2021年3月5日(金)、オンラインで「CGWORLD デザインビズカンファレンス」が開催された。様々な分野の3DCG制作や応用事例が紹介された同カンファレンスの中から、本稿ではHoloeyes株式会社が取り組んでいる医療分野への3DCGの応用事例について取り上げる。同社は3DCG技術をニーズの高い医療分野に利用することで、医療DXを進めている。

TEXT_江連良介 / Ryosuke Edure
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

<1>医療現場での次元の壁を取り除く3DXR

本セッションで登壇したのは、Holoeyes株式会社の谷口直嗣氏(代表取締役CEO/CTO)。医療現場では現在、CTスキャンやボリュームレンダリングにより体内の状態を画像で確認することができるが、これらはあくまで二次元の画面を通して確認する方法だ。

これに対してHoloeyesでは、3DXRによる立体的なモデルによりデータを立体化し、よりわかりやすく体内の状態を確認できる技術を開発している。

「われわれの体は3次元で、手術も3次元空間の中で行われています。この次元のギャップを埋めるために、マイクロソフトのHoloLensなどのVR機材で3次元モデルを表示するサービスを提供しています。こうすることで、患者さんの状態を視覚的に理解できます」(谷口氏)。

谷口氏はもともとUnitiyを用いたゲーム開発やインスタレーションなどのアート作品を手がけており、医療分野に精通していたわけではなかった。あるとき、知人からの依頼で医療の仕事に携わるようになったと言う。

ある日、谷口氏は大学に呼ばれ、da Vinci(以下、ダヴィンチ)という医療器具を操作する機会を得た。「ダヴィンチは本体がとても高価で約3億円します。しかし、やっていることは自分が携わっているVRとほとんど同じだなと感じました。自分の使っていたOculus QuestMacBookだとたかだか30万円ほどで揃えることができたので、この価格差が何かビジネスになるのではないかと思い、この仕事をはじめました」。

こうして、谷口氏は2016年にHoloeyesを創業するに至った。

<2>Holoeyesが行う手術支援事業とは

Holoeyesが提供しているHoloLensは肝臓がんやすい臓がんに対する手術の際に利用されている。東京都立駒込病院では、Holoeyesの技術を用いて術前に動脈や静脈など患者の体内にある血管を3次元データで確認している。

▲3次元データ化された血管

また、膵臓の結石を取り除くためにもHoloeyesの技術が用いられている。「腎臓の中にできてしまった大きな石は尿管を下って出ていかないので、背中などから針を刺して直接超音波や赤外線で石を壊すことになります。その際どこに針を刺せば良いのかをシミュレーションします」。

▲腎臓に針を刺す際の臓器の位置関係

実際、背中から針を刺す際は動脈や肺、骨などを避けて適切な部位に超音波を当てる必要があり、シミュレーションを利用することでそれぞれの位置関係を確認することができる。さらに、口腔外科では、極端に骨格が曲がってしまった患者に対して顎の手術を行う際、Holoeyesのシミュレーション技術が利用されている。

▲患者の頭蓋骨のシミュレーション

<3>Holoeyesの教育事業

Holoeyesでは、手術支援事業のほかにも教育事業を行なっている。Holoeyesが開発した基礎解剖用のアプリケーションは看護学校の生徒に利用されており、バーチャル空間でリアルな解剖の授業を受けることが可能だ。

▲バーチャル空間で解剖の授業を受ける看護学校の生徒たち

「当初は学校に来てバーチャルな解剖の授業を受けることができていましたが、最近のコロナにより、2020年12月より遠隔からスマホでVR学習ができるアプリを公開しています。このアプリでは、VR空間で先生が指をさした箇所を記録しており、スマホでその箇所に焦点を当てて再生することが可能です。これにより、先生があたかも目の前で指をさして解説してくれているような体験ができます」。

▲スマホから解剖の授業が受けられるアプリケーション

また、札幌看護医療専門学校には、HoloLensを使った教育システムを提供している。ホロレンズを使用するとバーチャルな骨や臓器などが映し出され、目で確認しながら体の特徴を学習することができる。

▲ホロレンズを使った教育システム

<4>Virtual Session遠隔カンファレンス機能で

Holoeyesの提供するサービスは、ヘッドセット同士を繋ぐことで遠隔でもVR空間でコミュニケーションをすることができる。例えば、遠隔にいる医者同士が同じVR空間で打ち合わせをすることが可能だ。

▲遠隔カンファレンス機能を利用したコミュニケーション

この遠隔カンファレンス機能は遠隔同士のコミュニケーションだけでなく、同じ部屋にいる者同士でも有効な使い方ができると谷口氏は説明する。「VRの空間ではコリジョンを失くすと物理的な制約がなくなるため、他の医師がメインで執刀する医師と全く同じ視点を共有することが可能です」。

最後に、谷口氏は今後のHoloeyesの展望について語った。「現在NTTさんと5Gの実証実験をしていて、東京と札幌を5Gでつないでいます。また、シンガポールの5Gが使える施設でも同じように実験をしており、医療関連企業を招いて今後の事業展開について議論しています。臨床からはじまり、5Gによるモバイルネットワークにまでサービスを広げることによって、医療のデジタル化を進めていきたいと考えています」。

▲シンガポールでの5Gを用いた遠隔カンファレンスの実験

本セッションは複数の質問が谷口氏に寄せられ、Holoeyesが取り組む医療DXの意義を大いに感じられる講演となった。