ZBrushマスターとして独特の存在感を放つVillard・岡田恵太が、ZBrushを用いた勢いのある造形テクニックを毎月紹介していく本連載。今回は、平家物語に登場する「鵺(ぬえ)退治」の逸話をモチーフに、緊迫感のある造形をつくっていきます。

記事の目次

    猿や虎の体を併せもつ怪異「鵺」を造形

    今回は「平家物語」に登場する「源頼政の鵺(ぬえ)退治」をモチーフに、武士が鵺を退治する場面を制作しました。鵺の怪物のような妖怪のような禍々しい雰囲気と、今にも退治されそうな緊迫感の描写を意識しています。

    鵺(ぬえ)



    平家物語』などに登場し、の顔、の胴体、の手足を持ち、尾は。文献によっては胴体については何も書かれなかったり、胴が虎で描かれることもある。また、『源平盛衰記』では背が虎で足が狸、尾はになっている。さらに、室町時代には頭がで胴はのものが出現したと書かれた資料もある[2]



    出典:鵺 - Wikipedia

    ▲「平家物語」より、源 頼政の従者、猪 早太が鵺を取り押さえている場面。月岡芳年・作。鵺は、頭が猿、胴体が虎、尾が蛇のようである(画像提供:国際日本文化研究センター

    主要な制作アプリケーション

    ZBrush 2022
    Adobe Photoshop
    ・KeyShot 8

    STEP 01:鵺の身体を作成

    今回は、顔を含めて最初からアシンメトリーに制作していきます。左右の正確さより、躍動感や雰囲気をより重視します。

    ▲ざっくり顔を作成した後、引き延ばして身体をつくっていきます
    ▲四肢や尻尾を追加していきます
    ▲ラフな状態でも身体付きはしっかり意識していきます。今回制作する鵺は身体が虎なので、虎の力強い手脚を表現します
    ▲肩甲骨など骨格も意識していきます
    ▲少し顔を持ち上げ、顔回りに手を入れていきます

    STEP 02:背中に武士を追加する

    鵺の造形がある程度進んできたところで、鵺を退治する武士を追加していきます。このとき、甲冑などは最初あまり意識せず、まずはポージングを探っていくことに重きを置いて進めます。

    ▲まずは棒人間のような状態でポーズを模索していきます
    ▲雰囲気を探るために、いったん頭の兜を作成します

    STEP 03:鵺の顔を作成し、体の肉付けをする

    次に、鵺の顔の造形を進めた後、体のディテール、肉付けをしていきます。ディテールを意識しすぎて、筋肉など内面的な構造を無視した形状にしないよう注意します。ある程度造形が整ったら、ポリペイントで着色して構造を確認します。

    ▲猿の参考画像を見ながら、猿が狂暴にもがいている感じを意識してつくっていきます
    ▲髭を追加して、身体に毛などのディテールを追加していきます
    ▲毛を含めてもう少し力強い身体にするため、肉付けをしていきます
    ▲尻尾に蛇のディテールを入れます
    ▲鵺の雰囲気や造形を確かめるため、このあたりでポリペイントで色を足して確認します

    STEP 04:仕上げ

    武士の甲冑を追加し、全体のディテールやポージングを整えます。鵺にとどめを刺そうとする瞬間の、武士が刀を振りかぶるポーズは上半身の反り具合を丁寧に調整します。

    ▲武士の服や甲冑などを造形していきます。参考資料を見ながら必要な情報を精査して足していきます
    ▲ディテールを足して、崩れた鵺のアナトミーや武士のポージングの微調整をしていきます
    ▲簡単に背景を作成します
    ▲最後に、武士が刀を振りかぶっている感じになるように上半身を反らして完成です

    STEP 05:KeyShotでレンダリング

    KeyShotでライティングなど雰囲気を確認し、レンダリングします。ライティングは鵺の怪物感が感じられるよう、何を一番見せたいかに重点を置いて画づくりしていきます。

    完成

    最終的にPhotoshopで色味などを加えて完成です。

    今回は自分の得意とするクリーチャー感を上手く鵺に対して表現でき、不気味な怪物の討伐を描けたと思います。最初から構図をしっかりイメージすることがとても重要ですね。

    岡田恵太/Keita Okada(Villard Inc.)

    デジタルスカルプター、3Dコンセプトアーティスト。株式会社Villard代表取締役。

    国内外の造形に関わる仕事をメインに活動しており、カプコンフィギュアビルダー クリエイターズモデル『モンスターハンター』シリーズのフィギュア原型や『バイオハザード:インフィニット ダークネス』『ELDEN RING』を始め、『シャザム!〜神々の怒り〜』『65/シックスティ・ファイブ』などにも参加している。ジャンルを問わず映像やゲーム、CMなどの主にクリーチャーのコンセプトアート、モデル作成などを多数手がける。

    www.artstation.com/artist/yuzuki
    www.villard.co.jp

    TEXT_岡田恵太 / Keita Okada(Villard)
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)