2015 年4 月17 日、渋谷ヒカリエのDeNA セミナールームにて「Game Graphics Groove #2」が開催された。好評を博した2 月6 日開催の#1 に続く今回は、スクウェア・エニックスgumiDeNA で最新スマートフォンゲームの開発に携わるクリエイターたちが登壇し、各々が経験したグラフィック制作事例を、ユーモアを交えた軽快な語り口でざっくばらんに紐解いた。さらに後半では各社2 名ずつ、合計6 名によるパネルディスカッションが行われ、現場のさまざまな疑問や課題について意見が交わされた。本記事では、そのハイライトをお伝えする。

" 死なない" ために、グラフィッカー自身が声を出し、周囲に説明する(スクウェア・エニックス セッション)

岡村 礁氏
株式会社スクウェア・エニックス
第12ビジネス・ディビジョン
アートディレクター

スクウェア・エニックスのアートディレクターである岡村 礁氏は、「グラフィッカーがこの先生きのこるには ~『スクールガールストライカーズ』のリソース設計思想~」と題した講演を行った。『スクールガールストライカーズ』(通称『スクスト』)は、同社初の内製ソーシャルアプリで、4月にリリース1 周年を迎える。
キャラクターが3DCG で表現されていることが大きな特徴だ。「簡潔にいうと、本作は" 軽快なポチポチゲーム" です。とくにキャラ立てを頑張っており、お陰様で300 万ダウンロードを突破しました。グラフィッカーは" 死にやすい" 職業ですが(苦笑)、我々の開発チームは工夫を重ね、何とか1 年間生き延びてきました。今日はその工夫の数々を紹介します」と岡村氏は語り、グラフィッカーの" よくある死に方"として、最初に以下をあげた。

1. 絵の差別化ができずに死ぬ




昨今の2D カードゲームのイラストは美麗化の一途をたどっており、開発する各社は差別化に苦労している。「魅力的な絵でなければ、お客様は手に取ってくれません。しかし、2D イラストでの差別化は難しく、描ける人は既に他のタイトルで描いています。そこで、コンシューマ向けの美麗な3DCG を作ってきた当社の強みを生かした差別化をねらいました」。
しかし、3DCG は2D イラスト以上に開発予算を要するのではないかという疑問が浮かぶ。これに対し、「やり方次第で、2D カードゲームと同程度まで抑えられます」と岡村氏は明言した。「すべての方向にリッチ化しようとすると、再現なく予算がかかります。そこで我々は、女の子がそこにいるかのような実在感のある動きに特化させると決めたのです」。
この決定の背景には、静止したままの状態では"2D イラストに勝てない" という冷静な分析もあったそうだ。「どんなタイトルを開発するにせよ、他との差別化と、それを視野に入れた表現の特化は必須です」。全方向にがんばろうとすると、グラフィッカーが" 死ぬ"。それを回避するためには、何をかんばるかを決め、ぶれずにそれを実行することが大切だと岡村氏は語った。さらにその後も、以下の" よくある死に方" と、その回避方法が紹介された。

2. 動く端末が少なすぎて死ぬ




3.作り終わらずに死ぬ




4.売上げが上がらずに死ぬ




5.運営に必要なリソースを用意できずに死ぬ




さらに岡村氏は、" 幸い我々のチームでは起こりませんでしたが......" と前置きしてから、つぎのように語った。「Unity やUnreal Engine を使ったら、直ぐに良いものができると信じている方もいます。確かにゲーム性の確認には有効ですが、制作効率の劇的な改善を約束するものではありません」。他の職種や立場の人がグラフィッカーの仕事の実情を想像することには限界がある。だからこそ、グラフィッカー自身が声を出し、周囲に説明していく努力が必要だと語り、岡村氏は講演を締めくくった。

ビジュアルを使い具体的に伝えることで、制作の効率化を実現(gumi セッション)

