今回は、ハンガリーのCGアニメーションスタジオDigic Picturesにて活躍中の日本人アーティストを紹介しよう。北米でハリウッド映画のVFXやアニメーション・スタジオでの経験を積んだ後、同社が拠点をかまえるブダペストに移住した松本憲明氏である。多種多様な国籍のアーティストたちと制作を進めていくにつれ、「異文化の交流はものすごく興味深い」と感じているのだとか。

TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe

ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に「海外で働く日本人クリエイター」(ボーンデジタル刊)、「ハリウッドVFX業界就職の手引き」等がある。

公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」



Artist's Profile

松本憲明/Noriaki Matsumoto(Digic Pictures)
兵庫県出身。1999年に日本大学 生産工学部建築工学科を卒業後、DHIMA(デジタルハリウッド・サンタモニカ校 ※現在は閉校)に留学し、3DCGを学ぶ。その後、Entity FXでのインターンを経て、同社に就職。Entity FXではVES Awardに5回ノミネート。以降、Animal Logic、DreamWorks Animation、MPC Montreal、Gradient FXを経て、2015年6月にハンガリーの Digic Pictures に Effects Artistとして移籍、現職。



<1>海外を目指したきっかけ

ーー日本での学生時代についてお聞かせください。

松本憲明氏(以下、松本):大学では建築を勉強していました。「ダメだなぁ。才能ないなあ......」と、悩みはじめた頃に、Macと出会いました。CADではなく、設計課題のプレゼン用にPhotoshopを使っていたことがきっかけだったのですが、そこから「CGって面白いなぁ」と。建築を諦めていたこともあり、あっさりと興味が移っていきました。そして大学卒業後は就職せずにフリーターをしながらデジタルハリウッド(以降デジハリ)のMac総合Proコースに半年通ったのですが、一連のカリキュラムの中で3DCGの授業が一番楽しかったんです。もっと本格的に学びたいと思い、当時存在したDHIMA(デジタルハリウッド サンタモニカ校)へ、1年間の留学をしました。

ーーDHIMAではどのようなことを学ばれたのですか?

松本:ほぼ毎日、1日中、CG漬けでした。4人で共同生活していたのですが、リビングルームにみんなの机を並べて、ひたすらCGにハマってました。僕のように怠け者で、すぐダラダラする人間には最高の環境でしたね。周りから良い刺激、影響を受けまくって、ずっとPCに向かっていたのですが、今思いかえしても本当に充実した"熱い1年"だったと思います。

ーー英語や英会話のスキルはどのように習得されたのですか?

松本:高校時代の英語は常に「赤点超え」が目標(高3の3学期末試験でグラマーが2点でした!)だったりしたので、留学した当初は自己紹介もまともにできませんでした(苦笑)。働き始めてから、同僚や上司にたくさん話してもらって、たくさん聞いて、わからなかったら聞き直して、ということをくり返しているうちに、ちょっとずつ言い回しを覚えていったように思います。未だにボキャブラリはものすごく少ないし、文法もメチャクチャです。ボキャブラリをより多く知っておくこと、文法をちゃんと理解していることはもちろん重要ですが、少なくとも僕にとって一番重要なことは、「相手とコミュニケーションする」ということ。決して、多彩なボキャブラリを使いこなし、文法的に正しい英語を話すことが僕の目標ではないので、それほど気にしてないです。とは言え、世の中良い人ばかりではないので、文法ができていないせいで「何だコイツ。英語話せないのか?」と露骨に怪訝な顔をされたことは何度もあります(苦笑)。こればかりは運もありますが、素敵な友人を手に入れることが英語の習得には一番だと思います。その友人が話好きなら最高ですね。

ーーDHIMA卒業と同時に現地で就職活動をはじめたそうですね。

松本:DHIMA卒業後に行なった最初の就職活動は、8ヶ月ほど続きました。のべ100社以上は応募しましたね。当時は、現在のようにWebサイトからの応募ではなく、ビデオテープを郵送する必要があったので送料も含めると、相当なお金と手間がかかりました。送った後は、「先週、デモリールを送りました。見ていただけましたか?」と言う内容のメールを返事がくるまで毎週出し続けたりも。僕のメアドがスパムに設定されてしまったこともありましたが(苦笑)、唯一、Entity FXというサンタモニカにあるブティックススタジオが採用面接に呼んでくれたんですが、無事にJ-1ビザをサポートしてもらえました。その後はロサンゼルス、シドニー、モントリオールと、いくつかの国にわたる様々なスタジオで働いてきたのですが、現在は、ハンガリーの首都ブダペストにあるDigic Pictures というプロダクションで働いています。

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<2>Digic Picturesのワークスタイル

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<2>Digic Picturesのワークスタイル

ーーDigic Picturesは、どのような職場ですか?

松本:主にゲームのシネマティックムービーを手がけていることで知られています。最近では、映画『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』の冒頭バトルシーケンスを担当しました。この作品は、Digic史上、2作目の映画プロジェクトとのことです。プロジェクトは常に複数走っていて、かつ、向こう2年くらいはスケジュールが埋まっています。そのため次のプロジェクトの心配や、契約終了の期日などを気にする必要がないので、精神的にものすごく安心感があり、仕事に集中できますね。

Final Fantasy XV - Omen Trailer from Digic Pictures on Vimeo.

ーー日本では、ハンガリーのCG・VFX業界はまだ知られざる存在です。

松本:実は、Digicが初めて海外から採用したアーティストが僕なんです。まさにパイオニア(笑)。僕が入社したのを機に国際化が進んでいて、1年間で外国籍のアーティストが20名以上になりました。社内ツールの英語化も徐々に進んでいます。でも、社内のコミュニケーションはやっぱりハンガリー語がメインになっています。ちょっとでも理解できたらなあ、とは思っているのですが、ハンガリー語は世界屈指の難解な言語なので、まだ、ごく基本的な挨拶しかわかりません(苦笑)。

ーーハンガリーの国民性について教えてください。

松本:ハンガリー人はとてもシャイな民族だと思います。社内でも、英語が話せない、苦手、という人も多いのですが、上手く話せないから、話したがらない、という人が多い気がします。とてもシャイなんですけれど、素敵な人ばかりですよ。社長をはじめ、みんなが笑顔で挨拶してくれて、本当に気持ちがいい。ハンガリーは通貨価値が低いので、アメリカで働いていた頃と比べて給料は圧倒的に減りました。でも、僕は、綺麗事ではなく、お金のために働いていないので、全然気にしていません。素敵な仲間たちと、やりがいのある楽しいプロジェクトこそが、自分にとって何よりもかけがえのないものです。

新・海外で働く日本人アーティスト 第5回:松本憲明

Digic Picturesの仕事場にて

ーー日常生活についてはいかがですか?

松本:僕はブダペストの街が大好きです。美しい東欧の街並みは言うまでもないですが、それと同時に、巨大な銅像などコミュニズム(共産主義)の名残も街のいたるところに点在しているのも興味深いです。ハンガリー料理も好きですね。とても脂っこくて、味付けも濃いので、そればかり、というのはさすがに無理ですが(苦笑)。特筆すべきは、街がとても安全だということです。治安の良さは日本と同等レベルではないでしょうか。夜中の3時に、大通りから離れた細い道を若い女性が1人で歩けるレベルです。人種差別も経験したことはありません。日本人、アジア人ということで見下されることは、まずないと思います(私見ですが、シドニーでは特に多かったりしたので)。難点は、日本のものがほとんど手に入らないことでしょうか。日本の食材も非常に限られているので、自ずと高価になっています。その分、パプリカなどハンガリーならではの味を楽しんでますよ。

ーー最後に将来、海外で働きたい人たちへのアドバイスをお願いします。

松本:いくつかの国を経験して思うのは、異文化の交流はものすごく興味深い、ということです。ブダペストでは、日本人がそれほど多くないこともあり、彼らも日本に対してとても興味があるようです。様々な国から来ている外国籍の同僚たちの「うちの国では......」という会話はいつも面白いです。海外に行っても、日本人同士でつるむのではなく、色々な人と触れ会うことができたら、もっと楽しい、本当の意味で視野が広がると思いますよ。

【ビザ取得のキーワード】

1.日本大学を卒業後、DHIMAで3DCGを学ぶ
2.DHIMA卒業後、現地(サンタモニカ)のEntity FXで勤務。1年間、J-1ビザで勤務後にH1-Bビザを取得
3.オーストラリアのAnimal Logicへ移籍。2年間の勤務後、再びLAのDreamWorksへ(O-1ビザを取得)
4.ハンガリーのDigic Picturesへ移籍。「レジデンス・パーミット」(居住許可証)を取得



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