口紅リップモンスターの色名に秘められたエピソードが展開されるプロモーション映像。その美しく上質な画づくりを実現したCG・VFX制作の裏側に迫る。
色名の謎を語るプロモーション映像
KATE リップモンスターMEMORIES OF RED『欲を呼び覚ます色の物語』
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2024年1月10日より開始されたKATE リップモンスターのプロモーション、MEMORIES OF RED『欲を呼び覚ます色の物語』。 限られた者だけが入室を許された秘密の赤い禁書庫を舞台に、リップモンスターの色名に秘められた謎をエピソードごとに解き明かしながら物語が進められる。プロローグとなるエピソード0から最終話まで、計6本の映像が公開されている。
本作のVFXを担当したのはMARK。「エピソード0は禁書庫を舞台に謎を解き明かすというストーリーのプロローグとなり、以降は商品の色名をなぞった世界でそれぞれの色にまつわるストーリーが語られるというもので、様々なVFX表現を盛り込んでいます」(CGディレクター・齊藤壮平氏)。
エピソードごとに舞台が変わり、それぞれ異なるモチーフの再現と世界観の構築にCGが用いられた。「実写部分は中条あやみさんと、中条さんが触れたり接地する部分の美術のみで、それ以外は全てCGです。そこで求められたのは、派手さを抑えた上質な雰囲気を感じられるCG・VFXでした。そのため禁書庫も煌びやかなものではなく、古く重厚感あるデザインとなっています」(リードデジタルアーティスト・松本泰洋氏)。
制作は2023年の9月頃から開始され、エピソード0~2までの3本は同時並行で、以降は公開に合わせて各話ごとに進められたとのこと。「井口監督とはこれまで長くお仕事をご一緒させていただいていますが、画づくりへのこだわりがかなり強い監督です。CGの画はなかなかイメージしづらいものですが、最終的な画をしっかりイメージできる監督ですので、絵コンテをそのまま迷うことなく映像化していけました」(齊藤氏)。
エピソードごとに色名にまつわるストーリーを表現した世界に大きく舞台を移し、その先々で起こる神秘的でありながらも現実感のある不思議な体験は一見の価値あり。各種モチーフ、舞台、アニメーション、シミュレーションなどなど見どころ満載だ。プリプロダクションから各エピソードのメイキングまで、その制作の詳細を紹介していこう。
<1>VFXの質を向上させるプリプロ
美術制作と撮影と連動したプリビズ制作
監督が描いた絵コンテを基にCG制作が進行され、各エピソードの舞台やモチーフのCG化、プリビズ制作がプリプロとして行われた。「本作は実写VFXではありますが、ほとんどがCGです。まずそれらを監督の意向のもとデザインを起こし、CG化する必要がありました。その上で美術部との連携はとても重要で、エピソード2の禁書庫の踊り場やエピソード3の船など、美術化するものはCGデータを共有して作成しています」(齊藤氏)。
大半がCGでの制作と言えど実写合成を基本としているため、撮影に向けたプリビズの準備が非常に重要であったという。「プリビズは撮影に関わる部分を先んじて詰めていきました。どの部分をCGで補うのかを明確にした上で撮影の指標を出す必要があったため、CGで作成した舞台にキャラクターを配置してカメラワークを施したプリビズを作成し、監督にチェックしていただきました。その上でカメラの高さ、角度、レンズなどのデータを展開しています。実際の撮影ではそのデータを利用してそのまま進めることができました」(齊藤氏)。
その成果は作品の随所で見受けられる。エピソード0のラストカットの中条氏がズームアウトして広く禁書庫が映し出されるカットや、エピソード3の船の下からクジラが這い出てくるカットなどなど、CGと実写がシームレスにつながる様は爽快のひと言。
全体として派手さは抑え上質なイメージではあるものの、こうした大胆なカメラワークを施した演出が各エピソードに見応えを与えているのであろう。
プリビズ
撮影と合わせたCG制作を鑑みて作成されたプリビズ。
プリビズのカメラデータ
撮影部用に書き出した、プリビズのカメラデータの一部。カメラレンズや高さ、角度など実寸値で記載され、撮影とCG制作の一貫性を保つことにつながった。
モデルデータ
CGで作成したモデルデータは美術制作班に共有された。「美術班のみなさんがCGデータの取り扱いに慣れていたので、作業はスムーズでした。データを見た上で、予定していた範囲以上の美術を作成してくれることもありました」。
<2>エピソードごとに魅せる多彩なVFX
膨大なデータの軽量化とHoudiniによるシミュレーション
