優れたコンピュータエンターテインメントソフトウェア作品を選考し、表彰する「日本ゲーム大賞」。その中でも、18歳以下のゲームクリエイター発掘を目的として設立されたのが、日本ゲーム大賞2019「U18部門」だ(主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA))。昨年に引き続き、全国から多数の作品がエントリーされた。その中から選ばれた13チームが2019年6月9日に開催された予選大会に出場し、さらにその中から決勝大会進出を勝ち取った7チームが、2019年9月15日、東京ゲームショウ2019にて実施された決勝大会へと駒を進めることとなった。

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決勝大会では、ファイナリストからゲームについてのプレゼンテーションが行われた。「作品点・独創性・構成力・技術点」といった、作成されたゲームそのものの内容に対する審査に加え、プレゼンテーションも「構成・資料・話し方」などが審査対象になり、それらの結果によって、受賞者が決定される。本稿では決勝大会に進んだ7チームの、各タイトルの概要と、プレゼンテーションの模様をレポートする。



PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

『手裏剣 Jump』
金賞:池上颯人さん(横浜市立美しが丘小学校)

見事、金賞の座を射止めたのは、池上颯人さんが制作した3Dアクションゲーム『手裏剣 Jump』だ。池上さんはファイナリストの中でも最年少であり、まだ小学生とはいえ、2018年度の「U18部門」でも『なんで僕だけこんな目に』という3Dアクションゲームで銀賞に輝いた実績を持っている。この一年間、高熱を出した一日以外は毎日ゲーム制作をしていたと語るほど熱を入れて取り組んだそうで、今回満を持しての金賞受賞となった。

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池上さんはこのゲームの面白さのポイントとして、「新しい操作感」、「多彩な仕掛け」、「笑えるストーリー」の三つを軸に考えたという。中でも審査員が注目したのは「新しい操作感」だ。一般的なアクションゲームでは、あらかじめコントローラーに割り振られたジャンプボタンを押すことによって主人公をジャンプさせることができるが、本作「手裏剣 Jump」にはジャンプのためのボタンというものが存在しない。代わりにボタンを押すことで手裏剣を投げることができるのだが、本作では「この手裏剣を投げる」というアクションには、一般的なアクションゲームと同じく「敵を倒す」という効果の他に、「跳ね返ってきた手裏剣に当たることでジャンプできる」「手裏剣でアイテムを取ることによって技(忍術)を発動できる」という、合計三つの役割がある。

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審査員である日野晃博氏の「何故自分の操作ではなく、手裏剣を投げるというアクションとジャンプというアクションを連動させようと思ったんでしょうか」という質問に対し、池上さんが「(既存の忍者ゲームとは違う)独自性を持たせようとしたので」と回答したように、意識的に「新しい操作感」を盛り込もうとゲームデザインがされていたようだ。「単に×ボタンを押せばジャンプするというのではなく、跳ね返ってきた手裏剣に当たることでジャンプするなど、当たり前のことを当たり前で済ませないというアイデアが良かった」(日野氏)と、突き抜けた斬新さが評価され「手裏剣 Jump」は見事金賞に輝いた。

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【受賞コメント】

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「まさか金賞を取れるとは思っていなかったので、とても嬉しいです。ゲーム制作は、完成したときはもちろん、バグが直ったとき、機能が実装できたときなどに達成感が感じられるところが楽しいです。周りでunityを使うくらい本格的にゲーム開発をしている人はあまりいないので、ゲーム開発の情報などはネットで調べています。ただ、テストプレイは周りの人にやってもらいました。ゲーム開発は何もなければ作ってそこで終わるだけなので、日本ゲーム大賞U18部門のような目標があるのはとてもいいと思います。来年は中学受験が重なって応募できるかどうかわからないんですけれど、もしできれば応募するつもりです」

『Overturn』
銀賞:松田活さん(函館ラ・サール高等学校)

銀賞を受賞したのは、松田活さんの制作したパズルゲーム『Overturn』。スタートと同時に画面の中にブロック、ゴール、そして自機であるオレンジ色の三角形が配置され、それを動かしてゴールまで導くというシンプルなルールのパズルゲームだ。

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本作が特徴的なのは、自機である三角形が、配置されたブロックに沿って回転しながらでないと動けないという点、また、ゴール地点には触れるだけではなく、そこで静止しなくてはならないという点にある。また、ステージに配置される各ブロックも、その上で静止できない氷ブロックや、自機が隣接していればブロックごと動かせる灰色ブロックなど多彩で、シンプルなゲーム性ながら奥が深いものになっている。

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工夫が凝らされているのはゲーム性だけではない。「タイトルシーンからゲームシーンへ遷移するときなど、シーン間を移動するときは、単にシーンを切り替えるだけでなく、現在表示されているブロックが落ちたり、新しいブロックが上から落ちてきたりして、新しいシーンを構築します。このブロックが落ちる動きは物理エンジンなどを使わず、自作のプログラムで表現しています」と松田さんが語るとおり、演出面にもこだわりがみられる。

さらに、予選大会通過時には自機は単なるオレンジ色の三角形だったが、決勝大会では三角形に目が付けられ、進行方向に目が動くという要素が追加されている。ゲーム性に変化はないものの、それだけの工夫で、無機質だった画面にぐっと親しみやすさが増している。 審査員の石戸奈々子氏は「今までありそうでなかった発想の面白さを感じた」とその発想の独創性を高く評価し、銀賞の受賞となった。

【受賞コメント】

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「驚いているというのが一番の感想です。自分はプレゼンがあまり得意じゃないんで心配だったんですけど、それで銀賞が取れたのは本当に驚いています。プレイヤーキャラに目を付けるのにはかなりのコードを変える必要があったので正直迷ったんですけど、最終的にいい感じになったのでそこは良かったかなと。今回のブラッシュアップにかけられる時間は一週間くらいしかなかったので、ギミックを増やしたりプレイヤーキャラに目を付けたりと、そういうところに絞ってやりました。自分も今回の大会に応募したときには自信がなかったんですけど、今回受賞もできたので、応募しようか迷っている人は応募してみて損はないと思います」

『朝を知らぬ星』
銅賞:梅村時空さん(N高等学校)

銅賞を受賞したのは、梅村時空さんの制作した3Dアクションゲーム『朝を知らぬ星』。太陽が昇らなくなり、人間は地下へと避難し、地上を怪物たちが跋扈する世界で、主人公が地上を人間の手に取り戻すために怪物たちと戦う3Dアクションゲームだ。梅村さんは小学生の頃からゲーム開発に親しみ、過去には「おてんば少女と学校の迷宮」という作品を制作し、Unityインターハイ2018の本戦にも出場した実力派だ。

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「戦闘は比較的難易度が高く設定されていて、敵を倒す毎に爽快感や達成感を強く感じられるようにレベルデザインしています。難易度を高くすると爽快感が感じられにくくなるので、それを防ぐために静と動の対比を大切にしました。また、攻撃を与えたときなどに適切なフィードバック(パーティクルライト、ヒットストップ、ブラー、震動)があるようにこだわりました」(梅村さん)

審査員の日野氏が「これ全部一人で作ったの?グラフィックも?凄いね......」とクオリティの高さを評価しつつ、一人でゲーム制作をおこなった理由を質問したところ、梅村さんは「自分はあまりコミュニケーションが得意じゃないので、そっちに時間や労力を使うよりは」と一人でゲーム制作をする理由を語った。だが梅村さんは制作過程で「意志決定の重要さと難しさ」も強く感じたという。

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前回の予選大会時点ではマルチプレイ機能の追加なども考えていたが、ブラッシュアップの過程でそれを一旦諦め、代わりに演出面や戦闘の手触りを追求することにしたそうだ。この取捨選択の意志決定が功を奏してか、グラフィック・演出面では頭一つ抜き出ることに成功し、見事に銅賞受賞となった。

【受賞コメント】

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「金賞、銀賞には届かなかったんですけれど、凄く嬉しいです。今回は、アクションの手触りには凄くこだわりました。エフェクトだとか、フィードバックがちゃんと伝わってくるかという点ですね。それから、全体の雰囲気作りにもこだわっています。ゲーム開発は小学校四年生の時にRPGツクールを使ったのが初めてです。今のようにグラフィックに力を入れ始めたのは去年くらいからですね。ゲーム開発の情報は本やネットから収集していましたが、今は色んな既存のゲームを遊んだり、クリエイターの講演の記事や動画を見たりもしています。日本ゲーム大賞U18部門は、自分の作ったゲームが自分の周囲以外でどう評価されるのかがわかるというのがとてもいいと思います」

