AfterコロナからWithコロナへ。中長期化することが予想される新型コロナウイルスの脅威において、紙と判子ベースの業務が限界に近づいている。求められるのは電子契約に対する正しい知識と理解だ。5/22(金)に開催されたアドビの電子契約ソリューション「Adobe Sign」セミナーのレポートを通して、電子契約の今を考える。

TEXT_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

電子契約の必要性を一気に示したコロナ禍の状況

新型コロナウイルスの感染拡大と、それに伴うテレワーク推進の中、ボトルネックになっているのが紙と判子を必要とする日本式業務スタイルだ。アドビの調査によると、実に64.2%のビジネスパーソンが「テレワーク中に紙書類や捺印の対応で出社した経験がある」という。コロナ禍の影響が中長期化する中、映像・ゲーム業界に限らず「紙と判子」からの脱却は急務だと言えるだろう。

こうした中、アドビが提案する電子契約ソリューションが「Adobe Sign」だ。5月22日(金)、同社の昇塚淑子氏は「事業継続性に効く。突然のテレワーク指示でもビジネスを止めない『電子契約』のススメ。」と題したウェビナーを開催し、電子契約の現状とAdobe Signの有効性についてアピールした。ブラウザのチャット欄には多数の質問が寄せられ、参加者の関心の高さが窺えた。

昇塚氏は契約書の電子化を巡る現状から解説を始めた。大前提として、我が国において「紙と判子」ベースの業務はなぜなくならないのだろうか。2001年に「電子署名法」が施行されており、契約書の電子化は認められている。しかし、昇塚氏は「電子署名法は一般的なデジタル書類に関する規定をしているだけで、関連する法律を精査していかなければ、電子化の可否や詳細の判断がつかないことがある」と指摘する。

また、電子化が可能な場合でも、契約者の双方でデジタルIDを取得する必要がある。本人確認のために認証局が発行するもので、IDあたり数千円から数万円とコストが高く、取得には個人情報の提出が必要だ(e-Taxで確定申告をした経験があれば、この面倒さが感覚的にわかるのではないだろうか)。片方が電子契約を希望しても、相手方が同意しなければ移行は難しい。商習慣だけでなく、様々な課題があるのだ。

もっとも、一連の規制緩和や法令の制定で、状況が急速に変わりつつある。潮目となったのが2019年5月の、行政のデジタル化に関する基本原則などを定めた「デジタル手続法」の公布だ。クラウドの普及に伴い、デジタルIDに依存しないかたちで、デジタル契約の有効性を担保するしくみも登場した。後述するが、この簡便性がAdobe Signの強みのひとつにもなっている。

そこに降って湧いたコロナ禍だ。安部首相も4月に「全ての行政手続きでデジタル化の前倒しなどを至急検討すること」「民間の経済活動についても、紙や捺印を前提とした業務慣行を改めること」という指示を出したほど。昇塚氏は「まさに今、紙と判子から脱却して、業務書類を電子化していく過渡期に来ている」と述べた。コロナ感染の第二波、第三波が予測される中、契約書の電子化は急務だといえる。

電子契約の推進は業務改革につながる

続いて昇塚氏は、電子契約を推進するメリットとして、「働き方改革」「顧客体験の革新」「内部統制強化」「事業継続性」の4点を挙げた。

紙と判子が撤廃されると、書類を印刷・製本・捺印・郵送するなどの間接業務からビジネスパーソンが解放され、本来の業務に集中できるようになる。これが「働き方改革」だ。その一方で電子化が推進すると、先方の担当者も間接業務から解放され、クリック1つで契約が締結できるようになる。まさに「顧客体験の革新」だ。個人的にもPDFの請求書を印刷して郵送する商慣習は、終わりにしてほしいと感じているほどだ。

また、紙の書類は手元を離れると、どこでどのように処理されているのか、可視化ができなくなる。これが電子化することで可視化が可能になり、「内部統制強化」が進む。さらにコロナ禍の第二波が想定される中、いつどのような事態で外出制限が起きても事業を継続させられるだけの準備が必要だ。こうした「事業継続性」も、電子化で高まるというわけだ。

