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今年4月から製品出荷が始まった「Autodesk Maya 2011」。発売時に月刊CGWORLDでもレビュー(本誌142号に掲載)を行なったが、関わるプロジェクトの都合などでまだ最新版に触れていないユーザーも多いと思う。そこで今回は、2007年にリリースされた「Autodesk Maya 8.5 SP1」と比較する形で改めてその進化の度合いを検証したい。
流体エフェクトの効率化
使いこなせれば高度な流体表現を可能にする「流体エフェクト(Fluid Effects)」だが、それだけに処理負荷も莫大で、制作にとてつもない時間を要していた。
しかし、Autodesk Maya 2011では処理の効率を上げるための機能改善がなされ、流体エフェクトが持つ本来の表現力を、より少ない時間で引き出しやすくなった。
まず、Autodesk Maya 2010 以前のバージョンでは、エフェクトがコンテナサイズを上回った時、その境界でエフェクトが消えてしまうため、その都度、サイズを適切に大きくする必要があった。しかし、Autodesk Maya 2011では、流体コンテナのサイズが指定した解像度を保ちながら、適切なサイズに自動で変更されるオプションが追加されたおかげで、この問題から開放され、時間を有効に使うことができるようになった。
さらに、エミッタがアニメーションしている場合にも、あたかもコンテナが追従しているかのように調整してくれる。これによって、炎や煙が尾を引くようなトレール表現も格段に作りやすくなった。今まで、その処理負荷の重さや調整の難しさから、流体エフェクトを避けてきたユーザーにとっては、最新版での機能改善によってその類まれな流体表現の魅力をより手中に入れやすくなるだろう。
エミッタを移動させ、炎が尾を引くような表現を行なってみた。「サイズの自動変更」にチェックを入れるだけでコンテナが自動で炎を囲ってくれるため、いままでのように調整をせずに、そのまま炎の表現だけに集中できる
ジオメトリ系機能の強化
Autodesk Maya 2011では、モデリングの生産性を向上させるため、「スムース メッシュ(Smooth Mesh)」のプレビューモード時のスカルプト、ソフト修正、ソフト選択などの編集操作が高速化された。
特にクリーチャーやキャラクターを制作するユーザーにとっては必須とも言える機能だが、Autodesk Maya 2009 以前のバージョンでは、分割数が多くなるほど急激に処理が重くなり、作業がしづらかった。しかし、最新版では全体的に高速化されている。
Autodesk Maya 2011とAutodesk Maya 8.5 SP1にて、13万6,960ポリゴンの高解像度のモデルに、スムースメッシュを適用した時の処理時間を比較したもの。Maya 8.5 SP1で分割数を2から3にしようとした際は、15分後経っても完了しなかったため、フリーズとみなし計測を断念した
今回のテストに用いた高解像度モデル(13万6,960ポリゴン)
ソフト選択とpolyReduceノードの改良
ソフト選択機能が改良され、高速になっただけでなく、複数のモデルにも影響が及ぶようになった。Maya 8.5 SP1 で「ソフト選択(Soft Selection)」を使う場合、一度、1つのモデルにマージして調整した後、分けるといった強引な対処をすることもあったが、このような無理な対処をせずに済むようになっている。
また、ポリゴン数を削減するための「polyReduceノード」も強化された。Maya 8.5 SP1と比較すると、複雑なメッシュでも壊れにくく、また、リダクション処理速度も数倍高速になっている。これにより、カメラの距離によって複数のモデルを動的にリダクションする「LOD/Level Of Detail」の仕組みをシーンで構築した場合などに、質や作業パフォーマンスが旧バージョンよりも劇的に向上している。レンダリングの処理時間削減に効果的なだけに、作業時間の短縮にも大きく貢献する機能改善だ。
下の画像は、Autodesk Maya 2011 と Autodesk Maya 8.5 SP1 で、polyReduce機能を使い、ポリゴン数を50%にした際の結果を比較したもの。Autodesk Maya 2011の処理時間は0.7秒。かなり原型のメッシュを保ちながら削減してくれる。一方のAutodesk Maya 8.5 SP1の場合は、6.3秒。Autodesk Maya 2011 の結果と形状を合わせるため、三角形化はオフにしているが、それでもシェーディングが壊れてしまった。
Maya 2011の結果。ポリゴン数を50%減らしても上手く原型を保持している
Maya 8.5 SP1の結果。Maya 2011の結果に比べると、明らかに面が破綻してしまっている
ウェイトツールの大幅な強化
Autodesk Maya 8.5 SP1 以前では、アニメーションのワークフローの基本であるスキニングやウェイトの調整などについて、お世辞にも機能が優れているとは言えなかった。この点は、Mayaの中でも非常に弱い部分で、筆者も苦労した経験を持つ。しかし、Autodesk Maya 2011 では機能が大幅に強化され、比較にならないくらい作業効率が上がっている。
まず、スキニングセットアップでは、「インタラクティブ スキンバインド(Interactive Skin Bind)」機能が搭載された。この機能は、ジョイントについて影響させたいスキニングの範囲を、カプセル形状で決定できるもので、これを使うと以前の機能に戻れない。
特に、画像のような腕の関節から細かい指までスキニングを設定する場合、旧バージョンであれば「スムース バインド(Smooth Bind)」で一気にスキニングを行なった際、隣の指にまでウェイトがかかってしまい、修正作業にとても時間をとられていたものだ。しかし、このインタラクティブ スキンバインドを使うと、各ジョイントにカプセルが表示され、同時に現れるハンドルをビュー上でドラッグして形状を調整するだけで、楽に影響範囲を指定することができる。
Maya 8.5 SP1で指の形状をスムース バインドした結果。薬指のジョイントのウェイトが中指にまで及んでおり、調整が非常に面倒だった
Maya 2011でインタラクティブ スキンバインド機能を適用して操作している画面
画像のように、カプセルのハンドルをドラッグするだけの簡単操作で、ウェイトの影響範囲を直感的に調整できる
Maya CompositeとAutodesk MatchMover
Autodesk Maya 2011には、「Maya Composite」と「Autodesk MatchMover」の2製品がバンドルされている。まず「Maya Composite」は、Autodesk Toxik テクノロジをベースにした合成ツールで、コンポジットにおいて、Mayaのシーンとの連携がさらに強化される。コンポジット作業では、After Effects を使っている人が多いと思うが、AEがレイヤーを重ねていくタイムライン・ベースの合成を行うのに対し、Maya Composite は Maya と同様ノードをリレーショナルに繋げて処理を決定していく。近年、3D素材を静止画連番として書き出すのではなく、3D情報を保持したまま合成に用いるケースが増えているが、そうした合成をはじめ特に複雑なコンポジット作業ではノードベースの方が何かと効率的だろう。目指す表現に応じて、AEと上手く使い分ければクオリティと作業効率を最大限に高めることができるはずだ。
一方、「Autodesk MatchMover」は、旧来のMaya Liveツールから大きく進化したマッチムーブツールであり、操作性や処理結果の信頼性は飛躍的に向上している。そのインターフェイスや性能は、プロの現場で多く利用されている2d3社の「boujou」や、その結果の良好さから好評を得ているThe Pixel Farm社の「PFTrack」に比肩するインターフェイスと性能を有する。
両製品とも優秀であるが高価であるため、それらの同等の性能持つツールがAutodesk Maya 2011パッケージを導入するだけで存分に利用できることに、驚きを隠せない。どちらも前バージョンAutodesk Maya 2010からバンドルされ始めたツールではあるが、その性能やインターフェイスの優秀さから、最新版を導入する大きな利点として挙げさせて頂いた。
Maya Compositeの操作画面。世界中で極めて高い評価を受けているハイエンド映像合成システム「Autodesk Flame」を開発するオートデスクだけに期待を裏切らない性能だ
Autodesk MatchMoverの操作画面。難しい操作は行わず、数ステップでマッチムーブ処理が行えるため、合成作業に不慣れなユーザーでも簡単に利用できるだろう
大きな転機となるバージョンアップ
今回のレビューでは筆者の経験上、旧バージョンで操作に手間がかかった、改善してほしいと思っていた機能を中心に挙げさせてもらった。掲載スペースの都合で取り上げなかったが、「カメラシーケンサ」や立体視(S3D)関連の新機能についても、作業効率やパフォーマンス向上に大きく貢献するであろうトピックが多く存在する。筆者としては、Autodesk Maya 8.5 SP1を操作していた当時の苦労を思い出しながら、1ユーザーの立場として厳しく評価したつもりだということを断っておきたい。
もちろん、Autodesk Maya 2011がパーフェクトということではない。新たな機能が搭載されたことで、作業スタイルやパイプラインに何らかの変更が生じるということは、別の見方をすれば新たな課題を浮き彫りにするということだから。しかし、Autodesk Maya 8.5 SP1ユーザーはもちろんのこと、Autodesk Maya 2008以前のユーザーであれば、そうした点を差し引いても、高性能な新機能やパフォーマンス恩恵に与る価値は十分にあると、筆者は自信を持って断言する。
現在、オートデスクでは「パイプライン最適化キャンペーン」を実施しているが、これを機に、まずは体験版を試用してみてはいかがだろうか。
TEXT_水原 白
《今回のレビュー環境》
OS:Windows 7 Professional 64bit
CPU:Intel Core i7 870(2.93GHz)
グラフィックスボード:ATI Radeon HD5850
RAM:DDR3-8G byte
Autodesk Maya 2011
価格:535,500円(新規製品、オンラインストア価格)
対応OS:7/Vista/XP
問い合わせ先:オートデスク インフォメーションセンター
TEL:0570-064-787(ナビダイヤル)
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