小学校における「プログラミング教育」が今、注目を集めている。これは約10年ぶりに改定された「学習指導要領」に基づいたもので、2020(令和2)年度4月から必修科目として実施が始まった。「プログラミング教育」といっても、具体的にコーディングなどの専門技術を学ぶ独立教科ではなく、従来の科目のなかで横断的にプログラミング思考を学び、コンピューター操作を実習するのが文科省のねらいだ。各学校ではこの4月開始に向けてさまざまな模索と準備を進めてきたが、そんな折に世界を襲ったCOVID-19による「コロナ禍」。このような当初の想定とは異なる状況下で、私立・仙台白百合学園小学校が採ったのは東京のプログラミング教室「アントレキッズ」の講師による「リモートプログラミング授業」だった。この6年生にとって最初の「プログラミング教育」授業のようすをレポート、ICT担当教員のコメントとともに紹介する(この授業は2020年7月13日にメディア向け公開の下、実施された)。

TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
Special thanks to CCPR

<1>「Scratch」を使用した初めてのプログラミング・リモート授業

仙台白百合学園は、仙台市の丘陵地帯・泉パークタウンの一角にある広大な敷地の中に、幼稚園から高校まで備えたカトリック系ミッションスクール。今回の授業は小学校エリアの体育館で実施された。壇上の大型スクリーンに映し出された画面には、東京のプログラミング教室「アントレキッズ」の太田講師と繋がったzoom画面と指示スライド画面が映し出される。また、フロアには別の大型モニターが備えており、スクリーンでの進行と遅らせて教員が指示画面を操作していく。これは操作に手間取り遅れを取った児童を取りこぼさないための工夫だ。児童たち(23名)には、各自に1台、授業用ノートPC(マウスコンピューター/MousePro-P116B-V2-MSD-A )とマウスが割り当てられ、プログラミング学習用webアプリ「Scratch」を操作していく。授業用のPCはインテル Core i7-8650U プロセッサー搭載の「インテル NUC」を使用。これは教室と遠隔地の画像と音声、そして「Scratch」を同時に処理するためのもので、将来的にVRを採り入れた教育コンテンツの拡充を視野に入れたスペックのものとして用意された。

セッティング図

当日用いられた配信機材一式。授業用PCは、インテル Core i7-8650U プロセッサー搭載の「インテル NUC」を使用。児童用PCは、マウスコンピューター「MousePro-P116B-V2-MSD-A」(CPU:インテル Pentium Silver N5000 プロセッサー(4コア / 1.10GHz))が用いられた

PCを受け取り、席についた児童はZoom越しの太田講師と元気よく挨拶。こうしたフォーマットは通常の授業と同様だ。講師からはzoomのチャットを通じて今回の「Scratch」用のURLが送られ、ログインをする仕組みだ。4月からの全国的な緊急事態下、仙台白百合学園小学校でも各家庭でリモート授業を行なっていたそうで、各児童ともZoomの操作には熟練している。そこから「Scratch」のログイン画面に移ると約1/3ほどの児童が手を挙げ、周りで監督をしていた先生たちがヘルプに駆けつけるようすが見られた。従来であれば児童同士で教え合うということも教育の一環になるが、今回の授業では机の並びもそれぞれ1m以上離れており、そうした対応にも先生方の配慮が見受けられる。

講師からは最初に「プログラミング」の語義についての説明が行われた。

「Scratch」はマサチューセッツ工科大学メディアラボ・ライフロング・キンダーガーテン・グループによる、8~16才のユーザーをメインターゲットに据えた無料のビジュアルプログラミング言語で、日本語にも対応しており(画面表示はひらがなにすることもでき、低学年でも対応可能)、OSを問わず無料で利用できる。スクリプトはブロック状になっており、それを組み立てプログラミングを構成する。画面上ではスプライト/背景エリアとスクリプトのエリアが分割されており、コーディングと結果を直感的に判断することができる。

児童に対して画面構成を説明した後、スクリプトブロックをドラッグ&ドロップする基本動作の解説を行なった。最初のコーディングは「旗(のマーク)が押されたとき」と「10歩動かす」を組み合わせるもの。画面上の旗をクリックすることでスプライトの猫が10歩動くアニメーションが表示される。この小さな、しかし初めてのプログラミング経験に児童からは歓声が上がる。そこから「ずっと」というブロックを指示し、「くりかえし」歩かせる方法を教えたあと、「もし」のブロックを使い、<「もし端に触れたら」「全てを止める」>というプログラムを作成すると、猫が歩いて止まるまでの動作が表示された。その後、スプライトのx軸y軸座標を0に戻す作業を行なう。プログラミングの中に平面座標の知識を混ぜているところに横断的な教育の様子が見られる。

