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2015 年2月7日、8日にわたり開催されたクリエイティブカンファレンスFITC Tokyo 2015。スピーカーとして初来日を果たしたAsh・Thorp(アッシュ・ソープ)氏のインタビューをお届けする。ソープ氏はクリエイティブ・ディレクター、グラフィックデザイナー、ディレクターとして、「エンダ―のゲーム」「猿の惑星: 新世紀」といった長編映画のグラフィックスやモーショングラフィックスを手掛けてきた。
「AKIRA」や「攻殻機動隊」に影響を受けて育った、サムライスピリッツをもつアメリカ人アーティスト、ソープ氏がクリエイションのこと、ワークスタイルやアーティストとしての姿勢までを語る。

攻殻機動隊へ愛を込めて。世界のアーティストとコラボした
「PROJECT 2501 - HOMAGE TO GHOST IN THE SHELL」

ーーイラスト、グラフィックデザイン、動画のディレクションからクリエイティブディレクションまで幅広くい活動をされていますね。

自分のやっていることに肩書きをつけられないんです。あえて言うと"クリエイティブな人"ということでしょうか。

ーープロローグ社に就職してキャリアをスタートさせたそうですね。

プロローグには1年ほど勤めていました。カルフォルニアのベニスのプロローグまで毎日往復7、8 時間かけて通勤し、11 時間程度働くというハードな環境でした。今はサンディエゴの自宅でフリーランスとして働いています。

ーーそのモチベーションは何だったのでしょうか?

家族を養うこと、そして自分が情熱を傾けるアートで生計を立てていく手段でした。子供のころから絵は描きつづけていましたが、プロローグに入る前は何の経験もありませんでした。「AKIRA」や「攻殻機動隊」、そして「ターミネーター」などのハリウッド映画が大好きで影響をうけて育ちました。映画というのは、私にとって特別な存在で、いつかかかわりたいと思っていたのです。静止画は美しい。でも、動画はパワフルです。グラフィックスが動きをもち、生命を宿しいく様に心を奪われます。ですから、映画の世界へキャリアを進めるのは自然な流れでした。

PROJECT 2501 : HOMAGE TO GHOST IN THE SHELL from Ash Thorp on Vimeo.

Ash thorp - Director / Producer / CG Artist|Tim Tadder Photographer|Filipe Carvalho -Art Director / Designer

公式サイトはこちら

ーー「AKIRA」や「攻殻機動隊」に影響を受けたとありますが、日本カルチャーのどういうところに魅了されるのですか?

情熱に溢れているところです。私の頭の中はカオス状態でいろんなところに興味が散乱しています。でもこれらの作品は一つのことに集中し最高のものを生み出しています。そういう所に感動します。

10 歳のころ「攻殻機動隊」を観てとんでもない衝撃をうけました。それまで、あのようなアニメーションを見たことがありませんでした。アメリカのアニメーションが足元にも及ばないほど美しくて、コンセプトやアイデアといったビジュアル表現の裏に横たわるものに感動しました。「ああ、自分はこういうのものが観たかったんだ」って。私がアーティストとしてこうしていられるのも「攻殻機動隊」のおかげで、その恩返しのためのプロジェクトが「PROJECT 2501 - HOMAGE TO GHOST IN THE SHELL」なんです。プロローグで習得した映画制作のノウハウで、攻殻機動隊の世界を実写とCGの世界に翻訳したものです。もちろん、ファンとして、原作に忠実であることを心がけています。

このプロジェクトは14ヶ月に渡る壮大なものへと発展しました。最初は友人のフィリップ・カルヴァーリョ(アートディレクター/デザイナー)とフォトグラファーのティム・タダーらと小さなプロジェクトとしてスタートしました。

ティムが撮影した写真が素晴らしいものに仕上がりました。それを見たとき、「ああ、これは自分のベストを尽くさなくてはいけない」と実感したのです。この美しい写真にマッチさせるためには背景も美しくなければいけないからです。そうしてこのプロジェクトは世界中の40 名のアーティストとコラボレーションする大きなものとなりました。

ーーーこれらの美しい静止画がいつの日か映画作品になることを期待しているファンも多いと思います。

私もそのうちの一人です(笑)。でも、現在は別のプロジェクトに集中していて、映画作品を作るには資金不足なんです(笑)。

「エンダーのゲーム」の繊細で壮大なUI デザイン

ENDER'S GAME - MOTION GRAPHICS REEL from Ash Thorp on Vimeo.

Lead Motion Graphics designer: Ash Thorp

ーー映画「エンダーのゲーム」のUI は繊細かつ壮大なグラフィックスとモーショングラフィックスをディレクションしています。

フリーランスになって初めてのプロジェクトでした。映画だし大きなチャンスだったのですが、UI の仕事をしたことはなく、UI が一体なんなのかも知りませんでした。私はその感覚を生かして取り組むことにしました。UIをコミュニケーション手段と捉えるのではなく、ビジュアル体験、エンダ―の"意識"を描くことにしました。 "天才の頭の中を覗いたようなグラフィックス"をコンセプトに複雑な美しさを追求しました。1年半にわたる長期プロジェクトで、650 点ものPhotoshop ファイルをこの映画のために制作しました。 モーションのディレクションでは、コンセプトを練ってプロダクションデザイナーのベン・プロクターと監督のギャビン・フッドに提案し、密にやり取りを重ねたのち、VFXスーパバイザ―のマシュー・バトラーと協業して映画へ取り込んでいきました。

