2023129日に公開された自主制作の特撮映画『オーク』が特撮ファンの間で話題を呼んでいる。全編45分のその動画からは製作者達の血、汗、涙が透けて見えるようだ。そのクオリティにはYouTubeのコメント欄では日本語だけでなく、幾多もの言語で賛辞が送られている。監督・武藤氏から頂いたコメントやメディア初公開の描き下ろし絵コンテと共に紹介したい。

『オーク』本編URL

https://www.youtube.com/watch?v=GcibuYdB31A&t=2279s

その完成度の高さには世界中から賞賛の声が

制作クルーはクラウドファンディングをきっかけに集まった熱き同志たち

本作品『オーク』は現役の特撮アートデザイナーの武藤聖馬氏と多くの特撮作品にてアクションクルーを務める塚越靖誠氏による二人の若手によって手掛けられた自主制作企画だ。普段の仕事で培った経験・蓄えてきたアイディアを何か形にして昇華させたいという実直な思いが二人を奮起させた。



自主制作の壁といえば問答無用で「お金」である。映画監督/VFX製作者の山崎貴 氏や漫画家の桂正和 氏を輩出した阿佐ヶ谷美術専門学校の出身である武藤氏は、母校に掛け合いロケ地として無償でキャンパスを使用出来る許可を得た。また特撮の要となる変身コスチュームにも創意工夫を凝らし、シンプルながらも画面映えのするデザインを作成した



しかし予算を抑えるにも限界があり、彼らはクラウドファンディングで資金を募ることにした。その結果、支援は総額160万円にも上り、さらにはこのプロジェクトの情報を聞きつけた特撮好きのクリエイター達から「自分も何か手伝えないか?」と協力の希望が舞い込んできた。そうして出来上がった特撮好きの、特撮好きによる、特撮好きのための映画がこの『オーク』だ。

『オーク』クラウドファンディングページ

https://camp-fire.jp/projects/view/547950

シンプルながらも洗練されたコスチュームデザイン。限られた予算を感じさせない工夫が各所に光る

撮影機材はiPhone一台で完結

本作品を視聴したファンからの感想で一番多く見られるのはその映像技術の高さを賞賛する声である。

アクションシーンのカメラワークは仮面ライダーや戦隊シリーズを彷彿とさせるものであり、プロ顔負けのクオリティ。しかし聞いて驚き、この作品のカメラ機材はiPhone13 Pro一台のみであるという。予算を抑える名目もあるが、限られた時間で必要なカットを撮り切るには軽量さ・現場での時間短縮の両面から鑑みてiPhoneが最適であり、現場にいる全員がカメラマンになることが出来る手軽さと、かつて”携帯電話”と呼ばれていたアイテムだけで映画を撮るというテーマの面白さが理由だと武藤氏は語る

カメラを握るは監督の武藤氏。監督・脚本・カメラマンから編集まで、マルチな働きぶりも自主制作ならではだ

貴重な絵コンテを蔵出しメディア初公開!

「まだしっかりメディアには出してないんですが、今回特別に絵コンテをCGWORLDさんにて一部公開させていただきます。」

監督・武藤氏のご厚意でご自身描き下ろしの絵コンテを見せて頂いた。

  • 激しいアクションが絵からも伝わってくる
  • カメラワークやCG合成の指示など監督のこだわりがてんこ盛り

侮るなかれ、ド迫力のCG・VFX

自主制作といえども、高いクオリティのCG・VFXもオークの魅力だ。

それもその筈、仮面ライダーやウルトラマンの制作に携わる現役のVFXアーティストが本作のCG合成を手掛けている。使用ソフトはLightwave 3DとAfter EffectsのプラグインTrapcode 3D Strokeだという。

本編 24:36~24:48
舌の動きはTrapcode 3D Stroke (パスでアニメーション)

本編 37:49~38:11
舌はLightWave 3D 、Trapcode 3D Stroke(ハイスピードの部分ではLightWave 3DとAEの変形プラグインを使用、途中動きが激しい部分からは、Trapcode 3D Strokeを使用)

予想していなかった世界中の特撮ファン

自主制作映画としては異例の50万回視聴再生。

その背景には製作者達も予想しえなかった海外の特撮ファンの存在があった。
YouTubeコメント欄には日本語を除いて7つの言語で字幕が付いており、それらは全て『オーク』を視聴した海外ファンが有志で付けたものだという。この動画がより多くの人に届く様にという思いが世界で紡がれての結果がこの視聴数に繋がった。

ファンの特撮愛が詰まった字幕

監督よりコメント

監督・武藤氏より、『オーク』の反響を踏まえてコメントを頂いた。

下記、武藤氏のコメント

「オーク」が国内外から多くの反響をいただきました事、この場を借りて感謝申し上げます。本企画に沢山の方々が応援、ご支援くださったからこそYouTube公開に至ることができました。これからも自主制作、仕事問わず全力で楽しみながらものづくりを続けていけたらと思います。