2018年3月末、MODO JAPANグループは、MODO 12 日本語版のリリースを発表した。LightWaveから派生したMODOは、開発当初モデリング機能から先行してリリースされたが、現在はCG映像制作に必要な全機能を備えている。MODO 12シリーズでは、プロシージャルモデリングの強化、アニメーション機能の改善などがなされているという。そんなMODOとLightWaveを愛用し、数多くのアニメCGをつくってきたサブリメイションの小石川 淳氏と塚本倫基氏に、両ソフトを使い続ける理由をたずねた。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

複雑なモデルを、より少ない手数でつくるため、MODOを導入

CGWORLD(以下、C):ここ最近、アニメCGの制作会社がMODOを導入するケースが増えてきたように感じるので、会社設立当初からMODOを使ってきたサブリメイションさんに、MODOを使う理由や一連のワークフローを改めて伺いたいと考えています。

小石川 淳氏(以下、小石川):実際、力を入れてMODOを研究している会社はありますね。主な理由は2つあって、1つ目はMODO版のPencil+ 4 ラインの開発が進行中だからだと思います。MODOでPencil+ 4のライン描画機能が使えるようになれば、導入を検討する会社はさらに増えるでしょう。2つ目の理由は、価格の手頃さだと思います。アニメCGの制作会社は小規模なところが多いので、なるべく質の高い画を、なるべく効率的に、なるべく安くつくれる手段を常に探しています。

  • 小石川 淳
    サブリメイション
    (代表取締役・CGIプロデューサー)

    プロダクションI.GのCG班のシステムエンジニア、ゲーム会社のプログラマーなどを経て、2011年にサブリメイションを設立。『宇宙戦艦ヤマト2202』シリーズ、『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』(2017)などでCGIプロデューサーを務める。


塚本倫基氏(以下、塚本):当社の場合、モデリングとUV展開の大半はMODOを使っており、LightWaveにモデルデータを移行するための最後の微調整だけはLightWave上で行なっています。リギング以降の工程はLightWaveを使うことが多いです。とはいえクライアントからソフトを指定される場合もあるので、これら以外を使うプロジェクトもあります。

  • 塚本倫基
    サブリメイション
    (取締役・CGIディレクター)

    プロダクションI.GのCG班で『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズなどの制作に携わった後、小石川氏らと共に独立し、サブリメイションの設立に参画。『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』(2017)、『ジョーカー・ゲーム』(2016)などでCGIディレクターを務める。


C:塚本さんがMODOを使い始めた経緯を教えていただけますか?

塚本:プロダクションI.GのCG班にいた頃から使っているので、だいぶ昔の話になります。最初に使ったのはmodo 102なので、2005年頃だったと思います。当時はモデリングにもLightWaveを使っていたのですが、求められるモデルがどんどん複雑化した結果、オペレーション時間が長くなってしまったのです。「もっと便利なツールはないのか?」と探し求め、MODOにたどり着きました。ほかのソフトも試しましたが、MODOの設計思想はLightWaveに近かったので、一番自分との相性が良いと感じました。

C:複雑なモデリングに対応するため、MODOを導入したということでしょうか。

塚本:効率化のためですね。複雑なモデルを、より少ない手数で、ストレスなくつくれるツールがMODOだったわけです。加えて、修正がやりやすい点もMODOのメリットでした。LightWaveならほぼつくり直しになるような修正でも、MODOであれば、少ない手数で修正できたのです。監督チェックで「ここを直してください」と言われたとき、どれだけ早くリカバリーできるかが非常に重要なのです。

映画『ひるね姫』における、MODOの活用事例

C:2005年頃にMODOを使い始め、2011年にサブリメイションを設立し、今も使っているとなると、10年以上MODOを愛用していることになりますね。MODOを使う場合の、最近のワークフローを教えていただけますか?

小石川:例えば映画『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』(2017)の場合は、「エンジンヘッド」「ハーツ」などのメカのモデリングでMODOを使いました。3Dレイアウトと呼ばれる作画ガイド用のモデルも、全てMODOで構築しています。

▲映画『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』本予告
©2017 ひるね姫製作委員会


C:エンジンヘッドは、作中で主人公の「森川ココネ」の夢の中に登場する巨大ロボットですね。

▲これらのカットは、デジタル作画のキャラクターや美術と、3DCGのエンジンヘッドを組み合わせて制作されている ©2017 ひるね姫製作委員会


塚本:エンジンヘッドの場合は、2枚のデザイン画を見ながらモデリングを始めました。

C:デザイン画は、これで全部ですか?

▲【左】エンジンヘッドのデザイン画/【右】初期のラフモデル。この段階ではプロポーションを整えることに集中しているため、ポリゴン面の割り方などの細部はあまり考慮していない。「最終的にはなるべく均等な形の四角形ポリゴンで造形するよう努めますが、この段階では五角形以上のポリゴンも混ざっています」(塚本氏) ©2017 ひるね姫製作委員会


塚本:全部です。

C:上面とか、ディテールは............。

塚本:基本的にアドリブでつくっています。途中で何度か監督に見ていただき、必要に応じて修正しています。エンジンヘッドの場合は、大きな修正はすることなくOKをいただけました。

▲【左】制作途中のモデル/【右】完成モデル ©2017 ひるね姫製作委員会


▲自身の作業机にて、エンジンヘッドのモデリング過程を解説する塚本氏。右側のモニタにデザイン画を表示し、それを見ながらMODOでモデリングしていったという ©2017 ひるね姫製作委員会


C:つまりデザイン画を目コピして、モデリングしているわけですね。

塚本:こういうパースのついた手描きのデザイン画だと、下に敷いてモデリングしても良い結果にならないですからね。私の場合、ほぼパースビューだけを使い、モデルを何度もぐるぐる回しながらモデリングしていきます。

▲モデリング中の画面。塚本氏の場合は、このようにパースビューだけを表示してモデリングする場合が多いという。正方形に近い四角形ポリゴンが整然と並んでいるのは、長年の経験に基づく塚本氏のこだわりだ。「こういう並べ方をしておくと、修正が必要になったとき、全体の面のながれは崩すことなく、必要な部分だけをきれいに修正できます。ナイフやループスライスを使うときにも、思い通りの位置で分割できるのでストレスがありません。一方で、すごく細長い三角形ポリゴンが入っていたりすると、修正が必要になったとき、その周辺の面全体を張り直す必要があるわけです。キャラクターモデリングの場合は、ここまで整然と四角形ポリゴンを敷き詰める必要はないのですが、基本的に同じ考え方でつくるようにしています」(塚本氏) ©2017 ひるね姫製作委員会

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よく使う機能はアクションセンター

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よく使う機能はアクションセンター

C:ハシゴや扉など、かなり細かいディテールまでつくり込んでいますね。

塚本:本作は劇場作品なのに加え、エンジンヘッドはアップショットで映される場合もあったので、かなり小物を追加しています。ハシゴや扉があると人間の大きさがわかるので、スケールの目安にもなります。

C:こういうモデリングをする中で、重宝している機能があれば教えていただけますか?

塚本:よく使う機能はアクションセンターですね。これはモデルを移動、回転、拡大・縮小する際に、操作の中心や軸を定義する機能です。

▲【modo機能紹介】アクションセンターについて
©MODO JAPAN GROUP


▲ドアの移動ツールを表示したところ。デフォルトの状態では、移動ツールの中心や軸は、ドアの中心に表示される ©2017 ひるね姫製作委員会


▲アクションセンターを使うと、移動ツールの中心や軸を、任意の位置や方向に設定できる。「斜めの壁面に沿ってドアを移動させたい場合には、アクションセンターを使い、移動ツールの軸の傾きを壁面の傾きに合わせます。こうすれば、思い通りの位置に、少ない手数で、正確にドアを配置できるのです」(塚本氏) ©2017 ひるね姫製作委員会


塚本:移動ツールや回転ツールの軸が見やすく、掴みやすい点も気に入っています。モデリングをしていると、モデルをぐるぐる回し、任意の点や面を選び、移動させるといった操作を何百回、何千回と繰り返します。軸の方向がわかりにくい、あるいは軸を掴みにくいと、そのたびに数秒のロスが生まれます。同じ操作を何千回と繰り返していけば、かなりの時間損失になるわけです。

小石川:特にアニメCGの場合は、ほんのちょっとの面の歪みがラインやカゲの見映えに大きく影響するので、極力きれいに面を揃えておく必要があります。

塚本:何度もモデルをぐるぐる回し、歪んだ面を見つけては直すことを繰り返すので、「この面は、このローカル座標系で、こっちの方向に動かしたい」「この面は、ワールド座標系で、数ミリだけ動かしたい」といった細かな要求に対応できる操作性の良さが重要になります。その辺がアバウトなツールほど、ストレスが溜まってしまいます。

▲このような歪んだ面があるとラインやカゲの見映えに大きく影響するため、根気強く歪みを直す必要がある ©2017 ひるね姫製作委員会


▲エンジンヘッドの大腿部はきれいな曲線で表現するため、モデルにサブディビジョンを適用し、その状態でフリーズしている。さらにその上から、パネルラインを追加している。「MODOとLightWaveとではサブディビジョンの処理方法がちがうので、形状が変わりそうな場合は、MODOのサブディビジョンをフリーズしてからデータを移行するようにしています。パネルラインをテクスチャで表現すると、アップショットになった際にぼける危険性があるし、データ管理が煩雑になります。そのためパネルラインや溝も、ポリゴンで表現するようにしています」(塚本氏) ©2017 ひるね姫製作委員会


C:面の歪みを見つける、頂点を移動させるといった、モデリング時の基本操作がやりやすいから、長年MODOを愛用してきたというわけですね。

塚本:はい。実際、私が多用する機能はかなり限られていて、移動、回転、ストレッチ(引き伸ばし)、ナイフ、ループスライス、頂点結合などの基本機能があれば、たいていのモデリングは事足ります。

小石川:塚本のモデリングに対する考え方は、CGが使われ始めた初期のものに近いと思います。すべての頂点を自分でコントロールしようとするので、どうしてもポリゴン数が多くなります。それでもLightWaveの場合は異常なくらい数多くのポリゴンを扱えるので、とくに問題はないのです。なるべく処理負荷を減らしたいゲーム会社や、3dsMaxやMayaをメインツールに据えている会社の考え方とは相容れない部分もあるでしょう。

塚本:モデリングのやり方は、後工程で使うソフトに合わせて変更します。例えばMODOでつくったモデルを3dsMaxに移行するプロジェクトの場合は、いつもよりポリゴン数を抑えたモデリングをするようにしています。



前編は以上です。後編では、LightWaveの活用事例と、MODOのさらなる活用の可能性について紹介します。ぜひお付き合いください。
(後編の公開は、2018年4月17日を予定しております)