アニメ制作技術の総合イベント「あにつく」。今年開催された「あにつく2020」は、コロナ禍の影響からオンラインでの開催となった。本稿では9月27日(日)に行われたセッション「宇崎ちゃんを作りたい!作品制作談話」から、主にTVアニメ『宇崎ちゃんは遊びたい!』の美術設定に関する話題をレポートする。

TEXT_真狩祐志 / Yushi Makar
EDIT_江連良介 / Ryosuke Edure、山田桃子 / Momoko Yamada

2D作画でもカメラワークを意識するために美術設定では3Dを導入

【第2期】宇崎ちゃんは遊びたい!SUGOI PV【制作決定!!】



同セッションに登壇したのはENGIの吉岡宏起氏(取締役)、三浦和也氏(監督:デジタル作画部所属ディレクター)、栗原 学氏(キャラクターデザイン:デジタル作画部所属)。作品構想やキャラクターデザインなどの経緯を振り返った後、美術設定の話に移った。

左から吉岡宏起氏、三浦和也氏、栗原 学氏

「今後に向けたトライアルということで、今回は美術設定を3Dで制作しました」と三浦氏。というのも、ENGIの作画部は動画から原画に上がりたての若手が多いため、彼らに3Dの中でカメラを動かして勉強してもらうことで、リアルな見え方のする画面づくりを早い段階から意識してもらいたかった、という理由があった。

「実際問題、室内を手描きで描くのは大変なんです。(画像内)左上の学食なんて手で描こうと思ったらすごく大変だと思います。人も多かったりしますし」(三浦氏)

三浦氏は、3Dでつくられる立体的な世界を通じて、2Dの世界が"嘘"であることを再認識してもらい、その"嘘"の世界を楽しんでもらいたいという。一方で、3Dは画が崩れることがなく安定しているとはいえ、実作業として導入していくには苦労もあるそうだ。

また三浦氏は、背景美術を3Dにした別の理由として、作画コストを減らすため・今後の効率化のため、という点を挙げた。これに対して吉岡氏は「屋外や広い場所まで、とにかく片っ端から全て3Dにしてますよね。まさか全部(3Dで)つくる気じゃないだろうな......と心配したほどです(笑)。実際はどの程度、3D化したんですか?」と質問。三浦氏は「逆に3Dでつくってないのはどこだろうというくらいです(笑)。外灯やコンビニの前の歩道も3Dでつくっています」と返していた。

背景だけではなくキャラクターの3Dモデルもある

このほかにも三浦氏は、3Dでの制作は社外との連携がとりやすいことをメリットに挙げた。当初、3Dは背景にテクスチャを貼るためにのみ使われていたが、「オープニングでクソキャット(作中に登場する猫のキャラクター)が町を走ってる映像は3Dだと表現できるのかな? と美術さんに聞くと、できますよ、と答えてくれた」などと明かした。美術設定を3D化したおかげで、結果的にアニマティクス(ビデオコンテ)のような使い方にまでいたったようだ。

「うちは新しいことをどんどんやってく会社なので、CG屋としてはこのように使われるのは嬉しい限りです」と語る吉岡氏。しかし一方で、「自分は経営者もやっているので、これだけの量を3D化するのは、もったいないんじゃないだろうかと、複雑な心境になりました」と苦笑いした。

『宇崎ちゃんは遊びたい!』は、第2期の制作も決定

その後はロケハンなどのこぼれ話を経て、今回発表になった第2期の制作ついて告知し、制作陣は話を終えた。

栗原氏は「原作では、作者の丈先生がとても魅力的なキャラクターをたくさん描かれています。なので、僕個人が楽しみな点としては、1期で出ていない新しいキャラクターたちが登場してくれると嬉しいですね」と語った。

最後に三浦氏は「今日は作品の舞台裏を話してきましたが、今のアニメ制作の現場がどれだけ大変かという苦労がにじみ出てしまったかもしれませんね(笑)。次の作品を楽しみにしていただけたらありがたいなと思ってます。今後もよろしくお願いします」と挨拶し、イベントは終了した。