オーストラリア・ブリスベンに本社を置く、VFXスタジオAlt.vfx。2011年6月にスタジオをオープンさせた同社は、共同創立者である高田 健氏のキャリアを活かして日本のCMや映画などのVFXも精力的に手がけており、『SUNTORY PEPSI NEX 桃太郎シリーズ』や 『namie amuro x docomo 25 年の軌跡』など、エポックメイキングな作品制作に携わってきた。6人でスタートしたAltは、現在常駐スタッフ70名、APAC地域では最も受賞歴のあるスタジオへと成長した。Alt創立10周年記念企画として、高田氏にAltの成功を支えてきた同社のDNAや軌跡を深堀りする。

TEXT_山本加奈 / Kana Yamamoto(NEWREEL.JP
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
Special thanks to 田中秀幸 / Hideyuki Tanaka(FrameGraphics.)、柿本ケンサク / Kensaku Kakimoto and 河西正勝 / Masakatsu Kasai(Tohokushinsha Film Corporation

Alt.vfx - The Work - 2020

<1>ピンチがチャンスを生む。Alt.vfxの設立のきっかけは"大洪水"

──設立10周年おめでとうございます。この10年は長いものでしたか? それともあっという間の10年でしたか?

Alt.vfx・高田 健氏(以下、高田):ありがとうございます。本当にあっという間の10年間でした。自分たちを取り囲む環境は随分と変わったし、変化のスピードは年々加速していると感じます。デジタルテクノロジーの進化は目覚ましいものがありますが、コロナ禍でさらに推し進められたんじゃないでしょうか。設立当時から取引先のクライアントやブランドも様変わりしました。目まぐるしく変わる世の中ですが、Alt.vfx(以下、Alt)は仲間とはじめた独立系の会社ということもあって変化に強い体質が幸いし、激動の世の中においても成長を続けられました。仲間たちと一緒にAltを起ち上げて良かった。その気持ちは創業した初日から変わりません。

高田 健/Takeshi Takada
Alt.vfx共同代表取締役、エグゼクティブ・プロデューサー。日本生まれ、オーストラリア育ち。日本でIT企業や広告代理店を経て渡豪。業界を代表するポストプロダクションでプロデューサーとして業務に携わる。2011年に独立し、ビジネスパートナーとAlt.vfxを設立。トップクラスの技術とクリエイティブの力で世界で評価されるスタジオへと成長。ブリスベン本社をはじめ、シドニー、メルボルン、ロサンゼルス、東京に拠点がある
www.altvfx.com/

──Altを起ち上げるにいたった経緯を教えてください。

高田:これが面白くて。共同設立メンバーのコリン・レンショウ/Colin Renshawと僕は当時、オーストラリアの最大手のVFXスタジオであるCutting Edgeに在籍していました。僕はプロデューサーとして、日々楽しく仕事をさせてもらっていましたが、6年程経った頃からコリンと、僕たちが会社を起ち上げたらどうなるかなって話すようになりました。まだ見たことのない世界を見てみたい気持ちが芽生えはじめたんですね。

そんなとき決定的な出来事が。僕たちの住む街、ブリスベンで大洪水が起きました。ちょうどそのとき、日本からの大きなキャンペーン案件が進行中で、それは僕たちにとって"勝負作"となる、難易度の高いCG作品でした。街全体が大洪水で浸水し、都市機能は麻痺し、空にはヘリコプターが飛び、コロナ禍じゃないですけど自宅待機を強いられるほどの災害でした。ビルに入るのも警察をくぐり抜けて入らないといけない状況だったので、僕たちプロジェクトチームは、夜中に会社に忍び込んでサーバを上の階に運びました。水が引き始めた日には最上階の会議室に仮設のワークスペースをつくって作業を再始動していたんです。自分たちのクリエイティブやクラフトへの情熱の強さを実感した出来事でした。この一件で「このメンバーだったらこれからも絶対にいいものをつくれる」と思ったんですね。同じような強い気持ちがメンバーそれぞれの中にも芽生えたんじゃないかと思います。

「ピンチがチャンスを生む」という考え方が僕は好きなのですが、極度のピンチのときに僕らは会社設立というチャンスを見出しました。半年後にはFlame 2チェーン、Avid Media Composer用PC2台、DaVinci ResolveMaya用PC 6台、Nuke用PC3台を導入した、Alt.vfxが誕生しました。当時は画期的なSAN/NAS統合 サーバ「SPYCER BOX」も導入して、デジタル化を見据え最初からテープレスのワークフローを構築したことがポイントでした。

──ドラマのようなお話ですね。起業してからはじめての作品を覚えていらっしゃいますか?

高田:もちろん覚えています。この作品もまた、すごいことが起きるんですよ。まずコリンと僕が退社して独立の準備をはじめたのですが、そのときの僕らの所有物といえばiPhoneとMacBookだけでした。オフィスもないから打ち合わせはカフェ。知名度も所有物も何もない僕たちのところに、コリンと関わりのあった、ガース・デイヴィス/Garth Davisというオーストラリアではスーパースターの監督(『LION ライオン 25年目のただいま』や、現在製作中の『Tron: Ares』で監督を務める)から、コリンに直接仕事の相談がきました。大手のビール会社の大キャンペーンです。「CGでフォトリアルなシカをつくってほしいんだけど、できるか?」という内容でした。当時はCG動物というと、ハードルが高く誰もがやりたくないモチーフだったんですね。通常なら業界のトップスタジオに話がいく案件です。コリンと仲間で色々と議論しながら「僕たちでできる!」と、この案件にコミットする決断をガースに伝えました。

と、そこまではいいのですが、すぐに広告代理店の担当者から電話がかかってきました。

代理店:ところで、会社はあるんでしょうね?
僕:会社は昨日登記しました。
代理店:オフィスはあるんですよね?
僕:ありません......。でも、みなさんが撮影が終わって編集に入る頃には、オフィスはできています。僕はその建物の前に今、まさにいますから!

といった感じで必死に説得しました。

──スタートアップ精神が満載のエピソードですね。それが2012年度のカンヌライオンズでシルバーを受賞したトゥーイーズの『Nocturnal Migration』というわけですね。

高田:ええ、このトゥーイーズのプロジェクトは3ヵ月ほどかけてつくった、僕たちのデビュー戦となりました。そこからはまさにシンデレラストーリーのようでした。「どこがあのシカのVFXをつくったの? Altだって。Altって誰??」って業界がザワついたほど(笑)。ガースをはじめ僕たちに賭けてくれた人たちには感謝しかありません。

『Nocturnal Migration』
カンヌライオンズでVFX部門でシルバー、アニメーション部門でブロンズを受賞。Nukeでコンポジット、Flameでフィニッシュ、3DCGにはMayaMassiveが用いられた
www.altvfx.com/work/tooheys-extra-dry/
Toohey's Beer - NOCTURNAL MIGRATION
Dir: Garth Davis, VFX: Altvfx

メイキング動画

<2>Nothing is Impossible ! ピンチをチャンスに変えるAltのDNA

TOYOTA HIGHLANDER『HEROES』
2020年のスーパーボウルで放映された本作のVFXを担当
www.altvfx.com/work/toyota-highlander/

──今では"Alt"というブランドが確立されていますが"Altらしさ"はどのようにつくられていったのでしょう?

高田:会社設立のきっかけとなったエピソードにも現れているのですが、当時からAltには"妥協しない"というDNAがすでにありました。それがブランド力を築き上げた原動力だと思います。そして「ピンチはチャンス!」ですよね。きっかけとなった大洪水の事件からこの2つのDNAが形成されていったんだと思います。"Nothing is Impossible----不可能なことはない"と、みんなが本気で信じています。

──それらのDNAを支えてきた、企業カルチャーのようなものがあれば教えてください。

高田:ひとつはコラボレーションです。僕たちは第1号作から現在まで、世界的なアーティストと手を組んで作品づくりをしてきました。プロジェクトによって必要なアーティストは異なりますが、社内で補えない人材はプロジェクトに応じて世界各国のアーティストをキャスティングしています。でも 裏を返せば、創業当初は実績もなかったのでそういったやり方でしかできなかったわけですけど。

そして、日本とは逆かもしれませんが、Altはスペシャリストの集団にこだわっていることです。ゼネラリストはいません。コラボレーションをするアーティストもその分野で超越した才能をもつアーティストたちです。トゥーイーズのCMでは動物の表現が難しいと先に触れましたが、僕たちは、イタリアのマシモ・リギさんという動物のスペシャリストをアサインしました。そしてシカの群れの表現では、ロード・オブ・ザ・リングで活躍したMassiveの使い手を口説いて参加してもらいました。リギングはアニマル・ロジックにも在籍していたことがあって、フリーランスとして活動しているスーパースターに頼みました。この考え方は今も変わりません。そういう意味でも、これらの全てを内包しているトゥーイーズのCMは、Altにとって大きな意味をもつ作品です。

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<3>田中秀幸監督、柿本ケンサク監督、河西正勝プロデューサーから届いたお祝いのメッセージ

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<3>田中秀幸監督、柿本ケンサク監督、河西正勝プロデューサーから届いたお祝いのメッセージ

──Altは東京にも支社があり、日本マーケットでも積極的にお仕事をされていますね。

高田:設立当時からグローバルカンパニーとして、世界で活躍したいという強い気持ちがありました。それに私は日本人ですから、日本を含めた世界に目を向けるというは自然なながれでした。起ち上げ当初から応援してくれ、祝福してくれた、日本の人たちとの縁もありました。日本の案件は、実は僕たちの技術力やノウハウを爆発的に上げてくれたものが少なくないんです。例えば、モーションキャプチャ。それまでは、スタジオのなかにセンサーが仕込まれていてモーションを追随していくというのが主流でしたが、僕たちのはセンサーの仕込まれたスーツを着て、瞬時にラップトップに反映させられるもの。早くて、安くて、上手い。僕たちはこのモーションキャプチャスーツをいち早く取り入れた会社ですが、そのきっかけが日本の仕事だったんです。

──実は長年にわたりAltさんとお仕事をしてきた3名の監督とプロデューサーに、10周年のお祝いの言葉をもらっています。ここで紹介させてください。

「まずは10周年、おめでとうございます。

高田さんとは以前から仕事を通しての知り合いで、ポストプロダクションに対する考え方や日本とのやり方のちがいなどをよく話し合っていました。Alt.vfxを創設すると聞いたときにはすごく期待して、チャンスがあったら絶対に一緒に仕事しよう、と思っていました。

始めてAlt.vfxとして一緒に仕事したのは確か「日清カップヌードル」のCMだったと思います。白クマが出て来て氷河期の世界を舞台にした企画を見たときに「Altに発注だ!」って思いました(笑)。

その後も、PEPSI、TOYOTA Vitzシリーズ、TOYOTAシエンタ、PHV、docomoのCMで渋谷の街をつくったり......。高田さんとは一緒に世界中を飛び廻って世界中の色々なDP(Direcotr of Photography、撮影監督)やプロダクションと仕事をしてきた10年でした。

その中で様々なやり方やポスプロの考え方を一緒に見て研究できたんじゃないかと思います。とんでもないハードなシチュエーションも数々ありましたが、今は良い思い出です。世界はこんな状態になってしまいましたが、実は現在も1本一緒に仕事をしています。もちろんリモートですが。

これまで僕たちは色々な方法を確立してきましたが、今はまた全くちがった方法が必要になってきていると思います。終わりませんね。また次の10年もよろしく!!」

NTTドコモTVCM『namie amuro x docomo 25 年の軌跡』
渋谷の街並みはフルCGで仕上げられた
www.altvfx.com/work/ntt-docomo-25th-anniversary/

高田:感謝しかありません。田中さんとの出会いはもう15年前にもさかのぼります。無名のプロデューサーだった僕をスタート地点に立たせてくれたのが田中さんだと思っています。VFXアーティストに対してリスペクトを注いでくれ、作品づくりだけでなく、制作過程でも僕らの提案を全面的に受け入れてくれた人でした。例えば、VFXスーパーバイザーが企画の初期から関わっていくという進め方を、日本の広告業界に前向きに取り入れてくれました。プリビズをスタンダード化したのも田中さんだと思います。今となっては普通のことですが、当時日本にはちゃんとしたプリビズはなくて、絵コンテをつなぎ合わせただけの、CGによる検証要素はありませんでした。その後、日本のプロダクションから「プレビズって何ですか? つくるように言われたんですけど教えてください」って相談の電話がよくかかってきていたんですよ(笑)。

「Alt.vfxは日本映像業界にとっての黒船だ。

その存在は、日本の様々なクリエイターに影響を与えている。Alt.vfx前、後とその時代を区切っても過言ではないのではないだろうか。

VFXそのもののクオリティのみならず、制作過程のプロセスやアプローチなど、その影響と功績は映像制作の行程の多岐にわたる。

僕にとって最強のパートナーであり、困ったときに真っ先に相談する力強い相棒である。

自分の頭の中にある世界を具現化するにはAlt.vfxの存在が不可欠だ。

今現在、彼らと企画している映像が世の中に出ていくのが、楽しみでならない。

世界を揺るがすことになることは控えめに言ってまちがいない」。

『TRANSFORMATION』by KENSAKU KAKIMOTO in collaboration with Luke Bubb, Piotr Stopniak
柿本ケンサク氏とAltのアーティスト、ルーク・バブ氏とピョートル・ストプニアック氏とのコラボレーションアート作品。バーチャルギャラリーは、現在でもアクセス可能