辻畑孝信氏
株式会社gumi
Entertainment Planning
Manager

gumi でマネージャーを務める辻畑孝信氏は、「『ファントム オブ キル』における3D 制作事例 ~クオリティコントロールのポイントと実制作の裏側~」と題した講演を行った。『ファントム オブ キル』はFuji&gumi Gamesが提供する、フル3DCG のシミュレーションRPG で、180 体以上の3DCG キャラクターや、広大は背景フィールド、プロップ(小物)などを制作する必要があったという。
「外部の協力会社とスムーズに連携し、計画的に3DCG モデルを量産するため、様々な工夫をこらしました」と辻畑氏は語った。第1 の工夫として、対応に時間を取られる問題を回避するため、様々なコミュニケーション方法を併用したという。
「メールだけに依存していると良い関係性を築きにくいので、最初に顔合わせのミーティングを行いました。その後も必要に応じて、チャット、Skype、電話などを併用し、伝える努力を続けたのです」。加えてチェックフローを明確にし、フィードバックの際には、文字とビジュアルを柔軟に組み合わせたそうだ。「例えばモデルのプロポーションを修正してほしい場合は、Photoshop のゆがみツールを使い、モデルのレンダリング画像を2 次元的に変形させました。こうすると、何をやってほしいのかが一目瞭然に伝わります」。


フィードバックの際には、文字とビジュアルを柔軟に組み合わせ、何をやってほしいのかが一目瞭然に伝わるよう工夫したという。【左スライド】キャラクターモデルの修正してほしい部分に引き出し線と番号をわりふった画像データと、各番号に対応した修正依頼を列記したテキストデータを作成している。本タイトルでは、海外の協力会社にモデリングの一部を依頼していたため、修正指示を翻訳する必要があった。そのため、画像とテキストを分けて管理した方が効率的だったという。【右スライド】Photoshopのゆがみツールを使い、モデルのレンダリング画像を2次元的に変形させることで、修正内容を具体的に伝えている

なるべくビジュアルを使い具体的に伝えるという方針は、依頼の段階から徹底させていた。それが第2 の工夫、すなわち、クオリティが上がらない問題を回避するための資料準備だ。例えば背景フィールドを制作する場合には、2D イラストによるコンセプトアートにペイントオーバーするかたちで、注意が書き込まれた。
「かきわりで良い領域、3DCG で細かく作り込んでほしい領域などが直感的に伝わるような資料制作を目指しました」。さらに第3 の工夫として、データ仕様の誤りを回避するためのチェックシートを制作した。「外部協力会社にシートを配布し、納品前に必ずチェックしてもらうことを徹底しました。これらの工夫によって納品データのクオリティが上がり、制作の効率化が実現できました」。


【左スライド】2Dイラストのコンセプトアートにペイントオーバーするかたちで、3DCG化の方法を直感的に伝えている【右スライド】キャラクターと対比させることで、武器の大きさを直感的に伝えている

本タイトルの制作にはUnity が導入されているが、3DCG モデルのモデリング、キャラクターのモーション、カメラワークにはMaya が用いられている。セッション後半では、一連の制作フローや、Unity のライトマップを用いた陰影表現、シェーダーアニメーションを用いた演出などの事例も 紹介された。


本タイトルの背景の陰影表現には、Unityのライトマップが使用されている

システム共有化で浮いた工数と予算を、世界観の再現に集中的に投入(ディー・エヌ・エー セッション)

増成宏介氏
株式会社DeNA ゲーム事業本部 デザイン部
Effect/Animation チーム所属
クリエイティブディレクター

ディー・エヌ・エーのクリエイティブディレクターである増成宏介氏は、「三国志ロワイヤルベースの低コストゲーム開発 ~『キングダム - 英雄の系譜-』のアニメーション 開発コンセプト~」と題した講演を行った。本タイトルは、NHK で放送されたアニメ『キングダム』から派生してつくられた、戦略シミュレーションRPG だ。同社で過去に開発された『三国志ロワイヤル』のゲームシステムがそのまま引き継がれている。
ヒット作である『三国志ロワイヤル』のゲームシステムを使ったことで、ゲームとしての面白さを担保できたと増成氏は語った。「本作では、アニメや原作漫画のファンが期待する世界観を再現することが最重要課題でした。そこに工数と予算を集中的に投入できたことが、システム共有化によって得られた最大のメリットですね。ただし、単純にグラフィックを替えるだけでなく、『三国志ロワイヤル』では行っていないチューニングを一部で施しています」。とはいえ、システムをゼロから作る場合と比較すると、期間と人員を大きく削減できたそうだ。

【左スライド】左側は『キングダム -英雄の系譜-』の戦場画面、右側は『三国志ロワイヤル』の戦場画面。【右スライド】左側は『キングダム -英雄の系譜-』のバトル画面、右側は『三国志ロワイヤル』のバトル画面。『三国志ロワイヤル』のシステムが『キングダム -英雄の系譜-』に引き継がれていることがわかる

両作は、どちらも古代中国が舞台であるため、システム共有化は比較的スムーズだったという。「基本的に、エンジニアの手を借りないように、コードをいじらないようにすることを心がけました。開発にのめり込んでいくと新規実装をやりたくなりますが、それに手を出せば、新規開発と同等の工数がかかりかねません」。一方で、世界観の担保には、大いにこだわったという。「『キングダム』ファンの期待に応えるため、名前の出てくるキャラクターは必ず新規の画像やボイスを入れました。結果として、世界感を守るために、最低限のシステム改修が必要になった部分もありました」。
例えば『三国志ロワイヤル』では、右向きのキャラクターを左向きにする場合には、画像を左右反転して使っていた。しかし、これでは武器をもっているキャラクターの利き手が逆になってしまう。「アニメと同じキャラクターの利き手を再現するため、追加の画像を作成し、システムの一部をチューニングすることで対応しました」。たとえシステムを変更しないというルールを定めたとしても、ユーザーがこだわる部分には、ルールを曲げてでもリソースを投入する。優先度を見極め、メリハリのある開発をすることが大事だという言葉で、増成氏の講演は締めくくられた。


【左スライド】アニメや原作の『キングダム』ファンの期待に応えるため、テレビアニメのような表現や、新規の画像、ボイスを追加している。【右スライド】アニメと同じキャラクターの利き手を再現するため、画像の単純な左右反転は行わず、追加の画像を描きおこしている


【左スライド】ユーザの思い入れが強くなる髙レアのキャラクターほど、予算と工数をかけるよう心がけたという【右スライド】各キャラクターのモーションのコマ割やパーツ名を統一しておけば、フォルダコピー、画像上書きで量産や変更に対応できる。このような事前の計画や下準備が、量産時の工数削減に効果を発揮する

アートディレクターは絵が描ける必要がありますか?(トークセッション)

後半のパネルディスカッションでは、ディー・エヌ・エー の小林潤氏がモデレーターとなり、「UI デザイナーは、どこまで仕事をしていますか?」「アセット発注先は、どうやって決めていますか?」「プロデューサーの仕事って何だと思いますか?」「これから、どんなゲームが流行ると思いますか?」といった質問に対して、登壇者たちが意見を交換した。

「アートディレクターは絵が描ける必要がありますか?」という質問に対しては、岡村氏から「必須ではないですが、商品レベルではなくても、描けた方が指示を出しやすく楽ではありますね。同様に3DCG タイトルなら、自分でも3DCG をつくれた方が良い。でも、つくれなくても、やれている人もいます」という意見が出された。
辻畑氏は「必ず描ける必要はありません。適材適所のディレクションができて、チームを効率よくまわせるなら、どんなやり方でも構わないと思います」と語った。増成氏は「チェックバックの説得力が増すし、方向性を自分で示せるので、描けるにこしたことはありません。ただしそれよりも、全体像が掴めていて、発注書や仕様がつくれることが大切です」と続けた。

その後は会場からも質問が出され、さらに終了後は懇親会も開催された。前回に引き続き、今回もゲーム・CG・映像業界のクリエイターたちによる活発で率直な交流が図られ、会は盛況のうちに幕を閉じた。スマートフォンゲームのグラフィックは、今後さらにリッチになり、より多くの3DCG タイトルが発表されることだろう。それにともない、開発者が直面する課題の多様化、難化も予想されるため、この会のような会社や業界を横断した交流会の存在はたいへん心強い。第3回目以降では、どんな開発事例が報告されるのか今から楽しみである。

TEXT_尾形美幸
PHOTO_大沼洋平





「Game Graphics Groove #2

開催日:2015 年4月 17 日(金)
会 場:渋谷ヒカリエ DeNAセミナールーム
主 催:株式会社DeNA