日本におけるバーチャルプロダクション技術のリーディングカンパニー、ソニーPCL。3年連続グラミー賞を受賞した世界的アーティストであるペンタトニックスと、ソニーミュージック所属の人気女性ボーカルグループLitter Glee Monsterのコラボ楽曲第二弾となる『ミッドナイト・イン・トーキョー feat. Little Glee Monster』のMVにおいても、その高い技術力を発揮している。ここではその制作の舞台裏について紹介しよう。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 279(2021年11月号)からの転載となります。

TEXT_石井勇夫(ねぎぞうデザイン)
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamda
©Sony Music Labels Inc.

ペンタトニックス『ミッドナイト・イン・トーキョー feat. Little Glee Monster』MV
9月10日(金)より公開中
監督:牧野 惇/制作:CEKAI
製作・配信:ソニー・ミュージック レーベルズ
©Sony Music Labels Inc.

CGWORLD連動『ペンタトニックス×Little Glee Monster MV』メイキングセッション~LEDウォール型バーチャルプロダクションの制作ワークフローを実担当者が解説~
開催日時:2021年11月19日(金)19:00~21:00
講義時間:120分
アーカイブ配信:なし
価格:3,300円(税込)
tutorials.cgworld.jp/con/1270

アメリカと日本、異なる国と撮影手法の合作

アメリカのアカペラグループ・ペンタトニックスと日本のLittle Glee Monsterがコラボした『Midnight In Tokyo』は、アメリカでグリーンバック撮影されたペンタトニックスと、国内でVPを使って撮影されたLittle Glee Monsterを素材にして制作されたMVだ。VPが使用されたのは、ソニーが開発する電気自動車「VISION-S Prototype」に乗ったLittle Glee Monsterが東京を走るシーン。実写の動画素材を背景にしている部分もあるが、東京の街のシーンはモデリングブロスがCGで制作している。

左から、VPプロデューサー・大賀英資氏、VPディレクター・越野創太氏、VPプロデューサー・遠藤和真氏、テクニカルディレクター・細田昌史氏、マーケティング担当 黒谷瑞樹氏(以上、ソニーPCL)、モデリングスーパーバイザー・今泉隼介氏(モデリングブロス) ※写真なし:「LAB.」共同代表・金子元隆氏(スタジオブロス)
www.sonypcl.jp
www.bros.studio

LEDディスプレイは8KのROE 200度カーブドで、ターンテーブルの上に乗せられたクルマを囲い込むように撮影。クレーンやドリーを使用して撮影することで、まるでクルマが走っているような撮影が可能となった。CGで制作された街並みは、『ユメミの半生』と同じく、実際に撮影した写真を基にフォトグラメトリーで構築したものだ。「ラウンドのLEDでもCG自体のつくり方は変わりません。ただ、湾曲していることでクルマにより反射することがわかっていたので、リフレクションが強く出るように調整しました」(モデリングブロス モデリングスーパーバイザー・今泉隼介氏)。LEDが湾曲することにより、クルマに反射する背景と窓から抜けて見える背景を同時に撮影できるのが平面のLEDと比べて優れている点だ。

今後の展開について、VPプロデューサーを務めた遠藤和真氏は「お客様から撮影の案件を相談していただくときに、VP自体がよくわからず、内容も決まっていないことが多いです。お客様と一緒に答えを探していく関係性ができたらいいと思っています」と話す。VPは実際の撮影では不可能な撮影ができたり、秘匿性の高い案件に対応したりするなど可能性にあふれている技術だ。その先頭を走るソニーPCLの今後に期待が高まる。

ラウンド型LEDディスプレイの利点を活かした映り込み

ラウンドしたLEDの大きな利点は、窓越しのCG背景と車体に映り込む背景を同時に撮影できることだ



  • 撮影現場。サイドのラウンドLEDだけではなく、上面にも映り込み用の画面が見える



  • 背景はUE4で構築したCGであるため、カメラアングルに合わせて背景の映り方も変わっている

撮影現場でのUE4操作の様子。シーンのアウトプットを確認しながらリアルタイムにシーンを微調整していく


完成カット。ラウンド型LEDを使ったVPの利点を活かした撮影により、美しい映り込みが実現していることがわかる

ストーリーボードにみる背景プラン①
フォトグラメトリーベースで構築した夜の街

ビルの谷間にローポリゴンモデルの動物が飛び回るポップな東京の街を、Little Glee Monsterが乗ったソニーが開発する電気自動車「VISION-S Prototype」が走っているシーンから始まる。カーオーディオから流れるペンタトニックスの360 Reality Audio(アーティストの生演奏に囲まれているような、立体的な音場を実現する音楽体験)楽曲を聴きながら一緒に歌っていると、音楽が実体化して流れていき、いつの間にか渋谷に現れたペンタトニックスと一緒に歌っているという、カラフルで幻想的な作品だ

序盤のストーリーボード

夜の街のCGアセット。フォトグラメトリーベースで作られたリアルなCGでできているが、車内外からのカットの見映えや映り込みを考慮して、光源となる窓などのパーツのサイズ感や色、タイミングなどが設計されている。また、CGではカメラアングルに同期して背景のアングルも変わるので、2D映像を流すだけではできないリアリティのあるカメラの動きが可能なのも利点だ

ストーリーボードにみる背景プラン②
ローポリゴンでできた幻想的な街

前述のVISION-S Prototypeが走るシーンに加え、ローポリゴンのビル街の前で歌うカットもLEDを用いたVPによるもの

ストーリーボードはかなり綿密に描かれており、出てくるローポリゴンのモデルも作中に出てくるものとかなり近い

ポップな印象のビル街をはじめ、ローポリゴン表現のCG背景を担当したのはMV全体のCG制作を担当しているモンブランピクチャーズだ。ソニーPCLから必要なスペックを共有するときに、LEDがラウンドしているためCGで制作する範囲がわかりにくく、つくり込む範囲の指定に工夫が必要だったという


CGWORLD連動『ペンタトニックス×Little Glee Monster MV』メイキングセッション~LEDウォール型バーチャルプロダクションの制作ワークフローを実担当者が解説~
開催日時:2021年11月19日(金)19:00~21:00
講義時間:120分
アーカイブ配信:なし
価格:3,300円(税込)
tutorials.cgworld.jp/con/1270



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.279(2021年11月号)
    特集:LEDウォール型バーチャルプロダクション
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2021年10月8日