>   >  新人講師がゼロから挑むUnityによる人材教育:No.04:新年度がスタートし、ゼロから仕切り直して授業設計
No.04:新年度がスタートし、ゼロから仕切り直して授業設計

No.04:新年度がスタートし、ゼロから仕切り直して授業設計

アカウント認証で原因不明のトラブルが発生

一方で今年も様々なトラブルが発生しました。「またか!」「事前に確認しろ!」と言われそうですが、例によって見舞われたのが、アカウント認証の問題です。事前に学校側でUnityの教育アカウントを取得していただいていたのですが、なぜか一部のPCで認証が通りませんでした。あわせて一部のPCではUnity側の認証は通ったものの、「アセットストアにアクセスできない」「Visual Studioのアカウント認証が通らない」「Gmailでファイルが添付できない」などの現象に遭遇しました(※5)。

※5 本校ではUnityのバージョンは2017.1xと2017.4xが混在しています。

幸いUnityはオフライン環境でも使用できるため、決定的な問題ではありません。ただし、アカウント認証をパスしていなければ、アセットストアが活用できません。そのため「あそびのデザイン講座 第4回」で解説されている、「アセットストアから効果音アセットを読み込む」ことができなくなりました。こうした学生にはネット上からフリーの音源ファイルをダウンロードし、個別に組み込むやり方を教えることで対応しました。

このように、認証まわりのトラブルはUnityに固有のものではなく、ネットワークに起因するものだと言えそうです。本授業で使用する教室のPCはWi-Fiで接続されており、急激にPCの台数が増えたことで、なんらかの不具合が発生したのではないか......というのが学校側の見解でした。現在は一部のPCでWi-Fiではなく、有線インターネットで接続するという応急処置がなされています。ただし、抜本的な問題解決につながってはおらず、今後も学校側には改善を期待したいところです。

もっとも、このことは「インターネットがなければ、Unityが機能制限される」ことを意味しています。試しにアセットストアからダウンロードしたアセットを別のPCでインポートしたところ、うまく動作しませんでした。動画キャプチャに「Recorder」を使用させたかったのです。今後エディタ拡張機能で機能が制限され、必要なアセットがあらかじめバンドルされ、オフラインで使用できる「あそびのデザイン講座」スペシャル版Unityが登場すると、より教育現場で重宝されるのではないでしょうか。

作業環境の保存にまつわるトラブルもありました。本校では学校側でノートPCを用意し、一人一台以上の作業環境を提供しています。ただし、必然的に同じPCを複数の学生が使い回す状態になるため、作業途中のデータをPC側に保存したままにしておくと、データが勝手に削除されるなどの問題が発生します。そのため授業でも、作成途中のデータを個人所有のUSBメモリに保存するなどして、PC側に残さないように指導しています。

ただし、このやり方を誤解したまま覚えている学生が少なからず存在しました。具体的にはUnityのプロジェクトフォルダではなく、Unityのシーンデータをエディタ上からコピーして、良しとしてしまったのです。そのためPCが変わったり、プロジェクトフォルダが削除されたりすると、作業が引き継げなくなる事態が発生しました。他に、はじめにシーンデータをセーブする際に、プロジェクトフォルダの外に保存しようとして、うまくいかずに立ち往生するケースも見られました。

一方でUnityでは作成中のアセットをunitypackage形式でエクスポートすることもできます。これを後日インポートすることで、作業が引き継げるというわけです。ところが実際にやってみると、インポート時にエラーメッセージが表示され、先に進まなくなるケースが散見されました。日本語のフォルダ名が混ざっていたり、デスクトップやネットワーク上に保存したりするとトラブルの遠因になるようですが、原因が不明です。そのため学生にはプロジェクトフォルダごと保存するやり方を推奨しました。

これは推測ですが、現行のUnityは「原則として同じPCを同じ使用者が継続して使用する」ことが前提になっています。一方で本校のように、複数の使用者が同じPCを使用する場合も存在します。そうしたユーザーのために、作業環境中のデータ保存・読み込みが簡便化されると嬉しいところです。その一方で先生方におかれましては、どこかのタイミングで「第1回」の内容をもとに、「プロジェクトフォルダをまとめて保存する」説明を行なわれると良いかと思います。

最後にファイル名についても補足しておきましょう。学生の中にはUnityで新規プロジェクトを作成したり、シーンデータを保存したりする際に、日本語でプロジェクト名やファイル名を指定する例も散見されました。Unityに限らず海外製ツールを使用する場合、日本語のフォルダ名やファイル名はトラブルの温床になるため、避けた方が賢明です。裏を返すと、ここから指導する必要があるということです。最初にしっかりと説明しておけば良かったと後悔しました(※6)。

※6 以下はユニティからの補足情報です。

(1)日本語を含むパスは基本的に厳禁です。よくあてはまるパターンに「日本語のユーザー名」を設定しているケースがあります。この場合ホームフォルダが日本語になっているため、デスクトップ(C:¥Users¥日本語ユーザー名¥Desktop)、マイドキュメント(C:¥Users¥日本語ユーザー名¥Desktop)などが、全て挙動不審の原因となります。また、ネットワーク上のフォルダについても、日本語パスを含んでいると同様の事態を招きます。Unitypackage形式で保存する場合は、日本語パスを含まないように注意してください。

(2)作業中のデータをプロジェクトフォルダの保存で引き継ぐ場合は、全てのフォルダではなく、AssetsとProject Settingsの二つのフォルダだけ保存するようにしてください。これらのフォルダ以外のファイルやフォルダは一時ファイルのため、他のコンピュータでは基本的に使用できないためです。

完成度もさることながら、人前で発表できるかが重要

さて、このような香ばしいトラブルに見舞われつつも、なんとか制作発表までこぎつけました。当然ながら学生の習熟度には早い・遅いがあります。また、大学を経て専門学校に入学した学生の中には、Unityの経験者もみられました。その一方で初心者の中には、スクリプトの記述エラーでつまずく者も少なくありませんでした。目を皿のようにしてソースコードを眺めてみても、なぜかエラーが見つからず、隣の学生の指摘で気がつくことも......。まあ、これもひとつの経験でしょう。

その中でも、最初にUnityで楽しい経験をしたことがあれば、トラブルを乗り越えて先に進もうとする意欲がわいてきます。その意味でも最初に「Roll-a-Ball-Custom-1stDev-2018」ワークショップを行なったことは、相応の効果があったようです(ここでアカウント認証のトラブルが洗い出せたことも、その後の授業運営に役立ちました)。Unity演習は最初の環境整備が一番手間取りますので、こうした授業の進捗には関係しない「お楽しみ回」を最初に設定しておくことが重要かもしれません。

一方で、進捗の足並みを揃える機会を設定することも重要です。6月15日の発表会がそれに相当し、希望者によるプレゼンテーションを実施した結果、6名が力作を披露してくれました。主人公に見立てたボールの気持ちになりきって、ゴールまでの「冒険」の過程を説明するというものです。特に指定したわけではありませんが、それぞれに「延々と落下し続ける」「大量のオブジェクトを破壊する」「特定のゲームのシチュエーションを再現する」など、テーマを決めて制作していた点が印象的でした。

中でも「愛」をテーマに掲げて、赤と青のボールを上から落下させ、それぞれに壁や障害物で移動ルートを変えながら、最後に同じ場所にゴールさせた作品には感心させられました。また、合計で3個のボールが登場し、次のボールに動きをつなぎつつ、ステージ上から消えていくことで、「命のリレー」を表現していたものもありました。画面上で障害物が消えたり、色が変わったりすると、それだけで注目が集まります。ただし、サウンドを組み込んだ作品の発表はなく、次回以降の課題となりました。

もっとも、真の課題は作品発表が6人に留まったことかもしれません。というのも演習中に教室内を巡回しつつ、学生の進捗を確認していた過程で、多くの学生がユニークな作品をつくり上げていたことを知っていたからです。対話型授業時との反応のちがいに、少々戸惑いを感じさせられました。ただしセーブデータの問題で、発表したくてもできなかった学生が少なからずいたことも、また事実なのですが......。Unity演習に限らず、発表する機会を増やす試みが必要だと感じさせられました。

これ以外にも様々なエピソードがありましたが、ひとまず「坂をつくってボールを転がす」演習は一区切りつきました。「あそびのデザイン講座」では今後、プレイヤーキャラクターをつくったり、ミスやリプレイの機能を加えたりと、一気にゲームらしくなっていきます。それにあわせて「操作できるって、どういうことか」「自機と世界との関係性は」など、座学の方でもより深い内容が求められていきそうです。今後もキリのいいタイミングで、レポートを続けていく予定ですので、お付き合いください。



今回は以上です。次回もぜひお付き合いください。
(第5回の公開は、2018年7月以降を予定しております)

プロフィール

  • 小野憲史
    ゲームジャーナリスト

    1971年生まれ。関西大学社会学部を卒業後、「ゲーム批評」編集長などを経て2000年よりフリーのゲームジャーナリストとして活動。CGWORLD、まんたんウェブ、Alienware zoneなどWeb媒体を中心に記事を寄稿し、海外取材や講演などもこなす。他にNPO法人IGDA日本名誉理事・事務局長、ゲームライターコミュニティ世話人など、コミュニティ活動にも精力的に取り組んでいる。2017年5月より東京ネットウエイブ非常勤講師に就任。

本連載のバックナンバー

No.01:「あそびのデザイン講座」活用レポート
No.02:Unityスクリプトに初挑戦
No.03:Unityアセットストアに初挑戦

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