良い画には法則があります。
「美術(美 + 術)」は術であり技です。気の遠くなるような長い年月をかけて、
人類はそれを研鑽し昇華してきました。
画のみに留まらず、願わくばあなたの人生も+(プラス)になりますように。
クリエイティブの素晴らしさを伝えたい
もう「CG」に限定しなくても良いかもしれない
新年あけましておめでとうございます。
気が付けばまた1年が過ぎ、午(馬)をつくるのも『画龍点睛』から数えて3回目になります。自分のCG歴もついに30年を超え、同年代のCGクリエイターの多くはすでに引退したり、管理職になっていたりします。私も毎年のように「そろそろ引退かしら?」と言いつついまだに仕事を続けている、そんな格好悪い感じです。
あと何本、素敵な作品制作に関わることができるのか。そのように思いを巡らせながら業界を見渡してみると、尊敬する海外の監督たちは80歳を超えても映画『グラディエーター』のような超スペクタクル作品に挑み続けていますし、映画『アバター』の監督も70歳を超えてなおアグレッシブに興行記録を塗り替えています。
日本においても、アニメ『機動戦士ガンダム』のレジェンドと呼ばれるクリエイターの方々が、今も第一線で制作に携わっています。クリエイティブの先人たちは、まだまだ遥か遠くを走り続けているのです。本当に尊敬に値しますし、私が作品を創り続ける大きな励みにもなっています。
よく世間では、
「20代はガムシャラ」
「30代は環境」
「40代は信頼」
「50代は好きなこと」
と言ったりします。私自身も、「好きなことを続けたい」という一念だけで、ここまで歩んできました。
2026年の抱負
では、新年ということで、2026年の抱負を。それは「少しでも多くの人に“クリエイティブの本当の素晴らしさ”を伝えること」です。
毎年この記事を読んでくださっている方は「あれ?」と思われたかもしれません。そうなんです。今年の抱負からは「CG」という言葉が消えました。もう「CG」という言葉に限定しなくても良いのではないかと思うのです。(これはあくまでも私個人の感覚ですが)もはや「CG」という言葉にこだわらなくても良いのではないか、とさえ思うのです。
だからこそ、2026年は「より広い意味でのクリエイティブそのもの」に向き合い、その魅力を伝えていきたいと思っています。
午年なので、馬をつくろう!
せっかくなので、過去に制作した「午(馬)」の作品を振り返ってみました。
こちらは24年前の午年に制作した作品です。
ほとんど手描きのテクスチャだけで、軽いモデルで制作していました。
こちらは12年前の作品です。当時はサーフェスモデルを駆使し、曲面のモデリングに夢中になっていました。CGの歴史もこの30年で本当に大きく変わりました。そしてつくり方も、関わる人々も大きく変わりましたね。
今年は、スキャンしたモデルを組み合わせた流木アートの馬モデルです。様々な人、気持ち、意識が組み合わさってひとつの午(うま)を構成する。そしてそのコロニーは多数存在する。そんな意味を込めてみました。
さて、私は素材用の撮影のためによくロケ現場に足を運びます。昔に比べて持ち歩く荷物が格段に減ったことが、とても嬉しい変化です。
3Dスキャンなんて、かつてはかなりの機材が必要でしたからね。ところが今や、iPhoneひとつでガウジングまでできてしまう。素晴らしい……!
左が以前、右が現在の(撮影時の)装備です。今も昔も「装備は黒」であることに変わりはありません。撮影現場では、白っぽい色やカラフルな色は反射したりカメラに映り込みやすくなるため、暗黙の了解となっています。一眼レフと巨大なミラーボールで撮影していたHDRも、今や360度カメラひとつでOK。ノートPCや書類も、iPadだけでほぼ事足ります。
そして、ひとつだけ最近になって荷物が増えたのものがあります。それは「携帯イス」。撮影現場は座る場所がほとんどないため、携帯イスは今や(年齢的に)必須の装備になりました。
画創の法則
パターン認識
同じものを大量にコピーできるのが、3DCGやデジタルの良いところです。しかしその一方で、まったく同じだからこそ「コピー&ペースト感(以下、コピペ感)」が出てしまう。それを軽減するには、やはりちょっとした手入れが必要になります。
当然ですが、同じものをそのままコピーするとコピペ感が強く感じられます。「パターン画」としては整然と揃っているというのもひとつの表現ですが、画として見るとどうしても不自然です。
いったい何がコピペ感を醸し出す要素となっているのか……。ポイントをまとめてみましょう。
まずは顔。なかでも耳などの輪郭になる部分は特に目につきます。そしてポーズも然り。足の位置や体の向き、高さなども、揃って並ぶと一気に不自然さが出てしまいます。
では、コピペ感を回避するために手を加えていきましょう。まず取り組むのはポーズです。走るポーズを3頭それぞれ別の動きにして変化を付けます。両端の馬は半分しか見えないので、どれを使ってもあまりコピペ感は出ません。
その上で体の角度や上下、前後の位置、そして頭の角度を調整します。意外と目立つのが耳です。耳の形を少し変えるだけでも印象が大きく変わります。
群衆シーンの制作でも同じ動きが続くとどうしても目に付くため、「何パターン必要か?」とよく議論になります。とはいえ、パターンが多すぎてもコントロールが大変になるので、必要最低限の数を見極めることが大切ですね。
色の苦手なあなたへ
色の法則
がんばって描いているのに、色を塗った途端に台無しにしてしまう。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
私自身も台無しにしてしまった経験があり、その経験による私見なのですが、「色彩」というものを上手く扱えていなかったのだと思います。端的に言うと、色彩スキルが足りていなかったということです。
本来であれば、「スキルが足りていない部分に対して時間をかけて向き合う」べきなのかもしれませんが、私は「スキルがなくてもきちんと成立する方法」を考えることにしました。それはモノトーン技法。「色を捨てる」という選択です。
おそらく、絵を描くときには様々な要素が必要です。
大きな外郭を描く。
明暗を付ける。
細部を詰める。
色を塗る。
さらに詰める。
画の構成要素から「色」を省けば、「色を塗る」という工程がなくなり、1工程カットできます。
皆さん、芸術的なモノトーンや白黒写真が強く心に残った経験はありませんか? カラー全盛の時代において、モノクロ写真はインパクトのあるものです。とりわけCGだと、そういった作品は少ないので目立ちますよね。
さすがに、全てをモノトーンにするわけにもいかないので、ワンポイントカラーを施します。美容院かよ!(笑)という感じですが、これは段階です。
モノトーンから始めて、次に1色追加してみる。慣れてきたら、また1色追加……。
以上の手法が、色に対する私の処世術でした。 そもそも、世界に「色」は存在しません。 色は、人間の脳が認識する知覚現象です。他の生物が見ている世界は、人間とはきっとまた違うことでしょう。ひとつひとつは、ただの光の波長でしかありません。
自然の現象をコントロールしようとするなんて……。何ともおこがましいことではないですか。
シネマティックな画にするために
私は映画がとても好きです。特に、海外映画に多い、少しブルーっぽいグレーディングのカラコレが好きで、自分の作品でもよく使っています。
フィルムだったり、カメラのフィルタだったり、色温度や映画の銀残しだったり。そういった要素を意識しつつ、ほんの少しカラコレを加えるだけで、雰囲気を寄せることができます。
「画創の法則」でもよく使うS字カーブで、コントラストを調整します。
色温度を変更し、青みを追加しました。ちょっとしたことで、画の雰囲気はガラッと変わりますよね。
より進化した「Adobe Firefly」の新機能で実験をしてみる
3ds Max の販売元であるAutodeskから「Autodesk Flow Studio」が発表されました。以前話題になったCGツールがベースになっているようですが、これだけでも時代の流れを感じます。また、Adobeのツール群には「Firefly」が搭載され日進月歩の進化を遂げています。
さてそんな中、ちょうどこの原稿の執筆中に「Adobe Firefly」がキャンペーン中だったので、試しにPhotoshopでアイデア出しをしてみることにしました。
まずは地面が少し寂しかったので、砂利っぽい感じと跳ねる土砂を追加しました。このように「ちょっとした効果」を加えられる点は良いですね。
次に、馬に乗せる騎手を同じようなデザインで指定してみました。少し面白みのあるデザインになりましたね。
舞い上がる土砂。エフェクトをCGっぽく追加。
ちょっとキャラクターを変更してみましょうか。……こんな感じで気軽に試せるのがアイデア出しにはちょうど良いですね。
後ろにゲートなども追加。マスクも切らずに合成できるとは……。よし、色も付けてみよう。
アドベンチャー映画風の自然なライティング。
スペクタクル作品のように、炎に包まれた激しい画にしてみる。おお? なかなかですね。
これらをFirefly Boardでも作成。正直、よくわからない部分もありますが、画面のレイアウトは格好良い。……と、ここまでいろいろと新機能を試してみましたが、結局は作品に使用するには至りませんでした。
「Firefly」のサポートによりディテールは追加され、情報量もグッと増えました。
しかし、それは私の作品ではない。何も聞こえてこない。
とはいえ、技術的な面ではとても期待しています。「クリエイティブの本質」となる作業を委ねるのではなく、あくまでも「ムダに苦労の多い作業」を手助けしてくれる存在であってくれたら、もっとクリエイティブな作業に時間が使えるようになるので嬉しい。
簡単にマスクが切れたり、トラッキングができたり、データが軽くなったり、レンダリングをしなくても良くなったり。そうなればとても良いですね。
テクノロジーとは良い付き合い方をしていきたいものです。
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早野海兵/Kaihei Hayano
アートディレクター/ジェネラリスト
クリエイティブアーティスト
ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー・コンピュータエンタテインメントを経て創作活動の世界へ。現在はアートディレクターを務めながら講師や執筆等、幅広くCG業界に貢献している。
#3dsMax, #adobe aftereffects, #zbrush, #substancepainter
<代表作>
ゲーム『鬼武者』シリーズ
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ
『EXILE LIVE TOUR 2018-2019 "STAR OF WISH"』
著書『テクスチャイリュージョン』シリーズ
連載「+画」、「画龍点睛」
早野海兵公式サイト:kaihei.net
TEXT_早野海兵 / Kaihei Hayano(@Kai_ryu_Kai)
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)