[PR]

全てのCGアーティストのためのカンファレンスイベントとして毎年恒例の「CGWORLD クリエイティブカンファレンス」。今年は初の試みとして11月8日(月)から12日(金)の平日夜間(19:00~21:30)にオンラインで開催されている。

同イベントでは例年、ワコムの液晶ペンタブレット「Cintiq」のユーザーによるデモンストレーションを交えたセッションが注目を集めるが、今年は、11/12(金)19:00から、背景デザイナーのわいっしゅ氏が、先日発売されたばかりのリニューアルされた「Cintiq Pro 16」を使った「3Dと2Dの融合で生み出す『実在しそうなファンタジック背景』の描き方」が配信される。 本稿では、セッションを直前に控え、昨年の「CGWORLD 2020 クリエイティブカンファレンス」にてお送りした、Cintiqユーザー、コンセプトアーティストの沢田匡広氏によるセッションの再現レポートをお届けする。

昨年は初のオンライン開催となった同イベントの1日目のセッション「世界大諸説史 深化編」では、国内外で活躍する沢田氏が登壇。コンセプトアートを手がける上で欠かせないPhotoshopのテクニックについて、CGWORLDの連載「世界大諸説史」で紹介した様々なTIPSを、より丁寧に解説した。

TEXT_高橋克則 / Takahashi Katsunori
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

<1>コンセプトアートの逆光表現

ワコムのスポンサードによって実現した同セッションでは、沢田氏がワコムの液晶タブレットCintiq 13HDを使用し、作例を描いていった。

まずは作例にある柱のアセットのつくり方を紹介した。沢田氏はアセットの作成に3D-Coatを用いており、その優位性について「絵を描くように直感的に使えること」を挙げた。実演では立体を積み上げるようにモデルをつくるボクセルモデリングを用いて、立方体に凹凸をつくって模様を描き、ものの数分足らずで完成させた。「遺跡のように模様が必要なものは素早くつくれると思います」と、沢田氏は語る。

▲3D-Coatの作業画面

アセットが完成してからは、Octane Renderを使ってコンセプトアートのシーンを組み立てていく。Octane Renderはリアルタイムレンダラなので、カメラや光源を自由に動かしたり、レンズの焦点距離を変えて広角や望遠にしたりと、トライ&エラーに時間がかからないことが利点だ。コンセプトアートの完成形を想像しながら、レイアウトを細かく決め込むことができる。

▲Octane Renderの作業画面

そして同セッションのメインとなるPhotoshopでの最終工程に移った。最初は逆光のテクニックについてだが、沢田氏は具体的な技法を紹介する前に、「逆光をどのように捉えれば良いのか」という考え方から説明をはじめた。

逆光の参考写真を白黒にしてカラーピッカーでBrightness(明るさ)を調べると、太陽などの光源は約90%なのに対して、影の部分は10パーセント程度で、極端に黒く潰れていることがわかる。つまり逆光は明るさの幅が広く、その特徴を意識した画づくりをしなければ、不自然な作品になってしまう。最初に光を描き込む前に、明るさの幅をきちんと表現できているのかをチェックする必要があるのだ。そのため沢田氏は、影のBrightnessを10パーセントほどにしたベースを作成し、そこに光のレイヤーを加えるという方法を採っている。

▲逆光の参考写真

光を描くときは「明るさに階調をもたせること」を気をつけなければならない。光源だけを明るくするのではなく、光が円状に拡散して段階的に広がっていく描写が重要になってくる。そこで光に関しても、光源と拡散とでレイヤーを分けて、拡散の下地をつくってから最も明るい光源を描いている。とくに光源に関しては、描写モードをColor Dodge(覆い焼きカラー)もしくはLinear Dodge(覆い焼き リニア-加算)にして、色を強めに乗せてから、Opacity(不透明度)やFill(塗りつぶし)で調節するのが上手くコツだという。

▲光源のレイヤー

Linear Dodgeは光の表現を柔らかく乗せることができるため、時間を節約したい場合は光源と拡散を1つのレイヤーで表現することもできる。沢田氏は「どちらが正解という訳ではなく、好みで良い」と前置きをしながらも、レイヤーを分けることを薦めた。コンセプトアートは「ほかの作業者の参考のため、明るくしたバージョンもつくってほしい」や「光をもっと暗くしてほしい」といったリクエストを受けることも多いが、もしレイヤーを分けていれば調節が容易になる。また拡散のレイヤーをコピーして選択範囲を絞って乗せることで、階調を二段階で表現して強弱をより出せることも、レイヤー分けをする理由となっている。

<2>奥行きを意識することがコンセプトアートの醍醐味

▲コンセプトアート作例

セッションの後半では落石シーンの作例を参考に、モーションブラーで立体感を出すテクニックを伝授した。こちらも実例の前にブラーの考え方について解説し、「カメラと対象の距離を把握すること」の大切さを説いた。それは距離に応じてブラーをかける量が変化するためだ。沢田氏はコンセプトアートを真横から見た図を描いて、カメラとの位置関係を解説する。

▲コンセプトアートを真横から見た図

カメラ近くの物体が落ちる場合、物体は画面から一瞬で消えてしまうが、遠くにある場合は時間をかけて落下していく。そのため、もし全ての物体に同じ強さのブラーをかけてしまうと、遠近感のない画面になってしまう。そのようなミスを避けるためには、手前にある物体ほどブラーを強めて、激しいブレを加えなければならない。カメラと物体の距離を捉えることが、奥行きのある画面をつくるためには必要不可欠なのだ。

▲落石の落下距離の差

作例ではブラーのレイヤーを、最前面のforeground、中位のmidground、最後面のbackgroundの3種類に分けて、カメラからの距離に応じて強さをコントロールしている。沢田氏は「カメラとの距離感を考えて細かい表現を入れることで、初めて奥行きのある絵を描くことができる。大きい物は大きく、小さな物は小さく見えるように描くことを求められるのがコンセプトアートの面白さであり、イラストとはちがうところです」とその醍醐味を語った。

▲落石の写真素材

続いては落石の描き方について。作例の岩は写真素材をベースに制作したが、写真選びは「形やサイズのバリエーションが多いこと」がポイントだ。もちろん岩は手描きでも問題はないが、細かい破片を描くのは大変な上に、完成画面では見えなくなってしまうこともある。沢田氏は「効率化という観点から見ても、利用できる場合は写真を使った方が良い」と限られた時間を有効利用する大切さを伝えた。

ライティングについてはハイライトの入れ方について重点的に解説した。作例では最前面の岩にはハイライトがあるが、最後面の岩はシルエットしかない。後者のハイライトを省いたのは「小さく映った遠くの岩にハイライトがあると、人間の目にはノイズのように見えてしまうから」。初心者はついつい描き込みがちになってしまうが、無用なディテールを避けることもテクニックの1つなのだ。

さらに落石の配置もコンセプトアートの仕上がりを高める要素となる。沢田氏は「人間の視線はコントラストがある部分に集まるようにできているため、見せたい部分の明暗は強くした方が良い」とコメント。作例では鳥のキャラクターの後ろにスモークを足すことでコントラストをつくり出している。

▲コントラストを利用した視線誘導

これらの考え方は落石だけでなく、雨や雪を描くときにも応用できる。奥行きを意識することでスケール感が生まれ、その世界が本当に存在するかのようなコンセプトアートを生み出せるのである。

<3>Cintiq 13HDを使い始めたキッカケ

セッション後半には、チャットを通じて視聴者との質疑応答の時間も設けられた。「ゲームと映画ではコンセプトアートのつくり方は変わってきますか?」という質問には「あります」と回答。ゲームの場合はコンセプトアートが世に出ることは少なく、次の工程のクリエイターが作業をしやすくするためにつくられることが多い。そのため絵としてのクオリティを求めるのではなくディテールを重視し、設計図として成立することを意識していると答えた。その一方、映画の場合はコンセプトアートに近いデザインが本編で使われることも多いため、ゲームとは逆にビジュアルを重視しているという。

▲沢田氏のCintiq 13HD

最後は使用している液晶タブレットについて触れた。沢田氏はCintiq 13HDを5年ほど愛用しているが、13.3インチというラインナップの中でも最小サイズの製品を選んだのは、「Photoshopしか使う予定がなかったため、腕が疲れないように小さめのサイズを選んだ」からだという。またペンタブレットを使用していたときはねらった線が引けるまで、何度も消したり描いたりを繰り返していたが、液晶タブレットでは一発で良い線が描けることもあって、疲れは各段に減ったそうだ。

ただ今後は大きな画面サイズのCintiqへの買い換えを検討中とのこと。具体的には、「Cintiq Pro 24」が有力候補だという。3DCGを主に扱うデジタルアーティスト(マットペインター)としてキャリアをスタートさせた沢田氏は、今でも3D-Coatなどの3DCGツールを活用している。2Dに比べると3DCGツールはパラメータなどのUIが多くなるため、13インチではタッチミスが増えてきたことが背景にあるそうだ。

▲Cintiq Pro 24。世界トップクラスの色精度とペンの追従性を実現するプレミアムな4K対応の液晶ペンタブレット

具体的なテクニックはもちろん、コンセプトアートの考え方や作業環境についてまで、幅広い話題が飛び出した実りの多いセッションとなった。