スタジオジブリの芸術性と日本文化を愛するブラジル人アーティスト・Tabia Lourençoは、Adobe Substance 3D Designer(以下Substance Ds)を使用してスタジオジブリ作品風の見事なマテリアルシリーズを作成した。これらのマテリアルを制作した背景及びその制作工程について製作者ご本人から話を伺った。

Adobe Substance 3D Designerとは

カスタマイズ可能な独自のテクスチャ、マテリアル、さらには3Dモデルをゼロから作成できるツール。ノードベースでプロシージャルな作業が可能。

映画『ハウルの動く城』をリファレンスに制作されたマテリアル

CGW:よろしくお願い致します。初めに簡単に自己紹介をお願いします。

Tabia:初めまして、Tabia Lourençoと申します。ブラジル出身で、現在はイギリスを拠点にアーティストとして活動しています。ファインアーティストとしての仕事が主ですが、VRゲームを開発する夫を手伝う形で約一年程前からデジタルの世界でのキャリアをスタートさせました。独学でSubstance DsやUnityでのコーディング、Houdiniでのモデリングを習得しました。

CGW:今回、スタジオジブリ風のマテリアルを作成された経緯を説明頂けますか?

Tabia:難しい質問ですね(笑) うーん、今の私があるのはひとえにジブリのおかげと言っても過言ではありません。個人的にも仕事的にもジブリ作品は私の人生にポジティブな影響を与えてくれました。

幼少期からジブリを観て育ったというTabia氏。

Tabia:ジブリは世界的に有名なので多くの制作現場にて参考資料として用いられます。したがってジブリのスタイルを解釈・再現出来る能力を持つゲーム開発のプロフェッショナルが強く求められています。私個人としても。ジブリの特徴的な筆致をソフトウェア及びノードでどのようにすれば再現することが出来、かつジブリの巨匠たちに敬意を払うことができるのかずっと考えていました。
夫と個人的に制作しているゲームプロジェクトがあり、「これはチャンスだ!」と思いジブリ風のマテリアルに今回挑戦しました。

CGW:制作過程の詳細についてお伺いしてもよろしいでしょうか?

Tabia:制作においてまずは「観察」が重要です。私は今回のジブリ風マテリアルを制作する上で数多のジブリ作品の美術監督を務められた男鹿和雄さんの資料をメインのリファレンスとしました。デジタルメディアでアニメ風のマテリアルを再現するには、一筆一筆の意味や作者の意図を深く理解する必要があると思います。アニメ背景画の技法、ブラシ・インクの種類、カラーパレット等多くの観察が必要です。

通常、私はアニメを何度か観てその技術的な雰囲気を観察します。フレームを選択して一時停止し、照明の温度やフレーム毎のカラーパレットに注視します。画家として私は絵の具がどのように作用するのかを知っています。そこまでするのかと思われるかもしれませんが、忠実に再現するには「観察」は最も重要な工程であると信じています。

  • Substance Dsにて生成したマスクとカラーノードをブレンド
  • "ジブリらしさ"が表現されている

Tabia:全体的な制作プロセスはシンプルですが、最も難しいのはリファレンスのブラシストローク、フォームにそっくりなマスクを生成することで、秘密のテクニックはなく純粋にトライ&エラーです。ほとんどのマスクは、そのマテリアルにしか使えないユニークなものです。

もう一つの重要な点は、ライティングはハイトマップやオクルージョンに頼ってはいけないということです。ジブリはスタイライズド、リアリスティックどちらにも分類できないユニークさがあります。この方法を取るとスタイライズドに寄り過ぎてしまい、ジブリの雰囲気を失ってしまいます。

リアルリスティックでは、ハイトマップ、法線、アンビエントオクルージョン、ラフネス、メタリックが重要ですが、ジブリ系では、ブラシストロークとパレットを考えて、法線、ハイトマップ、オクルージョンを作成することが重要です。

ペイントストロークには、2つの色の組み合わせとそのストロークをできるだけ模倣したマスクを使いますが、これもトライ&エラーで完成させます。

古典的な絵画のように直線的なアプローチで、ブロッキング、ボリューム、光、影、形、そして細部を洗練させていきます。

CGW:あなたのマテリアルは他のクリエイターにも提供されているのでしょうか?

Tabia:今のところ私のマテリアルは入手できません。ですが、将来的にはデジタルプラットフォームで販売するためのマテリアルを作成する予定があります。

CGW:そうなんですね!心待ちにしています。貴重なお話ありがとうございました。