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ストックフォトの販売や広告制作など、スチールやグラフィックの分野で活躍しているイメージが強いアマナグループ。そんな同グループにおいて、グラフィックだけでなく映像も含めたビジュアル制作を幅広く手掛けているのがスプーンだ。同社では、グラフィックと映像双方の制作ノウハウをシームレスに展開させるべく、「MGC(モーション・グラフィック・クリエイティブ)」 という新チームを発足させた。今回は、Autodesk Smoke For Mac OS X をベースにした MGC の制作フローについて、中核スタッフに語ってもらった。
新しい映像制作を Smoke For Mac OS X で実践
広告制作やストックフォトの販売で知られる アマナグループ の中で、グラフィック制作のみならず、TVCM などの映像制作も手掛けている スプーン 。今回、取材させてもらった 「MGC」(モーション・グラフィック・クリエイティブ)は、グラフィックと映像の垣根を越えたコンテンツ制作のさらなる実践を目指そうという、2011年1月に起ち上がった新しいチームだ。
「僕も中川(慎也氏)もアマナグループに来る前から、オンライン/オフライン・エディターとして活動してきました。スプーンには僕たちのような映像畑出身者と、グラフィック畑のスタッフが在籍することで、静止画から動画までワンストップでプロデュースできる体制を築いているのですが、今回誕生したMGCでは、そのスタイルをさらに進化させることを目指しています」と語るのは、MGC ディレクターとしてチームを取りまとめる梁原官弘(やなはらつかひろ)氏。
2012年1月現在、総勢6名の少数精鋭部隊という MGC のスタッフは、映像制作経験者とグラフィック制作者経験者が3名づつという編成だ。映像制作のスキルと、アマナ本体を軸とした広告グラフィック(フォトレタッチや静止画 3DCG など)のノウハウを融合させた、ユニークな布陣となっている。
「スチールで培ってきた技術を、映像に落とし込む、あるいはその逆を実践していこうというのが狙いです。その上では、制作ツールやワークフローも従来の既成概念に囚われずに、良いと思ったら積極的に新手法を採り入れています」(中川氏)。
そんな MGC が、映像制作ワークフローの中心に選んだツールが Autodesk Smoke 2012 For Mac OS X(以下、Smoke For Mac) だ。2009年12月に初めてのMac版として出荷を開始した Smoke For Mac であるが、スプーンではリリース当初から着目していたとのこと。そして2010年末頃に、もともと中川氏が所属していた同じくアマナグループの CG プロダクション ナブラ で運用していた他社システムのオンライン編集室を、Smoke For Mac に切り替える形で導入したという。
「導入当初は、バージョン 2010 でした。一番はじめに発売された Smoke For Mac から使ってるわけですが、昨年冒頭に最新の 2012 へバージョンアップして、さらにもう1ライセンス追加導入しました」(梁原氏)。
スプーンが運用している Smoke For Mac 編集室の編集卓周り。作業用ディスプレイは30インチ型ナナオ FlexScan を使用。足下に据えられているのが、システムを入れた Mac Pro(左)とデータ保存用の CineRAID 社製ストレージ EditPro Xpander(右)
実は、初期に導入した2ライセンスのうち1つは、編集室としてではなく、PC 単体として利用していたとか。
「オフライン、オンラインを問わず編集作業の大半はディレクターやクライアントが立ち会うことなく、エディターが編集に集中する時間ですよね。そこで、1ライセンスはPC 単体で利用していたのですが、凄く効率良く編集が行えました。現在は嬉しい悲鳴とでも言いますか、非常に多くのお仕事を頂けているため PC 単体での運用は止めて、3編集室体制に拡張しています」(中川氏)。
事例1:『MBS ANIMATION』VI
では具体的に、Smoke For Mac の活用例を見ていこう。
最初に紹介するのは、毎日放送のアニメ放送枠 MBS ANIMATION 向けに制作された VI(ビジュアル・アイデンティティ)。「このプロジェクトは、2011年3月から7月頃まで比較的長期間にわたって制作していました。その大半はプレゼン時の試行錯誤ですね。3DCG の制作こそ、グループ会社の アマナ CGI で行なっていますが、ゼロからの提案だったので、広告代理店さんとのイメージ固めから MGC で一貫して担当させて頂きました」(梁原氏)。
© Mainichi Broadcasting System, Inc.
『MBS ANIMATION』VI
まずは、Adobe After Effects や Apple Final Cut Pro で、ビデオコンテの制作を行なったと言うが、企画段階では無数のバリエーションで試行錯誤を繰り返したため、イメージのすり合わせがかなり大変だったそうだ。この作品では、エフェクトの追加や色調整など、最終的な画づくりが、Smoke For Mac 上で行われている。「デフォーカス処理は Smoke For Mac 上で Sapphire 6 を使い処理しています。その他にも、ロゴを構成するキューブのひとつひとつを細かくカラコレしているのですが、こうしたディテール処理は全て Smoke For Mac で行いました」(中川氏)。
Smoke For Mac 上で、エフェクトの追加やロゴを構成する各キューブのカラコレが行われた
事例2:アリーナ『AQUAFORCE』PV
続いては、デサントの競泳水着ブランド、アリーナの最上位モデル 「AQUAFORCE」 CM 並びにプロモーション映像だ。水中&ハイスピード撮影を使った映像が印象的な本作だが、スプーンはオフライン/オンライン編集を担当。中川氏が CM を、もう1人のMGC スタッフが PV を担当するという、エディター2人体制で作業が進められた。
「アマナグループのグラフィック制作では、分業制が基本なのですが、本作ではそれを応用してエディター2人体制を実践してみたのです。CM も PV も同じディレクターさんだったのですが、エディター2人が同時並行で編集を進めることで作業効率 UP とコスト減に繋げることができたと思います」(梁原氏)。
© descante, ltd.
アリーナ『AQUAFORCE』CM & PV
本 CM の実写素材は、米 RED Digital Cinnema 社の EPIC とキヤノン EOS 7Dを用いて、水中シーンを EOS 7D、その他のシーンを EPIC で撮影している。アマナグループでは、デジタルシネマの潮流の象徴とも言える RED ONE の後継機である EPIC 導入を積極的に進めている(※2011年12月現在は、各種テストや検証を重ねている段階とのこと)そうだが、本プロジェクトもそうした企業戦略の一面があったと言えよう。
「映像制作のテープレス(ファイルベース)化が、今後さらに進んでいくのは間違いありません。アマナグループではそれを好機と捉えていて、EPIC を本格的に導入する準備を整えています」(梁原氏)。
アリーナ『AQUAFORCE』CM & PV では、MGCは映像編集に加えて、モーショングラフィックスも担当
Smoke For Mac では、この EPIC と EOS 7D で撮影されたデータを取り込んで、編集作業が行われた。中でも、特に活用したのが映像の色彩を調整するカラー・コレクション機能であった。
「Smoke For Mac のカラコレ機能は、調整できるパラメータが豊富で複雑な処理が行えますね。本作のディレクターさんはフォトグラファーとしても活躍されている方なのですが、"以前のシステムよりも綺麗に仕上がった"と高い評価を頂くことができましたよ」(中川氏)。
ハイクオリティなカラコレが行える理由のひとつとして中川氏が挙げるのが、ユーザーインターフェイスの分かりやすさ。
「RGB 各要素ごとに High、Mid、Low のバランスを追い込めるといった具合に、調整パラメータが豊富に用意されている点が使いやすかったです。パラメータの数が多いと、操作が複雑になることもあるのですが、Smoke For Mac の場合、直感的に操作できる点も良いですね」。
Smoke For Mac によるカラコレ作業例。Autodesk Flame などの上位システムと同一機能を備えているため、高度な作業が直感的に行えるとのこと
事例3:『UFC JAPAN』TV スポット
最後に紹介するのは、昨年末(2011年11月下旬)に制作された、総合格闘技大会「UFC」(Ultimate Fighting Championship)」 の TV スポット。本作は、オフライン/オンライン編集だけでなく、撮影から MA までの全工程を MGC が制作を請けおった、MGC の真骨頂とでも呼べるプロジェクトである。しかも、撮影から完パケまでもわずか3日で完成させたというから驚きだ。
© Zuffa, LLC.
こうした短納期を実践できる背景には、Smoke For Mac 編集室内に MA 用の Avid Pro Tools(Mac)を併設していることもある。MGC 独自のワークフロー、Smoke For Mac の高いパフォーマンス、そして同時並行でオンライン編集と MA が行える制作環境、それらをひとつに結集することで "ハイクオリティかつスピーディな制作" が実践できているわけだ。
スプーン編集室には、Smoke For Mac編集卓の隣に、MA用システムが併設されている。これにより、映像編集とMA作業を同時並行で効率的に行えるという
実際の制作では、オフライン編集を FCP で、オンライン編集を Smoke For Mac でと使い分けられており、Smoke For Mac では主に、カラコレとエフェクトの作成が行われている。さらに、本作の中でも特長的な"地上に落ちた影"のマスクについても、Smoke For Mac で処理された。「街並みに投影された影の立体感は、Smoke For Mac 上でマスクを描いています。実はこれ、ポスタービジュアルから 2D の影素材を貰ってきて、MGC で立体的にアニメーションさせているんです。こういった、時間のない環境の中で、ポスター用の素材を流用するといった工夫は、グラフィック制作も手掛けている僕たちならではの強みかなと思っています」(中川氏)。
地上のビル群に落ちた影の立体感は、Smoke For Mac でマスクアニメーションを作成
今後の展開
では、1年を通し様々な事例で Smoke For Mac を使ってきたスプーンは、その利点をどのように捉えているのだろうか?
「従来のシステムから Smoke For Mac に移行した時に、一番苦労したしたのは、従来システムとの"設計思想"の違いでした。しかし慣れてしまえば全く苦にならず、細かいパラメタが多い点や、インターフェイスが洗練されていて使い勝手が気持ち良いなど、利点が多いです。それに、トラッキングやスタビライザの精度が高く、単体ソフトに匹敵する高いパフォーマンスを発揮してくれる点も良いですね」(中川氏)。
また、上に挙げた『UFC JAPAN』TVスポットのように、オフライン編集とオンライン編集でソフトを使い分ける場合でも、Smoke For Mac ならではのメリットを感じているという。
「従来のワークフローでは、オフラインの編集データは EDL による編集情報(イン/アウト点のタイムコード)しか引き継げなかったんですが、Smoke For Mac は XML 等のファイルフォーマットに対応しているので、編集点に加えエフェクト等、より複雑な情報を持ち込めるため、シームレスに作業を引き継げるようになりました」(中川氏)。
ワークフローという意味では、Smoke For Mac は必要スペックを満たしてさえいれば、MacBook Pro 上でも動かすことができるわけだが。
「Smoke For Mac を入れた MacBook Pro を撮影現場に持って行くというのは、面白そうですね(笑)。オフラインとオンラインを、まさに "シームレス" に行えるわけですから」(梁原氏)。MGC が実践するグラフィックと映像制作双方の利点を融合させた制作スタイルは、さらなる進化を続けていくことだろう。
TEXT_山田桃子
PHOTO_弘田 充
株式会社 SPOON(スプーン)
2005年3月設立。広告を中心とし、グラフィックから映像まで、多種多様なビジュアル制作を行なっている。
公式サイト