今回はオランダからお届けする。子供の頃からゲームに興味をもち、日本からオンラインを通じて海外のアーティストと親睦を重ねるうち、ドイツでの就業が決まったという小林健太氏に話を伺った。

記事の目次

    Artist's Profile

    小林健太 / Kenta Kobayashi(Senior VFX Artist / Guerrilla Games)
    神奈川県出身。2014年に関東学院大学工学部を卒業後、株式会社アグニフレアでVFXアーティストとしてキャリアをスタート。その後、UBISOFT Berilnに転職、2020年にオランダのGuerrilla Gamesに移籍し、現職
    www.guerrilla-games.com

    <1>日本でVFXアーティストとしてキャリアをスタート、ドイツを経てオランダへ

    ――子供の頃や、学生時代の話をお聞かせください。

    幼稚園の頃から、絵を描いたりゲームをすることが好きで、中高生の頃は変な絵を描いて友達を笑わせるのが大好きでした。

    小学生から高校生にかけて、ゲームのものすごい進化を目の当たりにしながら、たくさんのゲームをプレイしました。ゲーム開発のドキュメンタリー番組や開発者日記、ラジオなどのコンテンツに触れることで漠然とゲーム業界に就職したいと思うようになり、自宅にあったPCでフリーソフトを使って簡単なモデリングを始めました。

    特に『メタルギアソリッド』、『デビルメイクライ』、『SIREN』に影響を受け、3DCGを勉強したいと思い、大学では映像制作を専攻し3DCGについて学ぶようになりました。とにかく3DCGが楽しくて、半分研究室に住みながら友達と勉強&制作をしていました。

    ――日本で仕事をされていた頃の話をお聞かせください。

    日本では、基本的にアウトソーシングされたプロジェクトにアサインされ仕事していました。

    学校卒業後は、ゲームエフェクトに特化した会社に入社しました。ゲーム業界ではVFXアーティストは数が少ないと言われていますが、私の場合はいきなり約10名程の実務経験豊富なVFXアーティストに囲まれる恵まれた環境にいました。さらに外注を受ける会社だったので、コンソール向け・モバイル・アーケードなど多様なゲームタイトルで働く機会があり、様々な経験を積むことできました。

    就職当時、Unreal EngineUnityといった主流のゲームエンジンはあまり普及しておらず、エフェクト専用のミドルウェアを使うことが多かったのですが、3年目くらいのときにプロジェクトでUnreal Engine 4、Houdiniに触れる機会がありました。あまりの自由度に衝撃を受け、自主的に勉強し、作品制作を行うようになりました。

    ちょうどその頃、働いていた会社に外国人の方が多数入社してきて、自然と英語を勉強し、話す機会が増えていきました。

    ――海外のゲーム業界への就職活動は、いかがでしたか?

    自主制作の技術検証や動画をTwitterに英語で投稿するようになると、海外のアーティストとの交流が少しずつ増えていき、ドイツにあるUbisoft Berlinのプロデューサーから一度、面接も兼ねて話しましょうという旨のメールをいただきました

    その後は数回の面接と、アートテストを受け2・3か月ほどで就職が決まりました。面接、アートテスト、最初のビザ・サポートも全てリモートで日本から行いました。

    ――ドイツやオランダの会社へ応募するにあたり、ビザ申請にはどのような書類が必要とされましたか?

    ドイツのビザ申請には、パスポートと卒業証明書が追加書類で必要だったと記憶しています。申請はドイツ大使館に行きました。

    オランダでは、戸籍謄本とその翻訳が必要でした。翻訳は、アポスティーユと呼ばれる証明付きのものが必須でした。私はアポスティーユというものを全然知らなかったので、ここで情報共有させていただきます。

    ――オランダの会社に移籍されるには、何か転機があったのでしょうか?

    特に大きな転機というものはなかったですが、1つプロジェクトが終わった時点で「もっと海外でチャレンジしてみたい」と思ったことが大きいです。

    さらに、当時とても気になっていた会社のリクルーターからコンタクトをいただいたことを契機に、転職活動するようになりました。そのながれで数社に追加で応募し、その中にGuerrilla Gamesも含まれていました。

    当時、Guerrilla GamesではVFXアーティストを募集しておらず、オープンポジションでの募集でした。しばらくするとVFXのポジションの募集情報があったので改めて応募し、採用に至りました。

    ▲アムステルダム中央駅前にて

    <2>ゲーム業界では、現地に行かずとも海外で内定を取ることが可能

    ――現在の勤務先は、どんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。

    ゲーム『Horizon』シリーズや『KILLZONE』シリーズで知られるオランダのアムステルダムにあるスタジオでSonyのPlayStation Studiosの1つです。

    大きな会社ですが風通しが良く、社員の意見を聞いて常に環境改善に努めている会社だと感じます。なので停滞感なく働くことができていますしワークライフバランスがよく、自分の時間が取れるだけでなく、仕事もしっかり頑張れる環境です。作業環境もとても良くストレスなく仕事できます。

    ――最近参加された作品で、印象に残るエピソードはありますか?

    一番最近手がけた作品はGuerrilla Gamesに入って最初に参加した『Horizon Forbidden West』です。プロジェクト的には途中からの参加でしたが、かなり大規模なタイトルだったので、今までにないエフェクトの物量に衝撃を受けました。

    主に機械獣のエフェクト、シネマティックを担当していました。

    ▲『Horizon Forbidden West』ストーリートレーラー

    ――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。

    ゲームのVFXアーティストは単純にエフェクトをデザイン・制作するだけでなく、ゲームとプレイヤーとのコミュニケーションを円滑にし、ゲームプレイに満足感や華やかさをさらに追加できる職業です。インゲームに関わる技術的なところから、アート的なことまで仕事の範囲になる点が好きです。

    プロジェクトに合わせてエフェクトを自分で考えて提案し、他のチームと連携しフィードバックを行いながら表現の追及、幅を広げ手探りでゴールを決めていくのはとてもやりがいがあります。

    ゲームジャンルによりますが、実際のプロジェクトではアクションなどのゲームプレイ、虫や天候などの環境エフェクト、シネマティックなど異なるタイプのエフェクトをつくれる点も楽しいと感じます。

    ――ドイツとオランダでの暮らしぶりや、休日の過ごし方などをお聞かせください。

    ドイツではコロナ渦中だったこともあり、基本的に家で日本の友達とオンラインゲームをしていました。他には和食が恋しくなり、現地で手に入る食材で日本の料理をつくることが半分趣味のようになってます。

    仕事の後、同僚とボルダリングに行ったり、一緒にプラモデルをつくったりしていますが、最近は趣味でゲームを個人開発しているので、そこに割いてる時間が一番長いと思います。

    ▲アムステルダム近郊、ザーンセスカンスの風車村

    ――英語や英会話のスキル習得はどのようにされましたか?

    中学生の頃から洋楽が好きで、歌詞の意味を調べていました。そこで簡単な文法・単語を覚え、英語に対する抵抗感がなくなりました。そのまま大学生まで普通に英語の授業は受けましたが、特に喋れるというほどではなかったです。

    社会人になり、Twitter上で自主制作や技術検証をはじめ、文法や表現を調べつつ英語でチャットするようになりました。さらに技術関連の調べ物なども日本語と英語両方からアプローチしたほうが情報量が多いので、そこでもチュートリアルなどを通じて英語を勉強していきました

    中でも英語のチュートリアル動画は、専門分野を英語で解説してくれるので、理解しやすく良い勉強になったと思います。

    その後、前述のように当時日本で働いていた会社に外国人の方が多く入社してきて、日常的に英語で会話できる機会が増えました。その環境下で約1年半ほどである程度会話できるようになり、そこから2年ほど経った頃に海外に引っ越しました。自分にあった勉強法が見つかり、すぐに成長を感じられたので、楽しく学べたのが良かったと思います。

    またヨーロッパ周辺で転職を検討していたとき、念のためイギリスでのビザ発行に必要な英語テストIELTSを受けたのですが、そのときひたすら英単語だけ覚えて試験に臨み、必要以上のスコアが取れました。結局、イギリスには行かなかったのですが、そこで多少英語力が上がったと感じています。

    ――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

    私の場合は現地に行くことなく就職が決まり、ビザや引っ越しのサポートもしていただきました。そんな感じでしたので、何となく海外挑戦してみたいなという気持ちはありましたが「準備してから!」とは全く考えていなかったです。

    周りの方の話を聞いていても、ゲーム会社の場合、現地に行かずとも内定を取ることができる印象です。コロナ禍だったことも影響していますが、Guerrilla Gamesの内定もドイツからリモートで貰いました。ということで、日本からできることはたくさんあるので、まず行動を起こしてみると良いと思います!

    大変だったこともありますが、現地に住むことでしか学べないこと・経験できないことがたくさんあり、来てよかったと本当に思います。また、日本の魅力にも気づけるようになりました。

    家族や友人の大切さにも気づき、仕事以外のことでも成長でき、この経験に感謝しています。なので、もし興味がある方は、ぜひチャレンジしてみてください!

    ▲自宅での作業風景

    【ビザ取得のキーワード】
    ①関東学院大学 工学科を卒業
    ②国内で有名ゲームプロジェクトに参加
    ③インターネットで経由でオファーを受けUBISOFT Berilnへ
    ④就労ビザを取得

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    e-mail:cgw@cgworld.jp
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    Facebook:@cgworldjp

    TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
    ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
    公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
    EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada