東映グループのポストプロダクション事業を集約する東映デジタルセンター。その研究機関としての役割を担うのが、ツークン研究所だという。そんなツークン内に新たに発足したデジタルヒューマンチームが目指すものは何か? 木下 紘チームリーダーに語ってもらった。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 251(2019年7月号)からの転載となります。

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ツークン研究所が追い求める、"バーチャルプロダクション"とは?

TEXT_石井勇夫(ねぎぞうデザイン) / Isao Ishii(negizo-design
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota



Toei Zukun Lab.|DIGITAL HUMAN

作品ではなく、技術としてデジタルヒューマンを追求する

デジタルヒューマンチームのリーダーを務めるのが、木下 紘氏。2014年3月末にツークンへ入社した後、フェイシャルキャプチャサービス事業の起ち上げからチームの運営をリードしてきた。
「ツークンに入る直前までは中国を拠点にコンポジターとして活動していたのですが、縁あってフェイシャルキャプチャを担当することになりました。今までやってこなかった新しいことにチャレンジできるのが、ツークンで働くやりがいになっています」(木下氏)。

昨年6月にツークンが公表した「Light Stageを活用したデジタルヒューマン研究プロジェクト」は、2019年度から3年にわたる取り組みになるという。それに先立ち、デジタルヒューマンチームに課せられたミッションは、従来のアプローチからデジタルヒューマンを専門とする制作チームを起ち上げ、1年後を目処に制作ラインを確立させること。まずは木下氏を中心に6名でチームが編成された。

「ツークンでは規模や人数との兼ね合いからゼネラリスト化するケースが多いため、体系的なキャラ制作の知見はそれほど深くありませんでした。実制作から離れたこの研究期間をどのように取り組むかは長期的な運営を目的とする上で重要な選択でした。そこで具体的な手段として、各メンバーごとに担当分野を専門化し、期間内に複数回スクラップ&ビルドする機会を設けることで短期間で経験を積めるようにしつつ、走り出しでは『Saya』プロジェクトでお世話になっていたTELYUKAさんにモノの見方・考え方などアーティストとして重要な姿勢をアドバイスいただきました。成果を安定的に向上させる上では"物理的"(PBRや力学的表現)、"心理的"(感情や人間性の表現)、"生理的"(自律神経系など制御されていない生物表現)の3要素のバランスをみながら人として不足しているものを補うようにアップデートを重ねました」(木下氏)。

「デジタルヒューマン」ワークフロー

デジタルヒューマンチームが設計したワークフロー図(2019年5月末現在)。バーチャルキャラクターではなく、実在する人間の形状ならびに所作を最大限正確かつ細密なキャプチャとスキャンを行うことによって、デジタル化するという方針の下、構築されている



そして、一連の活動理念として「アウトプットに依らず、本質的な人間表現のために知識と目を養い、手段を模索する」が掲げられた。
「デジタルヒューマンは、CGの中でも特に難しいものです。なかでも著名な人物をつくる場合は、見る人の日々の機微によって印象が変わってしまうこともあります。理論的に説明できない曖昧な基準に頼っていてはいつまでもゴールにたどり着けないだろうと考え、理念や活動内容を最大限明確にすることを心がけています」と、木下氏はそのねらいを説明してくれた。

昨年、InstagramをはじめとするSNSを中心に活動するバーチャルヒューマンが矢継ぎ早に登場するなど、リアルな人間を3DCGで制作する取り組みが世界中で増えている。これに対し、ツークンは架空の人間をつくるのではなく、あくまでもデジタルダブルをつくる(=実在する人間を3DCG化する)ことを当面の目的にしていることが特徴だ。オリジナルコンテンツを企画、展開していくというよりは、むしろデジタルヒューマンの制作から得た知見を、他社のコンテンツビジネスや CG・VFX制作者に広く利用してもらうことを目指しているのだ。

「リアルなデジタルヒューマン制作のR&Dは欧米を中心とする海外が先行し、その差は開く一方でした。ツークンとしては、Light Stageの導入を通じて、トップシーンの技術や情報を日本のCG・VFX制作現場にも広めていきたいと考えています」(木下氏)。
ツークンとしては静止画だけではなく、映像としても通用する高精度のデジタルヒューマン制作を国内のチームで完結できるようになることを目指している。その恩恵は、彼らの言うとおり日本のCG・VFX制作現場にとって有益であることはまちがいない。

第3回「AI・人工知能EXPO」に出展

本イベントにて、1年目の成果である『デジタル高島豪志』の静止画と動画が初披露された



Toei Zukun Lab.| Making of "DIGITAL HUMAN"

info.

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.251(2019年7月号)
    第1特集:デジタルヒューマン&バーチャルスタジオ
    第2特集:世界観を表現するデジタルアート
    定価:1,512 円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2019年6月10日