今回はロンドンのダブル・ネガティブで活躍されている竹本宏樹氏にお話を伺った。竹本氏は高校の頃から映画業界に憧れ、一度は内装デザインの会社に就職したものの、映像制作への思いを断ち切れずVFX業界への転職を果たした。そんな竹本氏がどのように夢を叶えていったのか、紹介していこう。
TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
Artist's Profile
竹本宏樹/Hiroki Takemoto(Double Negative:Generalist TD)
大阪出身。1999年大阪市立工芸高等学校(映像デザイン科)、2001年に大阪ヒューマンアカデミー(OA事務科 CGクリエーター専攻)を卒業。デザインオフィスJINにて大型商業施設内装デザインおよび映像デザイナーとして働いた後、半年間の語学留学へ。帰国後の2003年、大阪のCG制作会社でジェネラリストとしてキャリアを再スタートし。フリーランスを経て、2010年デジタル・メディア・ラボに入社。その後、再びフリーランスを経て2016年8月にロンドンのダブル・ネガティブへ移籍し、現在に至る。
<1>映画への憧れから、3DCGを仕事に
ーー映像業界を目指すことになったきっかけを教えてください。
竹本宏樹氏(以下、竹本):幼少時、ファッションデザイナーだった叔母の影響から映画を観るようになり、映像制作に興味をもちました。中でも3DCGに強く興味を惹かれ、将来はハリウッドで映画をつくりたいと漠然と思うようになりました。中学生時代は塾と部活動の毎日でしたが、卒業後は美術や映像の勉強ができる工芸高校へ進学しました。この高校では、主に3DCG・写真・映像などを勉強できたのですが、当時は写真の授業がとにかく苦手で、なかなか良い写真が撮れず苦労しましたね。一方で3DCGと映像制作の授業はとても楽しく、コマ撮り作品や恋愛映画などを制作した思い出があります。この頃から映画の3DCGをつくる仕事に就きたいと具体的に考えるようになり、卒業後は専門学校に進学し3DCGをより詳しく勉強し始めました。ですが勉強よりも、バイトに明け暮れる毎日を送っていましたね。
ーー海外に渡る前に日本でも就職されていますが、どんなお仕事をされていたのでしょうか。
竹本:専門学校卒業後、映像制作のできる建築デザイナーを募集していた大阪のデザインオフィスJINという会社にインターンを経て入社しました。ここでは主に図面や3D建築パースの制作のほか、プレゼンや店頭ディスプレイ用の映像を制作していました。しかしどうしても映像の仕事をメインにしたいという気持ちがあり、とにかくMayaに触れる仕事に就こうと思い立ち、大阪の3DCG制作会社に転職しました。この会社ではゲームのキャラクターモデリング、背景モデリング、アニメーションなどをおそよ4年間、担当しました。その後、キャリアアップを目指して上京し、フリーランスを経てデジタル・メディア・ラボに移籍。この頃から、プロジェクト・リーダーやパイプラインなどに関するテクニカルアーティスト、そしてリードゼネラリストとして働き始め、モデリング、アニメーション、リギング、ルックデブなど、様々な部門での業務に携わるようになりました。この頃に学んだことが、その後、ゼネラリストテクニカルディレクター(以下、ゼネラリストTD)として働くための知識やスキルとして、とても役立ちました。自分でも大きく成長できた時期だったと思います。
その後はフリーランスとして、NHKのCG/VFX部門、グリオグルーヴ、リンダチーム、シネグリオチーム、東映アニメーション、PECOなどで、ディレクションからアニメーション、モデリング、ルックデブ、ライティング、パイプラインツール制作など様々な分野でお手伝いさせていただきました。
ーー海外で働くための就職活動は、どのように行なったのですか?
竹本:海外での就職を意識し始めたのは自分が30歳くらいのころでした。挑戦へのタイムリミットを考え、32歳で転職した時に、具体的に就職活動を開始しました。まず最初の課題は、デモリールの制作でした。当時、個人アピールできるだけの材料をもち合わせてなかったので、CMやドラマ、映画などの仕事をする傍ら、1年間かけてデモリールを制作しました。2年目からは書籍『ハリウッドVFX業界就職の手引き』や各所からのアドバイスを参考に、めぼしい求人に応募しながら、書類づくりやデモリールのクオリティアップ、英語のレッスンなど、並行して準備を進めていきました。
そんな時に頭を悩ませたのは、「どの部門に応募するか」という点でした。日本ではゼネラリストとしての活動が多かったのですが、海外での様々な募集を検索しても、私が希望していたゼネラリスト枠が少なかったのです。そのため、第一希望はゼネラリストTDを募集していたダブル・ネガティブに定めつつ、ほかにも可能性がある求人に応募していきました。なかなか良いリアクションが得られず、行き詰まっていたところに、バンクーバーのダブル・ネガティブから面接の機会をいただきました。
そのときは準備不足だったため面接で何を話したのかほとんど記憶に残っていないような状態で採用にはいたらず、自分の英語スキルの低さ、面接の難しさなどを痛感しました。翌年、ダメ元で今度はロンドンのダブル・ネガティブに応募したところ面接まで漕ぎ着けることができ、「近い将来、機会があればぜひ」という言葉をいただきました。その後、別の会社に応募する準備をしていたところに、突然ロンドンのダブル・ネガティブからオファーをいただき、採用となりました。
仕事中の竹本氏
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<2>ライティングからモデリングまで、ゼネラリストTDとして様々な仕事に携わる日々
<2>ライティングからモデリングまで、ゼネラリストTDとして様々な仕事に携わる日々
ーー現在、働いている会社について簡単に紹介してください。
ダブル・ネガティブは数多くの受賞歴をもつ大手VFXスタジオで、現在はロンドン、バンクーバー、そしてムンバイにスタジオを構えています。近年では、アニメーション映画も手がけていて、長編アニメーション部門(ロンドン)や、テレビ番組を手がけるダブル・ネガティブTV(DNegTV/ロンドン・ロサンゼルス)があります。過去の受賞歴にはアカデミー賞(『インセプション』、『インターステラー』、『エクス・マキナ』)や、英国アカデミー賞のBAFTA(『インセプション』、『ハリー・ポッターと死の秘宝パート2』、『インターステラー』)などがあります。
ーー現在の仕事の面白いところは、何でしょうか。
現在のポジションはゼネラリストTDで、主にライティングを担当することが多いですが、出来上がったアセットをレイアウトしたり、実写素材に合わせてライティングを行いレンダリングして仮合成したり、ときにはモデリング作業があるなど、案件に応じて様々な作業を担当できる点が面白いと思います。エフェクトのレンダリングを手がけることも多いので、エフェクトによって世界観をつくり上げていくという意味でも、とても魅力のある重要な部門だと思っています。
ダブル・ネガティブの同僚と
ーー話が少し戻りますが、海外で働くための英語はどのように勉強されたのでしょうか。
最初の就職先だったデザインオフィスJINを退職した後、半年間、英語留学していたのですが、そこで身についたスキルレベルは「少し話せる程度」でした。その後、海外で就職すると決めてから2~3年の間も、インターネット英会話などを利用し少し勉強していた程度です。正直、「行けば何とかなる」と考えていましたので(笑)。こちらに来て思うのは、やはり英語はとても重要だということです。今でも英語にはかなり苦労させられていて、正直、もっと勉強しておけばよかったと痛感しています(苦)。なので今でもボキャブラリービルダー(単語帳)や英語のレッスンを受講し、勉強中です。
ーー将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。
英国のVFX業界では様々な国の人が働いています。その中で採用を勝ち取るには、やはりデモリールのクオリティが大きなポイントになると思います。就職を希望する会社の作品を分析し、リクルーターの目にとまるようなデモリールを目指すことが大切だと思います。そのほかにはインターンシップの活用が、とても良いきっかけになると思いました。やはりビザ所有者の方が会社も採用しやすいと思うので、まずはインターンシップビザを取得する方法も有効かと。
ほかにも、私の場合は「どういう人が採用されているのか」ということをよく考えていました。と言っても手探りでしたが、例えばLinkedInなどで公開されている企業情報を収集し、採用されている人に共通するポイントはなんなのか、リサーチを行ったりと。そういったことを積み重ねることで次第に採用のイメージができ上がり、目標の実現に近づいていったのではないでしょうか。
日本にはとても優秀な方がたくさんいらっしゃいますので、皆さんにチャンスがまっていると思います。
【ビザ取得のキーワード】
1.大阪市立工芸高等学校を卒業
2.デジタル・メディア・ラボなどの国内CGプロダクションで経験を積む
3.フリーランスとして活動中、約3年間の海外転職就職活動を経る
4.イギリスのダブル・ネガティブに就職、就労ビザ Tier5を取得
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