高田:柿本さんからの言葉は、僕が日本のVFX業界に起こしたいと思っていたムーブメントそのものです。それを切り取ってくれたというのは幸せです。こういうお言葉をまた10年後にかけてもらえるように、何倍もがんばらなくてはいけないですね。柿本さんは演出家の枠を飛び越えたアーティストであり、ボーダレスな存在です。たくさんの人に刺激を与えているし、その分背負っているものも大きいのではないでしょうか。これまで何作もご一緒させていただいていますが、コロナ禍ではアートプロジェクト『TRANSFORMATION』をお手伝いさせていただきました。シドニーやベルリンにいるAltのデジタルアーティストと一緒に、AIによるマシンラーニングを取り入れた作品になっています。

「高田さん、そしてコリン、創立10周年、誠におめでとうございます。

初めてお仕事をさせていただいたのは、『SUNTORY PEPSI NEX 桃太郎シリーズ』の立ち上がりでした。あれは2013年の頃かと思いますので、もう8年前ということになります。

鬼のデザインを決めるにあたり、井口弘一監督と何度もやりとりをし、始まったときから大変でした。ロサンゼルスの海や、砂漠での昼夜を問わずのロケに同行してもらい、ロケ中もずっと鬼のデザインやアニメーション、足らない背景などの打合せをしていました。ポストプロダクションの段階では、監督のリアリティに対する思いや意見がぶつかり合って、何度も何度も修正作業が入り、Altチームがそのうち降りてしまうのではないかとハラハラしていましたが、最終的には非常に高いクオリティのものができ上がり、素晴らしい仕事となりました。このクオリティがあったからこそ、4年も続くキャンペーンになったのだと思っています。

その後も高田さんとは様々な仕事で一緒によく海外ロケをしたものです。アメリカをはじめ、オーストラリア、チリ、イタリア、フランスなど数え上げたらキリがありません。

タイで毎年行われるADFEST(アジア太平洋広告祭)で、2017年にAlt.vfxがプロダクション・オブ・ザ・イヤーを受賞したときは、一緒に壇上にも上がらせていただき、非常に光栄な体験もいたしました。

どの仕事でも手を抜くことはなく、最高のクオリティのものを出していただけたことには感謝しかありません。

これからも高いクオリティのお仕事をご一緒させていただき、末長く益々ご発展されることを祈念しております」。

『PEPSI STRONG MOMOTARO EPISODE 4』
映画のようなクオリティで日本の童話「桃太郎」を大胆にリメイクした話題作
www.altvfx.com/work/pepsi-strong-episode-4/

高田:愛のあるメッセージをありがとうございます。メッセージからは「これからも手を抜くなよ」っていう真のメッセージをしっかりと受け止めましたよ。Altにとってペプシシリーズはとてもアイコニックな作品となりました。TUGBOATの多田 琢さん、井口弘一監督にも本当にお世話になりました。桃太郎という日本の誰もが知っている昔話だけに、期待を裏切ることは許されない案件でプレッシャーは大きかったです。ある意味「Do or Die(やるかやられるか)」という気持ちで挑みました。オンエアされたときは「なんだこのロックモンスターは!?」と、たくさんの称賛の声を世界中のクリエイティブとアーティストから頂戴して、嬉しかったですね。このCMがきっかけでAltに入ってきた社員も何人かいます。鬼のデザインについては、砂漠のテントでプレゼンをしたときのことを鮮明に覚えています。3ヵ月間、僕たちはコンセプトをディベロップしてきました。その間は途中経過を見せない状況が続きました。ラスベガスの砂漠で撮影終了後、多田さんと井口さんのいるテントに行って、コリンと一緒にプレゼンをしました。もう、そのときの緊張感ったらなかったです。「良いのができそうだね」と多田さんに言われたときは、本当に胸をなでおろしました。

<4>会社の戦略としてのDX化への投資

▲ ブリスベンのオフィス内観。長いデスクはワークフローに沿ったレイアウトとなっている

──外部のスペシャリストと積極的に仕事をされているということですが、フリーランスのアーティストを受け入れる体制や整備面での工夫はありますか?

