今回は、ハリウッドのテレビ業界でエディターとして活躍する藤原隆之氏に登場いただいた。藤原氏は、テレビ番組の編集作業では言語の理解だけでなく、勤務する国や地域の文化を理解していることが大切だと言う。では早速、話を伺っていこう。

記事の目次

    Artist's Profile

    藤原隆之 / Takayuki Fujiwara(Avid TV EDITOR / Freelance)
    岩手県盛岡市県出身。2003年にカリフォルニア州立大学ノースリッジ校のCinema and Television Arts科を卒業後、アシスタント・エディターとしてFilm Oasisでキャリアをスタート。その半年後にエディターに昇格し、様々なテレビ局、制作会社でエディターとして活躍。現在はNBC、CBS、FOX、ABC、Netflix、Huluなど多くの顧客を抱え、2019年にはNBCUniversal Mediaのお抱えエディター5人のうちの1人として、日本人として初めて抜擢された。
    www.imdb.com/name/nm2472980/

    「英語を学びたい、海外に行ってみたい」という漠然とした夢からのスタート

    ――子供の頃や、学生時代の話をお聞かせください。

    幼い頃から好奇心旺盛な子供で、やりたいと思ったことは何でもやってみる子供でした。その結果、書道、スイミング、ピアノ、そろばんと同時並行で習い事をしていて、小学生の頃は毎日忙しく過ごしていました。もちろん、漫画やアニメ、映画、テレビ番組も大好きでした。

    高校2年生の頃から、まだ世間をよく知らない学生のくせに、真剣に将来のプランについて考えはじめましたが、最初は「英語を学びたい」、「海外に行ってみたい」と漠然としたことしか思いつきませんでした。そこで「どんな企業に入社すれば海外の支社で働けるか」、「研修で海外に送り出してくれる企業は」という点を重視しながらリサーチを始めました。

    とは言え、漠然とした願いを抱えたまま、本当にやりたいことが見つけ出せず、田舎の高校でプチ絶望してました。高校3年生になり、本格的に受験勉強していたときにも、将来の目標が定まっていないことを危惧していました。そんなある日、受験勉強の息抜きのために友達と映画を観に行き、なぜか“これだ!”と思いました。「英語を学びたい」、「海外に行ってみたい」と言うのが根底にあったこともあり、そこから映画を学ぶためLA留学へ目標をチェンジし、今に至ります。

    ――LAへ留学中は、どのように過ごしていたのですか?

    カリフォルニア州立大学で学業に励んでいたのですが、学校で勉強していたことはほぼ覚えていません。勉強の記憶より、大学卒業後に実務経験を積むべく、OPTを利用してインターンをしていた頃の出来事の方が、よく覚えています。

    一般企業であれば、インターンシップに対してある程度の給料が発生すると思うのですが、アメリカのエンターテインメント業界では「一切タダ働き」が一般的でした。初めてインターンとして入ったのがハリソン・フォード主演の『今そこにある危機』の監督、フィリップ・ノイスのオフィスでした。

    初日の初仕事として頼まれたのは、FAXの送信です。それがなんと、女優アンジェリーナ・ジョリーへの「アカデミー賞受賞おめでとう」という内容でした。その後も、LAの黒沢 明監督のオフィスや、First Look Filmという配給会社でインターンを経験しました。

    映画を学びたいと言っても映画業界には様々な職種があり、その全てがクリエイティブという訳ではありません。できるだけ多くの仕事を見て、自分に何が合っているのかを探すためインターンを続けました。自分にとっては、それが学校の勉強よりも大切なことに思えたので、学業よりもそちらの思い出の方が強く印象に残っています。

    ほかにも、関西からの留学生と仲良くなり、一緒に自主映画をつくりました。彼はプロデュースを勉強するために留学していて、僕は監督と編集を経験させてもらいました。上映には漕ぎ着けられませんでしたが、一時期、日本のTSUTAYAの自主制作枠でDVDをレンタルさせてもらう機会がありました。その友達は日本へ帰国後、博報堂に途中入社しました。

    ――海外の映像業界での就職活動は、いかがでしたか?

    ハリウッドでエディターをしている人は、概ねフリーランスです。なので、一般的な就職活動での面接がほぼありません。これまでの経験では、一緒に仕事をした人や信頼関係のある人からの推薦で仕事が決まることが多いです。なので、エディターとしてのキャリア初期には、大変苦労しました。

    その当時は、僕が最初に働いた会社の方からの推薦や、数少ない募集に全てレジュメ(履歴書)を出し、ほぼ神頼み状態でした。レジュメに書けるのは自分が関わった番組に関する実績のみです。アメリカでは差別を避けるため、レジュメに年齢を記載したり、自分の写真は載せません。なので、レジュメからは年齢を読み取れません。

    よく覚えているのは、とある面接で部屋に入るなり「君、若いね」と言われたことです。見た目がアメリカ人より若く見えたというのもあるでしょうか、「経験不足」と言われたように聞こえ、悔しい思いをしました。そこから、見た目を年齢以上に見せるために、髭を生やすようになりました。

    基本的にフリーランスで働く職種なので、雇われた後に「使えない」と判断されると、すぐに首を切られます。実力社会なので仕方ないのですが「怖い場所にいるな」と、常々思っています。

    ▲テレビ番組の編集作業風景

    エディターには「その国の文化を理解する」ことが重要

    ――現在も、フリーランスとしてご活躍だそうですが。

    NBCと契約していた時期もありましたが、契約が終了するとまたフリーに戻りました。現在はFOX Networkの『The Masked Singer』という番組の編集を担当しています。50ヵ国以上でプロデュースされているフランチャイズ番組のアメリカバージョンです。視聴率も良く、観ていて楽しい番組なので、編集作業も楽しいです。この仕事の後は、ABC Networkの『American Idol』、そしてNBC Universalの『America's Got Talent』の編集が決まっています。

    ――最近参加された作品で、印象に残るエピソードはありますか?

    少し前の話になりますが、NBCの番組で、1年ほどかけて編集したのに1話も完成していない、というプロジェクトがありました。予算が尽きるギリギリのタイミングでチームは解散となり、新しいチームが組まれ、そこに僕も参加することになりました。前チームがつくっていた映像は、テレビ局の重役に不評だったため全て破棄。1から編集し直すことになりました。しかも制作期限が1週間という、無理難題を押しつけられました。キャストがアメリカの重鎮揃いだったので、局側はどうしても完成させたくて焦っていたのでしょうね。

    そこから1週間缶詰状態で働き、なんとか完成させました。局のトップは大満足で、フォーカスグループテスト(ランダムで選出された視聴者による先行試写。番組に対する好感度や不満などを調査する。そのスコアによって、必要に応じて再編集などを行う)では、過去最高得点を記録しました。でも、あんな切羽詰まった仕事はもう2度としたくないです。とは言えこんなことはアメリカのテレビ業界ではザラです(笑)

    もう1つ、『American Idol』の第1期の優勝者ケリー・クラークソンのトークショーの仕事が印象に残っています。実は当初、彼女のトークショーは放送されるネットワークが決まっていませんでした。そこで彼女の自費制作でパイロット版をつくったのですが、そのメイン編集に選ばれました。仮編集が終わって全員で試写を行い、そこでケリー自身が初めて完成映像を観たとき、僕が編集したコメディ部分の映像が彼女のツボにハマり、メイクが崩れるほど泣きながら爆笑していました。

    元々は、それほどコメディ要素のない映像だったのですが、僕が勝手にコテコテのコメディ風に仕上げたので、それが予想外だったということもあり、絶賛してくれました。ケリーが「これは誰のアイデア?」と尋ね、プロデューサー陣が一斉に「タカだよ!」と言うと、ケリーがハイタッチしてくれました。20人ほどのプロデューサー、マネージャーや重役達が来ていた試写で、とても緊張していたので嬉しかったのを覚えています。

    ――現在のお仕事の面白いところはどんな点でしょうか。

    僕は、主に脚本がないようなジャンルの番組を編集しているので、話の構成から選曲、効果音にまで踏み込んで制作に関わることができます。特に第1シーズンの初めの頃から関わっていると、その作品の出来に大きく貢献できるので、やり甲斐があり面白いですね。また、エディターやチームによって、素材は一緒でも番組の出来が大きくちがうものになります。なので自分の担当の番組やエピソードが評価されると、本当に嬉しいです。

    ――普段の編集作業では、どのような編集ツールを使用してますか?

