技術やツールだけでなく、「他者の視点で考える力」が問われる時代に、クリエイターはいかに成長していくのか。各社の教育・研修の取り組みに迫る連載企画、第4回はStudioGOONEYSを紹介する。後編では、社内で行われてきたストーリー分析会での学びと、その延長線上に生まれたオリジナル短編作品『BRIDGE -My Little Friends-』の制作を通じて培われた思考力と表現力に迫る。

記事の目次

    ※本記事は月刊 『CGWORLD + digital video』vol.329(2026年1月号)掲載の「クリエイターの学びの現場 第4回 StudioGOONEYS」を再編集したものです。

    StudioGOONEYS

    2012年設立、東京都中野区に拠点を置くCGスタジオ。社員約70人。映画、アニメ、ゲーム、CMなど多彩な映像を手がける。スタッフひとりひとりが演出意識をもって制作に臨み、学びと挑戦が循環する開かれた現場づくりを推進している。
    Webサイト:https://gooneys.co.jp

    ストーリー分析会での学びを経て、オリジナル作品の企画・制作へ

    CGWORLD(以下、CGW):社内で実施された、ストーリー分析会についても教えてください。

    斎藤瑞季氏(以下、斎藤):5年ほど前に有志で始めた勉強会で、3ヶ月ほど集中的に続けて、監督や脚本家の意図を読み解く力、つまりロールプレイング力を磨くことを目的にしていました。

    代表取締役・斎藤瑞季氏

    石原一志氏(以下、石原):週1本ペースで、最低3回は同じ映画を観て分析し、2週間に1回は発表会を開くペースでした。業務後の夜に集まって、ときには朝の3〜4時まで続くこともありました(笑)。最初は正直しんどかったんですが、10本、15本と続けるうちに、自然と論理的にストーリーを説明できるようになりました。

    取締役/チーフディレクター・石原一志氏

    藤巻香洋氏:もともと斎藤は専門学校でレイアウト・アニメーションに加え、ストーリープロットラインの授業も担当しており、私はそのアシスタントをしながら学生と一緒に勉強していたんです。社内で分析会が立ち上がったときにも、有志のひとりとして参加しました。単なる「感想の共有」ではなく、三幕構成とターニングポイント、キャラクターの欲求やトラウマなどを起点に物語を分析する作業が、自分の思考力を鍛えてくれたと思います。

    広報・藤巻香洋氏

    斎藤:外部の映画コンサルタントをお招きして、発表会を開いたりもしました。ただし専門家の意見を“正解”として鵜呑みにするのではなく、自分たちの視点を客観的に照らすための参考として受け取っていました。社外からの刺激が、社内だけでは出てこない分析を引き出してくれたりもしましたね。

    石原:ストーリー分析を続けるうちに、構造的に考える習慣が身について、現場での提案にも変化が出てきました。「ここはこういう演出意図だから、こうした方が良い」というように、感覚ではなく論理で語れる機会が増えました。そこから自然と、「オリジナル作品の企画を立ち上げよう」というながれにつながっていったんです。その延長で、2024年に短編作品の『BRIDGE -My Little Friends-』(以下、『BRIDGE』)を監督しました。

    斎藤:本作は当社にとって初のオリジナル作品でした。ストーリー分析で培った理論を実制作に落とし込み、「CGで人の心を揺さぶる」ことを本気で目指した作品です。小林は別案件で手が離せなかったのですが、大山と濵邉は制作メンバーとして参加しました。

    大山萌依氏:クライアントワークだと、フィードバックが返ってくるまでに時間がかかるし、複数の決裁者が関わることも多く、途中で意見がブレることもあります。『BRIDGE』の場合は社内の共通認識の下で進められたので、判断が速く、迷いが少なかったし、提案がその場で採用される柔軟さもありました。CGの得意・不得意を理解しているメンバーだけで構成されていたことも大きな安心材料でした。何より「面白そうだからやってみよう!」で動けるのが楽しかったです。

    モデリングスーパーバイザー・大山萌依氏

    濵邉 麻里菜氏:『BRIDGE』は、オリジナル作品ならではのスピード感が印象的でした。斎藤や石原が私の後ろを通ったときに「今見てもらっても良いですか?」と声をかけたら、その場でチェックしてもらえる。フィードバックの往復が早い分、アニメーションの完成度もどんどん上がっていきました。

    アニメーター・濵邉 麻里菜氏

    石原:監督として作品全体をまとめる過程では、なぜ監督が決断を迷うのか、その難しさも身をもって理解できました。CGは本来「目的に対して最適化するデザイン業」的な性質が強いのですが、オリジナル企画は「正解のない創造」の連続で、クリエイティブの根源的な面白さがあると感じました。



    有志によるストーリー分析会から生まれた、オリジナル企画『CHATFOOD』&『Muguet』

    有志によるストーリー分析会は、ほどなくしてオリジナル企画開発フェーズへと移行した。参加メンバーが12案ずつ企画書を提出し、外部の脚本家を擁する企業にもち込んだ結果、石原氏による『CHATFOOD』と藤巻氏による『Muguet』の2案が選出された。両企画には脚本家が実際にアサインされ、映画脚本を制作。現在も2週間に1度の脚本会議を継続し、映画化を目指して脚本のブラッシュアップが進められている。



    • CHATFOOD』のキービジュアル

    • ▲同じく、イメージボード

    • ▲『Muguet』のキービジュアル
    • ▲同じく、イメージボード

    ▲同じく、イメージボード

    社内報「ぐーにーず新聞」で共有された、オリジナル短編作品『BRIDGE -My Little Friends-』制作の舞台裏

    『BRIDGE』は『CHATFOOD』のスピンオフ短編作品で、2024年度の「あにめのたね」(文化庁 アニメーション人材育成調査研究事業)対象作品として制作された。石原氏が原案・監督を務め、斎藤氏が演出・CGIディレクター、大山氏がモデリングSV、濵邉氏がレイアウト・アニメーション担当として参加。全社員約70人のうち、約20人のメンバーが携わり、クライアントのいない自社企画として社内リソースを調整しながら進められた。

    ▲藤巻氏をはじめとする広報チームによって、制作の熱量を全社に伝える社内報「ぐーにーず新聞」も発行。第1弾では、CGプリプロ段階でのキャラクターデザイン検討やアニメーションテストの様子が掲載され、大山氏が自発的に「リス」の6体のデザイン案を制作した経緯も解説された。なお、新聞内で紹介されている「SCAT」は本作の社内コードネームである
    • ▲『BRIDGE』のキービジュアル
    • ▲同じく、完成映像
    ▲同じく、完成映像。本作は完成後、29ヶ国の映画祭で101セレクション・30受賞を達成し、StudioGOONEYSの新たな代表作となっている
    ▲『BRIDGE』の PV

    30項目評価で可視化する、専門スキルと社会人力

    斎藤:当社は「ケレン味のある表現」などで差別化を図るスタジオではありません。ディズニー的なアニメーションも、日本的な作画風アニメも、同じ“造形力と演出力”の延長線上にある表現だと考えています。重要なのは、派手さや技巧ではなく、ストーリーに裏打ちされた感情の揺さぶり。CGで人の心を動かす表現ができれば、CGに対する市場の価値観そのものが変わると信じています。

    石原:だからこそ『BRIDGE』では、“アクションではなくアクティングで、人の心を揺さぶる”ことに挑戦しました。

    斎藤:オリジナル作品では、クライアントワークだと難しい繊細な演技にリソースを注げます。『BRIDGE』では、まばたきや目線、呼吸のタイミングなど、微細なアクティングに時間をかけられました。この表現領域に踏み込めたことは、当社にとって重要な挑戦であり、成長のステップになったと思います。

    石原:加えて、プリプロダクションの経験が積めたことも大きかったですね。

    斎藤:当社は「プロダクション(量産)を担うスタジオ」だと思われがちですが、実際にはCGプリプロ(デザイン設計、ステージング、リグ構築など)や、さらに上流のプリプロ(企画・構成・演出など)の段階から作品づくりに深く関わることができます。

    石原:上流から関与することで、監督や脚本家と一体になって企画を育てられる。それが当社ならではの強みです。ただし、その貢献は最終映像からは見えづらく、「替えが利くスタジオ」だと誤解されやすい。だからこそ、プリプロから関わっている事例を積極的に発信していく必要があるんです。

    斎藤:今後はIPホルダーや企画会社と“最初から”組める体制を強化します。「できます」と言うだけではなく、「こういう事例をやっている」と示すこと。制作スタジオから企画パートナーへと進化し、プリプロから価値を発揮できる存在であり続けたい。AIの台頭が進む今、“人の心を揺さぶるCG”をつくれるスタジオであることが、当社の生存戦略なんです。

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.329(2026年1月号)

    特集:映画『果てしなきスカーレット』

    定価:1,540円(税込)

    判型:A4ワイド

    総ページ数:112

    発売日:20251210

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota