2020年11月18日(水)~20日(金)にDigital Content EXPO 2020 Onlineが開催された。同イベントでは、先端デジタルコンテンツ技術をテーマにした展示会「Content & Technology Showcase」や、国内企業の先端コンテンツ技術の国際展開を推進するプログラム「TechBiz Creation & Matchmaking」などが実施された。

本稿はその中でも、イノベーションによりデジタルコンテンツに貢献した企業や団体に対して表彰を行う「Innovative Technologies 2020」の表彰式および受賞者によるインタビューの内容をレポートする。

TEXT&EDIT_江連良介 / Ryosuke Edure
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

<1>特定の人にだけ情報を提示可能な二次元情報提示システム

▲二次元情報提示システムの活用法について語る早川智彦氏

「Innovative Technologies」は、コンテンツ産業の発展に寄与すると考えられる先端技術やコンテンツを公募し、有識者などのよって選定された推薦候補の中から優れた取り組みを選出・表彰することで、国内外にイノベーションを周知させるプロジェクトだ。

まずはじめに、「Innovative Technologies 2020 Special Prize -vision-」に選定された東京大学情報基盤センターの石川・早川・黄・末石・宮下研究室が登壇した。

同研究室は、特定速度で移動している人だけに伝達可能な二次元情報提示システム:Bilateral Motion Displayを開発した。開発された高速プロジェクターには1ミリ秒ごとに画像が映し出され、ある方向や速度で動いている人だけ認識することができる。

登壇した早川智彦氏は、「例えば道を逆走している車とスピードが遅すぎる車に同時にだけ情報を提示するなどの活用方法が考えられる」と応用方法について語った。

▲Bilateral Motion Display : Multiple Visual Perception Using Afterimage Effects for Specific Motion

<2>フィジカルな情報とインタラクション可能なプロジェクションマッピング

▲平面の動きに合わせてデジタルコンテンツが表示されるプロジェクションマッピング

東北大学 大学院情報科学研究科の橋本・鏡研究室では、紙面の模様と動きを通じてインタラクション可能なプロジェクションマッピング「Interactive Stickies」を開発した。紙などの平面を自由に動かすと、投影されるコンテンツが平面の動きに合わせて動くしくみだ。

本作品では400fpsのマッピング制御を行うことで現実の動きに遅れず追従できるため、あらかじめ平面へのマーカー配置などの準備は必要ないことが大きなメリットだ。

▲Interactive Stickies (SIGGRAPH 2020 Emerging Technologies)

登壇した鏡 慎吾氏は、「インタラクションの技術の背景には、レイテンシーの短いプロジェクションやトラッキングの技術などをが関わっており、これらを含めると10年以上研究していることになる。今回このようなかたちで評価していただいて嬉しく思っています」と語った。

<3>バーチャルSNS「cluster」はコロナ禍のソーシャルを担う存在に

▲コロナ禍で求められるコミュニケーション方法を提供することが大切」と語る加藤直人氏

「Innovative Technologies 2020 Special Prize -social-」部門は、クラスター株式会社が提供するバーチャルSNS「cluster」が受賞した。clusterではバーチャル上で音楽ライブやカンファレンスなどのイベントに参加することができ、スマートフォンやPC、VRなど様々なデバイスからアクセスすることができる。

また、clusterではバーチャル空間を作成するツールキットが解放されており、ユーザーが様々なかたちで参加できるバーチャル空間を提供している。

▲デジタル空間で開催された音楽ライブ

▲「すぐそこにいるような」感覚でコミュニケーションが可能

clusterの選考理由としては、コロナ禍においてイベントのインフラとして活用されたこと、VRイベントのプラットフォームとなりつつあることなどがあげられた。

登壇した代表取締役の加藤直人氏は、「精神が肉体にとらわれないコミュニケーションのあり方を考えてきました。また、コロナ禍において人々が求めている体験、言語化しにくいエモさのようなものを提供したいと考えて事業を展開してきました。これからもソーシャルのあり方を考えるサービスにしていきたいと思います」と語った。

<4>表彰式後の座談会では今後のバーチャルコンテンツについて議論が交わされた

▲表彰式後の座談会で議論する受賞者と選考委員

授賞式の後は、受賞者による座談会が開催され、各受賞者が自分の領域の研究や取り組みをプレゼン、レビューしあった。

筑波大学デジタルネイチャー推進戦略基盤代表として登壇した佃 優河氏は、「Calmbots」という昆虫のもつ能力を利用した新しいインターフェイスの紹介を行なった。マダガスカルゴキブリに電気刺激を与えて制御することで、物体を移動させたり線を描くことが可能になる。同研究は「Innovative Technologies 2020 Special Prize -Crazy-」を受賞しており、その独創性が評価された。

▲昆虫を利用した新しいインターフェース「Calmbots」を紹介する佃 優河氏

▲Calmbots

座談会ではバーチャル空間の価値についても議論が行われ、clucter代表の加藤氏は「今はまだバーチャルの価値は現実に引きずられているが、今後は現実とバーチャルが交換不可能なものになり、バーチャルの価値が跳ね上がると思う。金融経済と実体経済のように、バーチャル空間が現実空間に紐づかなくなるタイミングが来るんじゃないかと思っています」と語った。