仮面ライダー50周年という大きな節目を象徴し、オリジナルへの敬意と新たな挑戦を体現した本作。VFXを駆使した変身シーンをはじめ、見どころの一部を紹介する。
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自然で違和感のないVFX表現を目指す
1987年に公開され、今もなお愛され続けている『仮面ライダーBLACK』。35周年を迎える2022年、仮面ライダー生誕50周年記念企画としてリブートした『仮面ライダーBLACK SUN』が、10月28日(金)よりPrime Videoにて公開された。本作は支配階級の人間と、差別を受けながらも暮らし続ける怪人が共存する現代日本が舞台となる作品だ。人間と怪人の溝が深まる中、怪人の頂点たる「創世王」の継承をめぐって出会った仮面ライダー「BLACK SUN」と仮面ライダー「SHADOWMOON」の物語が描かれる。
左から、CGディレクター・白尾清学 氏、 VFXスーパーバイザー:福嶋 瞬 カルロス氏(以上、alphaliez)
映画クオリティの画づくりと重厚なストーリーで描かれた本作のVFXは、alphaliezが担当した。VFXディレクターの福嶋 瞬 カルロス氏は次のようにふり返る。
「樋口真嗣さんから『仮面ライダーBLACK SUN』のスーパーバイザーをやらないかとお声がけいただいたのがきっかけでした。任された後は、白石和彌監督や特技監督の田口清隆さんと相談しながら、どこまで実写で、どんな素材を撮って、どうつくっていくかを決めていきました。白石監督はわれわれスタッフの意見をかなり尊重してくださるので、VFX的にも非常にやりやすく、丁寧なつくり方ができたと感じています」(福嶋氏)。
700近くあるというVFXカットの中でも特に重い作業となったのは、変身シーンだ。これまでの『仮面ライダー』シリーズでは、同ポジで光らせたりカット割りをすることで変身を表現してきたが、本作はVFXを使うことで変身の過程を丁寧に“魅せて”いる。
「アクションの主役はもちろんスーツアクターによる演技なのですが、違和感を感じさせない、自然な変身表現を目指しました。一部ですが、あえてこれまでの伝統的な変身表現を演出的に取り入れた部分もあります」(CGディレクター・白尾清学氏)。
原作をリスペクトしながら、これまでにない新しい表現を目指してつくられている本作。ここでは、丁寧かつ意欲的につくり込まれたVFXの舞台裏に注目していきたい。
<1>造形スーツの3Dスキャン
フォトグラメトリーとハンディスキャンの良いとこどり
「過程」を見せる変身シーンは、本作の見どころのひとつだ。これまでの『仮面ライダー』シリーズの変身シーンは、役者による演技→光や煙などのエフェクトがキャラクターを包む→スーツアクターによる演技、というながれが一般的だった。本作は中間の変身演出に3DCG・VFXを組み込むことで、変身の「過程」を丁寧に描いている。
変身演出とその後のスーツアクターを自然につなぐため、作業は造形されたスーツを3DCG化するところから始まった。「まずフォトグラメトリーとハンディスキャンでスーツを3Dスキャンし、それらのデータを良いとこどりしてモデルのベースにしました」(福嶋氏)。フォトグラメトリーは東宝スタジオ内にある3Dスキャンスタジオ「iris」で撮影し、ハンディスキャンは上田倫人氏によって行われたという。
「iris」での撮影
「スーツのウエストがかなり細くて、本番のスーツアクターさんしか着れない問題がありました。アクターさんの予定を押さえるのも大変だったので、全身をまずフォトグラメトリースタジオで一発撮りし、その後ハンディスキャンでパーツごとに分けてスキャンすることにしました」(福嶋氏)。
ハンディスキャンデータをフォトグラメトリーデータに合わせて再配置することで、高精度かつ着用時のバランス通りのベースモデルをつくることができている。一瞬でスキャンできるフォトグラメトリーと、ディテールに強いハンディスキャンの良いとこどりをしたかたちだ。
フォトグラメトリーとハンディスキャン
スーツの3Dデータは、変身シーンのアニメーションを複雑に見せるため、造形されたスーツよりも細かいパーツに分割する必要があったという。
「おおまかに、スキャンデータの分割、見えない場所の補完造形、リトポロジーというワークフローをとりました。具体的には、まずスキャンデータをシンメトリー化し、チームで分担しながらZBrushのマスク機能とSplit機能でパーツ分離、Dynameshで穴を埋め、見えないところや境界部分の造形を制作しました。その後は時間の許す限りフォトグラメトリーの写真を参考にディテールを彫っていき、最終的にZRemesherや3ds Maxのポリゴンモデリングでリトポロジーしています」(福嶋氏)。
このワークフローによって、モデリングからリグのセットアップまで、1体あたり1~2週間程度で行うことができたという。
パーツ分割とリトポロジー
<2>造形に寄せた質感づくりと変身アニメーション
シンプルな制御システムとハイクオリティの両立
細かい造形は、基本的にZBrushによるスカルプトで表現しているという。「ディテールは基本スカルプトで彫り込んで、ディスプレイスメントマップでモデルに反映する手法をとりました。微妙なシワなどは、ノーマルマップを自然な見た目になるような割合で組み合わせて表現しています」(福嶋氏)。
アニメーション作業はリトポロジー済のローポリモデルで行い、レンダリング時のみディバイド・ディスプレイスによる変形がかかるようにしておくことで、作業効率を保ちつつモデルのクオリティを担保している。
複眼も、実物のスーツ通りの造形にすることで表現しているという。「実物のスーツは、造形の藤原カクセイさんが六角鉛筆を押し当てて成形していました。昔からライダーの目はこのつくり方なのだそうです。ここをきちんとモデルとして再現することで、スーツ通りの複眼が表現できました」(福嶋氏)。
ZBrushによるディテール
マテリアルはフォトグラメトリー時のアルベドがあったものの、光沢が多く扱いにくかったため、Substance 3D Painterでイチからつくり込まれた。
「Substance 3D Painterでは、まずZBrushで出力したハイポリモデルをそのまま読み込んでベイクし、そのベイクマップをローポリモデルにもってくるワークフローをとりました。経験上、この方法が最も高品質にディテールをマテリアルに取り込むことができます」(福嶋氏)。
Substance 3D Painterによるマテリアル
変身アニメーションは、小さな触手が全身を覆いながら、外骨格が体を包み込むながれになっている。スーツ表面の筋をイメージしたという触手は、tyFlowで制御された。
「外注先のクオリティコントロールをするためにも、変身システムはあえてシミュレーションなどは使わず、どこでも扱えるような設計にすることを目標にしました。触手も、ガイド用の球体に入った場所から3種類の触手がランダムで出てきてしぼむ、というシンプルな構成です」(福嶋氏)。シンプルなしくみとはいえ、かなり複雑さがあり説得力のある画ができている。
外骨格は体の前から出てくるものと後ろから出てくる2パターンが用意されており、カットによって使い分けられている。「役者が服を着た状態で変身しているので、綺麗に見えるように、かつ外骨格が出てくる境界が見えないように、常に後ろ側から包むように出てくるアニメーションにしました」(福嶋氏)。
変身アニメーション
<3>実績あるHDRIワークフローによるコンポジット
丁寧な準備と処理で実現する美しい画づくり
本作ではコンポジットを効率化するために、VFXチームが現場に立ち会って全シーンのチャート・グレー玉・HDRI・カットごとのカメラ情報を記録している。HDRIの撮影にはTHETA Z1が用いられ、CGSLABが公開しているワークフローをとったという。
「HDRIは基本は朝・昼・夕の3パターン、加えて太陽光が大きく変わった時に撮影しました。ただ、THETAでは太陽光の輝度が足りないので、Nukeで後から輝度を足しています」(白尾氏)。
HDRIを用いたIBL
大きく画面を横切るワイヤーアクションなど、複雑なバレ消しのあるカットはSynthEyes等を用いてカメラトラッキングし、3D空間上のマットペイントで処理された。細かい処理も丁寧に行うことで、高い水準の画が出来上がっているのだ。
丁寧なバレ消し作業
クモ怪人のショットブレイクダウン
蜘蛛の糸の表現
変身シーンは、撮影時に役者プレート、怪人プレート、誰も写っていないクリーンプレートの3種が撮影された。役者プレートの人物をロトスコープし、そのアルファでマスクしたグレーの板を3Dシーン上にも配置しておくことで、役者にかかるCGの影素材をレンダリングしている。
「板に落とした影を重ねるだけでも、かなり馴染みが良くなりました。ほかにも、変身時はとても熱くなるという設定があったので、今回用に黒バックで撮影していただいた湯気素材をコンポでいくつも重ねたり、ヒートディストーションを入れたりしています」(白尾氏)。
煙の実写素材は、NukeのGizmo「aPMatte」を利用してCG素材のポイント情報から簡易的に深度情報をつくり、それを使ってマスクすることで煙の奥行き感を表現している。
アネモネ怪人のショットブレイクダウン
変身時の湯気の表現
素材はRed color4カラースペースのdpxで届き、ACES 1.0.3でカラーマネジメントが行われている。CG素材は作成したHDRI環境下でレンダリングしているので、チャートで基本は合うという。
「編集の都合でプレグレーディングされた状態の素材が届いたのが少々やっかいでしたが、チャートなどの各種素材と、造形物も一緒にリファレンス撮りしておいたので、色は基本的に一発で合いました」(白尾氏)。
そのほか、奥行きによるコントラストの変化を加えたり、NukeのGizmo「apDirLight」を利用したリライトなどを行なって馴染ませている。
使用した各種ツール
月刊CGWORLD + digital video vol.294(2023年2月号)
特集:映画『すずめの戸締まり』
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年1月10日
TEXT_三宅智之(38912 DIGITAL)
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada