、「Contrast」に関しては、明るいところと暗いところ、古いものと新しいものなど、視覚的要素の有無を問わず対比を際だたせることによって目線を誘導することができると説明された。

▲登山の最中に見つけたという、森のなかに人工物があるというコントラスト。こうした写真を撮るのも日課だという。

では、今回の「工場地帯」のコンセプトはどのようにして定められたのか。今川氏は京都出身で、上京するまでは自然や歴史的建造物の中で生活していたという。今回は、東京に来てから行った写真撮影で、これまで馴染みのない工場地帯が撮影できたことから、本作の制作に着手することとなった。

▲今川氏が撮影した工場地帯の写真。この写真がベースの素材となり、今回の作品が作られている。

「工場の夜景というと明るくキラキラしたイメージを持つ人も多いですが、実際に見た風景はイメージと異なり、空の光が拡散されて手前の工場がシルエット状態になっていました」と語る今川氏。シルエットで魅せる画作りが映画「ブレードランナー」のように感じられたため、「見せたい対象を後ろからの光源でシルエット化する」という要素をコンセプトに含めたとのことだ。

▲実際に撮影された写真。この写真がシルエットを活かすというコンセプトに繋がっている。

「工場地帯」ができるまで

写真素材の確定後、作品の方向性を決めるためにモノクロのコンセプトアートをPhotoshop CCで作成していく。先ほどの図でいくとこの作業は優先順位が「5」であるため、ディティールにはこだわらずスピード重視で作業し、見せたい部分がどこであるかと、全体の物量や光の加減を確認する。

3Dモデルの作成は、普段からキットバッシュの手法を用いているという。キットバッシュとは市販のキットを使って新たなモデルを作る手法で、今川氏の場合は3DsMAXで作成したシンプルなオブジェクトのディティールを既存のキットを用いて高めていくという手法を取っている。



▲シンプルなオブジェクトとキットバッシュを組み合わせてディティールを作っていく。

「キットバッシュは便利ですが、頼りすぎるとキットの個性ばかり目立ってしまいゴチャゴチャしてしまいます。3ds Maxでシンプルな形を作り、そこにキットバッシュでディティールを作ったあと、Displacement Mapなどで詳細を詰めていく作り方をしています。モデラーの方はこの部分で頑張るべきですが、私の場合はシーン構築で十分なクオリティのアセットを作るのが目標であって、モデル自体にこだわる必要はありません(今川氏)」。自ら定めた優先順位に従って、使える素材は全て使ってスピードアップを図っている。

会場で実際に行われたNukeによるコンポジット

コンポジット工程の説明では、実際のデータを活用してNukeによる実演が行われた。Nukeはノードベースのコンポジット、編集およびフィニッシングツールキットで、Adobeで言えばAffter Effect CCのような役割を果たすソフトウェアとなる。

▲背景をマスクで抜いた後色調を変化させる。

実演では、先ほどの写真素材から最終的な作品に仕上げるまでの実作業が披露された。実作業ではライティングに関わる要素として最も大きい「空の色」を変更するという工程を最初に行っている。その後、事前に用意した3Dオブジェクトを配置し色合わせを行っていくが、NukeはGrade nodeでBlack Point/White Pointを指定する(3Dモデルの黒い部分、白い部分を定義した後、背景となる元写真の黒い部分と白い部分を選択する)ことで自動的にカラーマッチが行われる機能があり、この結果をベースに細かな色合わせを行っているという。

その後は別の写真素材から照明を抜き出し、もとの絵に合成することで手前のオブジェクトのシルエットを浮かび上がらせるといったテクニックも紹介された。これに加え形状の調整や素材の切れ目を意識しながらフォグを配置していくと、あっという間に作品が出来上がっていく。

