今回は、当連載としては久しぶりにスペインからお届けする。アメリカ留学中に3DCGと出会ったという松田氏は、そこから日本、カナダなどを経て、アニメーターとして活躍中だ。留学時代のお話やマドリードでのお仕事ぶり、現地の生活なども含め、貴重な体験談を伺った。
メインカット撮影:Rafael Jiménez
Artist's Profile
松田共世 / Tomoyo Matsuda(Skydance Animation / Senior Animator)
愛知県出身。2015年に九州大学大学院芸術工学府卒業。オンラインスクールのAnimation MentorでCGアニメーションを学び、モンブラン・ピクチャーズ株式会社、CafeGroup株式会社でキャリアをスタート。その後、カナダではCinesite、Animal Logic(現Netflix Animation)、日本ではマーザ・アニメーションプラネット株式会社で経験を積む。2023年にスペインのSkydance Animationに移籍、現職
skydance.com/animation
留学先で3DCGと出会い、アニメーターの道へ
――子供の頃や、学生時代の話をお聞かせください。
小さい頃から漫画や映画は好きでしたが、大学ではテニスに没頭していました。ある日、原付事故でケガをして大会に出られなくなったことが転機に。時間を持て余していた私は、友人に誘われるまま交換留学の説明会に参加しました。それまで海外留学なんて考えたこともありませんでしたが、奨学金や渡航費援助の話を聞いているうちにそのまま応募し、その後、選考を経て留学が決まりました。
私は大学在学中に交換留学を2回していて、1回目はオランダ、2回目はアメリカで各1年ずつ勉強しました。留学先では実践的な授業やモチベーションの高い学生たちに刺激を受け、結果として修士号の取得と同時にアニメーターになるという道を選択しました。
3DCGを始めたのはアメリカ留学でシアトルのワシントン大学に行ったときです。コンピューターサイエンス学科で3DCGアニメーションの通年クラスが開かれており、留学生でも履修することができました。3ヵ月で基礎を学び、その後6ヵ月かけてショートフィルムを制作するという実践的な内容で、クラスメイトと共に過ごす専用のコンピュータールームは、いつしか第2の我が家のような存在になっていました。
しばらく経った頃、ディズニーのリクルーターチームがクラスにやって来たことがありました。私はその時、授業で作成した課題をまとめたデモリールを、そのままリクルーターチームに見せました。今考えると、とんでもないものを見せてしまったのですが、ディズニーの人たちは「大丈夫だよ!」と言って、初心者のデモリールを最後まで見てくれました。彼らだけでなく、どんなに未熟でも否定せず、夢に近づく方法を一緒に考えてくれる人たちがいたことが、自分のやりたいことに向かって進み続けることができた理由だと思います。
――日本でお仕事されていた頃の話をお聞かせください。
大学卒業後は、オンラインのクラスを受講しながら福岡のモンブランピクチャーズでアニメーターとしてアルバイトさせてもらいました。その後、東京のAnimation Cafe(現CafeGroup)に移籍し、キャリアをスタートしました。ゲームや広告など、様々な媒体のアニメーションに関わったことで視野が広がり、この時期の日本での経験は後の海外就職の際に大きな自信となりました。
また、数年間の海外勤務を経たあと、パンデミックの影響で帰国していた時期にも日本で働いています。その際にはマーザ・アニメーションプラネットに加わる機会に恵まれ、『リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様』や Netflixシリーズ『ONI ~ 神々山のおなり』といった作品に携わりました。海外出身の同僚も多く、英語力を活かしながらシーケンスリードを任せていただくなど、アニメーターとして大きく成長できた時間でした。
こうして振り返ると、どの職場でも人に恵まれ、もう一度一緒に働きたいと思える方々と仕事ができたことが何よりの財産だと感じています。
――海外の映像業界での就職活動は、いかがでしたか。
留学中から就職イベントに積極的に参加しており、デモリールのアドバイスをもらうのと同時に採用情報を集めるようにしていました。その後、修士号の取得と並行してオンラインスクールで技術を磨き、大学院修了後に日本で実務経験を積んだ後、再び海外での就職に挑戦しました。
はじめての海外就職につながったのは、CTN Animation Expoというイベントへの参加です。ちょうどその時期、カナダのCinesiteがスタジオを拡大中で、アニメーション・スーパーバイザーにデモリールを直接見てもらえたことが面接につながり、その後、ジョブオファーを受けて働くことになりました。最初の1年はワーキングホリデービザで勤務し、その後はコロナのパンデミックまでワークビザを会社にサポートしていただきました。
現在はSkydance Animationに所属しており、スペインのマドリードで勤務しています。ビザは会社からワークビザをサポートしてもらっています。Skydance Animationへはパンデミック中にWEBサイトから応募しましたが、最初の返事が届いたのは1年後でした。さらにその1年後、再度リクルーターと連絡を取ったことがきっかけとなり、応募から2年を経て採用が決まりました。海外就職はタイミングの要素が大きいですが、デモリールを更新して応募を続け、リクルーターとの関係を保つなど、焦らず長期的に取り組むことが大切だと思います。
撮影:Rafael Jiménez
700人が集う多国籍スタジオ、Skydance Animationで活躍中
――現在の勤務先は、どんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。
Skydance Animationは、これまでに複数のアニメーション作品を世に送り出しているアニメーション・スタジオです。過去作には『ラック~幸運をさがす旅~』や『エリアンと魔法の絆』などがあります。オフィスは3箇所あり、ロサンゼルス本社が企画を担当し、私がいるスペインのマドリードにあるオフィスは、コネチカットのオフィスと連携して制作の中心拠点となっています。
マドリード市内にあるスタジオでは約700人が働いており、社内言語は英語です。スペイン出身の同僚が多いものの多国籍な環境で、社内では英語とスペイン語が飛び交います。
Skydance Animationでは企画から制作まで社内で一貫して行い、情報共有も充実しています。作品ひとつひとつが自分たちが一からつくり上げた映画だと感じられるので、全員が当事者意識をもって制作に取り組めるところが魅力です。
――最近参加された作品で、何か印象に残るエピソードはありますか?
Skydance Animationに移籍後すぐ、『エリアンと魔法の絆』に参加しました。監督はヴィッキー・ジェンソン、作曲はアラン・メンケンで、動画コンテを見た瞬間から音楽もストーリーも大好きになりました。一番印象に残っているのはオーケストラの録音風景をライブ中継で見たときです。
私たちが映像をつくっている最中は仮の音楽がついているのですが、映画の完成間際になると、映像に合わせてミュージシャンが演奏・録音する工程があり、その様子をライブ中継してくれます。自分たちがつくった映像にフルオーケストラの音楽がのった瞬間、「アニメーションが映画になった!」という実感が湧き、得も言われぬ感動があったのを覚えています。
――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。
アニメーション部門は、だいたい40〜80人ほどで構成されています。同じキャラクターを複数人が扱うため、演技や表情の整合性を保つためのチームワークやコミュニケーションが大切な部署です。
私がアニメーションをしていて一番面白いなと思っているのは、監督や同僚と意見を交わしながらキャラクターをつくり上げていくプロセスです。フィードバックを通して修正を繰り返すうちに、自分だけでは想像できなかった演技が生まれることがたくさんあります。それとは逆に、自分のアイデアが受け入れられる場合もあります。こういった試行錯誤を重ねながら、キャラクターが少しずつ育っていく姿を見られるのは、アニメーターならではの醍醐味だと思います。
――英語(もしくはスペイン語)の習得について。言語や会話のスキル習得はどのようにされましたか?
留学にはTOEFLのスコアが必要だったので、まずはTOEFLの勉強から始めました。試験勉強は目標が明確になるので続けやすく、勉強することに慣れておくとカナダやイギリスのビザ申請でIELTSなどの試験が必要になったときに慌てなくなるので、おすすめです。リーディングとリスニングは市販の教材を使い、スピーキングとライティングは添削サービスを利用しました。英語のTVシリーズを英語字幕で観て、わからない単語を調べながら最後まで完走したことも良い練習になりました。
それでも、留学当初はネイティブの会話の半分も理解できませんでしたが、いつも一緒に作業していたクラスメイトたちのおかげで少しずつ話せるようになっていきました。ただ英語に囲まれていたというだけでなく、周りの皆とコミュニケーションを取りたいという気持ちで積極的に関わったことが上達につながったと思います。
現在はマドリードに住んでいるので、スペイン語の勉強をしています。会社では英語が共通言語ですが、普段の生活には現地の言葉が必要です。スペイン出身の同僚や地元の人たちともっとたくさん話せるようになることを目標に、少しずつ頑張っています。
――マドリードでの生活は、いかがでしょうか?
マドリードは天気も治安も良く、夏は乾燥しているものの気温の変化は日本に似ており、四季を感じながら暮らせる住みやすい都市です。スペイン語圏のため英語が通じない場面も多くありますが、現地の方はとても辛抱強くコミュニケーションを取ろうとしてくれます。
平日は仕事後に同僚と飲みに行ったり、スペイン語の授業を受けたりしています。週末は公園や美術館、展示会やイベントに出かけたり、カフェやレストラン巡りをしたりと、街歩きを楽しむことが多いです。食文化も豊かで、スペイン各地の郷土料理のほか、ワインやビールを手頃な価格で楽しめます。
スペインではワークライフバランスが重視されており、有給休暇も多めです。現在の職場を含め金曜日は早めに終業する会社もあります。マドリードは国内外へのアクセスが良く、週末には電車で気軽に国内旅行へ出かけることができ、連休には他のヨーロッパ諸国を訪れることもできます。ヨーロッパには歴史的建造物や美術品がたくさんあるので、YouTubeなどで世界史や美術史を学び直しながら教養を深めています。
――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。
海外で働くということは、海外で生活するということです。仕事は大切ですが、日々の暮らしもまるごと楽しむ姿勢をもつことで、海外で働く魅力をより深く感じられるのではないかなと思います。
もちろん、日本の家族や友人に会えず寂しいときもありますし、文化や言葉のちがいに戸惑うこともあります。それでも、新しい文化や人との出会いは自分の世界を何倍にも広げてくれました。もし海外に行ってみようか迷っている方がいたら、ぜひ一歩踏み出してほしいです。
事前計画や書類関連など面倒なことは多いかもしれませんが、やらぬ後悔よりやる後悔、経験は必ず自分の糧になってくれると思います。
撮影:Rafael Jiménez
【ビザ取得のキーワード】
①大学在学中に交換留学・オンラインスクールを通して英語とアニメーションを学ぶ
②国内スタジオでキャリアをスタート、アニメーターとしての経験を積む
③ワーキング・ホリデー制度を利用してカナダに移住し、その後、就労ビザを取得
④スペインのSkydance Animationに移籍、スペインの就労ビザを取得
連載「新・海外で働く日本人アーティスト」では、海外で活躍中のクリエイター、エンジニアの方々の海外就職体験談を募集中です。
ご自身のキャリア、学生時代、そして現在のお仕事を確立されるまでの就職体験について。お話をしてみたい方は、CGWORLD編集部までご連絡ください。たくさんのご応募をお待ちしてます!(CGWORLD編集部)
TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada