北条 司原作の大人気漫画『シティーハンター』が、Netflixによって国内初の実写化。新宿を舞台にくり広げられるアクションを支えたVFX制作の裏側に迫る。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 313(2024年9月号)からの転載となります。

    シティーハンターらしさと見知った新宿の街の再現

    Netflixにて配信中の映画『シティーハンター』。4月25日に配信されるやいなや、Netflixの日本トップ10(映画部門)で2週連続で1位を獲得、世界50の国と地域でトップ10入りを果たすなど、世界的な大ヒットとなった。北条 司原作漫画を国内で初めて実写化した作品であり、VFXを用いた派手なアクションももちろん見どころのひとつだが、一見気づかないところにも多くのCG・VFXが活用されている。

    Netflix 映画『シティーハンター』

    一部劇場にて 9 月 27 日(金)より公開
    Netflix にて独占配信中
    出演:鈴木亮平、森田望智、安藤政信、華村あすか、水崎綾女、片山萌美、阿見201、杉本哲太、迫田孝也、木村文乃、橋爪功、監督:佐藤祐市、脚本:三嶋龍朗、エグゼクティブ・プロデューサー:高橋信一(Netflix)、プロデューサー:三瓶慶介、押田興将、制作:ホリプロ、制作協力:オフィス・シロウズ、製作:Netflix、原作:北条司「シティーハンター」/原作協力:コアミックス
    © 北条司/コアミックス 1985

    「実写化にあたり、原作さながらに冴羽 獠の活躍を誰もが期待したところだと思います。多くのアクションが見どころである一方で、映像としてどうつくるかという部分は課題でした。新宿歌舞伎町をメインの舞台にしていますが全て新宿で撮ることは不可能なので、別のロケ地やセットでの撮影が必要となります。その上で誰もが見知った新宿の街並みを、違和感なくCGも合わせてつくり上げる必要がありました」(VFXプロデューサー・赤羽智史氏)。ビルの屋上から望む新宿の街並みや各アクションカットのBGとしてCGが多く活用されている。

    メインの制作スタジオは、コンペを経てデジタル・フロンティアに決まった。「はじめに全体VFXのブレイクダウンを提出したのですが、アサンプションを付けた上で細かい情報を提示しました」(VFXスーパーバイザー・三宅 仁氏)。

    赤羽氏によれば、「決め手となったのは本を読む力というか、制作手法も含めて最終の画がイメージができていたことでした。原作ファンも多い中、『シティーハンター』らしさをしっかりと構築する必要があったからです」とのことだ。

    左から、VFXアシスタントプロデューサー・中島征隆氏(フリーランス)、背景モデリングリード・源 良太氏、VFXスーパーバイザー・三宅 仁氏、コンポジットリード・冨尾礼美氏(以上、デジタル・フロンティア)、VFXプロデューサー・赤羽智史氏(THE SEVEN

    誰もが見知った新宿の街の再現と原作の冴羽 獠のイメージを崩すことなく、魅力あふれる実写版『シティーハンター』をつくり上げるためのVFX制作であったが、「冴羽 獠おなじみの言葉をもじって、“もっこりエンターテインメント” を合言葉に、全員一丸となって制作に臨みました。原作ファンも多い大人気作品の実写化で、ワクワクしてもらえる作品になったと思います」(三宅氏)とのこと。それでは本作のVFX制作の裏側を覗いてみよう。

    <1>プリプロダクション

    撮影とVFX制作をスムーズにつなげる

    制作は2022年7月ごろからロケハンが開始され、クランクインが11月初旬。撮影終了が2023年4月となり、VFX制作は2024年1月まで続けられた。1年半ほどの制作期間となったが、作品全体で2,000カットを超え、そのうちVFXカットは700弱ほどにものぼったという。

    「ロケハンから制作に加わりましたが、当初から新宿の撮影をどうするかというのはたびたび議題に上がっていました。一番最初に行なったのはレストラン関連のカットです。現実のロケーションでトラックが突っ込んでいい場所があるわけはないので、オープンセットを立てるところから始めました。舞台となるレストランがガラス面で囲まれた路面店ということもあり、撮影計画をしっかり立てる必要がありました」(三宅氏)。

    そのほか、冒頭半グレ集団の事務所に冴羽 獠が乗り込む一連のカットや、ラストのローレビルのカットなどなど、各カットのロケハンから撮影およびVFX計画が進められていった。

    なお、撮影時にはセットエクステンションも含めCGで作成するモデルのリファレンスのために、Leica RTC360を基本に補足でiPhoneアプリ「Polycam」を活用し3Dスキャンが行われた。「RTC360での高精度のデータを準備を基本としていましたが、カメラが動かないカットでは全方位からのスキャンはそこまで必要とされないため、時短の目的からPolycamも使用しました」(三宅氏)。

    そのほか、HDR撮影に加えてリファレンス撮影も行われたが、特徴的なのがGoProによるリファレンス撮りだ。「GoPro3台を三脚に立てて、リファレンスカメラとして撮影することを最近よくやっています。トラッキングに役立てたり、ライティングの配置を収めたりなど撮影状況を記録するという点でも役立っています」(三宅氏)。

    撮影場所となったロケ地、セット

    アクションカットも含めVFXカットでは、CGが多用されている。「トラックがレストランに突っ込んだり、冴羽 獠が飛び込んだりと、派手な見せ場となるカットには、ロケハンから撮影まで、入念にVFX計画を立てました」(三宅氏)。

    • ▲新宿繁華街の路地裏のセット
    • ▲レストランセット
    • ▲プラントのロケ地セット
    • ▲ローレビル屋上セット

    CGによるセットエクステンション

    CGによるセットエクステンションは必須のVFXワーク。撮影時には現場のスキャンデータを取得し、制作に役立てられた。また実際の街を舞台としているため、設定と整合性を保てるよう3D都市データも活用された。

    • ▲新宿の街スキャンデータ
    • ▲レストランセットのスキャンデータ
    • ▲プラントセットのスキャンデータ
    • ▲ローレビルと3D都市データ

    <2>シーンメイキング

    現実感のある舞台にエンタメ性をプラス

    本作でのCGの大きな役割としては、セットエクステンションが挙げられる。「エクステンション部分は撮影現場で取得したスキャンデータやリファレンスを用いて再現していきましたが、アニメーションが関わるカットでは、はじめにローモデルを作成してからハイモデルを起こしています。ルックデヴも撮影現場のシチュエーションごとにHDR素材を準備してもらい、質感付け作業を行いました」(背景モデリングリード・源 良太氏)。

    なお、ビルの上から新宿の夜景を望むカットも多数登場するが、一部ではマット画も使用されている。「マットは、普段からよく一緒にお仕事させていただいている外部の会社に依頼しています。ただ、全カットに対応するマットは解像度的に難しかったので、カットごとに準備してもらいました」(三宅氏)。

    フォトリアルなCG制作が基本ではあったが、エンタメ作品として印象に残るような味付けも意識されたという。「例えば夜景です。現実ではもっと空は暗く、ライトも少ないものですが、ディテールを残しながらも新宿の煌びやかさを感じられるような嘘をついています。CGコンプにおいては、特にライティングの部分で演出的な嘘を交えた部分もあります。ただし、やりすぎてしまうと嘘っぽくなりすぎてしまうので、バランスを見極めながら進めていきました」(三宅氏)。

    アクションに関しても原作漫画を意識し画の強さを強調させるなど、カットごとに工夫が凝らされている。象徴的なのが冴羽 獠が半グレ集団のビルの窓を撃ち、突入するまでの一連のカットだ。まさに原作のイメージ通りの主人公の姿に惹きつけられる出来映えだ。

    「原作キャラのイメージを強く感じられるよう、冴羽 獠のシャドウの陰影具合などグレーディングには細心の注意を払って作業しました。BGはNuke上に3Dモデルを構築し、立体的なスピード感を感じさせつつしっかり魅せる画として調整していきました」(コンポジットリード・冨尾礼美氏)。

    キーショットのメイキング

    キーショットにも選ばれた『シティーハンター』を象徴するカット。グレーディングには細心の注意が払われ、原作漫画を彷彿とさせるイメージに仕上がっている。BGは立体的なスピード感を損なわないようにNuke上で3Dモデルを構築し、ボケ具合が調整された。

    ▲完パケ
    • ▲撮影プレート
    • ▲グレーディング調整比較
    • ▲Nuke上で構築された3Dモデル
    • ▲BGテクスチャ素材

    ビルから飛び出すカット

    風俗ビルから冴羽 獠がマットに乗って飛び出すカット。風俗ビルは現実的に撮影可能なビルはなかったためCGで作成され、新宿ではない某所で撮影されたプレートと合わせられた。ビルのデザインはモデリング担当者が様々な資料を集め、デザインからビルの材質にいたるまで現実にありそうなビルとしてつくり上げたとのことだ。

    • ▲CGでつくられた風俗ビル
    • ▲撮影プレート
    ▲CGコンプ

    レストラン

    ▲レストランに関わるカットでは、レストランのオープンセットを立てての撮影となり、CGで作成した新宿の街並みを合成することとなったが、オープンセットの全方位をブルーバックで囲うことは不可能。そこで、ブルーバックを付けたトラックを、【上の画像群】のようにカットごとに移動させながら撮影が行われた。まずはプリビズを作成し、ブルーバック用トラックをどこに配置するかの計画を綿密に立ててから撮影に臨んでいる。各画像の緑のモデルがブルーバック用トラック

    新宿の街並みメイキング

    レストランは新宿中央公園の一角、交差点と面する設定となっている。クルマの窓ガラスの影響があり、屋外での撮影の際通常であればブルーが抜きづらいが、移動式のブルーバックで極限まで近くに寄せて撮影されたため、処理しやすかったとのことだ。

    • ▲CGコンプ
    • ▲撮影プレート
    ▲CGで作成された新宿の街並み

    新宿の街を歩く人は、近景ではエキストラによる実写だが、遠くに映る人々はCGで追加されている。20名ものモーション用エキストラを招き、それぞれ複数のモーションパターンをモーキャプ収録し調整された。

    • ▲CGコンプ
    • ▲撮影プレート
    ▲CGで作成された新宿の街並み

    白昼のカットはバレが目立ちやすく再現するのは非常に難しいものであったというが、リファレンスを用いて入念にライティングを調整。また本画像には写っていないが、一連のカットで追加されたCGの自動車の反射には特に気を遣い、別途反射素材を準備して再現された。

    • ▲CGコンプ
    • ▲撮影プレート
    ▲CGで作成された新宿の街並み
    ▲自動車の反射用素材

    プラントのメイキング

    プラントのカットにおいてもセットエクステンションが施された。実際の撮影セット(ロケ)の構造は、奥行きのないものであったが、CGによって奥に続く空間と天井から吊り落ちる梯子が追加された。これらもセットのスキャンデータをベースに拡張されている。

    ▲完成イメージ
    ▲CGモデル

    プラント内での銃撃戦のカット

    冴羽 獠と槇村 香が隠れるコンクリートブロックが銃で撃たれ、破壊されながら弾痕が増えていくエフェクトはHoudiniにて作成された。

    • ▲CGコンプ
    • ▲CGコンプ
    ▲Houdiniによる破砕シミュレーションの様子

    ローレビル。

    クライマックスの舞台となるローレビル。デザインから全てオリジナルのものとしてイチから作成された。本モデルは、屋上のセットと合わせておおまかな造形をキットバッシュ的に組み上げて作成されている。なお、質感はHDRイメージと合わせてルック検証を重ねて調整されていった。

    ▲CGモデル
    ▲HDRイメージを用いたルックテスト

    ローレビル屋上

    ローレビル屋上のカット。ここでの新宿の夜景部分にはマットを用いている。求められたのはクライマックスシーンとしての煌びやかさ。ネオンの光などを強調し、印象に残るカットに仕上げられた。ヘリのスポットライトは現場で焚いたスモークをマスクで抜いていく必要があったため、合わせに苦心したとのことだ。

    ▲撮影プレート
    • ▲マット
    • ▲CGコンプ
    • ▲撮影プレート
    • ▲マット
    ▲CGコンプ

    ガラスの破壊エフェクト

    強化ガラスを破って突入するカット。ガラスの破壊エフェクトもHoudiniにて作成された。

    • ▲CGコンプ
    • ▲撮影プレート
    • ▲CGレンダリング素材
    • ▲Houdiniシミュレーションの様子
    ▲本カットのノードネットワーク
    デジタル・フロンティア 制作スタッフのみなさん(一部)

    CGWORLD 2024年9月号 vol.313

    特集:VRChatへ飛び込もう!
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年8月9日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_渡邊英樹
    EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada