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2021年3月5日(金)開催の「CGWORLD デザインビズカンファレンス」内で行われた「未来のショールームとは?~Unityを活用したフォトリアル表現による販売支援~」と題した講演では、大日本印刷によるUnity活用事例が紹介された。一般的なビジュアライゼーションにとどまらないインタラクティブなコンテンツをUnityで開発した背景やビジネス上のメリット、開発技術の具体例などを解説する。

TEXT_神山大輝 / Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

Unityによるユーザー体験型ショールーム

Unityはリアルタイム3DCGを核とした統合型開発ツールで、ゲーム開発においては法人・個人を問わず絶対的なシェアを誇るほか、インタラクティブアートや教育分野での活用も広がっている。そんな中、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンは産業分野に注力したテーマとして「Unity for Industry」を打ち出しており、自動車業界や製造業、建築業界など非ゲーム分野での技術提供や開発協力を積極的に行なっている。

いまは「モノを製造して販売して終わり」という時代ではなく、開発から購入までのライフサイクルにおいて「ユーザーの体験」が重要になっている。デジタルトランスフォーメーション(DX)推進を背景として、開発=CREATE、生産=BUILD、販売=MONETIZEの全ての段階においてエクスペリエンスを価値として提供する必要がある中で、インタラクティブコンテンツ開発の中核を担うUnityは重要な役割を担っている。

具体的な事例として、講演内では大日本印刷(以下、DNP)による「未来のショールーム」が取り上げられた。登壇したのはABセンターICT事業開発本部の市場直宏氏、関口弘樹氏の2名で、同社によるXR技術を活用した自動車や住宅の販売促進に向けた取り組みが解説された。

DNPは、出版、マーケティング、情報セキュリティ、写真プリント等の事業を担う「情報コミュニケーション部門」、食品や医薬品等の包装材や住宅や各種施設の内外装材、その他の産業用部材ををつくる「生活・産業部門」、液晶テレビやスマートフォンの部材等をつくる「エレクトロニクス部門」等、印刷技術から発展した多角的な事業が特徴となる。

VR/3DCG技術に関しても早期から研究開発に取り組んでおり、文化・芸術分野を中心にインタラクティブなシステムを多くつくってきた。こうしたながれから、2000年代からは商品の販売促進に3DCG技術を活用する取り組みがスタートした。

VRショールーム
www.dnp.co.jp/biz/solution/products/detail/1190877_1567.html
VRモデルルーム
www.dnp.co.jp/biz/solution/products/detail/10158433_1567.html
VRインテリアシミュレーター
www.dnp.co.jp/news/detail/10158458_1587.html

最初に実用化したのは自動車販売向けのバーチャルなショールームで、大型ディスプレイで自動車を確認しながら、外装や内部カラー、外部環境を変更することができるシステムとなっていた。

ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)を使えばあたかも運転席に乗っているかのような体験ができたり、3DCGならではの体験として内部構造や利用シーン(背景や天候)をシミュレーションできるなど、実在するショールームにはない価値も提供可能となる。

実車を見るだけでは不可能な内部構造の確認や外装やシチュエーションの変更などはユーザー体験として価値が高いと語る。現在では自動車販売から発展して、住宅販売にもVR技術が活用されている。

市場氏によると、マンション購入において、購入者は「納得して購入判断するための確認(体験)が不十分」という課題を抱えており、一方において販売事業者は「物件販売に多くのコストと場所が必要」という課題を抱えているという。実在するモデルルームを見学するのが一番の解決策にも思えるが、そもそもモデルルームを建築するのはコストが高く、購入者側としてもこのリモート時代において何度も足を運ぶのは抵抗がある場合も多い。このような課題を解決するために、DNPは2019年から「VRモデルルーム」を提供している。

▲4Kコンテンツと3Dリアルタイム技術を用いて、物件の高級感や質感を体験できるコンテンツ。大画面に投影して家族みんなでモデルルームを体験することができる。HMDによる確認も可能

DNPが行なった不動産業界におけるVRモデルルームに関する調査では、すでに4割近い企業がVRモデルルームを導入していることや、モデルルームの活用法における各社の考え方が示されている。中でも「実モデルの代わりに豪華なVRを見せたい」という需要が高いことは注目すべき点であり、高品質なビジュアライゼーションのニーズが非常に高いことが伺える。

このようなニーズに応えるため、DNPは3DCGを駆使して実モデルルームのようにリアルな仮想モデルルームを接客用に提供。昼夜の切り替えやコーディネートの切り替え、キッチンパネルや扉の色をオプションとして変更するなど、購入者の希望通りのパーソナルなシミュレーション結果を高精細な画面で確認することで、自分だけのモデルルームにいるかのように物件の広さや雰囲気を感じることができるという。

※画像は配信画面のキャプチャのため低画質となっている

販売業者にとってのメリットは、事業全体のコストダウンに繋がること。モデルルーム建設費用だけでなく、VRであれば体験するスペースの敷地面積も少なくて済むため、総合的なコストダウンができるだろう。同社による高精細なVRモデルルームは三菱地所レジデンス ザ・パークハウス日鉄興和不動産 リビオレゾン入船などに導入されている。今後もマンションや家具などの高価格帯の販促における重要な役割を担っていくと説明された。

講演の後半では関口氏による技術的な解説が行われた。もともとDNPでは、従来の印刷事業の発展形として、カタログやパンフレットなど複数のプロモーションメディアに高品質な3DCGを展開する「CADVIZ REAL」を2000年代より事業化しており、写真同様かそれ以上のクオリティのCG制作を行なっていた。当時もFlashを用いた2Dベースのインタラクティブコンテンツ開発は行なっていたが、近年ではハードやソフトの進化に伴い、リアルタイムで高品質なフォトリアル表現を行うニーズが高まっており、このためにUnityを活用しているという。「いざ3DCGを扱うとなったときに、従来の2Dベースのコンテンツ開発に比べて案件のハンドリングが難しいという問題がありました。しかし、UnityであればCGデザイナーにとってもインターフェイスがわかりやすく、開発と制作の連携もスムーズにできそうだという感触がありました」(関口氏)。

また、複数プラットフォームへの対応も大きな利点だという。時代の変化に伴って出力先のVRデバイスやディスプレイの仕様が変わりゆく中、UnityであればほとんどのプラットフォームのSDKが提供されていたため、開発環境をひとつに統合することができていた。もちろん、アセットストアによるリソース確保もメリットのひとつとなっている。

フォトリアル表現については従来DNPが培ってきた印刷向けの高精細静止画制作の表現技術やノウハウをベースとしながら、3DCGの扱いやすさやシェーダ開発のやりやすさなどを総合的に判断した結果、開発環境をUnityに統合したという。先ほども事例紹介として挙げられたVRモデルルームはHDRP(High Definition Render Pipeline)を用いて開発されており、以降はDNP独自のシェーダによる表現開発事例が3点紹介された。

▲車の外販塗装の事例。車のボディの塗装面は多くの層で構成されているが、基本は上図の3層構造がベースとなっている。表層部分のクリアコート、中間層の顔料+フレーク(キラキラした質感)、ベース(メタリック、ソリッド)の3層をUnity標準シェーダで表現することは困難であったため、独自にシェーダ開発を行なっている

▲床フローリング表現に関する事例。同じ木目のテクスチャを使い回してしまうと実在感が失われるため、フローリングに切り出す前の原版画像からランダムにタイルを並べるしくみを構築した。DNPはフローリング板のデザインや製造も行なっているため、本物と同様の原版からランダムにタイルを生成する手法を取ることで、高解像度かつ繰り返し感のないフローリングを実現できている。もちろん、パラメータ調整によってリアルタイムで張り方を変更することも可能

▲水面表現に関する事例。波や歪みだけでなく、バスルーム内のライトから現れるコースティクス現象、ハイライトを出すための表面張力、深度による色変化の表現などをShaderGraphで実装した

関わる企業や人員が多ければ多いほど、統合型の開発環境による一貫したワークフロー開発が効率化の重要なファクターとなる。また、自動車やマンションなどの高額製品の販売活動においては製品の高級感だけでなく販売までの体験・価値提供が必要であるため、今後さらに3DCGやVRを活用した事例は増加するはずだ。講演終了後も参加者による質問が数多く上がるなど、注目度の高さが伺えるセッションとなっていた。

製品情報

  • Unity Forma
    リアルタイムエンジンを活用したデジタルマーケティングソリューションを提供するUnityが、3Dエンジニアリングデータからコンテンツやインタラクティブ体験をマーケティング担当者でも簡単に作成・公開できるデジタルマーケティング制作ツール「Unity Forma」を発表。
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