これまで首都圏を中心に都市部への集積が続いてきた日本のCG業界だが、近年、地方行政における誘致活動の動きと相まって、新拠点を検討するコンテンツ企業・クリエイターも増加中だ。本連載では、自分たちが好きな場所で働くクリエイターにフォーカスをあて、その暮らし方や業務スタイルを紹介する。
今回は、東京から、「デジタルアートの島」構想を掲げ積極的にデジタルコンテンツ産業の創出に取り組む熊本県天草市へと移住し、フリーランスゼネラリストとして活動する嶋田宏也氏にインタビューを実施。なぜ天草という選択なのか、天草独自の魅力や、日々の暮らしぶりについて伺った。

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リラックスできる住環境を求めて天草で新たなスタート
――まずは自己紹介をお願いします。
嶋田宏也氏(以下、嶋田):天草でフリーランスゼネラリストをしています、嶋田宏也と申します。2011年に大学を卒業してから渋谷のCGスタジオで働きはじめて、2018年にフリーランスになりました。
――嶋田さんはいつから天草に移住されたのでしょうか?
嶋田:今年の3月末からです。
――天草ではどのようなお仕事をされているのでしょうか?
嶋田:天草市とORENDA WORLDが共同で興した「デジタルアート天草」というCG会社にスタッフとして参加しています。
――嶋田さんが東京から天草へと移住を決めた経緯について教えてください。
嶋田:もともと僕は仙台が出身で、就職を機に東京に出てきました。その時に僕が住んでいた部屋の両隣の部屋を大家さんが民泊に使い始めてしまって、住環境がかなり悪くなってしまったんです。その時の経験から、東京のように常に人が流入し続ける都市にいると、そういうトラブルにまた直面しちゃうんじゃないかという恐怖がありました。そういう事の積み重ねで、都会は安心できる場所ではないという思いをずっと抱えていました。
そんな風に考えていた中で、去年、CGWORLDさんが主催されていた天草市視察ツアーに応募したんですが、その時に「デジタルアートの島創造事業」に携わられていた、天草市産業政策課の嶋崎健介さんから「地域おこし協力隊」というものがあると紹介していただいたことが移住のきっかけでした。
雄大な自然、充実した生活インフラ
――実際に移住してみて、天草の印象はいかがですか?
嶋田:まず、自然がとても豊かなのは期待通りでした。僕はロードバイクが趣味なので、それに乗ってあちこちに行くんですが、ちょっと裏道に入るだけで、景色も良くリラックスして走れる道が多く、自転車やバイクが趣味の人にとっては最高の環境ですね。それに、当たり前のように蛍が見られるスポットなどもあるんです。


嶋田:また、そういった豊かな自然とともに、ユニクロも24時間スーパーもあって、生活に必要なものは簡単に揃うので、思っていたより便利に生活できています。人が少なく自然が豊かというところと、便利で都会的な生活とが両立できる街だと思います。
一軒家暮らしで実現した快適な作業環境
――先ほど、東京に住んでいた時は隣の部屋が民泊に使われたことによるトラブルがあって困ったというお話でしたが、現在の住居はどのようなところなのでしょうか?
嶋田:人生で初めて一軒家を借りて住んでいます。一軒家だと隣人の生活音なども気にならないので、とにかく気持ちが楽ですし、仕事にも集中しやすいですね。しかも、東京で最初に住んだ部屋は18平米で7万円の家賃だったんですが、今は一軒家で月5万円の家賃です。

――やはり東京との家賃の差はとんでもなく大きいですね。ただ、一軒家とはいえ、東京からの移住となると、地元住民の方々との関係性はどうなのかが気になります。その点についてはいかがですか?
嶋田:はい、やはりその点については気を遣いました。東京ではもうやっている人はほとんどいないと思いますが、まず引っ越した時に近隣の方々へご挨拶に伺いました。また、地域の自治会にも参加しています。それと、デジタルアート天草という会社は地域おこし系の仕事が多いので、その流れで地元の方々とお話させていただくうちに関係性ができていきました。地域への移住にあたっては、自分勝手をせず、かといって自分を捨てるでもなく、バランスを取っていくことが大切だと思っています。
地元の高校生にプロの技術を伝授
――地元の方々との関わりといえば、嶋田さんは天草工業高校で、学生さんに授業をするそうですね。
嶋田:はい、まさに今日これから、学生さんのつくった作品に対し、プロとしてフィードバックをするということになっています(笑)。 僕も仕事はしてきましたが、独学が多く、学生さんにいい加減なことを教えるわけにはいかないので、改めて学び直しています。最近はオンラインスクールでアニメーションについて体系的に勉強し直しました。

