本記事ではX(旧Twitter)にて30万人超のフォロワーを抱える人気背景アーティスト・わいっしゅ氏にクリエイターにとって旅行・観察の重要性を語って頂いた。

CGW: 自己紹介をお願いします。

わいっしゅ: 背景アーティスト/デザイナーのわいっしゅと申します。今の仕事を始めて約10年になります。私は両親の影響からか、兼ねてより旅行が好きで国内外問わず色々な場所にこれまで訪れました。こういった旅行の経験が役に立って、現在まで背景アーティストとして活躍出来ていると感じておりまして、今回のインタビューではクリエイターにとっての旅行の重要性についてお話出来ればと思います。

CGW: 普段、わいっしゅさんが旅行される際は創作のアイディア収集が目的ですか?

わいっしゅ: どちらかと言えば「聖地巡礼」ですね。ゼロベースではなく教科書で習ったあの歴史の舞台の国だとか、テレビの旅番組で観た景色を自分の眼で見て、文化や歴史等の知識はある場所を自分の五感で体験しに行く、それが私にとっての旅行です。ただ、旅行の動機に関わらず自分がこれまで体験したことない世界を肌で体感するのは何にも換え難い貴重な経験です。それが結果的に私のクリエイティブに大きく影響しています。

感じる匂いや温度等、五感で感じる全てがリファレンスとなる。

CGW: 旅行の経験が具体的にどのように創作に活かされていますか?

わいっしゅ: 私が一番感じるのは、「普段気に留めない日常の表現に説得力が出る。」ということです。
過去の体験で言うと、仕事でとある西洋の街の絵を描いてほしいという依頼がありました。ロケハン無しの状態で最初クライアントに提出した時はイマイチの評価だったのですが、ロケハン後に提出すると絶賛だったんです。

CGW: 同じ題材の絵なのにですか?

わいっしゅ: そうです。ロケハンを踏まえて変えた些細なディテールが作品全体の質を底上げしたのです。
例えば、歩道と車道の境界部分ってどうなってるか普段生活してて気にしたことありますか?

CGW: 無いですね。

わいっしゅ: ここまでがレンガ造りで、ここからコンクリート、ここからアスファルトみたいな。挙げたらキリが無いですが、そういった景色の些細な違いが作品の説得力や空気観に大きく作用するんです。旅行を通して、文化的な違いに気づくこともあります。

CGW: なるほど。自分の眼で見て自分の肌で感じるという体験が重要なわけですね。

直接見て感じた情報を作品にどう活かすかはクリエイター次第

わいっしゅ: 観察は本当にクリエイターにとって重要です。ここで難しいのが、観察したものをそのまま作品に落とし込むのが正解とは限らないということです。
日本のアニメに出てくる草木の色合い、あれは現実世界の草木の色合いよりもかなり彩度を高くして表現されていることが多いです。これは日本アニメの歴史を作ってきた先人たちが敢えて、現実の色合いに「嘘」をつき独自に編み出した手法なのです。現に作品投稿サイトなどに掲載されている海外クリエイターさんの作品等を見ると、現実の色合いに近い表現がされています。私の作品では、様々な表現を検討した結果として敢えて日本アニメの表現に近い彩度の高い草木を描いています。

我々クリエイターは、未知のものを表現するときに何となくの知識で補完して完成まで持っていくことが往々にしてあります。しかし、それだと応用の幅が減るのです。ファンタジーやフィクショナルな表現をする、表現で「嘘」をつく場合、リアルな世界を観察することがクオリティアップの最善手です。