CGWORLD.jpで先行公開となった、映画『動物界』のVFXメイキング映像を紹介しよう。
同作はフランスのアカデミー賞と言われるセザール賞で、最優秀視覚効果賞を受賞した注目作品。先行公開となったVFXメイキングでは、フランス映画界最高峰のVFX技術により、人間と動物のハイブリッド=新生物が生み出される過程が紹介されている。
■CGWORLD.jp先行解禁! 映画『動物界』VFXメイキング映像
★「特殊メイク+アニマトロニクス+VFX」による新生物
人間が様々な動物に変異する奇病の蔓延した近未来を舞台に、人種差別、移民、ルッキズム、感染症など現代的なテーマを内包したドラマが繰り広げられる映画『動物界』。そのストーリーの他に見どころとなっているのが、人間と動物がハイブリッド化した“新生物”の想像を超えるリアルな描写だ。人間が動物へと変異していく様子が、高い技術で描かれている。
トマ・カイエ監督は、この新生物をリアルで説得力のある方法で描写するため、コンセプトアートを担当した漫画家のフレデリック・ピーターズと、6ヵ月間にわたりやり取りを行なった。
「私はフレデリックにキャラクターに関するメモや動物や俳優の写真を送り、人間がミュータントになる様子をわかりやすく描写しようとしました。その後、キャラクターデザイナーが皮膚、筋肉、骨格などの部分に取り組みました」(トマ・カイエ監督)。
フレデリック・ピーターズが描き上げたコンセプトアートを基に、特殊メイクやアニマトロニクスで役者に動物らしさを加えた後、さらにVFXも重ねることで神秘的な新生物の姿が誕生した。
VFXはMPC ParisとMac Guffが担当し、その高度な技術が評価されセザール賞で最優秀視覚効果賞を獲得した。
■個性的な新生物たちをリアルに描き出す
★羽毛をまとった鳥人間フィクス
メイキング映像に登場する鳥人間フィクス(トム・メルシエ)の造形について、監督は「彼の全身を型取り、スキャンして義肢をつくり、鳥のように色素がつき部分的に羽毛が生えた新しい皮膚をつくりました。トムは、1日6時間メイクアップチェアに座っているだけでなく、ジャンプ、ストレッチ、ダンサーの体型づくりに一生懸命取り組んでくれて、鳥人間になるために全身全霊を尽くしてくれました」と俳優の努力を明かす。
★環境に溶け込むカメレオン人間
環境に溶け込むカメレオン人間について監督は、以下のようにこだわりを明かす。
「爬虫類も私の好きな生き物の1つで、作品を代表するものだと思います。このキャラクターは、その全体像を見せることはありませんが、背面のショットがあります。背面を映すアイデアは、非常に興味深い骨格構造と筋肉をもつコンテンポラリーダンサーから着想を得たもの。このダンサーが床に平らに倒れると、肩甲骨が文字通り立ち上がり、背中に非常に興味深い起伏が生まれるんです。爬虫類を演じたこの俳優の場合、背中に新しい皮膚を貼り、爬虫類のように前進してもらいました。カメレオンの背中や骨格構造は、人間と動物が混ざり合ったものなので注目してほしいです」。
★グリーンバックを使わずロケ地で撮影
メイキング映像を観ると分かるように、本作は他のVFXを多用した作品とは異なり、グリーンバックのスタジオではなく森などのロケ地で撮影されている。
「フェイクを全て禁止にすると、俳優たちからリアルな演技を引き出すことができます。カメラ前での演技には最大限こだわりたかったので、実際の場所で撮影することを制作の一番の条件にしたのです。そしてもうひとつ、グリーンバックを使用しないことでテクノロジーの効果が曖昧になるのです。人工的につくられたものを自然の中にカムフラージュすることで、視聴者の目には映像がさらにリアルに映るのです」(トマ・カイエ監督)。
■作品概要
ストーリー:近未来。人類は原因不明の突然変異によって、徐々に身体が動物と化していくパンデミックに見舞われていた。“新生物”はその凶暴性ゆえに施設で隔離されており、フランソワの妻ラナもそのひとりだった。しかしある日、移送中の事故によって、彼らは野に放たれる。フランソワは16歳の息子エミールとともにラナの行方を必死に探すが、次第にエミールの身体に変化が出始める……。人間と新生物の分断が激化するなかで、親子が下した最後の決断とは。