リモートワークと地域密着案件の両立
――CGクリエイターの地方移住となると、移住先で仕事があるのだろうかという不安があると思いますが、その点についてはいかがですか?
嶋田:やはりフリーランスですと、その点の不安はあると思います。ただ、今はリモートワークの手段も発達していて、都市部からの依頼を受けることもできます。それに、僕の場合はデジタルアート天草という、地元の仕事を請け負うような会社に所属できましたので、地元での仕事も色々といただいています。
――やはり移住先に、仕事に繋がるようなコミュニティがあるというのは安心できますよね。ちなみに、現在はどのような案件を手掛けられているんでしょうか?
嶋田:東京の会社から依頼されて、キャラクターモデリングの仕事をしています。また、地域おこし系の仕事でいうと、AMAKUSA EXPOというイベントが企画されていて、そのための映像や、地域のマスコットの3Dモデルなどを手掛けています。
――東京に居た頃に関係性のあった会社さんからの案件と、デジタルアート天草さんの地域おこし系の案件を並行して請け負っているということなんですね。地方で都市部からの仕事を請け負う際に、注意すべき点はありますか?
嶋田:一番大事なのは、高速ネット環境が整っているかどうかです。天草市では全域の95%以上で通信環境が確保されています。私が今の物件を選ぶときも、この点を重視して決めました。
――東京では高速ネットはほぼ当たり前のように通っていますが、地方ではそういったところも事前に注意する必要があるんですね。他にも、意識しておくべき東京との違いがあればお聞かせください。
地方生活の制約と意外な利便性
嶋田:例えば僕は東京で在宅仕事をしていた頃は、深夜に出歩いて牛丼屋さんなどに行ったりすることがあったんですが、天草に移住してからは、開いているお店も少ないので、夜間に出歩くことはなくなりました。
また、天草には映画館が1つしかなくて、最新映画を観ようとすると熊本まで行かなければならないので、毎月最新映画を観たいというような人だと厳しいかもしれません。ただ、PC関連の機材などに関しては、Amazon等の通販を活用すれば東京と変わらず手に入ります。
――外食や映画など不便な点もあるとは言え、大半のものは通販で東京と同じように手に入るというわけですね。そもそも東京に住んでいても、欲しいものはネットで検索して買うというスタイルが今では一般的になっていますしね。
嶋田:それと、地方は車社会で自動車が生活に必須というイメージがあると思いますが、実は僕、車もバイクも持っていないんです。住居と会社までを自転車で行き来して、その間にスーパーなどのお店もあるので、それで問題なく生活できています。
――天草でのおすすめスポットやグルメなどはありますか?
嶋田:デジタルアート天草は商店街の中にあるんですが、そのすぐ近くに川が流れているんです。天草市は遠浅の浜で、干満の差によってその川が海みたいになったり川みたいになったりするので、その川岸に行って、今日はフグが泳いでいるとか、今日は鯉だとか、そういうのを眺めるのが昼休みの定番コースになっています。

嶋田:グルメに関しては、僕は天草では外食はほとんどしないんですが、スーパーでは袋にイカが丸ごと入っていて、一杯いくらという売られ方をしています。天草ならではの、東京では見かけることができないものだと思います。
静かな暮らしと自然を愛する人におすすめ
――最後に改めて質問させてください。天草に移住するのに向いている人はどんな人でしょうか?
嶋田:まず、静かに暮らしたい人ですね。自然の中を散歩するのが大好きだという人には最高の環境だと思います。特に、自然の中でリラックスしながらいい作品をつくりたいクリエイターには、すごくお勧めの地域です。
――天草市としても、CGクリエイターの移住を積極的に支援されているそうですね。
嶋田:そうです。天草市はデジタルコンテンツ産業の創出に向け企業誘致、人材育成、CGクリエイターの移住促進に力を入れていて、移住前から移住後まで手厚いサポートが受けられます。もし移住するかどうか悩んでいる方がいたら、まずは天草視察ツアーに参加してみるというのも一つの手ですね。ぜひ一度天草市へ問い合わせてみてください。

――ありがとうございました。
お問い合わせ
天草市経済部産業政策課(担当:嶋﨑・渡辺)
〒863-8631 熊本県天草市東浜町8番1号
電話番号:0969-32-6786
Fax:0969-24-2524
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