今春、東京・アーツ千代田3331にて開催が予定されている「シド・ミード展 PROGRESSIONS TYO 2019」(以下、シド・ミード展)に向け、様々なクリエイターが登壇してその魅力を語るトークイベント「Syd Mead未来会議 Vol.03」が、2月15日CAMPFIRE セミナールームで開催された。登壇したのは同企画のプロデューサーである植田益朗氏(スカイフォール)、堀口 滋氏(A-1Pictures デジタル部門副本部長)、川口克己氏(BANDAI SPIRITS ホビー事業部)、及川友人氏(ソニー クリエイティブセンター シニアマネージャー)、そして『シティーハンター』の作者である人気漫画家の北条 司氏ら。イベントは前半に堀口・川口両氏を招いて植田氏がパーソナリティを務めるラジオ番組「植田益朗のアニメ!マスマスホガラカ」の公開収録を行い、後半から及川・北条両氏が加わるというかたちで進行した。

TEXT & PHOTO_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

現場で目の当たりにした
巨匠・シド・ミードの仕事観

左から植田益朗氏(スカイフォール)、堀口 滋氏(A-1 Pictures デジタル部門副本部長)、川口克己氏(BANDAI SPIRITS ホビー事業部)、及川友人氏(ソニー クリエイティブセンター シニアマネージャー)、北条 司氏

シド・ミード氏といえば、映画『ブレードランナー』でプロダクションデザインの中核を担い、世界中のクリエイターに大きな影響を与えた巨匠。1999年に放送されたアニメ『∀ガンダム』では主役機を含む各モビルスーツのデザインも担当した。イベント前半ではこの『∀ガンダム』制作当時、ミード氏と直接の遣り取りを行なったサンライズ設定担当(当時)の堀口氏、バンダイの川口氏のトークが展開された。

『∀ガンダム』は『機動戦士ガンダム』の20周年企画としてスタートした。その目玉として、富野由悠季監督がミード氏を主役機のメカニカルデザイナーに推挙したという。その場に居合わせた川口氏は「今までにないガンダムができる期待感」を覚えたそうだ。堀口氏は当時別のチームにいたところを植田氏から「シド・ミードのガンダム(のデザイン画)が上がって来ないから間に立ってくれ」と呼ばれ、この企画に加わった。

デザイン画が上がってこなかった理由は、ミード氏サイドによると「∀ガンダムの発注要項が来ないため」だった。独創的な世界観でビジュアル・フューチャリストと呼ばれるミード氏だが、あくまでデザイナーとしての仕事をする場合は理論的な背景やコンセプトを求めてくるのだという。一例として堀口氏が挙げたのは「ターンX(モビルスーツ)の肩の構造についてミード氏から詳しく質問を受けた」という話。プラモデルを製作販売するバンダイとしては、「玩具としてのギミックが欲しい」という意図があったが、ミード氏は「軍用機としては可動ポイントが1つでも少ないほうが故障の原因が減るので正しい」と譲らない。そこで堀口氏はバンダイの意向を実現するためのSF設定を考え説得をしていく必要があった。

ミード氏の凄さを伝えるエピソードとしては徹底的に正確な三面図の例も挙げられた。一般的なアニメの設定ではあくまでアニメーターが描く際の参考レベルのものだが、ミード氏の三面図では「肩のラインの1本1本が全て揃う」ほど精密な図面が描かれていた。しかも仕上げのスピードが非常に速く、堀口氏と川口氏はそのプロフェッショナルな仕事ぶりを目の当たりにして驚いたという。

また、ミード氏は仕上がった画稿が絵画のように丁重に扱われることを嫌ったそうで「今回の仕事はデザインで、デザインとはそれが使われるために描くもの。僕はこのデザインについてなんどでも議論を交わしたい」と語ったという。巨匠でありながら、デザイナーとしての仕事観がよく表れたエピソードだ。

∀ガンダムの特徴で、当時論争を巻き起こした「ヒゲ」と呼ばれるアンテナ部分について、ミード氏は「何もないところから絵を描けるような特徴がないと印象に残らない。この"ヒゲ"が∀ガンダムのアイデンティティだ」と語り、川口氏はこれを聞き納得したという。また、『∀ガンダム』のモビルスーツはフロント面が整然としたデザインに対しリア面は複雑なメカが図示されている。堀口氏は「アニメではメカの正面を描くことが8割。手描きアニメとして線の省略ができるように、背面のゴチャゴチャは立体として面白くするために」と、その意図を解説した。この独特なデザインを各社に説得する際、川口氏は「九州新幹線やカブトガニ、戦車を想起させる」と表現して回ったと語る。

後半では及川氏が、自身がデザインを手がけたソニー製品の中にミード氏からの様々な影響が示されていることを愛情を込めてたっぷりと語った。その後、登場した北条氏は1979年に発売されたミード氏の画集『SENTINEL』を持参。のちにリドリー・スコット監督が『ブレードランナー』にミード氏を呼ぶきっかけとなった伝説の画集だ。多くのクリエイターにとってバイブルとされているが、北条氏にとっても衝撃的だったそうで「それまでは未来画といえば小松崎 茂さんのイメージしかなかったのですが、まったくちがったアメリカ的なシャープさに圧倒された」と話す。

4月27日(土)からアーツ千代田 3331にて開催される「シド・ミード展」の見どころを尋ねられた登壇者一同は、「シド・ミードは、様々な戦闘機の例えを交えて説明しても、すぐに"あぁ、あれね"と返してくるんです。物凄く多くの物を見ていて、観察力・直感力がスゴいなと思いました。今回のミード展でも、新たに発見する部分が多いと思います」(堀口氏)、「今のお話のように共通の知識があれば言葉を重ねずとも理解し合えるので、ミード展が始まるまでに予習をしてから実際の原画を見ると見え方が変わってくるはず」(川口氏)、「画集では見ているのですが、実際のタッチやサイズ感を間近で見たいですね」(及川氏)、「僕は自分では描けない絵に興味があるんです。シド・ミードはその最たるもの。今回の展示会ではキャッツ・アイに盗まれないように」(北条氏)と、それぞれに語ってくれた。

また、「Syd Mead未来会議」にあわせ"未来像"についてたずねられた北条氏は「'70~'80年代は工業デザイナーの花盛りの時代だったと思います。ミード以外にもそれぞれに特徴がありました。現在は突出した人がいない。未来を見るのであれば彼らの年代を見て感じてほしい」とコメント。それに対して植田氏が「もう一度、未来を見つめ直そうというのが今回の開催テーマのひとつ。ちょっと閉塞感のある日本の未来を明るい方向にもっていける展示会にできたら」と、抱負を述べた。

イベントの最後に植田氏は、この日、来場していたカーデザインの専門誌『CAR STYLING』初代編集長の藤本 彰氏を紹介した。藤本氏はシド・ミードを日本で初めて紹介した人物だ。「1976年、『CAR STYLING』の15号でミードの特集をして以来、'80年代になって日本の企業もミードのデザインを採用するようになりました。今の日本の技術であればミードさんのすばらしい構想力のある絵を、3DCGで表現することが可能だと思います。そうしたことにトライをしてくれる方がいれば良いなと思っています」と締めくくった。

藤本 彰氏(『CAR STYLING』初代編集長)

「シド・ミード展 PROGRESSIONS TYO 2019」は2019年4月27日(土)から5月19日(日)まで、東京・アーツ千代田3331にて開催される。特典付き入場前売り券は現在好評発売中だ。



info.

  • 「シド・ミード展 PROGRESSIONS TYO 2019」
    会期:2019年4月27日(土)~2019年5月19日(日)
    会場:アーツ千代田 3331/1Fメインギャラリー
    〒101-0021 東京都千代田区外神田6丁目11-14
    東京メトロ銀座線末広町駅4番出口より徒歩1分
    JR秋葉原駅電気街口より徒歩8分
    時間:11:00~20:00 会期中無休(館内施設は火曜定休)
    料金:一般2,000円、学生(大学生・専門学校生以下)1,000円、小学生以下 無料
    sydmead.skyfall.me