株式会社イクリエは2023年12月1日(金)に開催されたLive2Dのイベント「alive 2023」内のセッションにおいて、同社のLive2Dを用いたワークフローを紹介した。

セッションではまず、同社代表の濵島広平氏がLive2Dを活用するメリットや、Live2DとAfter Effectsを組み合わせて制作したアニメーションの事例をいくつか紹介。「MOC3ファイルやCubism 4 AE Pluginを介して大幅に軽い連番ファイルでデータをやり取りしたり、プラグインのトラッキング機能を活用したりして、原画の表現を保ちつつもリッチなアニメーションに仕上げることができます」と話した。

そして話は、同社が試作したLive2Dとセルアニメを掛け合わせたPVの解説に及んだ(PV本編は上記YouTubeのセッションアーカイブ、9:29から視聴可能)。

本作は、限られた素材と期間で対応することが多いプロモーション映像制作において、表現の幅を広げる手段を模索するために試作した映像。1枚のイラスト素材から最大限動きのある映像に仕上げることを目標に、Live2Dでは表現が難しい演出を作画で補完して表現した。 

「Live2Dは1枚のイラストから様々な動きをつくることができる点が何よりの強み。逆に作画では、イラストの変形だけでは表現できないような、角度のついた画をつくることができるのが強みだと感じています。今回、強みの異なるこの2つの手法を使い分けることで、お互いの弱点を補うことに挑戦しました」(濵島氏)。

本作の制作手順は次の通り。
①キャラクターにどのような動きをさせたいかを決める
②動きやシーンに合わせてLive2Dと作画の箇所を切り分ける
③尺を決め、まずはLive2Dで大まかな動きを付ける
④尺に必要な作画枚数を決める
⑤作画のラフや原画などをその都度Live2Dに組み込み、動きに問題がないか確認して仕上げる

濵島氏が特に注力したと語るのはラストカット。手を前に差し出すポーズに繋がるアニメーション演出において、同社が培ってきたLive2DとAfter Effectsを組み合わせる手法に加えて、作画アニメーションの手法を自然に取り入れている。

手を前に差し出した状態の1枚のイラストがあり、手を差し出すまでの動きを作画で補間することにした

「Live2Dの場合、イラストを変形させるという性質上、どうしてもパーツの可動域に限界があり、そのためにできてしまう“動きの違和感”をなくすための工数がかかってしまうことがあります。今回はそこを作画で“描き足す”ことでカバーしたのです。原画イラストはそれ自体が『手を前に差し出している』というポーズですから、手を引いたカットをLive2Dでつくる場合、カメラワークなどを駆使しながらパーツを途中で切り替えるという複雑なフローになります。そこを作画アニメーションで描くことで、動きをカットすることなく、丁寧に見せることに成功しました」(濵島氏)。

逆に、作画では手間のかかる箇所はLive2Dのメリットが活かされた。「服の揺れや目パチといったちょっとした動きでも、作画の場合は全て描かなくてはなりません。そこはLive2Dでアニメーションを付けることで工数を軽減できました。また、着物についても、袖のあたりにはグラデーションのかかった細かい模様が入っています。ここも
作画よりLive2Dのほうが得意ですね」と濵島氏は話す。

服装の複雑な模様を含むアニメーションはLive2Dで描き、イラストの形状にとらわれずに軽やかに動かしたい髪の毛は作画で描いた

濵島氏はセッションを締めくくるにあたって、今後イクリエはLive2Dを“映像制作ツール”としてより活用するための体制を強化すると話す。「特に、セルアニメ経験者のLive2D習得をサポートしていきます。セルアニメで培われた作画スキルは、Live2Dでのセットアップやアニメーション制作においても大きな強みになるはずです。これから、様々な実験を行っていく予定です」。