ーーグラフィックス制作のプロセスを教えてください。

脚本を読んで、グラフィックスを感じるところをハイライトしていきました。次に頭の中を翻訳し、スケッチブックに絵を描きます。その絵をコンピュータに取り込み、デュアルモニターの一つにそれを表示させ、Illustrator とPhotoshop で描き直していきます。コンピュータ上でディテールを加えながら、これでいいと思うまで続けます。仕上がったらPhotoshopにもっていき、主人公の画像に合わせてPhotoshop 上にレイヤーにわけキーフレームを描いていきます。Illustrator とPhotoshop を行き来しながらアイデアを純粋なまま引き出すように心がけました。

今回、Adobe Shape というiPhone用のアプリケーションを知り、使ってみたいと思っているんです。ベッドでリラックスしながら紙に描いたスケッチも、Adobe ShapeならiPhoneで撮影してIllustratorのパスに即座に変換してくれて、しかもデータをクラウド上に保存しておけるから、スケッチブックのように紛失する事もなく、常にアイデアはそこにあるわけですからね。

チーム作りと監督という役割について思うこと

FITC Tokyo 2015 Titles from FITC on Vimeo.

ソープ氏は FITC Tokyo 2015 のメインビジュアルとタイトルバックを手掛けている。アメリカ人からみた東京のイメージをコンセプトに、伝統を持ちながらもカオスとともに推し進めている東京の街がラストでは俯瞰になって描かれる。

Director: Ash Thorp|Producer: Andrew Hawryluk|Art Director: Michael Rigley|Type Designer:Nicolas Girard
Designers: Ash Thorp, Michael Rigley, Nicolas Girard|Type Animators: Nicolas Girard, Alasdair Willson|Animators: Michael Rigley, Chris Bjerre,Andrew Hawryluk |Computational Artist: Albert Omoss|Process Editor: Franck Deron|Composer: Pilotpriest

ーーチームで映像制作をされていますが、チーム編成は重要な要素だと思います。よいチーム作りのためにどのようなことを心がけていますか?

よいチームを築けなければ、よい作品を作ることはできません。監督として大切にしているのは、みんなの個性を理解することです。インターネット上では作った作品を見ることができますが、その作り手が果たして締め切りを守るタイプなのかはわかりません。チームづくりには3つのポイントが大切です。いい作品を作っているか?時間を守れるか?いい人間か?これらをカバーしている人とだけ一緒に働きたいのです。監督業とは、いいチームつくりをしてみんなのポテンシャルを最大限に引き出すことだと思っています。

アーティストとしての生き方。人生100%を捧げるサムライスピリッツ

lostboy

『LOST BOY』
ソープ氏が全身全霊で取り組んでいるパーソナルプロジェクト「LOST BOY」からのラフスケッチ。美術館に展示される写真のように4K の解像度で圧倒的なイメージ制作を目標としている。
http://www.ashthorp.com/lost-boy

ーー「LOST BOY」というパーソナルプロジェクトを始動されています。

アーティストという生き物はクリエイションに対して無邪気なところがあると思うのです。大人になって、何が正しくて何が間違っているのかを教えられます。でもそれは他人の意見です。クライアントの為にクリエイションをするのではなく、子供のころのように純粋にクリエイティブに向き合いたいと強く思い始めたのです。ひたすら絵を描くことに取りつかれていて、すでに500 枚も描いています。この情熱は大きなものに化けそうです。長編映画をメジャースタジオと作るかもしれません。そして日本の影響がたくさんつまったクレイジーな作品になること間違いなしです。

ーー短期間で成功をされていますが、クリエイティブにどう向き合ってきたのでしょう?

人生の100%を捧げる覚悟ですね。その覚悟がないのならやるべきではないと思います。私がコマーシャルをやらないのもそういった理由です。言ってしまえば、自分を含めみんないずれ死ぬのです。だから時間は、自分が得意でやりたいことに使うべきだと思うのです。私は人生でポジティブなインパクトを残したい。それを見た誰かが刺激を受けたり、つながりを感じてもらえることに人生の価値を感じるのです。

ーークライアントワーク、自主制作と精力的ですが、意図的にバランスをとっているのでしょうか?

まさに、毎日自分に問いかけていることです。バランスを取るのは挑戦だと思っています。クライアントワークは家計を支えるためにも重要です。でも、今は自分の作品を作る時が来たと感じているのです。両立させるために時間を厳密に管理しています。前の日の夜に、その日のスケジュールを組んでタイマーをかけます。3時間働いて、1時間は柔術、また仕事にもどって、最低2、3 時間は「LOST BOY」に費やすようにしています。そうやって毎日こつこつ忍耐強く積み重ねていった先には大きな世界が広がっていると信じて います。

ーー今後の予定を教えてください。

最優先はやはり「LOST BOY」ですが、今、パーソナルワークでゲームも作っています。半年後くらいにはクラウドファンディングにプロジェクトを立ち上げる予定です。ゲームは映画がインタラクティブになってプレイヤーがキャラクターに命を吹き込ませることができるとてもエキサイティングなメディアです。 将来の夢は、大友克洋の「童夢」のアダプテーションを作ること。それと「LOST BOY」を日本のマッドハウスと一緒に作れたら夢の様だと思います。

TEXT_山本加奈