高田:AltはDX化への投資を設立当社からかなり積極的に行なっています。オフィスには大きな長机があって、作業のながれにそってステーションごとに区切り、やり取りが瞬時にできるように設計しています。各部署のヘッドはテクニカルディレクターを兼ねているので、スタッフの約1割がTDです。彼らはバックエンドのAI化やオートメーション化を日々更新してくれています。そのおかげで70人規模の会社ですが、150人規模の生産性を実現していると自負しています。

フリーランスのアーティストは、座った瞬間から即戦力として力を発揮してもらえるので、アイドリングタイムが発生することはありません。1時間以内にはコンポジットしてパブリッシュできる、オートメーション化したパイプラインを構築しています。

コロナ禍の現在はリモートで作業を行うことも多いのですが、実はずっと前からリモートワークが可能なパイプラインを構築済みでした。コロナ禍によって、実際に運用するタイミングが早まり、今では全TDとコンポジターの自宅でスタジオ内で作業するときと同等のパフォーマンスを発揮できる環境を整えています。リモートワークでは自宅のPCで作業する人が多いと思いますが、データ転送など時間の無駄になるので、各自にターミナルを準備してそこに接続してもらい、社内のサーバにつながるようにしています。そのサーバはデータセンターにあります。それによって安全、クリーンエネルギー、セキュリティ対策、スケーラビリティを実現しています。常に無駄をなくすための投資には力を入れています。

──アーティストは雑務に時間を取られることなく、クリエイティブに集中できる環境づくりを徹底しているんですね。

高田:まさにその通りです。なぜそこまでするのかというと、ワーク・ライフ・バランスを真剣に考えているんですね。イヤじゃないですか、マニュアル的な作業に時間を取られてしまうのって。そこはAIにおまかせしましょうよと。夜には帰宅して家族と食卓を囲み、週末は休む。その努力を惜しまない。日々仕事量は膨大に増えていきますから。DX化は、会社の戦略のひとつです。

<5>VFXスタジオから、クリエイティブ・テクノロジー・カンパニーへ

▲ メルボルン支社に掲げられたT&DAの看板

──時代の変革期とも重なり、Altの濃い10年でしたね。Altの"これから"をどのように見ていますか?

高田:近年クライアントが様変わりしたと申しましたが、たとえば10年前、Web広告は僕たちVFX業界ではまったく縁のない媒体でした。それに加えてARやVRといった様々なデジタルプラットフォームが増えたことによって、つくるものや内容、しくみが変わってきたと思います。一方でビッグアイデアのTVCMは数が減りました。Altのビジネスもトランスフォーメーションしなければなりません。今Altはクリエイティブ・テクノロジーカンパニーとして成長をしています。これまでやってきたVFXを軸足に、AR、VRのプロダクションを担う、T&DA(テクノロジー&デザインエージェンシー 通称:タダー)を新たに起ち上げました。そして、デザインに特化した会社、New Holland Creativeも少し前に起ち上げました。

Netflixをはじめストリーミング系のリッチコンテンツや長編の需要という大波が押し寄せてきています。10年前にはなかったことです。それはオーストラリアが国策として、映像産業を支えるために補助金を出していることにも起因しています。簡単に言うとオーストラリアで1億円の撮影やVFXをした場合、国と州が5000万円の補助金を出します、というものです。コロナ禍でオーストラリアは世界的に見ても安全な場所だということがはっきりしました。ロケーションもいいし、スキルの高い人材も揃っている。クオリティも担保できるというのでブームが起きています。一方でコロナ禍で人材の流動が制限され、人材不足が深刻化しているという課題があります。

──高田さん個人として、未来にどんなビジョンをおもちでしょうか?

高田:こんなにクリエイティブで面白い、夢も希望もある業界なのでもっと盛り上げていきたいですね。これまで以上に日本のVFX業界にも貢献したい気持ちもあります。知見を共有したり、ちがうアングルで刺激をもたらせないかなって。日本のアーティストには、もっと積極的に世界にチャレンジして欲しいですからね。謙虚な国民性ですが、モノづくりに関しては貪欲で良いと思うんです。今後もより多くの日本人のスーパースター級のクリエイターが生まれてくると信じています。

最後になりましたが、この10年間は良い波に乗れたと思います。支えてくれたパートナーのみなさんには感謝しかありません。またパドリングをして新しいチャレンジの波に向かいたいと思います。途中でワイプアウトされないよう、よりタフに成長したいと思っています。