錬金術をテーマとする人気RPG「アトリエ」シリーズ。新作の『ユミアのアトリエ~追憶の錬金術士と幻創の地~(以下、ユミアのアトリエ)』では、シリーズでも最大規模のオープンフィールドが採用された。その舞台裏について、コーエーテクモゲームス「ガストブランド」の開発チームに聞いた。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 322(2025年6月号)からの転載となります。
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発売・開発:コーエーテクモゲームス
リリース:発売中
価格:9,680円(PS5、Xbox Series X|S、Steam)、8,580円(PS4、Nintendo Switch、Xbox One)ほか
Platform:PS5、PS4、Nintendo Switch、Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam)
ジャンル:錬金術RPG
atelier.games/yumia/jp/
©2015 コーエーテクモゲームス All rights reserved.
スタイライズとPBRの融合で描く瑞々しいオープンフィールド
エンジン機能の活用により画づくりの幅が拡大

以上、コーエーテクモゲームス
背景表現においても、『ユミアのアトリエ』ではKatana Engineの導入が大きな変化をもたらした。本作では、自然の“瑞々しさ”や“湿度感” を感じさせる風景描写が強く打ち出されており、そのビジュアル設計においてはアイスランドなどの寒冷地の景観が参考とされた。こうした表現は、Katana Engineの恩恵を受けることで大きく進化している。
背景の主な制作フローは次のとおりだ。まず、プランナーの発注を基に背景班がイメージボードを作成。それを受けて、プランナー側がマップのレベルデザインを構築し、CGデザイナーがオブジェクトをつくり込んでいく。こうした背景は、マップ上の区画ごとにボックス状のロケーション設定によって管理され、キャラクターの移動に応じて、それらがシームレスに読み込まれるように実装されている。
背景のルックはPBRによるフォトリアルな質感をベースにしつつも、シリーズのスタイライズドな方向性に合わせてチューニングが施された。特に今回は、深度方向に応じたカラーグレーディングが可能になったことで、遠景から近景にかけての空間的な奥行きが強調されている。

また、ハイトフォグを特定の地形(森や腐海など)に沿って適用することで、空間の湿度感を演出。ブルームとフォグを併用したポストエフェクトも相まって、自然の“瑞々しさ”が感じられるビジュアルが形成された。
オブジェクト面では、特に岩や草木といった植生のラフネスを細かく設定し、水気を含んだような質感を実現。草木の配置には、あらかじめ登録した植生データを地形上にプロシージャルに配置していくペイントツールが活用されている。
これらの湿潤な風景を際立たせるため、ライティングにも工夫が凝らされている。「本作のライト数は250個以上をロケーション別に使用しています」と鈴木氏。基本ライトは時間帯別の4系統で、サブマップや屋内の照明に加え、縦方向に階層が存在するエリアではその上層・中層・下層ごとに異なるロケーション用のライトが設定されている。
ライト数が膨大になった背景には、天候や時間帯ごとに専用のライトを用意する必要があったことがある。オープンフィールド構造ロードを挟まない仕様のため、各ロケーションにあらかじめ全てのライティングを仕込んでおく必要があった。
なお、本作ではリアルタイムライティングとあわせてごく一部にライトマップも使用されている。特にカットシーンでは、演出的に見せたい瞬間をピンポイントでベイクしするなど、意図的な画づくりにも活用されている。
ポストエフェクトとマテリアルで描く湿度感ある背景


エンジンの移行で可能になった繊細な画づくり
背景表現の進化を支えた要素のひとつが、Katana Engineにより実現した深度方向のカラーグレーディングとハイトフォグの制御機能である。特にフォグは地形に沿って複雑に適用することが可能になり、各エリアの空気感や奥行き表現に大きく貢献している。
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▲森エリアのカラーグレーディング、ハイトフォグをOFFにした状態。空間奥行きがやや浅く見え、手前と奥の明確な分離がない状態 -
▲森エリアにカラーグレーディングとハイトフォグを適用した状態。地形に沿ってフォグが広がり、遠景に湿度と深みが加わっている
ロケーションと連動したライティング設計の工夫
本作のライティングは、最大255のライトを活用し、エリアの層や天候、時間帯ごとに最適な照明を割り当てている。オープンフィールド構造ゆえにシーン切り替えができないため、ロケーションごとにあらかじめ複数のライトを仕込み、背景の自然な遷移を支えている。
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▲複数のローカルライトを適用した背景シーン。各地形や階層に対応した照明が配置され、自然な光環境が構築されている -
▲ローカルライトの配置を可視化したデバッグ表示。マップ上の各スポットに照明が密に配置されていることがわかる


統一感と湿度感を演出するポストエフェクト
『ユミアのアトリエ』では、空気感や湿度を伴う自然表現を高めるために、ポストエフェクトの調整にも時間が割かれた。
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▲グローライトとパラフィンを無効にした状態。背景の情報はクリアに見えるが、全体にややドライな印象が残る -
▲グローライトとパラフィンを有効にした状態。空気中の光の滲みや湿度感が加わり、画面全体に柔らかな統一感が生まれている
エフェクトとカットシーンで描く新たな臨場感
バトルを彩る演出効果と物語をつなぐ芝居の設計
さらに、『ユミアのアトリエ』の世界を華やかに彩る要素として欠かせないのが、エフェクトとカットシーン演出である。まずエフェクトは、バトル・フィールド・錬金術(調合)・UIの4カテゴリに大別される。これらの表現においても、Katana Engineの恩恵は大きい。例えばバトルやフィールド上のエフェクトでは、輝度を高めた発光表現が可能になり、より鮮やかで印象的な画づくりが実現した。
武器攻撃時の軌跡エフェクトも、従来作では減衰によって消えていたエフェクトを、今作では境界線を光らせながらディゾルブする手法に変更。視覚的な説得力と鮮やかさを両立させた演出となっている。加えて、バトルでは属性や武器の種類に応じて異なるエフェクトを表示する仕様が取り入れられた。「『アトリエ』シリーズでは初めての試みだったのではないかと思います」(鈴木氏)。

一方、物語を演出するカットシーンは、大きく分けてイベントシーンと汎用モーションによる会話シーンの2種類が用意されている。制作フローとしては、まず開発チームが字コンテを作成し、それを基に絵コンテで演出のながれを具体化。さらに、必要に応じてモーションキャプチャを撮影していくという工程を踏む。
特徴的なのは、その実装方法だ。Katana Engineへの全面移行を行いつつも、ガストブランドで長年使用されてきた独自のカットシーン制作ツールを引き続き採用し、実機上で組み立てている。これは、膨大な数のイベントシーンに対して、実機上で即座に細かな調整を反映でき、演出担当者のみで作業が完結できるという利便性があるためだ。その結果、Katana Engineを導入しながらも、小回りの利く柔軟な開発体制を維持することができている。

今回の制作で特にこだわったのが、キャラクターの芝居やカメラワークを細かくつくり込み、より活き活きとした見せ方を実現することだった。「以前はキャラクターの動きが“硬い”といった声もあり、これまでは記号的な動きを避けるためにルールを設けていましたが、そうすると人的対応に頼ることになるため開発末期では不確実さがありました」(鈴木氏)。
そこで今作では、動きの一部をシステム側で補完できるよう設計を工夫。例えば待機モーションにモーションノイズを加え、表情や呼吸の動きなどに微細な揺らぎを足すことで自然さを演出している。「セリフの際にも、ほんのわずかに首が動くよう設定しています」(鈴木氏)。
表現の幅が広がったエフェクト
本作ではバトル・フィールド・調合・UIの4カテゴリで専用エフェクトが制作され、Katana Engineの高輝度発光や境界を光らせるディゾルブ、スキャン的エフェクトなどが活用された。


カットシーンの自然な動き
「アトリエ」シリーズでは、かねてよりカットシーンの動きが「硬い」という声があった。本作では、そうした印象を払拭するため、キャラクターの待機中にモーションノイズを加えている。
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▲モーションノイズ未適用の状態。キャラクターの立ち姿に動きがなく、静止している印象が強く出る -
▲モーションノイズ適用時。呼吸や姿勢の揺らぎなどが加わることで、キャラクターが“生きている” ような自然な存在感が生まれている

CGWORLD 2025年6月号 vol.322
特集:アニメ『TO BE HERO X』
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2025年5月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_葛西 祝 / Hajime Kasai
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada