画にプラス要素を。

画には法則があります。

それは長い年月をかけて、様々な先人たちにより研鑽されてきたものです。CGという分野においても非常に有効な法則で、きっとあなたの知恵と技術になってくれることでしょう。 永く、そして楽しくこの仕事をし続けるために。

そして願わくば貴方の人生に+画を。

今回もWeb連載の強みを活かし、動画チュートリアル『CGWORLD Online Tutorials』と連携してお届けします。

記事の目次
    【ダイジェスト】vol.016:雪山 /「動感」を体得する
    【+画 ONLINE】vol.016:雪山 / 「動感」を体得する

    ゼネラリストのススメ

    4月って実はまだまだ寒いんですよね。
    気分的には「春」、「新学期」、「桜」といった暖かい印象がありますが実際はかなり寒い。特に筆者は東北育ちなので、4月はむしろ「まだ雪の季節」。そんな印象があります。というわけで、今月は雪山をモチーフにしてみました。

    そう言えば、「vol.008:地図 / 『情報』をデザインする」も含めるとこの連載では「山」をモチーフにした作例が多いですね。これは私の専門分野が「ゼネラリスト」であり、ゼネラリストは背景制作が比較的多いことに由来しているのかもしれません。というのも、背景の制作には様々な要素が盛りだくさんに詰め込まれているからです。

    「背景」と一言で言いますが、山、谷、川、海、街、雲、ビル、農場、牛、動物、飛行機、自動車、洗車、ミサイル、風車、鳥、UFO,宇宙、ロボット、宇宙船、巨人……、と挙げていくとほとんど全部が「背景」ですね。加えて、モデリングだけでなくアニメーション、コンポジット、エフェクトまでトータルで受け持つのがゼネラリストです。これはやりがいがありますね。

    その昔(30年ほど前)はほとんどのCGアーティストはゼネラリストで、全てをまかなうのが一般的でした。そのため様々な要素に対して非常に多くの知識と技量が求められ、時代のながれに伴い現在のような分業化にいたりました。

    ただもし今、CGクリエイターを目指して迷っているのであれば、一度ゼネラリストを目指してみましょう。モデラ―やアニメーターなど、専門分野のスペシャリストからゼネラリストになるのはなかなか難しいのですが、ゼネラリストを経験しておくと、後々スペシャリストに転向しやすいからです。

    加えて、CGというのは相互に技術の応用が効きます。例えば、アニメーションの要素にもモデリングやエフェクトの知識が必要となるように、他のパートの工程を知っておくことで、他パートのスタッフへの理解が深まり共同作業がスムーズになるといった利点もあります。

    2012年に制作した作品です。10年ほど前の作品ですが、やはり山がありましたね。今とはちがいPhotoscanなどもない時代だったため、山などの制作はプロシージャルや専門のソフトを使用して作成していました。

    有名なソフトは「Vue」などですが、扱うことができるメモリも少なかったので、データ量の多い背景は大変なパートでした。

    こちらは2018年の作品です。4年前なので比較的近年ですが、先ほど紹介した10年前の山とは格段に情報量が増えていますね。これは単純にPCの性能やソフトの進化によるもので、より重く、多くの情報を扱うことができるようになったからです。山の話はここまでにしておきましょうか。

    さて、今回は連載では初の章、「画創:動感の法則」から「体感速度」と「カメラワーク」のお話です。長々と連載を続けているので「静止画の人」と思われがちですが、私の仕事の90%以上はアニメーションやムービーです。ですので、私の連載は常にムービーの制作を意識したメイキングになっています。

    ムービーの仕事がほとんどではありますが、実は私はデザイン科卒でイラスト出身なもので、最初はアニメーションに関してほとんど経験もなく、全くといって程できませんでした。できてせいぜい「回転」くらいだったかもしれません。

    しかし仕事上、必要に迫られて様々な案件をこなすうちにコツを掴めるようになりました。まさに何事も経験ですね。「画創:動感の法則」を習得することで「アニメーションの達人として世界一!」……にはなれないかもしれませんが、業務においておおむね差し支えないクオリティを発揮することは可能です。

    今回はアニメーションに関することなので、ぜひチュートリアル(動画)とあわせてご覧ください。

    Layout

    「体感速度」という言葉を聞いたことがあると思います。「実際の速度」と「体感する/感じる速度」には大きなちがいがあるものです。

    • 【A】
    • 【B】

    例えば、この2つは同じカメラアニメーションですが、【A】は面があるので進んでいるように見えますが、【B】は何もないので何だかよくわかりません。ただの静止画と何も変わらないでしょう。

    まったく同じものですが、さらに線幅を広くすると何やら広大に。

    今度は狭くしてみましょう。カメラはまったく変えていませんが、スピード感が増しましたね。よく、数値を基準として「時速200km出ていますが進んでいるように見えません!」といった質問をいただくことがありますが、これは「時速200kmが見えるような現実的な環境にいないから」ということになります。

    「環境を整える」といった意味では、このように柱が5mおきに並んでいると優雅な速度に見えますが、

    1mおきにカメラの近くに配置してあるこちらは、かなりの速度に見えます。しかしカメラの速度は変わっていません。

    • 【C】
    • 【D】

    カメラの位置(地面からの高さ)も体感速度に大きく影響します。画像【C】と画像【D】はカメラの高さを変えたものですが、見た目がまったくちがいますね。【C】は航空機からの視点でしょうか。ゆったりとした飛行を想起させる、俯瞰からの視点です。【D】はF1レーシングのように地面ギリギリを走るシチュエーションを想起させる視点です。これらもカメラの速度はまったく変わっていません。

    • 【E】
    • 【F】
    • 【G】

    もうひとつ大きな要素は、「カメラのレンズ」です。【E】は広角な24m。【F】は一般的な50mm、【G】は望遠135mmです。それぞれまったくちがった印象になりますね。

    現実世界であれば、基準となる「道路」、「電柱」、「人」、「街」、「鳥」、「木」そして「空気」や「音」など、速度を補助してくれる様々なものがありますが、CGの世界は見た目しかありません。この「見た目だけの世界」の中で速度を表現するには、体感速度の理解が必須になってきます。

    体感速度の補足ですが、2Dアニメーションから発生した「効果線」という手法もありますね。漫画などでよく使用されている「効果線」ですが、何の動きもない画でも、効果線があるだけであたかも動いているようみ見えてしまいます。止まっているのに動いているようにみえる。これぞ動きの業の1つですね。

    さすがにリアル空間に効果線は使えませんが、似た効果として「デプリ効果」があります。これは塵やゴミなどをわざと演出してスピード感を高めるというものですね。

    今回は、3大カメラワークを紹介しましょう。まずは「山越え」から。

    空撮などのカメラワークでただ飛んでいても迫力も速度感も出ないので、よく使われる王道の手法です。今回は「高い山を正面に置いて→カメラいっぱいに山を越え→その先が広がっている」というカメラワークにしてみました。映画の冒頭シーンでよく目にするかと思います。他にもビルだったり谷だったり海から上がったり……。本当によく目にするカメラワークですね。

    「シャッター」とも言われますが、横にスライドするのもアリです。

    次に「ポン寄り」。遠目に動いていたところからいきなりアップになる、というカメラワークでかなりインパクトがあります。注目点に使えるカメラワークで、人物のアップなどでも使えますね。

    最後は「直前通過」。「カメラ振り」とも言いますね。これはカーレースの実況中継などでよく使われるカメラワークです。映画の場合は戦闘機や宇宙船が現れるシーンで必ずと言っても良いほど使用されている王道のカメラワークですよね。

    このように、カメラワークのアニメーションについてある程度の理解と技を身に付けておくと、仕事でもスムーズに作業できるので覚えておくと良いでしょう。

    Rendering&Composite

    今回はレンダリングに「Vantage」を使用しています。「V-Ray」を提供するChaos Groupのものなので相性が良いですね。

    連載でも何度か取り上げていますが、こういったリアルタイムツールは簡単であるほどありがたいです。せっかくのリアルタイムも、難解だとリアルタイムなのかデータを作る修行なのか本末転倒になりますからね。「ツールを使うことが仕事」ではなく「画を創ることが仕事」であると念頭に置いて作業しています。

    「ちょっと前まではこんな時代が来るとは思ってもいなかったので……」といったことを毎年言っていますが、来年も、そのまた来年も、どんどん新しい技術が登場するでしょう。CGは本当に飽きることがありませんね。

    V-RayのフレームバッファでLUTを作成しているので、これをリアルタイムにもAfter Effectsのコンポジットにも反映できるのはありがたいですね。

    実際に読み込んでLUTを割り当てた画はアニメーションを意識していたので、少々彩度が浅めですが……、

    Web上で見る場合は静止画なので、コントラストを高めに設定して見映えを強調しています。

    CGにはいつも夢があります。



    全ての望む方が素敵なCGに触れられるよう、オンラインで活動の幅を広げております。オンラインセミナーやオンライン教材を用意しているほか、講演なども承っておりますのでお気軽にご連絡ください。



    本来の画をつくる楽しさをいつまでも忘れずに。

    【チュートリアル収録内容】

    <画創の法則>

    動感の法則



    <実際の制作過程メイキング>

    モデリングからコンポジットまで

    使用ソフト:3ds Max、After Effects

    長年、セミナーや授業でお話してきた生な感じをぜひ体感いただけたら嬉しいです。ムービーの解説ではさらに詳しく内容をご説明しております。

    【ダイジェスト】vol.016:雪山 / 「動感」を体得する
    【+画 ONLINE】vol.016:雪山 / 「動感」を体得する

    3ds Max『画龍点睛オンライン』講座

    文章だけでは語りつくせない詳細をオンライン形式でお届けします。実践で役に立つ「基本と応用」をCGWORLDの連載『画龍点睛』で制作した作品を通じて解説します。ゼネラリストとしての作品づくりに対する考え方で、さらなるステップアップを。
    tutorials.cgworld.jp

    3ds Max『3DCGクリエイター講座』講座(デジタルハリウッド)

    CGに初めて触れる方や新人教育用の教材「CGオペレーション基礎講座」として、基礎固めに効果を発揮しています。3ds Maxの機能をひとつずつ詳細に解説。豊富な作例から楽しく機能を学んでいただけます。
    online.dhw.co.jp/course/3dcg

    早野海兵/Kaihei Hayano

    画龍 / Garyu
    ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー・コンピュータエンタテインメントを経て創作活動の世界へ。現在、CGWORLD.jpにて「+画」連載中。アートディレクターを務めながら講師や執筆等、幅広くCG業界に貢献している。
    #3dsMax, #adobe aftereffects, #zbrush, #substancepainter

    <代表作>
    ゲーム『鬼武者』シリーズ
    『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ
    『EXILE LIVE TOUR 2018-2019 "STAR OF WISH"』
    著書『テクスチャイリュージョン』シリーズ
    連載「+画」、「画龍点睛」

    早野海兵公式サイト:kaihei.net
    画龍公式サイト:garyu.mystrikingly.com
    Twitter:@Kai_ryu_Kai

    TEXT_早野海兵 / Kaihei Hayano

    EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE