数ある人気タイトルをリリースし続けるカプコンが、東京は9月19日(木)にCIRQ新宿8Fホール、大阪は9月24日(火)にブリーゼプラザ・小ホールにて「カプコンオープンカンファレンス RE:2019」を開催した。後編となる本稿では、リアルタイムグラフィックス技術解説のセッションから『デビル メイ クライ 5』(2019)での活用事例について紹介する。
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TEXT&PHOTO_室井美優 / Miyu Muroi(Playce)i
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
『デビル メイ クライ 5』
対応ハード:PlayStation4、Xbox One、PC
CEROレーティング:CERO D(17才以上対象)
www.capcom.co.jp/devil5/
©CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
破壊とセカンダリアニメーションにおける徹底したフォトリアルへの追求
リアルタイムグラフィックス技術解説のセッションでは、プロダクション部の滝 崇海氏が「『デビルメイクライ5』におけるシミュレーション~破壊と二次アニメーション~」と題して、滝氏が『デビル メイ クライ 5(以下、DMC5)』にて担当した仕事に触れながら、講演が行われた。
滝 崇海氏(プロダクション部)
「シミュレーション好きには楽しいセッションだと思います」。そう語る滝氏は、『DMC5』において、破壊の物理シミュレーションとセカンダリアニメーション(衣服やギミックなどの揺れもの)を担当していた。
滝氏の担当した仕事の数々
■シミュレーション作成における指針
滝氏は、「フォトリアル」を謳う『DMC5』を担当するにあたって、シミュレーションにおける指針を打ち立てたという。
●"破壊"における指針
①飛び散る破片の数を多く出し、派手に大きく飛び散らせる表現を心がけること
②現実に近い挙動や見え方を心がけること
「例えば多くのゲームでは、飛び散った破片は落下途中で透明になってゲーム世界から消えてしまいますが、本作ではプレイに影響のない範囲で破片を残したままにするなど、現実に近い見え方を追求しました」(滝氏)。
●セカンダリーアニメーションの指針
①キャラクターの派手な動きに合った、衣服や髪の挙動
②背景にも揺れものをふんだんに取り入れること
スタイリッシュなアクションが魅力の本作ならではの指針と言えるだろう。
■リアルタイム物理とベイクアニメーションの使い分け
続けて、具体的な手法について解説。破壊もセカンダリアニメーションもそれぞれ、ゲーム内で計算される「リアルタイム物理シミュレーション」と、「Mayaで物理、Clothシミュレーションした結果をアニメーションに焼き付けた、ベイクアニメーション(以下、ベイク)」を使い分けて表現をしているという。
■"破壊"のシミュレーション例:リアルタイム物理
続いて「破壊」の具体的なシミュレーション例が、動画を交えながら紹介された。リアルタイム物理の処理は「RE ENGINE」の「Dynamics」を使用。こちらは、キャラクターのリアクションが取れるというのが一番の特徴だ。
リアルタイム物理:敵の部位破壊
人だけでなく、一定のダメージを受けた車はラグドールに切り替わり、リアクション可能にした
しかし、このリアルタイム物理だが、複数のダイナミックな表現を同時に行うとすると処理負荷が高い。また、文字通りリアルタイムで動く物理なので、挙動が毎回変わり制御しにくいという点が挙げられる。
■"破壊"のシミュレーション例:ベイク
より派手で細やかな演出を行う際は、ベイクでの対応に切り替えているという。
ベイクが多用されているゴリアテ戦。柱の壊れ方だけでも数パターンある
ボス戦での背景。土の盛り上がるアニメーション、アスファルトのシミュレーション、飛び散る瓦礫のシミュレーションを順番に作成し1つの動きとしている
ベイクは、リアルタイムな挙動は不可能だが、少ない処理で大量に破片などを出せるだけでなく、より高度な動きをつくることができる。このベイクは、「RE ENGINE」の「GPU Motion」や「CPU Motion」を使用し再生している。この2つにも特徴があるため、場面によって使い分けている。
「RE ENGINE」初の開発タイトルである『バイオハザード7』では「CPU Motion」の対応のみだったためCPU負荷が凄まじく、最終的に破片の数などを減らす対応を取らざるを得なかったのだそうだ。その対策として追加されたのが、処理の負荷が破片数に依存しない「GPU Motion」だ。
「GPU Motion」や「CPU Motion」の特徴。CPUはジョイント数が増えると負荷も上がるが、ゲーム処理のフィードバックができるのが特徴だ。GPUは並列処理は得意だが画の更新しかできない
ゴリアテ戦では、リアルタイムとベイクを上手く使い分けることでよりリアルな表現を生み出した。負荷がかかりがちなベイクについては「GPU Motion」を使用することで軽減を図った
そして破壊シミュレーションの解説の最後に、ものづくりへの妥協のない追求によって生まれたシーンを紹介した。
「破壊された塔の上部には鐘がついているのですが、アートディレクターから、塔の破壊と共に、鐘が転がるのを見せたいという要望があったのです。しかし、Mayaでのシミュレーションは何度やっても瓦礫に埋もれてしまう。そのため、鐘を瓦礫から出し、鐘だけをシミュレーションし直して調整することで、要望を叶えることができました」(滝氏)。
さらに滝氏は、鐘が落ちてきた際にベイクからリアルタイムに切り替え、転がる際に鐘の音が鳴るような仕様を提案。ベイクの再生が終わった後に、リアルタイム物理に切り替え、ボスやプレイヤーがリアクション可能なようにしたそうだ。「ただ壊れるだけではなく、破壊の中にもドラマが生まれるように工夫して制作したのがこのシーンです」(滝氏)。些細なところまで決して手を抜かず、リアルを追求し続けるカプコンならではの表現を垣間見ることができた。
■"セカンダリアニメーション"のシミュレーション例
次に「セカンダリアニメーション」についての解説が行われた。リアルタイムな揺れものに関しては「RE ENGINE」の「Chain」を使用。外部からのリアクションやキャラクターの動きに合わせてリアルタイムに動くので、スタイリッシュアクションである本作には効果的だ。
シャンデリアの揺れ。キャラクターが乗るとその動きに合わせて揺れる
カットシーン、イベントシーンにはChainを多用。このシーンでは、車内の飾りがクルマの振動で揺れる。かつ、キャラクターが席を立ち、クルマが大きく揺れた際にはそれに合わせて飾りも大きく揺れるように調整
Chainでは風の設計も可能
しかし、アクションゲームである本作は、キャラクターの移動量や回転などが多いため、Clothシミュレーションの破綻が起きやすいという問題もあった。破綻がないかチェックや微調整をくり返すことになるため、根気のいる作業だったと滝氏は語る。
この「Chain」は、基本的にはボーンベースであり、ジョイント位置に駆動範囲を設置できる。多用するとCPU処理負荷が高くなるのだが、ボーンの中でも処理コストが大きいコライダーを減らすことで対応したという。
「Chain」は初期セットアップが簡単で、かつトライ&エラーもしやすくそれなりの動きになってくれる利点があり、特にアニメーターからは余計なアニメーションを付けなくて良い分、評判だったようだ。しかし今作では、ボーンベースのChainだけでは表現が難しい挙動もあったようで、今後のタイトルでは別の方法も採り入れていきたいとのことだ。
青いコーンのセンターに行くほど駆動範囲が広がっていくだけのセットアップ。緑色の球はコライダー
ボスの尻尾の揺れ。Chainの有無で挙動の滑らかさに大きなちがいがあることがわかる
ハイエンドゲーム開発に関わる全ての人へ
カンファレンスを通して伝えたかった、カプコン開発チームの想い
伊集院 勝氏(カプコン 技術研究開発部)
「なぜ、独自のカンファレンスを開催したのか。それは、やってみたかったからなんです(笑)」。そう語るのは、技術研究開発部の伊集院 勝氏だ。本カンファレンスの締めくくりとして、今回のカンファレンス開催目的と、「RE ENGINE」の今後の展望についてスピーチを行なった。
「『RE ENGINE』の開発は、『Panta Rhei』というエンジン開発プロジェクトを一度仕切り直して再出発したものなのです。そのため軌道に乗るまでにも時間がかかり、改めて情報収集の重要性を再認識しました」(伊集院氏)。
今回のカンファレンスの開催目的は、内製エンジン情報の需要の確認を行うとともに、この講演を通して、開発者同士の情報交流の活性化につなげること。順風満帆にはいかないエンジン開発で重要になってくるのが、開発の参考になる情報だ。情報を欲するのであれば、積極的に自社の発信もしていくべきだという考えの下、今回の開催にいたった。
「ネットワークをはじめとしたシステムやサービスのさらなる充実、自動化や省力化による大規模化への対応、これまで取り組めなかった研究への推進、やるべきことはまだまだあるのです。現状に満足せず、一段と開発体制を強化し、課題に対して真摯に取り組み目標を達成していきたいと思っています」(伊集院氏)。
具体的には、「RE ENGINE」を使用した新しいタイトルの開発を進めるだけでなく、「RE ENGINE」のプラットフォーム展開も進めているという。発表によると、すでにGoogleが提供しているクラウドゲーミングサービス「Stadia」のゲーム開発が可能となっているようだ。さらに、グラフィックスAPI「Vulkan」対応も進んでいるという。また、詳細はまだ非公開だが、開発中の最新タイトルは『BH RE:2』や『DMC5』よりもさらにハイレベルな表現が可能となっているとのこと。
今回のカンファレンスを通し、ハイクオリティへの追求、それをもたらすための様々な技術革新を惜しみなく披露したカプコン。最後に伊集院氏は、今後も継続的にカンファレンスを開催し、情報発信していきたいと締めくくった。
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「カプコンオープンカンファレンス RE:2019」
●東京会場
日時:2019年9月19日(木)13:10~19:20
場所:CIRQ新宿8Fホール
●大阪会場
日時:2019年9月24日(火)13:10~19:20
場所:ブリーゼプラザ・小ホール
www.capcom.co.jp/RE2019/