2月10日(土)に公開された『スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット』(以下、『STR』)の荒牧伸志・松本 勝の両監督と、2月24日(土)ロードショーとなる『劇場版Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ』(以下、『ITF』)を手がけた松本 淳監督の対談が実現した。それぞれ歴史あるシリーズの作品という共通項はあるが、それぞれ異なるビジュアルの方向性で、CGベテランの荒牧・松本 勝監督と本作が初のCG監督作品となった松本 淳監督という対照的な2組。しかしながら、CGを扱う上での長短所と今後の発展性には共感するところがあったようだ。最先端作品の監督同士の対談という貴重な機会をお届けする。
INTERVIEW_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
映画『スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット』
2018年2月10日(土)から2週間限定で全国公開予定!(吹替版のみ)
監督:荒牧伸志/松本 勝
脚本:エド・ニューマイヤー
企画・製作:ソニー・ピクチャーズ・ワールドワイド・アクイジションズ、ルーセント・ピクチャーズエンタテインメント
制作:SOLA DIGITAL ARTS
配給:KADOKAWA
sst-mars.jp
© 2017 Sony Pictures Worldwide Acquisitions Inc., All Rights Reserved.sst-mars.jp
『劇場版Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ』
2018年2月24日(水)全国公開
原作:タツノコプロ/監督:松本 淳/脚本:熊谷 純/3DCG制作:デジタル・フロンティア/制作:タツノコプロ/配給:松竹/製作著作:Infini-T Force製作委員会
www.infini-tforce.com/movie
© タツノコプロ/Infini-T Force 製作委員会
<1>ハリウッドスタイルを崩してきた? より明確になった『スターシップ・トゥルーパーズ』のテーマ性
ーー今回、両作品の監督による対談の機会というところで、まずはそれぞれの作品をご覧になった感想をお聞かせいただければと思います。
『STR』荒牧伸志監督(以下、荒牧):僕は『ITF』のTVシリーズから先に拝見していたのですが、最も興味を惹かれたのはルックでした。フォトリアルともトゥーンシェーダとも異なる、この作品独自のルックになっていて、それでいて表情を含めてきちんと成立している。これはどうやってつくっているんだろう、きっと僕と同じような"生みの苦しみ"を味わったにちがいないと思いました(笑)。
『ITF』松本 淳監督(以下、松本 淳):(笑)。あのルックは、まさにTVシリーズの中で確立されたものなんです。TVシリーズを担当した鈴木清崇監督や、CG制作のデジタル・フロンティアさんのスタッフたちが様々な試行錯誤を経て画づくりをしてくれました。トゥーンシェーダとリアルの中間ぐらいの落とし込みにしているので、これをきっかけにこうしたルックに興味をもっていただければと思っています。
『Infini-T Force』
原作:タツノコプロ/監督:鈴木清崇/シリーズ構成:大野敏哉/3DCG制作:デジタル・フロンティア/制作:タツノコプロ/製作著作:Infini-T Force製作委員会
www.infini-tforce.com/tv
松本 淳:僕自身はこの映画が3DCGとしての初監督作になりましたが、演出としていくつかの作品に関わってきていたので、自分自身でもかなり以前からCGを学ぶためにパソコンを購入していたほどでした。そうした立場から『STR』を拝見したのですが、観る上でのストレスがまったくなく、ここまで観客に対して訴求力の高い作品に仕上がっていることに驚きました。『スターシップ・トゥルーパーズ』シリーズは実写の1作目(ポール・バーホーベン監督作『スターシップ・トゥルーパーズ』、1997年公開)から同じモチーフを使いながらも各作品ごとにちがうアプローチの仕方をしていましたが、『レッドプラネット』は、残酷描写は抑えめにされているぶん、このシリーズ独特の風刺精神とかテーマ性がより伝わりやすい作品になっているなと思いました。
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『STR』松本 勝監督(以下、松本 勝):一時期、裏切りだとか何重スパイだとか複雑なパターンが増えてきましたが、本作の尺から考えてもっとシンプルな方が面白いんじゃないかと。テーマをわかりやすくするというところも意識しましたね。
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――『スターシップ・トゥルーパーズ』第1作の脚本家で、前作『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』(2012)では製作総指揮に回っていたエド・ニューマイヤー氏が、今回の『STR』で脚本に復帰されました。
荒牧:『インベイジョン』はアクション主体でガシガシ動く話だったのですが、先ほど松本 淳監督がおっしゃった社会風刺の部分などで最初に戻った感じを今風につくるとどうなるのか、本人としてもやりたかったんだと思います。『インベイジョン』とは変わりましたが、それを僕らも楽しみました。
松本 勝:キャラクターの個性を引き出すのが上手いんですよね。本筋とちがう会話を入れて、「そこで何でその会話を?」と思わせておいて、それがキャラクターの厚みになる。
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松本 淳:脚本については、三幕構成といったいわゆるハリウッドスタイルに当てはめてつくられたのでしょうか?
荒牧:彼は『ロボコップ』(1987)からのキャリアを持つベテランですから、当然それは頭に入っているとは思いますが、そこにあまりこだわっていなかった感じでしたね。最初のプロットはこちら側でまとめて、向こうに赴いて説明して、あとは彼が料理したものを送ってもらってまた返すというながれでつくったのですが......。
松本 勝:これは勢いで書いたなと思える内容で(笑)。返ってきたシナリオには、ここがターニングポイントだとかそういったことはいっさい書かれていませんでした。
松本 淳:あえてハリウッドスタイルを崩しにいったのでしょうか?
松本 勝:そうかもしれません。三幕構成にも賛否があって、小綺麗につくれる一方で、ある種の予定調和にもなる。彼は若い頃からそのスタイルで揉まれてきたので、今回はそうしたかったのかもしれません。
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<2>CGで現代に蘇るタツノコヒーローの姿
ーー『ITF』はTVシリーズを担当された熊谷 淳さんが劇場版でもシナリオを手がけていますが、どんなやりとりがありましたか?
松本 淳:プロデュースサイドからSFでありつつ社会派な作品にしたいという要望がありました。ハリウッドのヒーロー映画のように、フィクションだけれども社会情勢を反映しているみたいな作風。そこで熊谷さんに何本か書いていただいたのですが、TVシリーズのアセットを使わないと予算とスケジュールに収められないという制約もありました。なかなかそれに適うプロットができずに苦労されていましたね。
© タツノコプロ/Infini-T Force 製作委員会
荒牧:かといって、枠に当てはめすぎるとそれを気にして縮こまった話になる。CGの難しいところですよね。
松本 淳:そうなんです。だからそれはあまり言いたくない。そこで土台となるアイデアを僕の方から出して、SFテイストにするためのガジェットやアイテムを入れて、それを元に熊谷さんに書いていただきました。僕にとって映画らしさに必要なのは、風の音とか光景といった物語以外の部分だと思っています。導入部とラストにはそうしたある種の"ハッタリ"とも言える部分が必要だと考えています。特に映画的なムードが導入部に求められるので、それを念頭に絵コンテを描きました。
© タツノコプロ/Infini-T Force 製作委員会
松本 勝:3DCGで大変なのは、背景だけで見せたいような長めのカットをコンテに描いたとしても、アセットとしてはそのシーンにしか登場しないときは、工数を考えると必ずしも3DCGで全てを作成しなくていいという話になりがちですよね。演出家としては「そこが重要な部分なのに」という部分と、作業現場との綱引きがよくあります(笑)。
荒牧:難しいですよね。カメラを動かさなければ手描きしてレタッチをすれば画面として成立するかもしれない。けれども、そういう臨機応変な対応ができるスタッフがいるかいないかで変わってくる。今回、松本(勝)さんは、「この部分はこういう風につくれば簡単にできます」という資料まで用意してくれたんです。でも背景チームは真面目にモデリングしてしまって、それによって画としてのクオリティは上がるけれどライティングやレンダリングコストも増大するという(苦笑)。
松本 勝:あとで「このシーン暗く見える(当初に設計したライティング等の画面設計とのズレが生じている)のは何で?」とか、僕が荒牧さんたちに怒られるんですよ(苦笑)。
© タツノコプロ/Infini-T Force 製作委員会
荒牧:松本さんは昔からそういうことをすごく考えてくれるから、今回監督お願いしても暴走しないだろうなとは思っていました。多少は暴走してくれてもよかったんですけれども、今回のスケジュールではそんな余裕はありませんでした(笑)。
――今作の制作経験を踏まえて、技術の進化を感じられたポイントはどんなところにありましたか?
荒牧:今回、フェイシャルキャプチャのクオリティをさらに高めることができました。最初のセッティングは大変そうだったのですが、一度作った後はキャプチャからダイレクトにすごく自然な表情ができるようになったので、今後つくられるCG作品でもそうしたところが上手くいってくれれば良いなと思います。演出の自由度が上がって、そこで効率良く現場が動いていけば、こちらとしてはしめたもの。専門知識に振り回されることなくつくれるようになれば、いろんな方が作品づくりに参加できるようになります。演出サイドとしてはそのあたりをCGに期待するところで、自分たちのスタジオで標準化された制作スタイルを確立できればと思いますし、SOLA DIGITAL ARTSとしてはそこを目指しています。
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松本 勝:CGと最も親和性が高いのはおそらくSFやVFXの作品だと思っていて、その意味でCG向きではないかもしれませんが、黒田硫黄さんの作品をやってみたいですね。昭和の古本屋の前で親父二人が将棋を指すようなものとか。そこでのドラマをどれくらい描けるのかに興味があります。
松本 淳:カメラワークとかライティングを手描きの方にもフィードバックしたいなと思いました。日本では実写とか手描きのアニメの代替品としてCGが使われてきた節がありますが、これからCGならではの作品が作られていくともっと楽しいものになると思います。僕らの世代は産まれた時にCGがなかった世代ですが、今の若い世代は物心ついた時からCGを観て育った世代。タツノコのヒーローはSFらしさが魅力だと思いますし、劇場版ではTVシリーズよりもさらにSFのテイストで作っているので、そのギャップがどのように受け取られるのか、とても興味があります。
© タツノコプロ/Infini-T Force 製作委員会
荒牧:いろんな入り方があると思うんです。『レッドプラネット』は松本(淳)監督のように、CG作品が好きな方も観てくださると思います。また、新たな試みとしてキャスティングでは、アイドル声優さんも起用(※)しているので、彼女たちのファンが本作を観て2Dとはちがう感じのお芝居に対してどのような印象をもってくれるのか、僕も気になるところではあります。
※:主人公ジョニー・リコと行動を共にする、はぐれ小隊の紅一点「タミ・カマチョ」のCVは、佐々木舞香(=LOVE)が務めているほか、=LOVE(イコールラブ)のメンバー12人全員が何らかのかたちで声優として参加している。
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松本 淳:キャストに絡めて申しますと、『ITF』ではヒーローたちが昔のままの人物として登場するので、セリフも今のヒーローだったら言わないような正論めいたことを言うんです。ちょっと時代がかったオーバーな言い回しもします。劇場版で登場する南部博士役の船越英一郎さんとコンドルのジョー役の鈴木一真さんは、ふだん顔出しの俳優をされているので「バードゴーのときのかけ声は、張るべきでしょうか。それともちょっと抑えてリアルにやるべきでしょうか」といった話を現場でやりとりしました。鈴木さんは繊細で甘い感じの芝居がジョーの本来の姿の表現にピッタリでしたし、船越さんのダンディな雰囲気は博士をよりリアルに見せてくれました。彼らのように昔タツノコヒーローを見ていた世代が、現代に作られたものに対してどんな反応を見せるかが、とても面白かったです。そしてこの映画を観にいらっしゃる若い世代の方たちがどのように反応するのか、僕としてはとても楽しみですね。
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映画『スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット』
2018年2月10日(土)から2週間限定で全国公開予定!(吹替版のみ)
監督:荒牧伸志/松本 勝
脚本:エド・ニューマイヤー
企画・製作:ソニー・ピクチャーズ・ワールドワイド・アクイジションズ、ルーセント・ピクチャーズエンタテインメント
制作:SOLA DIGITAL ARTS
配給:KADOKAWA
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『劇場版Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ』
2018年2月24日(水)全国公開
原作:タツノコプロ
監督:松本 淳
脚本:熊谷 純
3DCG制作:デジタル・フロンティア
制作:タツノコプロ
配給:松竹
製作著作:Infini-T Force製作委員会
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