アニメ制作技術の総合イベント「あにつく」。今年開催された「あにつく2020」は、コロナ禍の影響からオンラインでの開催となった。本稿では9月26日(土)に行われたサンジゲン代表取締役の松浦裕暁氏によるセッション「CGアニメテレビシリーズの人員采配について」の内容をレポートする。

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TEXT_真狩祐志 / Yushi Makar
EDIT_江連良介 / Ryosuke Edure、山田桃子 / Momoko Yamada

業務ごとに細かくセクションを分け、若手とベテランの仕事の範囲を再設定

サンジゲンの松浦裕暁氏(代表取締役)

同セッションに登壇したサンジゲンの松浦氏は、まず、2012年から2020年までに同社が制作したタイトル、『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』『ブブキ・ブランキ(1期・2期)』『ID-0』『BanG Dream!(2期・3期)』『新サクラ大戦 the Animation』『アルゴナビス from BanG Dream!』の仕事量について話した。

制作したエピソード数は99話、キャラクターのモデル数(衣装替え含む)は500体以上、カット数は約3万、制作期間は108ヵ月であったという。また1クールで、1話当たりのカット数は平均300、キャラクターのモデル数は60~70体、制作スケジュールは8~9ヵ月。これらの制作に関わったスタッフの人数は平均すると333人となっている。

サンジゲンの制作の歴史(直近8年間)

中でもアニメーションとモデリングに注目すると、平均333人のスタッフうち、アニメーターは135人、モデラーは43人。しかし離職率は10%、人件費と外注費の上昇は2013年から140%に上昇しており、常に能力の高いスタッフを確保できる保証はない。

その対策として、サンジゲンでは「属人性」と「効率性」の観点から若手とベテランの仕事の範囲を再設定した。業務の属人性が高い場合、その人にしか仕事を振ることができない。属人性をなくすことはできないが、下げることができないか。そのように考え、ノウハウを共有しなくても仕事が可能な仕組みにすることで、全体のクオリティを上げることにした。

8年間の平均制作人数

ただ、属人性を下げると、一時的に効率性も下がってしまう。ベテランが若手に仕事を頼もうとしても、やり方を説明する時間がない、自分でやった方が早いなどの理由によって、結果的にベテランの仕事が増えてしまう場合があるからだ。それでも若手が仕事に慣れるまでの間は、将来的な効率アップのために属人性を下げておく必要があるといった理屈である。

そこで松浦氏は、『蒼き鋼のアルペジオ~』の制作時に1人で行なっていたアニメーションの作業を、6つの作業、3つのカテゴリに分けたという。レイアウトとプライマリアニメーション(関節や表情など主要なパーツに動きをつけること)はクリエイティブ性が高く、誰もができるわけではないため属人性が高い。一方、セカンダリアニメーション(髪の毛や服装といった揺れものなどの物理演算)とポリゴンなどの修正は比較的、属人性は低い。エフェクトと仮コンポジットは性質上、別セクションに分けることができた。

属人性を下げる(アニメーション編)

それに伴い、各作業の担当者も変わってきた。レイアウトとプライマリアニメーションはCGディレクター、セカンダリアニメーションと不具合の修正はサブCGディレクター、エフェクトと仮コンポジットは撮影のセクションが担当することになった。

属人性と効率性

また、『蒼き鋼のアルペジオ~』の制作時には、リグもモデリング作業の一部だった。それをパーツ別ラフモデリング、パーツ別本モデリング、質感設定、UV設定、テクスチャ、リリース作業の6カテゴリに分けることで属人性を下げ、リグ作業は別セクションで行うことで専門性を高くした。現在、リガーは専属が10名弱、ヘルプのオペレーターが数名と全部で20名ほどだが、「将来的には50人くらいは必要だと考えている」と松浦氏は言う。

一般的に、モデリング自体に複数の作業が存在するわけではないが、キャラクター1体を全てモデリングするのは難しいため、パーツ別に行うことで作業の難易度を下げることができる。その後、また全体を組み上げるセクションにベテランを配置し、最終的な本モデリングに入っていく方がクリエイティブ性が高いと見込んだそうだ。

属人性を下げる(モデリング編)

そしてアニメーション工程へのリリース作業は、しかるべき名前がついているか、しかるべき場所にテクスチャが貼られているかをチェックする作業になる。サンジゲンの場合は、影もテクスチャとして貼っているため、ほぼ全身にUVを展開していく必要がある。ライティングで色を調整せず、直接指定したいことから、それらは全て白黒のマスク素材としている。

次に各工程だけでなく、制作進行の属人性を下げることも試みた。『蒼き鋼のアルペジオ~』の制作時は1人が1エピソード、全ての工程を見ていて作業範囲が広すぎたこと、制作スタッフが育つサイクルよりも辞めていくサイクルの方が短いという問題があった。そのため、制作スタッフが担う作業範囲を狭めることで専門性を高め、習得が早くなるようにした。

属人性を下げる(制作進行編)

作業範囲の内訳はモデル制作、レイアウトプライマリ制作、セカンダリ制作、作画制作、話数進行の5カテゴリとした(話数進行は今までの制作進行の役割に近いカテゴリで、色・背景、撮影・編集の作業をチェックしている)。これまで1人でやっていたところを、最低5人でも可能にした結果、仕事に慣れるのも早くなり、画面の密度やクオリティも上がっていった。

その結果、ベテランは専門性の高い業務を、若手は作業の多い業務を増やしたことで効率性も上がった。さらに、同じ人数でつくっていても働く時間が圧倒的に短くなり、土日の出社もほとんどなくなったそうだ。

松浦氏は最後に、「テレビアニメを制作していく際に、制作スケジュールが8ヵ月から10ヵ月以上に延びることはあまり考えられない。一度上げたクオリティは下げられないので、求められているものは常に上げていかなければいけない。短くなった時間の中で、繰り返し行うことでクオリティは上がる。かといって人員が劇的に増えるわけでもないので、過去の実績や社会情勢を踏まえて、今後どういったものをつくっていくか考察している」と話し、講演を終えた。