色名に因んだ様々な世界を見せてくれる各エピソード。VFXも多彩な表現を見せ、その制作手法も実に様々だ。エピソード0では、プロローグとして禁書庫に足を踏み入れる中条あやみ氏の姿が描かれるが、禁書庫の扉が開いた際に急いで本棚に戻る本のアニメーションは手付けで行われたのだという。
そこでは本をキャラクターに見立ててモーションが施されている。また、舞台となる禁書庫の世界観を見せるため、内装や構造を見て感じられるカットも多い。その禁書庫のモデルは非常に膨大なデータ量となったため、軽量化のためV-Ray Scene化されレンダリングされた。
エピソード1では「誓いのルビー」の謎が語れる。美しいルビーのモチーフのCG化に加え、塔の上から祝いのクラッカーのようなシミュレーションエフェクトを楽しめる。続く、エピソード2は「ダークフィグ」。発光する大量のイチジクが崩れ落ちる様がCG的な見どころとなるが、こちらはHoudiniによりプロシージャルな手法で表現された。
エピソード3は「100億haの砂海」。広大な砂海を舞台とし、地中から這い出る鯨や空島から流れ落ちる流砂などの美しいシミュレーション映像を堪能できる。こちらもHoudiniにて作成され、複数のシミュレーション結果をかけ合わせて複雑な砂の動きを再現している。エピソード4は「神秘のローズ園」。CGにて作成された、上下に連なる岩の間にあるローズ園の景観は独特かつ美しい。
さらに順番に開花する薔薇のアニメーションも見どころで、こちらはMayaで作成した開花のアニメーションをベースに、Houdiniで順番に開くようなしくみが構築されている。
図書館のモデル
プロローグとなるエピソード0から登場する図書館のモデルは、V-Ray Scene化により軽量化。本棚モデルは女性的な繊細なシェイプに見えないよう古い禁書庫の設定を意識して重みのある形となっている。
モデルと質感
美術が制作した本に合わせて再現されたモデルと質感。
舞う紙の制作
上述のカットにて宙を舞う紙の制作。
本のアニメーション
ドアが開いたことに気づき、本たちが急いで本棚に戻るアニメーション。
VFX使用例
エピソード1でのVFX使用例。塔の上部からルビーと合わせて噴き出る粒子はパーティクルで生成された。
ダークフィグの3Dモデル
エピソード2の製品モチーフとなるダークフィグ(イチジク)の3Dモデル。
シミュレーション
積まれたイチジクが崩れる様はプロシージャルな手順でシミュレートされた。
食事するキャラクター
イチジクの周りには食事をするキャラクターも見受けられる。それぞれの見た目から性格を想像してアニメーションが付けられており、食べ方に個性が表れている。キャラクター1体ずつ個別にアニメーションを付けた後、Alembicで書き出し。V-Ray Proxy化してシーンに配置された。
砂海
エピソード3のモチーフとなる砂海。地平線も遠く続き最も広大なフィールドの作成が必要とされた。地形はBlenderにて広く作成し、Mayaにてプロキシ化したものを奥の地平線と決めたラインまで配置した。
実写合成
実写合成の様子。船の一部は美術で作成され、撮影された。美術で作成されていない部分の船や背景はCGで追加し、さらにエフェクトが加えられている。
クジラが地面から現れるカット(頭上)
クジラが地面から現れる頭上からのカット。地面から這い出る砂の動きはHoudiniにて作成され、3つのシミュレーション結果を重ね合わせている。
クジラが地面から現れるカット(横)
クジラが地面から現れる横からのカット。こちらのエフェクトも同様に複数のシミュレーションを重ね合わせている。
流れ落ちる砂
薔薇
エピソード4のモチーフとなる薔薇。薔薇が開花する様はMayaとHoudiniを併用して作成。
薔薇園の外観モデル
薔薇園の外観モデルはZBrushで作成。Substance 3D Painterでローモデルにハイモデルをベイクしてテクスチャを書き出している。メッシュに頼りすぎるとシーンが重くなり作業やレンダリングに負荷がかかりすぎてしまうため、テクスチャで補えるところは削減できるよう意識された。レンダリングシーンではV-Ray Scene化してデータ削減も行われた。
CGWORLD 2024年8月号 vol.312
特集:パルワールド
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年7月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_渡邊英樹
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada