[PR]

米サンフランシスコで毎年3月に開催されるGame Developers Conference(GDC)。毎年、約2万人が参加する世界最大の国際ゲーム開発者会議だ。『メタルギアソリッド(MGS)』シリーズの総監督として知られるKONAMIの小島秀夫氏は、GDC2009の基調講演に登壇。「これまではゲームデザインで不可能を可能にしてきたが、次回作『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN』(以下、MGS5)では技術力の助けも得て、不可能を可能にする」と宣言した。

4年後の2013年3月。小島氏と開発チームはその「答え」をもってGDCに帰ってきた。新生「FOX ENGINE」のデモンストレーションだ。いたずらに汎用性を求めるのではなく、『MGS5』を開発することを目的にフルスクラッチされたゲームエンジンの性能に、会場を埋め尽くした多くの開発者は息をのんだ。「FOX ENGINEで世界の頂点を狙う」と宣言した小島氏に、参加者は惜しみない拍手を送った。

そして今、小島プロダクションが満を持して『MGS5』制作スタッフを募集する。世界の頂点を狙うために必要な人材とは何か。シリーズを通して開発に携わり、『MGS5』ではCGアートディレクターを務める佐々木英樹氏に話を伺った。

次世代機の足音が近づく中で、ファンの期待に応えるために必要なこと

『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN』 GDC 2013 Trailer

PlayStation4に続き、次世代Xboxの発表も行われ、いよいよ次世代ゲーム機の幕開けが近づいてきた家庭用ゲーム市場。中でもAAAタイトルは、ゲーム産業全体全体のショウケースという意味もあり、最も注目を集める存在だ。

そうしたタイトルの一つとして、全世界から熱い期待を集めているのが、シリーズ最新作の『MGS5』。土台となるFOX ENGINEの開発も一段落し、いよいよゲーム部分の本制作が始まった。佐々木氏も「日本から発信するAAAタイトルとして、威信をかけて制作している」と語る。

大作化の進展と共に効率化が求められる昨今のゲーム業界。今ではAAAタイトルといえども、汎用ゲームエンジンをライセンスし、その上で開発される例が増えている。それでも小島プロダクションでは、あえてリスクを取って独自エンジンを開発する決断を行った。なぜなら、それがシリーズの最新作を心待ちにしている、熱いファンの期待に応えるための、たった一つのやり方だったからだ。

FOX ENGINEの背景にある開発哲学は「目的に対する最適解の探求」だ。それは物理ベースによるライティングといった、細部の方法論に留まらない。キャラクターモデリングでは、はじめに頭部のクレイモデルを作成し、特殊メイクを施した後に3Dスキャンでデータ化。衣服もファッション業界で用いられる服飾デザインツール「Marvelous Designer 2」で、型紙に即したパーツから作成する方法を採用した。目的とは「おもしろいゲーム」を作ることに他ならない。制作の効率化が進めば、それだけ作り込みに力が割けるからだ。


FOX ENGINEでは物理ベースのライティングを採用している。光源の変化や天候の変化といった多様な条件下においても柔軟に対応できる。

FOX ENGINEでは高精度のモデルデータを取得するために3Dキャプチャで撮影し人物データからクレイモデルを作成した上で、そこにさらに皺など特殊メイクを施してから再度3Dキャプチャしている。究極的なフォトリアルを追究する姿勢がここにある。

konami

「Marvelous Designer 2」を使った衣服制作。2Dの型紙を編集することでリアルタイムに衣服の 3DCG をシミュレートすることができる。

「開発手法に抜本的な改革が必要だということは、『MGS4』の開発中から議論になっていました。特にモデリングに関しては、品質をあげつつ、コストの上昇をいかに抑えるかが大きな課題となります。慣れ親しんだ制作手法も、時には自ら否定して、作り直す必要があります」と佐々木氏は語る。スタジオ内には誰もが情報を書き込めるアーティストのための技術情報を共有する社内ネット掲示板を作成。「Marvelous Designer 2」もスタッフの一人が書き込んだ情報が元になっているという。

高い専門性と創造力がゲームならではの作品世界を作り出す

konami

もっとも、FOX ENGINEの目的は「現実のトレース」ではない。そこから、いかにオリジナリティを加えて、ゲームならではの世界観創造やゲーム体験の提示ができるか。それがアーティストやプログラマに求められるスキル。その意味を理解して、共にAAAタイトルを作り上げられるメンバーに参加してもらいたい・・・。佐々木氏はそのように語る。

そのためにまず必要な資質は、高度な専門性であり、情報や技術に対する探究心だ。佐々木氏は「DCCツールの使いこなし方だけでも、日本のアーティストは海外に比べて遅れていると感じます。日頃接している情報量が日本語圏と英語圏では異なることも大きな要因でしょう。」と語る。そうした現状を正しく理解していれば、日常的にインターネットなどで英語の開発情報を収集するのは当たり前のこと。語学力不足を言い訳にはできない、というわけだ。

一方で幅広い創造力が求められることは言うまでもない。クリエイターはつい目先の制作物に対するクオリティアップに目が行きがちだが、ゲームの企画内容に即した表現を選択するという原則は、いつの時代も変わらない。つまり作品とは「専門性と創造性のかけ算」で生み出されるというわけだ。それが凝縮されているのがポートフォリオやデモリール。小島プロダクションに応募する際には「作品としての提出物を期待しています」という。

ゲーム業界だけでなく、映像やCG業界のアーティストやプログラマーも歓迎だ。ゲーム開発では得られない、専門的な知見が加わるからだ。一方で「小島プロダクションで何か教えてもらえるという期待は持たないで欲しい。逆に我々が知らないことを教えに来て欲しい」という。そうしたプロフェッショナル同士が切磋琢磨し、情報を共有しながら、新しいゲームを作りだしていくことが、小島プロダクションの価値観となっている。

漫画・アニメなど、日本のポップカルチャーは世界でも非常にユニークな存在だ。満天の星空を多くの人が見上げている一方で、井戸の水面に映った星をただ一人、じっと眺めている。それが日本のゲーム制作だといえる。しかし、だからこそ世界に通用する、オンリーワンな作品を作り出す力を秘めているのだ。そうしたチームの一員として、日本から世界に通用するAAAタイトルを発信する。それは、非常に幸せなことではないだろうか。

TEXT_小野憲史