    最近はYouTube、SNS向けに編集ツールが普及して、皆さんも編集システムの名前を耳にすることがあるかと思います。映像制作の業界ではPremiereDaVinciFinal Cut Proなど様々な編集システムがあると思いますが、ハリウッドのテレビ業界は基本的に「Avid一択」です。

    なぜAvidなのか? と言うと、やはり安定性とマルチユーザー対応が理由だと思います。特に僕が編集するような番組は、Shooting Ratio (映像作品の制作において、最終的に使用された映像<完成尺>と、撮影された撮影素材の総尺の割合を指す比率) の大きさが目につくと思います。1:300から1:400という番組もザラにあります。1時間番組(コマーシャルを抜いて42分ほど)に対し、撮影される時間が400時間以上にもおよび、それをプロデューサーチーム、編集チームで同時にアクセスして編集を進めていきます。

    エピソードによっては6人がかりで編集することもザラです。プロデューサーの数はもっと多く、一度に同じ素材にアクセスする人数は膨大になります。そのほかにも音楽、効果音、グラフィックなどなどが同じサーバに収納されています。そんな膨大な素材にシームレス、ラグレスで同時にアクセスでき、個々のステーションで同時視聴できるのはAvidしかないと思います。

    一方で、スケールが小さかったり、ドキュメンタリー作品のように1話で数人しか編集者がつかない番組では、Premiereを使ってる場合が多いように感じます。

    ――英語や会話のスキル習得はどのようにされましたか?

    高校卒業時までに英検準2級をとっていたので、ある程度の読み書きはできました。ただ、こっちに来て混乱したのが、知っている単語でもネイティブの発音が聞き取れなかったことです。克服するためにシットコム(ちなみに、よく『フレンズ』を観ました)を字幕付きで、同じエピソードを繰り返し観て、知識と現実の擦り合わせをしていました。

    あとは、極力日本語を使わないようにしてました。学校とインターンシップでは英語しか使わないので、勉強に打ち込むことができました。

    その当時は電子辞書しかなかったので、小型の電子辞書を常に携帯してました。今は携帯1つで翻訳など様々なことができるのですが、「英語を学ぶ」という点では、遠回りした方が効果があるような気もします。また、「間違えてもよいから、恥ずかしがらずに喋る」のも大切です。日本語が片言の外国人に会っても「この人達、日本語下手!」ってあまり思わないですよね? それと同じで、ある程度意思が伝われば、相手はなんとも思っていないです。

    ――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

    エディターとして海外で働きたい人への限定アドバイスになるかもしれませんが、必須条件となってくるのが、「英語を流暢に話せる」こと、それと同等に大切になってくるのが、「その国の文化を理解している」点だと思います。

    コメディにしろ、ホラーや泣ける作品にしろ、文化や背景によって視聴者に「何が刺さるか」が変わってきます。そこを理解しないと編集の仕事はできないので、言語と共に文化の理解が必須条件になると思います。

    海外で働くというのは「その国の文化の中で生きていく」ことにもなるので、文化を理解すると、毎日の生活も楽しくなると思います。

    ▲番組『ワールド・オブ・ダンス』の撮影セットにて

    【ビザ取得のキーワード】
    ①カリフォルニア州立大学ノースリッジ校のCinema and Television Arts科を卒業
    ②OPT※でFilm Oasisに就労
    ③結婚し、グリーンカードを取得する

    ※OPT(オプショナル・プラクティカル・トレーニング):アメリカの大学を卒業すると、自分が専攻した分野と同じ業種の企業において、実務研修を積むため1年間合法的に就労できるオプショナル・プラクティカル・トレーニングという制度がある。専攻分野によっては1年以上の就労が認められるケースもあるので、留学先の学校に確認してみると良い

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    TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
    ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
    公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
    EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada