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いま使っているPCがやや性能不足になってきたことから、「パーツを新調してスペックアップをしたい」と考える人は少なくない。さらには、「自分にぴったりのPCを自作したい」と思っている人もいるだろう。ただ、パーツの交換方法やスペックの上がり具合、あるいはPCの自作方法がよくわからず、結局はそのままで終わっている人も多いのではないか。

そこで今回は、CGアーティストでPCの自作にも造詣が深いますく氏にご登場いただき、まずは自作PCについて簡単に指南してもらった。さらに、人気の高いメモリ/SSDブランドであるCrucialの製品を使用し、古いメモリやSSDと新しい製品でどれぐらいの性能差や使用感の違いが出るのかを、じっくりチェックしてもらった。

TEXT_近藤寿成(スプール)
PHOTO_弘田 充
EDIT_池田大樹(CGWORLD)

PCを使いこなすCGアーティストなら
PCの自作やカスタムに興味を持とう

CGアーティストとしてZBrushやBlender、3D-Coat、Marvelous Designer、Unity、Unreal Engineといった多彩なツールを使いこなし、魅力的な3Dモデルを生み出すますく氏。制作現場では環境構築から携わることも多く、「年間10台近いクリエイター向けのハイエンドPCを組むこともある」そうだ。

自身が利用するPCはもちろん自作。本人は「グラフィック性能を重視」と言いつつも、CPUは「インテル Core i9-10900 プロセッサー」(10コア / 20スレッド / 2.80GHz / ターボ・ブースト時最大5.2GHz)、GPUは「GeForce RTX 2080」、ストレージはM.2 SSD(2TB)、メモリが64GBと全体的にスキのないハイスペック仕様だ。さらに、自作PCならではのポイントとして、CPUの冷却に簡易水冷を利用することで冷却ファンの騒音を抑制。また、持ち運びも踏まえたコンパクトかつ無駄のないPCに仕上げたいことから、「3.5インチや2.5インチの内蔵ドライブは一切使わない(=M.2接続のSSDしか使わない)」という、並々ならぬこだわりも持っている。

そんなますく氏が、声を大にしてアドバイスしたいのは「PCの自作やカスタムは難しくない」というである。実際、一見すると膨大なパーツで構成されているように思えるPCだが、じつは「たった6つのパーツがあれば動く」(ますく氏)。

具体的には、「①電源装置(コンセントに繋ぐ部分)」「②マザーボード(メインとなる基盤)」「③CPU(基本処理を担当する装置)」「④GPU(描画処理を担当する装置:グラフィックスボード)」「⑤RAM(一時的に記憶しておく装置:メモリ)」「⑥ストレージ(永続的に記憶しておく装置:HDDやSSDなどの記憶ドライブ)」の6つ。しかも、最近のPCは基本的に「プラスドライバーが一本あれば簡単に組み立てられるようなモジュール設計になっている」(ますく氏)という点も見逃せないポイントだ。

例えば、今回の検証ではますく氏にCrucialのメモリとSSDを利用してもらったが、どちらもマザーボードに備え付けられているメモリスロットやM.2端子に差し込むだけでOK。従来のHDDや2.5インチのSSDであれば接続ケーブルと電源ケーブルを接続するといった手間があったが、最新のM.2対応SSDであればそういった部分も進化している。そのため、メモリとSSDだけなら5分とかからず取り付け作業は完了するのだ。

このような変化も踏まえて、ますく氏は「スペシャリストとしてPCを仕事で活用するCGアーティスト(プログラマーも含む)は、もっと自分が利用するPCについて知るべき」と指摘する。そして、一流のレーサーが自動車の構造やパーツの仕組みについて熟知し、走行中の問題点をメカニックに伝えていることを例に挙げ、「PCを使ってCGで仕事をするなら、PCの自作やカスタムに興味を持つのも悪くない」と提案した。

このように、CG制作だけでなく自作PCに関しても豊富な経験とこだわりを持つますく氏が、今回は既存PCからのスペックアップを想定したメモリとSSDの検証テストを実施。古い製品と最新のCrucial製品をさまざまな視点で比較し、スペックアップによる性能や使い勝手の変化、さらには将来性についても探った。

  • ますく

    さまざまなクリエイターが参加するゲーム開発技術研究コミュニティ「AsteriskLab」を運営するCGアーティスト。3Dモデラーとして活躍するとともに、最近ではAIを使った3Dアバターやキャラクターモデルの自動生成なども手掛けている。
    https://twitter.com/mask_3dcg

検証ハードウェアについて

今回の検証では、メモリはCrucial製「Ballistix 32GB Kit (2 x 16GB) DDR4-3600 Desktop Gaming Memory」(以下Ballistix 32GB)を使用した。アルマイト製ヒートスプレッダーを装備した上位モデルで、ゲーミング向けにオーバークロックにも対応。メモリ規格はDDR4-3600(周波数3600Mhz)で、Ballistixシリーズとしては最上位にあたり、Crucialブランドのメモリ全体としてもDDR4-4400、DDR4-4000に次ぐ3番目のハイスペック仕様となる。価格は約2万6000円。

SSDは、Crucial製「Crucial P5 1000GB PCIe M.2 2280SS SSD」(以下P5 1000GB)を使用した。Crucialブランドでは最上位のSSDで、M.2のNVMe(PCIe 3.0 x4)接続に対応。シリーズとしては1TBの他に250GB、500GB、2TBが選べる。価格は約1万8000円。

両製品を実際に手にして、ますく氏が注目したのはデザイン性の高さ。とくにメモリは、他社製品と比較して「ヒートシンクが緻密に作られている」ことに驚いたそうだ。パーツにおいて、スペックはもちろん重要なファクターの1つだが、PCの自作やカスタムにおいては「見た目の美しさも重要」と語るますく氏。その意味で、Crucialの製品は「非常にテンションが上りました」と振り返った。

※2021年4月28日現在参考価格

メモリやSSDの交換で作業効率が向上ただし性能をフル活用しているわけではない

検証にあたって、手始めにAsterikLabの開発チームで使用しているUnityのビルド用開発機を用意。6年前に購入したゲーミングPCがベースとなっていて性能不足が否めないことから、第一段階としてまずはCPUとGPUをアップグレード。そこから、今回の検証を踏まえて「従来のメモリ(DDR4-2400、16GB)/SSD(2.5インチSATA接続)を装着した状態」と「Crucial製品(Ballistix 32GB/P5 1000GB)を2枚のうち1枚のみを付け替えた状態」でどのような違いが出るかをチェックした。

まず「タスクマネージャー」の「パフォーマンス」でメモリの状態を見てみると、メモリ容量が16GBから32GBになっていることを確認。さらに、周波数も2400から3600MHzにアップし、速度が1200MB/秒ほど向上していることがわかった。また、P5 1TBを起動ドライブにしたことで、従来のSATA接続SSDよりも「OSの起動時間が約8秒向上した」(ますく氏)ほか、データの保存時間やコピー時間なども高速化し、「作業の快適性はしっかり上がっている」と感じたそうだ。

次にますく氏は、人気ゲームのベンチマークソフト「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」やBlenderk公式のベンチマークソフト「Blender Benchmark」、Unityのビルド速度で性能を比較。3DCGのプリレンダリングや、リアルタイムレンダリング、ビルドの時間などがわずかに向上し、タスクマネージャーを確認しても理論値の性能がきちんと出たそうだ。これらの結果から、メモリ容量を増やしたりSSDを高速化させたりすれば「性能は確実にアップし、作業効率も上がる」と結論付けた。

その一方で、CG制作においては「明確な違いを実感できなかった」とのこと。そのため、現状においてCG制作では「メモリとSSDを変更しても体感速度が上がることはない」というもう1つの結論も付け加えた。このような結果が出た理由についてますく氏は、「2021年現在に市販されているCPUの処理速度が、メモリやSSDの読み書き速度に追いついていないから」と考える。

ここからはやや難しいかもしれないが、もう少し具体的に説明しよう。ますく氏によれば、メモリやSSDの理論書き込み可能速度を確認すると、DDR4-3600は3.6GB/s程度、M.2は2~4GB/s程度となる。これに対して、例えばCPUのクロック周波数が3.8GHzの場合、このCPUは1コアあたり3.8GB/sの「手数」を使うことができるのだが、これは「3.8GB/sのデータを作れるわけではない」(ますく氏)というのが重要なポイントだ。

というのも、CPUは常に複雑な計算を行っているため、例えばCPUが平方根(√)のような計算をする場合、メモリやSSDに展開される1MB分のデータを計算するために、約800MBの手数が必要になることもある。つまり、この場合であれば生成できるデータは1/800になってしまうわけだ。

これを踏まえると、800コアのCPUを並列処理したうえにラグが発生しない状態で初めて、現行のメモリやM.2対応SSDの性能をフルに発揮できるということになる。しかし実際には、処理の負荷によって書き出せるデータ量も変わってくる。さらにいえば、ソフトウェア側もマルチコアを有効利用できる設計になっていないケースも多い。そのため、結局は現行のメモリやSSDの性能はフル活用対応できないという状況になるのだ。

これらのことから、低スペックのCPUであればあるほど、そして難しい計算をさせればさせるほど「高性能なメモリやSSDの性能を引き出せない」とますく氏は説明。それゆえに、少なくとも一般的なクリエイターがCG制作をやるうえで、現行のCPUに対する最新のメモリやSSDの性能は「オーバースペックだ」と分析する。

ただし、今後CPUの技術がさらに進化すれば、高性能なメモリやSSDの性能をいままで以上に活かせるようになることは間違いない。だからこそ、長期運用を見据えるのであれば、「今のうちに長く使えるパーツを揃えておくことが重要だ」とますく氏は助言した。

メモリやSSDを長期運用するならCrucialの製品が「ベストバイ」

今回の検証結果からますく氏は、CPUの性能が「メモリやSSDに追いついていない」という状況を確認した。ただ、それを承知しつつ、クリエイター目線でいま最適なメモリやSSDを選ぶならば、「コスパを踏まえつつ、長期運用を念頭にハイエンド商品を選ぶのが最も賢い」と考える。なぜなら、現状ではメモリとSSDの性能を活かしきれないとしても、ハイエンドモデルであれば「CPU性能が大幅に向上したり、マルチコアに最適化されたソフトウェアが増えたりするまでの長い期間を現役で利用できる」はずだからだ。

さらに、通販サイトなどで見てみると、Crucialの高性能メモリは「同スペック帯の他社製品と比べて、圧倒的に安価で保証もしっかりしている」という点も見逃せない。実際、長く使えばトラブルが起きる可能性も高まるだけに、日本国内でのサポート体制を用意するとともに、5年間の製品保証が付くCrucial製品はとても魅力的だ。コストパフォーマンスに優れ、安心感も兼ね備えているCrucial製品を、ますく氏は「ベストバイ」と結論付けた。

【おまけ】SSDを活用するなら、エンクロージャーを使うのもあり

M.2対応SSDの活用において、ますく氏がおすすめするのが「エンクロージャー」を使った方法だ。IT関連においてエンクロージャーとはケースなどの「ガワ」を意味し、ここではSSDを中に入れることで「USB接続の外付けストレージやUSBメモリとして利用できる画期的なアイテム」を指す。

価格もお手頃で、1500円~3000円程度で購入可能。SATA規格のSSDで毎秒600MB程度、M.2なら毎秒2~4GB/s程度の速度で読み書きできるので、価格的に性能的にも魅力的なことは間違いない。

また、ますく氏がおすすめする理由の1つに「破損リスクの軽減」もある。というのも、過去に一体型の外付けストレージを使っていたとき、コネクタ部分の物理破損から「データの全ロスト」という苦い経験を何度も経験してきたからだ、

その点、エンクロージャーを用いれば、外側と中身がそれぞれ独立したモジュールとなるため、仮にコネクタ部分が壊れたとしても、中身のSSDに影響はなく、外側のエンクロージャーを買い替えるだけで簡単に修理できる。データ保護の観点から見ても、エンクロージャーを使ったSSDの運用方法は「非常に賢い選択」とますく氏は提案する。