『KAISENDOOOON!!!』
田染颯野さん 水上嵩大さん(ヒューマンキャンパス高等学校)

『KAISENDOOOON!!!』というインパクトのあるタイトルの作品を開発したのは、田染颯野さんと水上嵩大さん。高校の入学時から一緒にゲームを作っているという二人組のチームだ。田染さんはCG担当、水上さんはプログラム担当と、役割分担をしながらゲーム制作に取り組んでいるという。プレゼンテーション時間の約半分が、ゲーム内容ではなく、自分たちがいかに海鮮丼が好きかということの説明に費やされるなど、とてもユニークなチームだ。

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だが、完成したゲームは決して単なる色物ではない。タイトル通り、海鮮丼をモチーフにした本作は「狙って釣って盛り付けて」をコンセプトに、まずキャスティングパートで狙いを付け、フィッシングパートで海から海産物を釣り上げ、盛りつけパートで丼へと盛りつける。この三つのパートをテンポ良く繰り返していきながら、思い思いの海鮮丼を作り上げてゆくのが本作の主な流れとなる。「プログラムでこだわった点は、下の海の画面から上の丼の画面に向かって直接魚が飛んでいきますが、この3Dならではの奥行きのある表現を取り入れることによって、「釣っている感」と「作っている感」を表現できるようにしたところです。

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そして最終的に、自分の好きな具を好きなだけ乗せた海鮮丼を作れる、そんな夢を叶えるためのゲームです」(水上さん)。海から釣り上げられるものは魚だけでなく、ワサビから潜水艦まで幅広く、「出来上がる丼のバリエーションは無限」とのこと。審査員の日野氏が「丼に乗せられるものをどこまで広げようと思ったんですか」と質問したところ、「海か丼に関連あるものを選びました」と水上さんは回答した。一見無作為に思えるネタのチョイスも、一定の世界観を守りながら制作されたことがうかがえる。日野氏も「すごく楽しく遊びました」と、その独特なゲーム内容を内容を高く評価した。

『ふにゃごん』
宮崎章太さん、西岡明矢斗さん(神戸市立科学技術高等学校)

『ふにゃごん』は怪獣ふにゃごんを操作し、巨大化させていくことが目的の3Dアクションゲーム。広い街を自由に破壊して進み、木や建物を蹴り飛ばしたり、炎で街を焼き尽くすということも可能だ。その度にふにゃごんは色んなものを吸い込んで巨大化していき、クリアしたときの大きさや時間などがスコアになる。また、様々なところにトレジャーアイテムが隠してあり、真っ直ぐゴールを目指す以外にも、アイテム探しの楽しみもある。

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本作の操作感は独特で、歩くことから、炎を吐く、ものを吸い込むなど、全てのアクションをスティック操作で実現しており、その操作性こそが本作の大きな特徴となっている。例えばスティックを左右交互に倒してゆくと、ふにゃごんを前進させることができるのだが、その操作性はなかなかクセがあり、最初は歩くだけでも難しい。しかし、その難しさも狙ったものであるという。「独特な操作なので最初は難しい、でも慣れると楽しい、そんな感覚を目指しました。自由に行動してストレス発散するもよし、ハイスコアを目指すもよし、自由に遊ぶことができるゲームです」と西丘さんが語るように、ハイスコアを狙うという楽しさだけでなく、操作が上手くなるという上達の快感も味わえるゲームになっている。

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また、ふにゃごんのふにゃふにゃ感を表現するために工夫された点もある。、アニメーションを使用せず、全ての動きを物理演算に任せるラグドール物理という手法が使われているのだ。 審査員である日野氏は「ゲームの内容は凄く良かったです。ただ一つ気になったのが、操作が上達していくことを楽しむというコンセプトはわかるんですが、ゲームの最初の時点で、前に進むということがうまくいかない時にストレスを感じました。そこが改良されるといいなと思います」と、ゲーム内容を高く評価しつつ、改善案も示した。

『shotlix』
鎌谷天馬さん、池田逸水さん、改野由尚さん

シューティングゲーム『shotlix』を開発したのは、同じN高等学校に通う鎌谷さん、池田さん、改野さんの三人組。これまでも三人でプログラミングコンテストに出場するなど、このチームでの活動を続けてきた。鎌谷さんがリーダーでゲームシステムを担当、池田さんがゲーム設計やUIデザインを担当、改野さんがマネジメントやインフラを担当と、それぞれ役割分担がなされている。(改野さんは体調不良のため、決勝大会は欠席)。

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本作「shotlix」は、自動で進んでいく自機を十字キーで操作しながら、おじゃまブロックを銃弾で消したり避けたりしつつ、数字を集めてハイスコアを狙うというゲーム性。「ゲームにハマるためには、手軽さが重要」と鎌谷さんは言う。本作は「1,直感的で簡単な操作、2,選べる難易度、3,1プレイ30秒から1分で終わる手軽さ」の三点を基本コンセプトに開発されていった。「十字キーとスペースキーで操作が完結しているので、直感的な操作ができます。難易度もEasy、Normal、Hard、Expertの四段階から選ぶことができ、初心者から上級者まで自分のレベルに合わせて遊ぶことができます。さらに、1プレイ30秒や1分で終わる手軽さがあります。さらに、ランキング機能やSNSでの共有機能も実装しています」と鎌谷さんが語ったように、手軽にゲームに入っていきながら、ハマっていくための工夫が様々に施されている。

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また、今後の展開について「シングルモードは完成されているが、今後は対戦を実装しようと思っています」(鎌谷さん)と、さらなる機能の追加についても言及した。審査員の石戸奈々子氏は「シンプルで手軽というコンセプトがちゃんと反映されている」と、設計段階のコンセプトと出来上がった作品が一致していることを高く評価した。

『幽体離脱』
伊豫冬馬さん(茨城県立竹園高等学校)

伊豫冬馬さんが発表した作品は『幽体離脱』。タイトル通り、幽体離脱をゲームシステムの核に据えたアクションパズルゲームだ。謎の館に閉じ込められた主人公が幽体離脱を駆使し、肉体と幽体を切り替えながら、館からの脱出を目指すことがゲームの目標となる。肉体と幽体にはそれぞれ長所と短所があり、状況に応じてそれらの特性を切り替えながら進んでいくというパズル要素がこのゲームの面白さの肝になっている。「肉体の生存を意識しながら幽体を操作しなければいけない、頭と手を同時に動かすゲームになっているんです」と伊豫さんは語った。

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さらにゲームシステムだけでなく、世界観にもこだわりがあるという。主人公の「幽里」やゲームの案内人である「サンプラー」に、それぞれイメージグラフィックがあるだけでなく、キャラクターボイスまで実装されており、世界観に深みと広がりを与えている。BGMにもこだわりがあり、肉体を表すフレーズと幽体を表すフレーズが交互に織り込まれているという。「今回、キャラクターの絵を描いてもらったり、声を学校の演劇部の人に担当してもらったりと、ゲームが技術の架け橋になることを実感できました。そして、ゲームは高度な自己表現だと思いました。今後も色んな人の技術を繋げて、組み合わせて、楽しい制作活動をしていきたいと思います」と、伊豫さんは今後のゲーム制作への意欲も語ってくれた。

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審査員の三代川正氏の「一画面で全てを見られる引いた視点でのゲーム画面になっているのはどういう意図があったんでしょうか」という質問に対して、伊豫さんは「前のバージョンでわかりにくいという意見をもらったので、ステージ構成は見やすさとわかりやすさを重視するように改善しました」と答えた。ゲーム内容は予選大会での経験を経て、大幅にブラッシュアップされているようだ。また三代川氏は「パズルゲームとして、ヒントがあったりチュートリアルがあったりと充実している」という点も高く評価した。

今年も様々な若き才能が鎬を削った日本ゲーム大賞2019「U18部門」。決勝大会に進出した作品はどれもそれぞれの個性と魅力にあふれ、またプレゼンテーションのレベルも高かった。特に金賞を受賞した『手裏剣 Jump』の作者である池上颯人さんはまだ小学生ということもあって、若いクリエイターの力をまざまざと感じさせられる結果となった。

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さらに、池上さんが昨年度の日本ゲーム大賞2018「U18部門」の銀賞受賞者というだけでなく、他のファイナリストも他のゲームコンテストで入賞経験がある方が何人もいたりと、ゲームを発表する場の広がりや、若いクリエイターの平均的なレベルの向上がうかがえた。次は、読者であるあなたが舞台に上がる番かもしれない。
今後も、更なる若きクリエイターたちの登場に期待したい。