授業後半ではゲームづくりへチャレンジ。ここでは「グローブから複数のボールを出す」プログラムを組むのが目標。

まず、スプライトのコピーをする「クローン」について学び、続いて他人の組んだプログラムに追加のコードを加える「リミックス」を行なう。ここでは太田講師が事前に組んでいた、グローブを上下左右に動かすコードに対し、児童たちがコーディングを加えるというもの。使用ブロックを指示され、それを組み合わせて、クリックするとボールが複数(「クローン」)出現するプログラムを組む。ある条件下で何をどのように動かすか、という本格的なプログラミングの実習。でき上がった児童たちの挙手の様子からは1/3ほどが一発で組み上がり、5分後には8割以上が成功したもよう。初日の1時間ほどでここまで到達し、余裕のある児童は発展編として、既存のスプライトや背景を変えることで別の映像を組み上げた。このうちの一人は「猿がバナナを投げる」という映像センスを見せ、講師を唸らせていた。児童による感想では、初めてのプログラミング授業をリモートで初めての先生に教わることに当初は不安を抱えていたようだったが、実際にプログラミングを行なってみると達成感を得て、リモート授業の形態を含めポジティブな意見が多く聞かれた。

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<2>ICT担当教員に聞く 初のプログラミング授業の手応えと、一貫教育校ならではの長期的展望を

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<2>ICT担当教員に聞く 初のプログラミング授業の手応えと、一貫教育校ならではの長期的展望を

授業終了後には仙台白百合学園小学校ICT担当教員の浅沼 勉先生に話を伺うことができた。

仙台白百合学園小学校の浅沼 勉先生(ICT担当教員)

同校のプログラミング教育の目標について「主体的に学び自分から発信して考えられる力、お互いに学び合い支え合う力を育てる」(浅沼先生、以下括弧内同)と語る。プログラミング授業については、教員の事務的なPCスキルとは異なるものとして捉え、コンサルタントを通じ専門的な「アントレキッズ」とのパートナーシップを結び、機材提供に凸版印刷の協力を仰いだ。今回の授業準備にあたって、一度同校の教員が生徒役になり模擬授業を行ない、実体験に基づき児童への教え方を共に構築していったという。

この日の実際の授業では、「プログラミングの醍醐味であるトライ&エラーと完成したときの喜びの瞬間」を見ることができ、一安心といったようすだ。また、プログラミングの教え方として、講師がデモのパターン作成し別のパターンを児童につくらせることで、見本をなぞらせるようなわかりやすさがあることを学んだという。今回のリモートプログラミング授業を踏まえ、更なる展望をいくつか語ってくれた。

リモート授業については「東京を含め全国の講師に専門的な授業をしてもらえる」ことをメリットとして挙げ、「社会科など様々な教科で活かせる」という。

また、今後は「1人が1台デバイスをもって、自分たちでトライ&エラーをしていくような授業をしていきたいと思っています。『Scratch』だけではなく、自分たちが想像力を膨らませていろんなモノをつくれるように」と、環境整備についても言及した。これは同校に限った問題ではなく、宮城県の「教育用コンピューター1台あたりの児童生徒数」(全国32位)、「インターネット接続率(30mbps以上)」(全国40位)<2018年文部科学省発表のデータによる>と、地域的な課題も含まれている。

プログラミング思考については、国語の授業における読み取りや算数の解法といった論理思考にも応用が利かせられると認識しており、より横断的な活用を見込んでいる。また、「お互いに学び合い支え合う力を育てる」ことについては、今後この6年生児童が中学高校と進級していくなかで、プログラミング思考を磨き、今度は小学校に戻って自ら下級生を教えることも「学習」になると見ている。こうした複数年に渡った教育が行えるのは幼稚園から高校までを1つのキャンパスに置く同校ならではの教育方法といえる。

最後に「今日はいろんなストーリーがあったと思います。発展編で、ある児童はクルマが雑踏を走る様子を表現していましたし、別の児童は宇宙を飛び回っている様子を表現していました。プログラミング教育のなかで美的なセンスを表現するなど、それぞれに物語があったのが魅力的でした。今後、こうした教育を通じどんどん広がってくれればと思います」と語ってくれた。