CGコンテンツを扱う企業に、1.基本情報(ツールやチーム構成)、2.仕事内容(ワークフローやスキル)、3.文化(スタッフの一日の過ごし方や学び方など)の3項目について共通でインタビューを実施。連載を通じて業界、職種、企業ごとに具体的にどんな違いがあるのかを解明していく。

今回は、メタバース、AR、3DCG技術を用いて、クライアントの製品やサービスをPRするコンテンツを制作しているbestatに取材し、同社の「3Dデザイナー」の実情についてお話をうかがった。

記事の目次

    <1.基本情報>bestatの3Dデザイナーとは?

    手がけた案件

    bestat株式会社が企画・開催支援を行う、バーチャル空間「田村酒造場 Japanese sake brewery」で、「VRChat酒蔵体験」でのVTuberおきゅたんbotらによる、YouTubeライブ配信無料バーチャルイベントが開催された

    日本酒のPRを目的としたVRコンテンツのプロジェクト「蔵元ワールド」。実在する蔵元をモチーフとして作られたメタバース空間の中で、ユーザーは蔵元の内部を見学したり、商品を見たりといった体験をすることができる。

    (スケジュール)
    問い合わせ〜コンセプト決定:3ヶ月/CG制作:3ヶ月

    (チーム構成)
    モデラー3名、プログラマー2名、メタバースリサーチャー1名

    「以前は重たいプリンターを持って営業に行かなければならなかったクライアントさまの営業スタッフが、Web上でプリンターを自由自在に動かし、印刷イメージやお手入れ方法、使用シーンなどを立体的に再現できるようになりました。その結果、iPadやPC1台での営業が可能になったのです。名刺の裏にWebコンテンツのQRコードを載せたと聞いた時の感動は、今でも忘れられません。」(Rieringo氏)

    プリンター等の電子機器を手掛けるスター精密の「3D動く説明書」の制作も手掛けている。こちらはWebサイト上で3Dで同社の製品情報を確認できるというものだ。3Dで情報提供することにより、2D情報よりも直感的に製品のサイズ感や構造などを理解することが可能になっている。

    (スケジュール)
    2ヶ月

    (メンバー構成)
    エンジニア1名、モデラー1名、アニメーター1名

    チーム構成

    チーム構成はデザイナー1名(Rieringo氏)とエンジニア4名となっている。また、プロジェクトごとにモデラーやアニメーターなど業務委託のメンバーが加わる。


    使用ツール

    Blenderをメインに使用。メタバース等、ローポリゴンをいかに綺麗に見せるかがポイントとなる案件が多いので、SubstancePainterやPhotoshop等を使用してテクスチャのクオリティを上げることも求められる。また案件によってはUnityやUnreal Engine5も使用する。これらゲームエンジンは、ARコンテンツやVRチャットなど、特にリアルタイムに動くことが求められるコンテンツ制作において使用される。

    ワークフローや求められるスキル

    インタビュイー紹介

    Rieringo氏 / 3Dデザイナー兼クリエイティブディレクター
    (X)@mtrieringo

    仕事内容・ワークフロー

    bestatの3DCGデザイナーは、クライアントの製品やサービスをPRするコンテンツを、3DCGを用いて制作するのが仕事だ。ゲームや映画のようなフィクションの世界の創作ではなく、有形商材を扱っている企業の商品紹介を行うコンテンツなどを制作する。

    Rieringo氏は、3DCGデザイナーであると同時にクリエイティブディレクターでもあるため、実作業だけでなく、クライアントと直にコミュニケーションをとり、コンテンツの企画、設計、構築、納品、納品後のPRまでほぼ全ての工程に携わっている。

    <先述のVRチャット「田村酒造場の蔵元ワールド」のワークフロー>
    ①クライアントとのミーティングを実施。プロジェクトのコンセプトとなる要素を洗い出していく。
    ②クライアントの目的、bestatのリソースから制作物のコンセプトを設計。
    ③ラフ案の提示。クライアントの意図にあったものであるか、追加、修正すべき要素はないか双方確認。
    ④制作
    ⑤納品(納品後、PRイベントを企画するなどし、制作したコンテンツの認知拡大までサポートすることも)

    スタジオの特徴

    やはり一番大きな特徴は、エンターテインメント領域ではなく、クライアントの製品やサービスをPRする3DCGコンテンツの制作を担当するという点だ。現実的な社会貢献のための3DCG活用に一貫して注力しており、クライアントが課題とする業務の効率化や、前述した実績のような商品訴求の効果を高める体験価値の設計に日々邁進している。

    「3DCGを扱う企業はゲームや映画といったフィクションのエンターテイメントを扱うところが多いと思うのですが、我々は3DCGを通じて、現実世界に寄り添って社会的問題を解決したり、新しい体験価値を提供できる企業でありたいと思っています。私がbestatでの仕事において特に印象深いと感じる点は、さまざまな業種との関わりを通じて、現代社会が3Dコンテンツにどのような関心を持っているかを直接知ることができる点です。この仕事を通じて、CGコンテンツが社会問題の解決に貢献できることに大きなやりがいを感じています。」(Rieringo氏)

    求められるスキル

    <応募資格>
    ・Blenderでの3Dオブジェクト制作における実務経験(Mayaでも可)
    ・Substance PainterまたはPhotoshop/Illustratorなどを使用してテクスチャを制作することができる
    ・背景やオブジェクトのモデリング経験やUnity・UEのゲームエンジンの知識、またフォトグラメトリの3Dモデルの修正経験のある場合は優遇

    「能動性が高く、自分から興味を持って自発的に色んなものを吸収していこうという心構えの方に来ていただきたいですね」(Rieringo氏)

    <3.企業文化>スタッフたちの働き方や価値観

    スタッフの1日の過ごし方

    リモートワークとオフィスワークが併用されており、週に3日出社、2日リモートワーク。クライアントとのミーティングは不定期で、クライアントのところに赴いてミーティングをする日もあれば、一日中オフィス作業の日もある。社内でのスタッフ同士の距離は近く、代表を含めて、何か聞きたいことがあれば気軽に聞くことができるそうだ。

    「社内のチームワークはとてもいいですね。距離の近いエンジニアさんがいるので、細かいことも相談しやすいです。先日は、本来なら時間のかかるレンダリング作業をクラウドで強力なマシンを動かしていただくことで、リモートでも効率的に行うすることができました。」(Rieringo氏)




    インプット方法

    「CGを学ぶ上での効果的な勉強方法は、実際のプロジェクトに即したスキルを学ぶことです。具体的には、アニメーションにおける物理演算、Unityでのギミック作成、Unreal Engineでのプロジェクト設定など、各プロジェクトに応じた技術を重点的に学んでいます。」(Rieringo氏)

    ・Udemy - Unityにおけるワールド制作

    ・忙しい時は少しでも効率的に作業したい!BlenderのTips集

    ・【Photoshop】描画モードの使い方とショートカットを解説【全27種】

    TEXT_オムライス 駆
    INTERVIEW_山下一貴 (CGWORLD)
    EDIT_中川裕介(CGWORLD)