3Dプロジェクションマッピングの代名詞となった東京駅舎の『TOKYO HIKARI VISION』を2012年に手がけ、その後も数多くの先進的な空間演出を発表してきたNAKED。「空間全体を演出するクリエイティブカンパニー」を標榜する同社のコンセプトを濃縮した『TREE by NAKED yoyogi park』(以下、『TREE』)の舞台裏から、その真骨頂を全2回に分けて探っていく。No.1では、『TREE』の振り切った世界観のつくり込みと、それを支える3フロア45台のプロジェクタを紹介しよう。
※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のため、2020年4月16日より『TREE』の昼・夜体験(コース)を休業しています。
※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 260(2020年4月号)掲載の「 NAKEDのコンセプトを濃縮した食×アートの体験型レストラン『TREE by NAKED yoyogi park』」に加筆したものです。
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
▲2019年12月にスタートした『TREE by NAKED yoyogi park』 2ndシリーズの紹介映像
© NAKED, INC.
▲左から、CGIマネージャー・中村大輔氏、エグゼクティブアートディレクター・小林恵美氏、CGデザイナー・仲西 亮氏(以上、NAKED)
「五感で味わう体験」を実現する、調理・給仕・映像の緻密な連携
- 『TREE』は、NAKEDが発表してきた多種多様な空間演出の中でも、とりわけ異色で、実験的な存在だ。「クライアントのいないオリジナル企画なので、代表の村松(亮太郎氏)や、われわれスタッフのやりたいことを濃密に詰め込んであります」と、『TREE』の企画・演出を手がける小林恵美氏は語った。
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エグゼクティブアートディレクター・小林恵美氏
『TREE』は食事を楽しめるレストランではあるものの、訪れるゲストに提供したいサービスの本質は「五感で味わう体験」だと小林氏は強調した。『TREE』では、VR技術・プロジェクションマッピング・照明・音楽・美術造作などによる空間演出と、「食」を融合させることで、ほかに類を見ないユニークな体験を提供している。
同社では『TREE』を5年以上前から企画していたが、今の演出へと仕上がるまでには大変な苦労があったという。「最大のネックは『食との融合』でした。料理の内容、調理のタイミング、料理の温度、盛り付け方、食器の材質、給仕のタイミング、照明の位置と強さ、プロジェクタの位置、センサーの位置、映像を切り替えるタイミングなど、調整すべき要素が雪だるま式に増えていったんです」(小林氏)。
例えば『TREE』には、ゲストの前に置かれたお皿の蓋を給仕が開けると、煙が立ち上り、スポットライト型プロジェクタ(スペースプレーヤー)で投影された鳳凰が煙の中から飛び立つという演出がある。これを実現するためには、調理・給仕・映像の担当者による秒単位の緻密な連携が必要で、小林氏らはテストとバージョンアップを何度もくり返したという。「参考にできる事例は何もなかったので、自分たちで良い悪いを判断し、1年以上、改良を重ねました」(小林氏)。
▲2ndシリーズの一皿。色鮮やかな鳳凰が、料理の煙の中から飛び立つ
© NAKED, INC.
プレオープンを経て2018年に本格始動した『TREE』は好評を博し、国内以上に海外からの注目を集め、連日予約が入っているという。以降では、『TREE』の最新演出を紐解いていく。
ゲストも構成要素に組み込む、振り切った世界観のつくり込み
『TREE』では、「Kaleidoscope of LIFE」と題した2ndシリーズを2019年12月にスタートした。
- 「当社の映像制作チームは約20人編成で、1stシリーズの制作時には全員が参加しました。2ndシリーズの場合は、ノウハウが溜まっていたのに加え、ほかのプロジェクトも乱立していたので、約半分の人数で制作しています。それでも、世界観、ストーリー、機材などのリニューアルに合わせ、全ての映像を一新しました」と、CGIマネージャーの中村大輔氏は語った。
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CGIマネージャー・中村大輔氏
小林氏や中村氏らは、1stシリーズのときから2つのポイントにこだわってきた。ひとつは、世界観やストーリーと、演出や体験との連動だ。例えば、前述の煙の中から飛び立つ鳳凰は、独立した演出ではなく、2ndシリーズのストーリーを構成する要素のひとつとして披露される。ゲストや機材もストーリーの構成要素に組み込まれており、ゲストには「神の遣いとなり、『食べる』という行為を通して、新しい世界を生み出す」という役割が与えられる。
▲ 『TREE』の2ndシリーズ「Kaleidoscope of LIFE」の世界観とストーリーを表現したイメージボード
© NAKED, INC.
▲ ゲストにはAmuseからDessertまでの多彩なコース料理が提供され、食べ進めるごとに、新たなストーリーと演出モチーフが披露される
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© NAKED, INC. - そんなゲストが被るVRゴーグル(IDEALENS K4)には、「神の遣い」を模したキツネのような装飾が施されているという徹底ぶりだ。左の写真に写っているのは「水」のストーリーの構成要素である4皿目(Entree)で、奥には装飾が施されたVRゴーグルが置かれている。
やや極端な表現をさせてもらうと「一流のごっこ遊び」を体験できる場になっていると言えよう。実際、ニューヨーク・ドバイ・香港などの世界各国から訪れるゲストたちは、『TREE』の振り切った世界観のつくり込みを最も評価しているという。
もうひとつのポイントは、アナログ体験とデジタル体験の共存だ。例えば2ndシリーズの中には、本物の水を入れた深皿の水面を、ゲストが自分の指で触れ、そこに投影された魚とのインタラクションを楽しむという演出がある。魚と同様、水も映像で表現できるが、触れたときのヒンヤリする感覚、ピチャンッという感じを体験してほしいから、あえて本物の水を使ったと小林氏は語った。
このように、同社の映像は現場のアナログなモノと混ざることで完成するため、事前にイメージした通りの演出に仕上がることもあれば、『全然ダメだね......』となることもある。それが、中村氏らの仕事の面白さであり、難しさにもなっているという。
© NAKED, INC.
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「世界のはじまり」を演出する45台のプロジェクタ
「世界のはじまり」を演出する、3フロア45台のプロジェクタ
『TREE』の施設は地下1階から2階までの3フロアで構成されており、ゲストは4つの空間を移動しながらストーリーを体験していく(ちなみに厨房は1階奥に設置)。それらの空間には全45台・5種類のプロジェクタが設置されており、2ndシリーズからはMain roomの四方の壁用のプロジェクタがリニューアルされた。「FUJIFILMの超短焦点プロジェクタ(Z5000)を導入したことで、たった4台で壁全体に切れ目なく映像を投影できるようになり、さらに没入感の高い演出が可能となりました」(小林氏)。
▲ゲストを迎え入れるWelcome space
© NAKED, INC.
▲枯山水を模したテーブルの上に映像を投影し、ゲストの役割を伝えるFirst room
© NAKED, INC.
▲Main roomを再現した演出シミュレーション用データ
© NAKED, INC.
▲Dessertを提供するFinal roomのイメージ画像。【下】では、テーブルにKaleidoscope(万華鏡)を投影している
© NAKED, INC.
▲ 施設内のプロジェクタとスピーカーの一覧表。所狭しとプロジェクタを設置し、壁一面から皿一枚まで色鮮やかな映像を投影している。Main roomのスピーカーにはウーハーも増設してあり、地響きのような低音が出せる
▲スポットライト型プロジェクタ(スペースプレーヤー)の『TREE』での導入事例を紹介した映像。なお、ここで紹介されているのは1stシリーズの演出
Channel Panasonic - Officialにて公開
▲Z5000の紹介映像
FUJIFILMglobalにて公開
「No.1 - NAKEDのコンセプトを濃縮した食×アートの体験型レストラン」は以上です。4月28日(火)公開の「No.2 -「不思議な料理」を演出する万華鏡のような映像」では、『TREE』の映像制作にスポットを当てます。ぜひお付き合いください。
© NAKED, INC.
info.
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食×アートの体験型レストラン
『TREE by NAKED yoyogi park』
住所:東京都渋谷区富ヶ谷1-10-2
TEL:03-6804-9038(受付時間 10:00〜18:00)
定休日:月曜日
【Café】10:00〜17:00(Last order 16:00)
【Course】8名様限定、完全予約制
〈Day style〉start 12:30(90min)
7⽫+1Drink:1名様 18,000円
〈Dinner style〉start 19:00(110min)
8⽫+Pairing Drink:1名様 30,000円
tree.naked.works/yoyogi
※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のため、2020年4月16日より『TREE』の昼・夜体験(コース)を休業しています。
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月刊CGWORLD + digital video vol.260(2020年4月号)
第1特集:ハイエンド・ゲームグラフィックス 2020春
第2特集:CG×ファッション
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2020年3月10日
cgworld.jp/magazine/cgw260.html