▲フォグの調整。

また、大まかに画が出来上がったあとはあえて色と明るさを絞り、グローを掛けることで「ふんわりとした」質感を付与しながらオレンジの光源と人物のシルエットを目立たせている。なお、詳しいメイキングは現在発売中のCGWORLD243号に掲載しているので、そちらも是非参考にして欲しい。

コンポジターに必要な能力と、意識すべき「4つのキーワード」

▲コンポジターに必要な能力を写真撮影になぞらえて説明する今川氏。同じ風景も目線やライティング(時間)などを変えるだけで雰囲気が大きく変わるため、カメラマンとしての目線はコンポジットでも大いに活かされるという。

映える"風景"は誰がどんなカメラで撮っても良くなるが、普段の何気ない見慣れた光景をどう魅力的に撮るかーー良い素材を調理するだけなら誰がやっても良いが、ある程度クオリティの低い素材で高い品質のアウトプットを作り出すのがコンポジターに必要なスキルだと今川氏は語っている。

何気ない街の風景をどう撮るかは、写真家と一般人で大きな差がある。今川氏自身も写真撮影をライフワークとしているそうだが、写真撮影における魅力的な構図の概念はコンポジットでも活かされるという。

「立つ場所を変えたり、左側通行ではなく右側を通ってみたり、視線を変えたりすることで、違った景色が見えてきます。"見慣れる"というのは、時間帯が同じという理由もあるため、太陽の位置を変えてライティングを変化させることも重要です。CGをどう配置したら格好良いのか、という点においては、良い構図を探す目が役に立つと思います(今川氏)」。

最後に提示された4つのキーワード。学生時代の今川氏は、これらを意識して学習に励んでいた。

セミナーの最後に、今川氏が意識しているという4つのキーワードが紹介された。今川氏は「主に学生向けの話」と前置きながら、自身が2年生から3年生の間に実力がグンと伸びたことを振り返り、意識した点などを説明した。

「収束」は、日常の生活時間全てにおいてCGのことを考え、目に見える情報をCGに収束させていくこと。「CGだけできる環境がもちろん良いですが、学生の場合はアルバイトをやらなければいけない場合もあると思います。CG以外の生活部分を、どうCGに収束させて行くのか。例えばアルバイト中に"これをCGで作ったらどうなるか"など、意識的に観察することが大切です(今川氏)」。常時CGに意識を向けることで、24時間学ぶことができると語っている。

「断捨離」では、必要な要素以外を全て捨て去り、自分の軸を明確にすることの重要性が語られた。今川氏は2年生の時にコンポジット一本で行くことを決意し、アニメーションやモデリングは捨て、一点を尖らすように意識したという。しかし、「コンポジットの一点が尖った結果、自分の中に軸ができ、結果的に他の分野の学習にも役立ちました(今川氏)」という言葉通り、今は3DCGにおける全ての要素を自分自身である程度形作れるようになっているとい う。

「投資」は文字通りの意味で、例えば今川氏はバイト代をPCなどに全額つぎ込んでいたという。3DCGはお金を掛ければその分スピードアップなどで返ってくる分野なので、思い切って投資することを推奨すると説明された。

「極端」は、迷いを捨て去ることだと今川氏は説明する。「大学生活は4年間しかありません。悩んでいる時間はもったいないので、自分の好きなもの以外は全部止めていいと思います。また、自分に来たお誘いで"直感的に良いな"と思ったものはすぐに行ってみるなど、とにかく悩む時間を減らすのが重要だと思います(今川氏)」。

終わりに、専門学校や大学での学びは"コップに水が貯まるように知識が降ってくるものではなく、木のようなイメージである"とも説明された。3DCGは一定的に技術が上がっていくものではないため、まずはコンポジットならコンポジットと1つの軸を作り、その軸から派生して枝葉(カメラやライティングなど)がついていくイメージを持つと良いという。

その後の質疑応答は40分以上に及び、ここぞとばかりに技術的な質問が飛び交うなど、参加者の意識の高さも伺えたセミナーとなっていた。