CalArts(※)で手描きアニメーションを学び、90年代にCGアニメーターに転向したヘンリー・アンダーソン氏。現在はアニメーションディレクターとして活動する同氏が、株式会社StudioGOONEYSからの依頼を受けて実施した講義の模様を紹介する。なお、本講義はTVアニメ『SHOW BY ROCK!!』(4/5より放送開始)制作にあたるスタッフに向けて、そのアニメーションスキル向上を目的に開催された。
※California Institute of the Arts(カリフォルニア芸術大学)の通称。70年代から大学でのアニメーション教育を実践している。ピクサーのジョン・ラセター監督は、キャラクターアニメーション課程の最初の卒業生である。
INFORMATION
TVアニメ『SHOW BY ROCK!!』
TOKYO MX:4/5より毎週日曜22:00放送スタート
読売テレビ:4/6より毎週月曜26:59放送スタート
BS11:4/6より毎週月曜27:00放送スタート
TOKYO MX:4/8より毎週水曜18:30再放送
©2012,2015 SANRIO CO.,LTD. SHOWBYROCK!!製作委員会
アニメ公式サイト :http://showbyrock-anime.com/
アニメ公式Twitter:https://twitter.com/SB69A
ディズニーの手描きアニメーターから学んだ12の法則
5日間にわたって実施された講義のなかで、ヘンリー氏は「アニメーションの12の基本原則」を、実践作品と共に紹介した。作例には3DCGアニメーションも含まれていたが、『ピーター・パン』(1953)、『ジャングル・ブック』(1967)といったディズニーの古典アニメもあった。
「私はディズニーで手描きアニメーションを作ってきた先生たちから、12の法則を学びました。当時の同窓生のなかには、ピクサーでCGアニメーションを作っている人たちもいます。今日お見せする古典作品は、ピクサーのアニメーションや演出のコアの部分にも影響を与えているのです」(ヘンリー氏)。
昨今日本で量産されているセルルックのCGアニメは、いわゆるジャパニメーションの動きがベースになっている。両者は異なるスタイルをとっているが、互いに意識しあい、影響を受けあいながら進化しているとヘンリー氏は補足する。
「どのようなスタイルであれ、私が注目するのは演技・タイミング・ポージングです。学生時代、私は先生から"1体のキャラクターの演技に集中しなさい"と言われました。シンプルなアニメーションであっても、キャラクターの心の動きが表現されていれば、それは注目に値します」。
TRAINING 01:フォロースルー&オーバーラッピング アクション
本記事では、前述の12の基本原則の中から、3つをピックアップする。最初に紹介するのは、フォロースルー&オーバーラッピングアクション(Follow Through and Overlapping Action)だ。アニメーションにおけるフォロースルーは、最初のアクションに追従して、次のアクションが引き起こされることを指す。
オーバーラッピングは、身体のパーツが、少しずつ時間差をもって動くことを指す。「キャラクターの身体のパーツは、同じタイミングで動くわけではありません。動きの始まりも、動きの終わりも、各パーツのタイミングをずらす方が、自然な動きに見えるのです」とヘンリー氏は語る。
そして、キャラクターの個性や世界観に合わせて、調整を加える必要があるとも補足した。「身体の大きなキャラクターであれば、オーバーラッピングもダイナミックになり、小さければ真逆の動きになります。私がかつて携わった『スチュアート・リトル』のスチュアートは、手のひらサイズのネズミでした。彼の服には当時最先端のClothシミュレーションが施されており、エンジニアは積極的に動かそうとしました。しかし私は、人形の服のように、極力動きを控えめにすべきだと主張したのです」。
上のキャラクター(グーニーズマン)の腕には、フォロースルーが適用されている。特に、手首と指先の位置関係に注目してほしい。つねに手首が先に動き、それに追従して指先が動いている。また、2ではアンティシペイション(Anticipation)と呼ばれる、正反対の方向に動かす予備動作も適用されている。これも、12の法則のうちの1つだ
上のグーニーズマンの各パーツには、オーバーラッピングアクションが適用されている。両手足の動きのタイミングをずらしている点に注目してほしい。また、5ではオーバーシュート(Overshoot)と呼ばれる動きも適用されている。このように、止まる予定の地点を少し越えた後、本来の地点に戻る動きを加えることで、キャラクターの重さを表現できる
TRAINING 02:スローイン&スローアウト
3DCGアニメーションの場合、2つのキーフレームを打てば、その間のフレームは自動的に補間される。しかしコンピュータ任せの補間は、キーフレーム間を均等に割ってしまいがちだ。補間後のフレームの妥当性をアニメーター自身が見極め、調整することで、自然な動きにする必要があるとヘンリー氏は語る。
「スローイン&スローアウト(Slow In and Slow Out)は、動きの始まり(イン)と動きの終わり(アウト)の速度を落とす(スローにする)法則です。対照的に、その間は素早く動かす。こうすることで、キャラクターの重さを表現できます」。
コンピュータはただの計算機なので、キーフレーム補間にしろ、物理シミュレーションにしろ、結果を盲信してはいけないとヘンリー氏は続ける。「好奇心旺盛な若者と、落ち着いた老人とでは、付ける動きがまったくちがうはずです。本当にこの動きで良いか、シビアに考える習慣を身に付けてください」。
この法則は、イーズイン&イーズアウト(Ease In and Ease Out)とも呼ばれる。上では、グーニーズマンと球体に適用している。動きの始まりと動きの終わりで、キーフレームの間隔を密にすることで、腕や球体の重さを表現できる。腕の動きでは、後述するアークも適用されている
TRAINING 03:アーク
アーク(Arcs)には、"円弧" "曲線"などの意味があり、自然界の動きは多種多様なアークに満ちているとヘンリー氏は語る。「自然界に直線移動するものはありません。例えば人間の腰の位置は、全身の動きに応じて、上下左右にアークを描いて移動します。歩くと足が交差し、ここでもアークが生まれます。腕や頭もアークを描きながら移動します」。
自分が付けたキャラクターが真っ直ぐな動きをしていたなら、修正した方が良いとヘンリー氏は続ける。「もちろん例外もあります。キャラクターがロボットであれば、直線的な動きの方がそれらしく見えるでしょう。しかし人間や動物であれば、動きのベースはアークにした方が自然に見えます」。
そして、3DCGのキャラクターでアークを表現する際のポイントは関節にあるのだという。「CGキャラクターは、手描きのキャラクターほどには有機的に曲げることができません。それでも、例えば手首の関節を本来よりも少し誇張して曲げることで、自然なアークを表現できます」。
ここで紹介したような法則を知っているのと知らないのとでは、アニメーションの説得力が大きくちがってくるとヘンリー氏は語る。「最初からフォロースルーやアークなどを意識していれば、試行錯誤の時間が減るでしょう。全ての法則は単体で作用するわけではなく、密接に関係しあって成立しています。ぜひ、それらを意識しながらアニメーションを付けてほしいと願っています」。
アークを意識しながら設定されたアニメーションの例。ここでは、頭の位置に注目してほしい。パンチの始まりにおける頭の位置と、終わりにおける頭の位置を直線で結んだ動きにするのではなく、1度キャラクタの身体を沈めている。これにより、有機的なアークが生まれ、より自然な動きが実現している
TEXT_尾形美幸(EduCat)