2021年3月5日(金)、オンラインで「CGWORLD デザインビズカンファレンス」が開催された。本イベントでは、建築、製造、アパレルなど各分野で活躍する企業が登壇し、オンライン上でデザインビズの今を学ぶことができた。

本稿では、建築セッションの中から株式会社積木製作の講演を取り上げ、既存の枠組みを超える「建築デジノロジー」の考え方について見ていく。

TEXT_江連良介 / Ryosuke Edure
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

積木製作の主要3部門とその役割

▲登壇した柿沼氏(上段右)、玉那覇氏(下段左)、竹内氏(下段右)

本セッションで登壇したのは、株式会社積木製作の玉那覇 純氏(3DVisualization Division Chief Manager)、柿沼和也氏(VR Development Division Chief Manager)、竹内一生氏(CASE TeamLeader/BIM Solution Manager)の3人。登壇者の紹介が行われた後、まずは社内のチーム体制について解説があった。

1つ目のチームは建築CGに特化したビジュアライゼーションを実現する「3DViz」であり、建築CGパースやUnityでのVR背景CG制作、アニメーション制作などを手ける部門だ。2つ目のチームは「CASE」で、建築に特化し、最新技術を導入してBIM/CIMと連携した支援を行なっている。3つ目のチームは「VROX」で、VR/ARなどの技術を用いて「安全体感VRトレーニング」などのコンテンツを世に送り出している。また、API開発やコンサルティング事業の担当もVROX部門が担う。

VR/AR技術を用いた「安全体感VRトレーニング」のビジネスモデル

▲3種類の販売方法に対応した「安全体感VRトレーニング」

積木製作の代表作である「安全体感VRトレーニング」については、柿沼氏からビジネスモデルやコンテンツの革新性についてプレゼンがあった。本トレーニングは建設現場における重機災害などの危機体験をVR上で体験することで、建設現場にどのようなリスクがあるかを疑似体験できるコンテンツだ。

トレーニングの販売形態はサブスクリプション、買い切り、レンタルの3種類が用意されており、言語も日本語、英語、中国語などに対応している。サブスクリプションのメリットは体験できるコンテンツの多さにある。2017年からリリースを重ねてきたトレーニングコンテンツは現在15個にまでなっており(対応機種による)、サブスクリプション契約をすれば全てのコンテンツを体験することができる。

▲サブスクリプション契約をすると全15種類のコンテンツを利用できる

「1つのコンテンツは大体5分くらいですが、同じデバイスで一度に多くのコンテンツを体験できることは画期的だと思います。会社では安全教育に関する研修を行うと思いますが、1回の研修で1、2個コンテンツを利用し、ローテションすることで様々な教育バリエーションを出すことができます」(柿沼氏)。

点群データを活用してフォトリアルな建築を再現

積木製作では、点群データの活用にも取り組んでいる。点群データをRevitなどのBIMデータとして取り入れ、3DCGとして利用するためにメッシュ化している。これらのデータを活用し、フォトリアルな3DCGを制作する試みが「Unity Japan Office Project」だ。3DCGの制作には様々な手法が用いられている。

▲「Unity Japan Office Project」で制作したフォトリアルなオフィス

「制作にはRevitを使うほか、現地に行って細かな寸法を測るなど、色々と工夫しました。詳しい人が見ると、細かくメッシュが割られていることをわかってもらえると思います」(竹内氏)。本プロジェクトでは手軽にドアの開閉や素材の変更を行うことができ、デザインや質感の変化を視覚的に確認することができる。

▲細かく分割されたメッシュ

▲色や質感を設定可能

また、積木製作では、このプロジェクトで扱ったデータを点群データ、BIMデータ、Unityのプロジェクトデータとしてそれぞれ公開しており、会社のブログではメイキング画像など制作過程も公開している。点群データでは天井のダクトなど細部までリアルに表現されており、3DCGの活用を考えている技術者には参考になる貴重なデータだ。

▲制作されたデータはUnityデータなどの形式で公開されている

飲食店接客トレーニングVR

積木製作では、飲食店接客担当者向けのトレーニングVRも開発している。「Unity Japan Office Project」が建築のリアルさにこだわったプロジェクトであるのに対して、こちらはシナリオをしっかりつくりこんだコンテンツになっている。コンテンツは牛丼チェーンに接客ないようについて取材をし、それを元にシナリオ化したものだ。

▲接客向けにシナリオ化された「飲食店接客トレーニングVR」

「お客さんが来店してから退店するまでを全てこのVRで体験することができます。VRの中では声のボリュームなども感知できるようになっており、実際に声を出して接客シミュレーションを行うことができます」(柿沼氏)。このトレーニングVRも多言語対応となっており、日本語に不慣れな外国人を接客担当として雇用する際にもトレーニングとして重宝する。チュートリアルや調理工程、接客時の目線の調整などのマニュアルもコンテンツ内で確認することができ、誰でも簡単にトレーニングができるように配慮されている。

▲VR内ではマニュアルで操作も確認できる

最先端を事業にするならまず試すこと

積木製作ではVRなど最先端の技術を用いて事業を展開している。このような革新的な事業を展開するために、社内では「まずは試してみる」というチャレンジ精神が共有されている。

▲積木製作では最先端事業を「まずは試してみる」という精神がある

例えば、現在積木製作ではRaspberry Piとカメラを使い、人の位置情報をデータで書き出し、ゲームエンジンで読み込む検証過程にある。

「仮想空間の中に現実空間を反映できるようになると、道路の混雑情報などリアルタイムに情報を仮想空間に反映できるようになります」(玉那覇氏)。

「弊社では点群やグラフィック、可視化ツールを扱っています。これらはデジタルツイン、DX、スマートシティなどの繋がるツールです。また、ミラーワールドと呼ばれる、現実とデータを繋げるような取り組みも進めています。3つのチームの強みを生かしながら、挑戦し、検証を積み上げていくことがデジノロジーなのではないかと思います」(竹内氏)。

▲ミラーワールドに繋がる技術を社内で保有している

チャレンジを通じて3DCGだからこそできる新たな「体験」を創り出していくという、積木製作の情熱を感じられた本セッションでは、視聴者から使用ソフトやテクスチャなど技術的な質問も多く寄せられ、活気に満ちた内容となった。