Adobe Signはこうしたコロナ禍の状況を、企業が生き抜くためのソリューションのひとつと言える。「ドキュメントプロセスの生産性向上と法的有効性を両立させるための、クラウド電子サイン」である......昇塚氏はこのように胸を張る。同種のソリューションは他社からも発売されているが、年間60億件の処理を行い、全世界で7,700万人以上が活用している実績が、Adobe Signの強みを物語っているという。

ポイントは単に電子決済のしくみを担保するだけでなく、ビジネスの生産性を飛躍的に向上させる「電子サインプラットフォーム」という特性を備えている点だ。昇塚氏は「プロセス」「署名」「システム連携」の3項目を挙げて解説した。

企業では人から人、組織から組織へと書類が回っていく過程で、様々な合意や承認、署名が行われる。そのため書類の動きに着目すれば、企業活動が可視化できる。Adobe Signはそのために最適なプラットフォームで、営業・購買・人事・管理など、多様な部門を横串にさして連携が図れるという。

このベースとなるのが、書類の法的有効性を担保するための署名機能だ。Adobe Signでは重要度の高い書類を扱う「電子署名」(実印と印鑑証明書が必要なレベル)と、より重要度の低い「電子サイン」(一般的な営業契約など、認印で問題ないレベル)という、2段階の署名機能を使い分けられる。また電子メールとブラウザがあれば、誰でも使用できる手軽さも兼ね備えている。

最後にAdobe Signには様々な連携用コネクタが用意され、Officeやbox、Salesforceなどのアプリケーションと連携が取れる。Adobe Signのポータルサイトを開くことなく、全ての作業を連携先のアプリケーションで完結させることも可能だ。エンジニアがコーディングすることなく、外部連携をとるしくみを構築することもできるという。

電子サインによる署名のデモ

ここで昇塚氏はAdobe Signのデモを披露した。秘密保持契約を取引先に送付し、先方が署名した上で返信するというのが想定シナリオだ。なお、ここで使用された署名は「電子署名」ではなく、「電子サイン」となる。デジタルIDは使用されていないが、PDF化された契約書ファイルとメールアドレスの履歴を辿ることで、書類の「本人確認」と「非改ざん性」が担保されるしくみになっている。

  • 【1】ブラウザでAdobe Signのポータルサイトを開き、登録アカウントでサインインする。中央の「書面を依頼」ボタンをクリック
  • 【2】契約書を送信する相手先のメールアドレスを入力する。一度に複数のメールを送ったり、契約書を承認する順番を指定したりできる

  • 【3】通知メールにパスワードを設定したり、相手先の携帯電話番号を事前に登録しておいて、ワンタイムパスワードを送信したりすることも可能だ
  • 【4】送信する文書を指定する。PDFだけでなく、Officeなどの指定も可能だ。その場合はPDFに自動変換されてアップロードされる

  • 【5】送信ボタンをクリックすれば、文書がAdobeのクラウドサーバにアップロードされると共に、通知メールが先方に送られる
  • 【6】受信側のメールボックスを開くと、契約書の通知メールが届いている。「確認して署名」ボタンをクリックすると、AcrobatでPDFが開く

  • 【7】PDFは自動的にWebフォームに変換され、記入が必要な場所を指定できる。複数のフォームを連携させて、自動入力させることもできる
  • 【8】署名にはキーボードからタイプ入力をする以外に、合計4種類の方法が選べる。これにより幅広い方式に対応している

  • 【9】手書き入力を選択したところ。タッチパネル対応PCであれば、直接手書きでサインができる。スマホと連携させての手書き入力も可能だ
  • 【10】事前に用意した押印のイメージを署名として挿入したところ。最後に「クリックして署名」を選択すると、署名済み契約書が返送される

  • 【11】契約書が先方で署名された旨の通知メールが届く。クリックするとAdobe Document Cloudから契約書@PDFがダウンロードされ、Acrobatで開ける
  • 【12】署名欄のリンクをクリックすると、Adobe Signのポータルサイトが開き、本PDFの送信・署名履歴などが確認できる

このように、Adobe Signを使用すると一連の作業がWeb上で完結するだけでなく、履歴をたどれる点がポイントだ。契約書を印刷して同僚や上席の人間に判子をもらうプロセスが、そのまま電子化されているため、直感的でわかりやすい。ワークフローデザイナー機能を用いれば、様々な承認プロセスをコーディング不要で構築できる。通知メールにパスワードや、携帯電話の電話番号認証を付与することも可能だ。

また、Webフォームではフォームごとに入力できる人物を指定できる。紙の書類で記入箇所を鉛筆で薄く囲ったり、付箋を貼ったりする行為のメタファーだ。これによって、空欄のままで書類を返送したり、誤入力したりする事態を防げる。送付する書類はPDFだけでなく、Officeのファイルをそのまま送付することも可能だ(Adobe Signポータルにアップロードされた時点で、PDFに変換される)。その上、これらの入力情報を蓄積して再活用することもできる。

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Salesforceを用いた注文書送付のデモ

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Salesforceを用いた注文書送付のデモ

続いて昇塚氏は業務システムソフトのSalesforceとAdobe Signを連動させるデモを行なった。Salesforce上に登録されている、サンノゼ商事のサンノゼ次郎氏に注文書を発送する。ただし、注文書には発送元が先に署名をしてから、先方の担当者が署名する......というシナリオだ。Adobe Signのポータルサイトを開くことなく、全て業務システムソフト側で手順が終了することがわかる。

  • 【1】Salesforceの取引先から担当者のページを表示する。先方の連絡先やメールアドレスなどは登録済みという想定だ
  • 【2】Salesforceの注文書送信ボタンをクリックすると、Adobe Signの連携モジュールが起動する

  • 【3】メールの受信者や送信ファイルといった、Adobe Signの情報が連携モジュールを経由して、Salesforceの画面上に表示される
  • 【4】ワークフローデザイナーで規定された手順に従い、送信元のブラウザに注文書のPDFが表示される。Webフォームに必要な情報を追加して送信

  • 【5】Salesforceの画面上には、これまでの書類の履歴がAdobe Signの情報を基に表示される。契約状況も確認できる
  • 【6】一連の手順を図解したスライド。連携を組むことで、基幹システム内の取引先情報と、Webフォームのフィールドを紐付けられる

このようにAdobe Signを使うと、ファイアウォールの内側、すなわち社内の業務システムだけでなく、外部アプリケーションと連動させることで、アプリケーションとの機能拡張ができる。これによってファイアウォールの外側、つまり社外との業務も効率化させられる......昇塚氏はこのようにアピールした。機能連携に必要な連携コネクタは主要ソフト向けに無償提供されており、コーディング不要で使用できる。

それにしても、デジタルIDが不在のままで契約が進められる点は、一見すると不可解にも思える。もっとも電子署名および認証業務に関する法律によると、電子サインの法的有効性は「本人性」と「非改ざん性」を満たすか否かが重要であり、この2点が担保されるのであれば、電子サインでも問題ないという。

前述の通りAdobe Signでは、メールアドレスの履歴確認と、高い暗号化技術をはじめとしたクラウド技術で担保している。クラウド内のファイルだけでなくダウンロードしたPDFファイルについても、Adobe Signというクラウドサービス名義での証明書がデジタルID込みで付与され、非改ざん性が担保されるしくみだ。データサーバも国内に設置されており、データが国外に流れる危険性もない。

ただし、契約内容によって電子サインではなく、デジタルIDが必要な電子認証が求められるもの(前述のようにAdobe Signにはこちらの機能も備えている)もある。また、そもそも電子契約に向かない契約類型も存在するため(公称や登記手続きが必要な契約や、書面による締結が法令上義務づけられているものなど)、状況に応じて使い分けることが重要だと説明された。

1~2週間かかっていた契約業務が即日まで短縮

後半ではAdobe Signの導入事例が紹介された。人材派遣業を営むパーソルホールディングスでは、約50社にのぼるグループ企業でAdobe Signが使用されている。業務管理ソフトとAdobe Signを連携させることで、契約書を一気通貫で電子決済できるようになり、業務の効率化がなされたという。「紙の間接業務がなくなったことで、本業に集中しやすい業務体制が構築できたと、ご評価いただいています」。

パーソルホールディングスでの導入事例

不動産業のアットホームとジェイエーアメニティーハウスでは、賃貸契約の更新業務でAdobe Signが使用されている。契約書の更新時にWebフォームを活用することで、入力ミスや入力漏れが激減した。ポイントは新規契約ではなく、すでに信頼関係のある顧客との更新契約から導入した点だ。このように、既存の契約業務から上書きしていくことは、電子契約を導入する上で、ひとつのポイントになるという。

アットホームとジェイエーアメニティーハウスでの導入事例

ソニー銀行では住宅ローンの契約にAdobe Signを導入した。それまで実印と印鑑証明書が必要だったものを、電子サインと電話認証を組み合わせることで、電子証明書を必要とすることなく、電子契約に置き換えたのだ。あわせて社内システムを相互連携することで、契約に要する時間が1~2週間から最短で即日に短縮できた。契約時の収入印紙が不要になった点も、コスト削減につながったという。

ソニー銀行での導入事例

紙と電子のハイブリッド処理の事例も紹介された。契約書をAdobe Signで作成し、社内での署名承認を済ませた上で、印刷して先方に郵送。署名して返送されてきたものを、再びスキャナで読み込んでAdobe Signにアップロードするというやり方だ。印刷された時点でAdobe Signの履歴対象からは外れるが、アップロードとダウンロードの履歴は残っているため、チェックが容易になるという。

導入時のポイントとライセンス体系に関する説明もあった。導入時では一度に間口を広げすぎず、対象の業務や文書を絞り込むこと。導入を進める上でIT部門と、Adobe Signを使用するユーザー部門の双方の視点を入れること。社内のセキュリティポリシーや、社内の押印規定や署名規定との整合性を取ること。評価導入時に基準となるKPIを策定し、関連部署全員で合意を取ること、などだ。

また、導入時にはプロジェクトチームが組まれることが多い。このとき、チーム内にユーザー部門の中でAdobe Signのエキスパートとなる人材を育成し、社内ガイドにすると良いと補足された。他にAdobe Signの導入でワークフローが変更される場合、部門間での調整が必要になる場合もある。そのためプロジェクトチームには、全体を統括できる人材を加えると良いとされた。

ライセンス体系では、Adobe Signを使用して契約書を作成する側にのみライセンスが必要で、契約書を受け取って押印するだけなら費用負担が発生しないことが強調された。その上で1ユーザーあたり150件のトランザクション(=署名依頼から完了まで)が付与されるユーザーライセンスと、ユーザー数によらず、1ライセンスあたり150件のトランザクションが付与されるトランザクションライセンスがあると説明された。

  • ユーザーライセンスの例。複数のユーザーライセンスは合算できる
  • トランザクションライセンスの例。より柔軟に運用することが可能だ

最後に昇塚氏は同業他社のサービスが存在する中でAdobe Signを選択する理由について、次の3点を挙げた。第一にドキュメントソリューション市場における実績。そして第二にPDFに基づいたドキュメント信頼プラットフォームであることだ。昇塚氏は「何かあったときに証拠として確実に閲覧できることが重要」だと指摘する。だからこそ、PDFの生みの親であるアドビが提供する点に注目してほしいというわけだ。

そして最後に挙げられたのが、グローバル企業でありながら、日本法人による日本語サポートが受けられることだ。「弊社は日本国内で30年近い実績があります。日本のお客様の要件を採り入れて、日本語のお客さまにフォーカスしたかたちで様々なサポートや製品開発ができるといったことも、ぜひご評価いただきたいと思います」。

なお、同社ではAdobe Signの無料評価アカウントを公式サイトで公開している。評価期間は通常2週間だが、現在は90日間無料使用が可能だ。もはや想定外という用語が日常的に使われるようになった昨今、契約書の電子化を進めることは、企業の生き残り策として不可欠ではないだろうか。

Adobe Sign公式サイト